相続手続きは自分でもできる?手続き内容と自分でやる目安もご紹介
Tweet自分で相続手続きをすべて行うには、多大な時間と労力が必要になります。とくに、相続人の数が多かったり、相続財産が多かったりすると、書類を集めるだけでも煩雑となり、自分ですべて行うのは非常に難しくなります。
そのため、自力で相続手続きを行うには「①時間に余裕がある」「②遺産が預貯金のみ」「③相続人が少ない」などの条件が当てはまる場合に限ったほうがよいかもしれません。
遺産が大きければ大きいほどトラブルが出てきやすいため、関係者の数と相続財産の大きさによって、手続きの煩雑さが異なってきます。
加えて、不動産登記簿謄本の見方など、ある程度は必要な知識を身につけておいたほうが、手続きをスムーズに進めることができます。この記事では、自分で相続手続きを行う際の流れや注意点を解説します。
目次
相続手続きとは?
相続を完了するまでには、一般的に次のような相続手続きが必要になります。
- 戸籍の取得、相続人の調査
- 相続財産の調査・評価
- 遺産分割協議の実施、遺産分割協議書の作成
- 預貯金の解約(払い戻し)手続き、不動産の名義変更(相続登記)
など
こうした手続きの一部は、信託銀行などにお願いして代行サービスを受けることも可能です。また、税理士や弁護士などの専門家も代行サービスとして「遺産整理業務」を行っています。それぞれの業務に関しては下記の記事もご覧ください。
相続手続き 自分でできる目安【状況編】
相続手続きは、相続財産の内容や相続人の数によって煩雑さ、複雑さに大きな違いが生じます。自分で相続手続きを行うのは、次のような条件に当てはまる場合にしておいたほうが無難でしょう。
①時間に余裕がある
銀行口座の名義変更などは金融機関の窓口が空いている時間しかできません。つまり、平日に手続きを行う必要があります。
1日ですべてをまとめて終わらせることができないケースが多いため、基本的には何回か平日に銀行まで足を運ばなければなりません。平日に仕事をしている方には難しいでしょう。
平日に休みがある、あるいはまとまった休日調整ができるということであれば、自分で相続手続きをこなせるかもしれません。
②遺産が預貯金のみ
相続税の財産評価は時価が基本となります。預貯金であれば金額とイコールになるので把握が簡単で、面倒な計算もあまり必要ありません。
一方で土地・建物を含む「家」や株の評価は複雑で、相当な知識が要求されます。また被相続人がいくつも賃貸物件を持っているケースなどでは相続登記などの手続きも含めて、かなり複雑になってきます。
専門知識のない方が、自分ですべて行うのは現実的ではないでしょう。
③相続人が少ない
例えば、相続人が1人の場合は相続人の戸籍謄本収集も自分のみで十分ですし、遺産分割についても話し合う必要はありません。比較的スムーズに進めることができるはずです。
しかし、相続人が複数人いる場合だと、戸籍謄本を全員分収集する必要があるなど、手間と時間がかかります。
また、遺言がない場合には遺産分割協議も必要となり、時間を合わせて相続人全員で話し合う必要も出てきます。しかも、遺産分割協議で相続財産の分け方を決めるには、全員の合意が必要です。人数が多ければ多いほど、全員の合意を得ることが大変になっていくことは明らかです。時間も知識も必要になってきます。
相続手続き 自分でできる目安【性格編】
相続手続きを自分で行うには、性格的な向き不向きもあります。あくまで目安になりますが、以下のような資質があるとスムーズに進められるかもしれません。
①スケジュールを立て、実行することが得意
多くの手続きには、期限が決まっています。
例えば、遺言書の確認・検認手続きは被相続人の死後1カ月以内に行うのが望ましく、また相続放棄申述書は自身が相続人であると知ってから3カ月以内に行わなければなりません。
手続き内容は多岐にわたり、それぞれに書類などを期日までに用意し、手続きを完了しなければなりません。ある手続きをするためには、先にほかの手続きをしなければならない、という場合もあります。
計画を立て、それに沿って確実に行動していける人なら、自身で相続手続きができるかもしれません。あまり得意でないという方は、避けたほうが無難です。
②最後までやり遂げる忍耐力がある
- 手続きの流れは?
- 必要な書類はどこで、どのように手に入れるのか?
- 財産は何がある?
- 家はどうやって評価する?
