相続の知識

相続税の納税義務者に該当するかチェック!納税義務の対象者や種類をわかりやすく解説

亡くなった人の財産を相続した際に発生するのが相続税です。相続税を納税する義務がある人のことを相続税の納税義務者といいます。納税義務者となるかどうかは、さまざまな条件をもとにして定められています。
この記事では、どのようなケースで相続税の納税義務者に該当するかを詳しく解説します。

相続税の納税義務者とは?

何らかの形で亡くなった方の財産を相続した際、相続税の納税義務が生じます。相続税法では、相続税の納税義務者について次のように定めています。

相続税法 第一条の三
次の各号のいずれかに掲げる者は、この法律により、相続税を納める義務がある。
一 相続又は遺贈(贈与をした者の死亡により効力を生ずる贈与を含む。以下同じ。)により財産を取得した次に掲げる者であって、当該財産を取得した時においてこの法律の施行地に住所を有するもの
(以下略)

つまり「相続などによって財産をもらった人、かつ、特定の条件に当てはまる住所を持っている人」において、相続税の納税義務者の対象になり得るということです。ここには財産を取得した「対象者」「住所」という2つのポイントが示されています。

では2つのポイントについて、具体的にどのような条件なのか見ていきましょう。

どんな人が相続税の納税義務者に該当する?

まずは「対象者」についてですが、単純に「相続や遺贈などで財産を取得した人」といっても、もともと法定相続人で遺産を取得したのか、それとも遺言によって遺産をもらったのかなど、様々なケースがあります。どんな人が相続税の納税義務者に該当するのかを説明していきます。

1.相続で財産を受け継いだ人(相続人)

相続人になれる人は民法によって定められており、この相続人のことを「法定相続人」と呼びます。原則、亡くなった方(被相続人)の配偶者と血縁関係にある人が対象です。具体的に見ていきましょう。

①配偶者

被相続人に配偶者がいる場合、配偶者は必ず相続人になります。法律上の配偶者のみが法定相続人として認められますので、内縁関係にある場合は対象外です。

②血族相続人

血族相続人とは、被相続人と血縁関係にある相続人を指します。父母や祖父母などの直系尊属と、子どもや孫などの直系卑属、さらに兄弟姉妹がこれに当たります。
配偶者は必ず相続人となりますが、血族相続人には相続順位というものがあります。配偶者を除いて、次の順で相続人となることができます。
第一順位は子どもです。子どもが亡くなっている場合はその子どもである孫が相続人となります。第一順位がいない場合に第二順位として、直系尊属である父母や祖父母が相続人になり、第二順位もいない場合に第三順位として兄弟姉妹が相続人になります。
なお、配偶者・子や孫・親や祖父母・兄弟や甥姪のいずれもいない、いわゆる「おひとり様相続」の場合、相続人は0人ということになります。

相続順位に関して詳しくは、下記の記事もご覧ください。

2.遺言で財産を受け取った人(受遺者)

相続が発生した際に、遺言を用いて法定相続人以外の人に財産を渡すことを「遺贈」、遺贈を受けた人のことを「受遺者」といいます。法定相続人と同様に、受遺者にも相続税がかかります。
また、遺言の内容によって受遺者は2種類に分けられます。

①特定受遺者

特定の資産を遺贈される受遺者のことです。例えば、遺言で「○○県△△市の土地と建物をAさんに遺贈する」と明示されたとします。このときAさんは特定受遺者となり、○○県△△市の土地と建物を受け取ることになります。

②包括受遺者

特定の財産を指定せず、財産の一定割合を指定して遺贈される受遺者のことです。例えば、遺言で「財産の3分の1をAさんに遺贈する」と明示されたとします。このときAさんは包括受遺者となり、財産の3分の1を受け取ります。

3.死因贈与で財産を受け取った人(死因贈与の受贈者)

死因贈与とは、生前に被相続人が第三者と贈与契約を交わし、被相続人が亡くなることで実行される贈与のことです。死因贈与で財産を受け取った受贈者も、相続税の対象となります。
なお、死因贈与はあくまで贈与者と受贈者がお互いに承諾し、贈与契約が結ばれていることが必要なので、被相続人が勝手に財産を渡すことはできません。また、受贈者も原則として財産の受け取りを拒否できません。

遺贈や死因贈与に関しての詳細は、下記の記事も参考にご覧ください。

どこに住んでいる人が相続税の納税義務者に該当する?