- 利用できる特例は?
と、相続手続きには知っておかなければならない知識が山のようにあります。
口座の名義変更・解約も銀行によって必要な書類が違うので各金融機関に確認したり、土地の財産評価では路線価を調べたりと、方法を調べてそれをすべてこなしていく力がないと挫折してしまうかもしれません。そうした点で、強い意志をもってやり抜く力がないと、相続手続きを自分でこなすのは難しいと言えます。
実際に税理士法人レガシィのお客様でも、最初はできると思って始めたものの途中でギブアップをして依頼された方、また、お手伝い後のアンケートでは「自分で何とかやったが、いざ終わってみると最初から頼めばよかったと後悔している」という方も多いのです。
相続手続きで必要になる9つの書類を解説
相続手続きには様々な書類が必要になります。代表的なものとしては次のとおりです。
残高証明書
遺産のうち、預貯金がいくらあるかを明らかにするために、金融機関から「残高証明書」を発行してもらう必要があります。相続税の申告の際に、相続財産に関する書類として必要です。
預貯金の残高は、通帳に記帳されていれば分かります。ただ、最近は通帳のないネット銀行を利用する人も多いですし、一般の銀行でも通帳を発行しないケースがあるため、残高証明書の必要性は高くなると思われます。
この書類が必要な手続き
- 遺産分割協議
- 相続税の申告
この書類の入手先
銀行など金融機関
被相続人の戸籍謄本(出生時から死亡時までの戸籍謄本、除籍謄本、改正原戸籍謄本)
相続の手続きでは、いろいろな場面で戸籍謄本の提出を求められますが、これは誰が法定相続人になるかを明らかにするためです。また、被相続人との相続関係を証明するためにも必要です。
この際、必要になるのは被相続人が生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本です。
また、場合によっては「除籍謄本」や「改正原戸籍謄本」を求められることもあります。
除籍謄本は、戸籍簿から消除された戸籍を証明する書類のことです。結婚や死亡などにより、戸籍に記載されている全員がいなくなった時には、その戸籍は消除されて「除籍簿」に移されます。
戸籍に記載された全員が引っ越しをして、新しい住所地と同じところに本籍を移動させるために転籍した場合にも、古いほうの戸籍は消除されます。
相続手続きでは、除籍簿に移された戸籍の証明が必要になることがあり、この時除籍謄本が必要です。戸籍簿に乗っていない人が相続人である場合もあるため、その確認のために必要になるのです。
また、戸籍の様式は全国で統一されていますが、法改正によって様式が変更されることがあります。今までに昭和32年と平成6年の2回、戸籍法が改正され、それに伴って戸籍の様式が変更されました。
変更前の過去の様式で記録されている戸籍の証明書類が「改製原戸籍謄本」です。
被相続人が平成6年よりも前に生まれた人である場合は、相続手続きのために少なくとも1通は改製原戸籍謄本を取得する必要があります。
改製原戸籍については、下記の記事もご覧ください。
この書類が必要な手続き
- 相続人調査
- 不動産の相続登記
- 預貯金の名義変更や払い戻し
- 有価証券の名義変更や売却・解約
- 自動車の名義変更
- 相続税の申告
- 相続放棄や限定承認の申し立て
この書類の入手先
被相続人の本籍地のあった市区町村役場(所)
※戸籍法の一部改正により、2024年3月1日以降、戸籍謄本等の広域交付(最寄りの市区町村窓口での請求)が可能になります。詳しくは「【2024年3月~】戸籍謄本が最寄りの役所で請求できるようになります」をご覧ください。
相続人全員の戸籍謄本
被相続人が生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本をそろえる必要があるのはすでに説明したとおりです。
それに加えて、法定相続人が確定したら、それらの相続人が現在生存していることを証明するために現在の戸籍謄本が必要になります。
被相続人の死亡が記載された戸籍謄本に相続人が記載されている場合、それがその相続人の現在の戸籍謄本でもあります。このような際には、改めて戸籍謄本を取り寄せる必要はありません。
この書類が必要な手続き
- 相続人調査
- 不動産の相続登記
- 預貯金の名義変更や払い戻し
- 有価証券の名義変更や売却・解約
- 自動車の名義変更
- 相続税の申告
- 相続放棄や限定承認の申し立て
この書類の入手先
本籍地の市区町村役場(役所)
※戸籍法の一部改正により、2024年3月1日以降、戸籍謄本等の広域交付(最寄りの市区町村窓口での請求)が可能になります。詳しくは「【2024年3月~】戸籍謄本が最寄りの役所で請求できるようになります」をご覧ください。
遺産分割協議書もしくは遺言
遺産分割協議書とは、相続人同士で遺産の分け方(遺産分割)について話し合い(遺産分割協議)、合意を得た結果を書き残したものです。遺産相続のあらゆる手続きで必要になるほか、相続人同士が話し合った内容を記録するという目的もあります。
遺言書がある時など、遺産分割協議書がなくてよい場合もあります。
この書類が必要な手続き(ケース)
- 不動産の相続登記
- 相続税の申告
- 預金口座が多い場合
- 相続人同士のトラブルが予想される場合
この書類の入手先
遺産分割協議書・・・相続人が作成
遺言・・・被相続人が作成
※専門家による作成代行もあります
相続人全員の印鑑証明書
印鑑証明書とは、おもに不動産・マンションや自動車の売買、公正証書を作成したりする時に使われる書類で、登録印鑑が地方公共団体に登録されているものであることを証明するためのものです。地方公共団体によって、「本人が登録した印鑑」だと証明されるので、印鑑の正当性が保証されていることを意味します。
基本的に、不動産の所有者の名義を替える相続登記を行う時には印鑑証明書が必要です。
その際は、不動産を引き継ぐ相続人だけでなく、相続人全員の印鑑証明書が必要となりますので注意が必要です。
この書類が必要な手続き
- 複数の相続人がいる場合の遺産分割協議
- 不動産の相続登記
- 金融機関、証券会社での払い戻し手続き
- 相続税の申告
この書類の入手先
市区町村役場(所)
被相続人の住民票の除票
被相続人が亡くなった際に提出される死亡届によって、被相続人の住民登録は抹消されます。除票とは、この抹消された住民票のことを指します。
この除票が相続手続きに必要になる場合があります。
登記簿には被相続人の名前と住所が記載されています。一方で、戸籍謄本には本籍地の記載はあるものの住所の記載がないため、被相続人の情報が登記簿上のものと同じだと証明するために、住民票の除票が必要となるのです。
また、引っ越しなどにより住所が変わっていて、登記簿上の住所と死亡時の住所が一致しない場合には、戸籍の附票などを添付する必要があります。住所の変遷を証明するためです。
死亡した人の住民票の除票は、被相続人が最後に住んでいた場所の市区町村役場(役所)で発行してもらわなければなりません。「被相続人の死亡記載のある住民票が必要だ」と伝えてください。
住民票は原則本人や同じ世帯の人しか取れません。その際、亡くなった方との関係が分かる戸籍など書類を提出しなければならない場合もあるので、取り寄せ先の役場(役所)に取得方法を事前に確認するのがベターです。
この書類が必要な手続き
不動産の相続登記
この書類の入手先
被相続人が最後に住んでいた住所の市区町村役場(所)
不動産の登記事項証明書
登記事項証明書とは、対象の不動産について、登記されている名義人や権利関係が記載された書類です。登記簿謄本と呼ばれることもあります。
相続手続きの際には、遺産分割協議書や登記申請書へ、正確な不動産の情報を記載する必要があります。また、贈与や売買などで登記をする際にも、贈与契約書や売買契約書などへの正確な不動産情報の記載が必要です。正確に記載されていないと、そうした相続や贈与の登記は補正、あるいは却下となり、登記手続きが完了しないので注意が必要です。
この書類が必要な手続き
不動産の相続登記
この書類の入手先
法務局
登記申請書
登記申請書は相続登記を法務局で行う際に、必ず提出しなければならない書類です。
法務局にある書類ですが、事前にホームページから取得することもできます。落ち着いて作成することができるはずです。
遺産分割協議書で登記する場合、遺言で登記する場合、法定相続分で登記する場合の3パターンで申請書が異なりますので注意が必要です。
この書類が必要な手続き
不動産の相続登記
この書類の入手先
法務局
固定資産評価証明書
登録免許税の計算の基礎として必要な書類です。
土地や建物が所在する市区町村役場(所)で取得します。
土地や建物がある市区町村で取得しなければならないため、土地や建物が点在していると、複数の市区町村で手続きが必要になります。取得に時間がかかることも念頭に置いておきましょう。
この書類が必要な手続き
不動産の相続登記
この書類の入手先
土地や建物が所在する市区町村役場(所)
【2024年3月~】戸籍謄本が最寄りの役所で請求できるようになります
今まで戸籍謄本等の証明書を取得するためには、本籍地の市区町村の役所窓口へ申請をする必要がありましたが、2024年3月1日以降、戸籍情報連携システム導入により、全国各地にある戸籍情報を最寄りの役所窓口で請求できるようになります。
【申請できる人】
・本人
・配偶者
・直系尊属(父母、祖父母など)
・直系卑属(子、孫など)
※兄弟姉妹はできません
【申請できる場所】
役所窓口のみ
※郵送、代理人申請はできません
【必要書類】
申請者の顔写真付き身分証明書
・運転免許証
・マイナンバーカード
・パスポート
など
出典:法務省『戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)』
相続手続きの第一歩は「必要書類の収集」
被相続人が亡くなった際には、誰が法定相続人となるのかを明らかにする必要があります。
法定相続人として誰がいるのかの証明には、被相続人が生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本が必要です。
法定相続人になる可能性があるのは、配偶者・子や孫など・親や祖父母など・兄弟姉妹や甥姪です。詳しくは下記の記事もご覧ください。
子がいれば親や兄弟姉妹は相続人になれないなど、法定相続人には順位があります。そのため、被相続人が生まれてから死亡するまでのすべての期間にわたって、どんな続柄の親族がいたのか、あるいはいなかったのかを証明する必要があります。
例えば、被相続人の戸籍謄本をすべて取得してみたところ、被相続人が実は過去に離婚していて、その妻との間に子どもがいたことが判明するということもありえます。
そのほか、認知した隠し子や養子縁組をした子供が戸籍謄本によって初めて判明することも珍しくありません。
これらの子どもも法定相続人となるので、必ず生まれてから死亡するまでのすべての戸籍謄本をそろえる必要があるのです。
戸籍謄本だけでなく、この記事で紹介したようなさまざまな書類を集める必要があります。
何が必要なのか調べるだけでも一苦労。
郵送やインターネット経由での申請も可能ですし、マイナンバーカードがあればコンビニでも交付できる書類もありますが、かなり骨の折れる作業になってしまいます。
相続税の申告が必要な人は申告書の作成も忘れずに
相続手続きを自分で行う場合、相続税の申告が必要な人は申告書の作成と提出が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本など
(相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの) - 相続人全員の戸籍謄本
(相続開始の日から10日を経過した日以後に作成されたもの) - 遺言書または遺産分割協議書の写し
- 相続人全員の印鑑証明書
(遺産分割協議書に押印したもの)
など相続手続きに必要な書類と多くがかぶってきますので、相続税申告用にも集めておくと、別で書類を収集する手間が省けますのでおすすめです。
相続税の申告が必要かどうかは、下記の記事でもご紹介しています。
相続税申告の流れについては下記の記事もご覧ください。
おわりに:相続手続きは自分でもできるが、困った場合は専門家に相談を
これまで見てきたように相続手続きでは自身で役所や金融機関などに何度も足を運ぶことが必要になります。最寄りの市区町村役場(所)だけではなく、被相続人が住んでいた市区町村、不動産がある場所の市区町村に申請しなければならない場合もあります。
郵送やインターネット経由での取得ができるものもありますが、相続財産が多岐に渡ってくると、極めて大変な作業になります。時間も根気も必要なことはご理解いただけると思います。
また土地の評価額の計算など、専門知識がないと困難な手続きもあります。自分でやった結果、計算結果が大きく間違っていたような場合には、相続トラブルの元にもなりかねません。
相続手続きは資格がないとできないわけではありません。しかし、無理に自分でやろうとした結果、手続きの期限までに終わらなかったり、ミスをしたりしてしまうと、かえって手間になります。
どうしようもなくなってから、慌てて専門家に相談するという人も少なくありません。自分の状況や適性などをよく理解したうえで、無理のない判断を下すことが大切です。
司法書士・税理士などの専門家に手続き代行を依頼することも可能です。
また、相続税の申告が必要な方については、ほかの相続手続きにも相続税申告で使用する資料と共通で使用できるものが多くあるため、まずは相続専門の税理士に相談することで、資料収集の手間や費用が節約できる可能性があります。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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