続いて2つ目のポイント「住所」について、見ていきましょう。
「日本在住の人が対象」と安易に考えがちですが、こちらは被相続人と相続人の住所や国籍において、複雑な条件が設定されています。外国に住んでいれば日本の相続税の納税義務はない、といった単純な話ではないのです。
下記の表をご覧ください。こちらが被相続人と相続人それぞれにおける条件のパターン表になっています。課税範囲の種類としては基本的に2種類あり、「①無制限納税義務者」と「②制限納税義務者」に分けられています。

相続人/被相続人 相続時に
国内住所あり
相続時に国内住所なし
日本国籍あり 日本国籍なし
10年以内に
住所あり
10年以内に
住所なし
相続時に国内住所あり ※
相続時に
国内住所なし
10年以内に
住所あり ※①①①①
10年以内に
住所なし①①②②

※一時居住者・短期滞在の外国人(在留資格を有するもしくは日本国籍がない者で、過去15年以内において国内に住所を有していた機関の合計が10年以内の者)に該当する場合は、②制限納税義務者となる場合があります

①無制限納税義務者

「無制限納税義務者」とは、相続や遺贈によって財産を取得した人で、日本の財産と海外の財産どちらにも相続税の納税義務がある人を指します。主に日本国内を生活の拠点としている人が対象ですが、細かい条件をあげると「被相続人と相続人のどちらかが相続発生前の10年以内に日本に住んでいる場合」は、無制限納税義務者に該当します。
無制限納税義務者は、海外においてある財産を受け継いだ場合も日本の相続税が課税されます。じつは親が海外の不動産に投資をしていた、などといった場合にその不動産を相続したら、日本の相続税がかかります。
なお、外国籍であっても無制限納税義務者に該当して相続税を課される場合があるため注意が必要です。

②制限納税義務者

一方「制限納税義務者」とは、相続や遺贈によって財産を取得した人で、日本に保有する財産に対して相続税の納税義務が生じる人を指します。
無制限納税義務者との違いは「課税対象が日本の財産のみ」であることです。

海外居住などが絡む国際相続については、以下の記事も参考にご覧ください。

【参考】特定納税義務者

特定納税義務者とは、贈与によって相続時精算課税適用財産を取得した個人のことです。要は無制限納税義務者と制限納税義務者のどちらにも該当せず、相続時精算課税制度の適用を受けている人のことを指します。

特定納税義務者は、相続または遺贈によって財産を取得していないとしても、相続時精算課税の対象となる財産について相続税が課税されます。

相続時精算課税制度については、以下もご覧ください。

【令和3年改正】相続税の納税義務者の定義が変更

令和3年度税制改正において、外国人に係る相続税等の納税義務の見直しがなされました。これにより、相続税の納税義務者の定義が変更されました。

  日本に滞在中に死亡した外国人
(被相続人)の滞在期間
相続人が外国に居住
(例:本国に住む家族)
相続人が日本に居住
(相続開始前15年中10年以下)
改正前 10年以下 日本国内の財産にのみ課税
10年超 日本国内及び国外の財産に課税
改正後 入管法別表第一の在留資格で居住
(居住期間を問わない)
日本国内の財産にのみ課税
(国外財産に課税しない)

( 注 )入管法別表第一:高度専門職、経営・管理、研究など、日本で就労等する際に付与されます(永住者等は含みません)。

出典:財務省ホームページ『令和3年度 税制改正』

就労等で日本に居住する外国人が亡くなった場合、日本にいた期間にかかわらず、外国に住んでいる家族が受け取る国外財産を相続税の対象としないことになりました。
従来、日本に滞在中の外国人が亡くなった場合、居住期間が10年以下の場合は日本国内の財産のみに課税していましたが、居住期間が10年を超えると日本国内だけでなく国外の財産も課税対象となっていました。
これでは優秀な外国人が相続税を気にして日本に働きに来てくれないため、高度外国人材の受け入れを促進するために今回の見直しを行ったのです。
対象となるのは「在留資格を有する者」です。ここでは出入国管理及び難民認定法の別表第一に定められた在留資格で滞在している者を指します(就労系の在留資格)。

在留資格とは

在留資格とは、外国人が日本に在留する間、一定の活動をする際に必要となる資格を総称したものです。国が交付する許可証のようなもので、これがないと日本に滞在できません。
在留資格があると滞在はできますが、就労が無制限に許されているわけではありません。就労が認められた在留資格でも、就労できる職務は限られています。
例えば「研究」の在留資格を有する場合、研究者として働くことはできますが、語学教師や公認会計士といったほかの仕事をしてお金を稼ぐことはできないのです。

納税義務者でも相続税がかからない場合もある

ここまで「対象者」と「住所」にポイントをしぼって納税義務者について見てきましたが、仮に今までの条件に該当したとしても、相続税がかからない場合があります。どのようなケースなのか、詳しく見ていきましょう。

1.基礎控除を下回る場合

まず、相続税には基礎控除額が定められています。ボーダーラインとして、相続した遺産総額が基礎控除額を超えていなければ、相続税はかからず、納税・申告の必要がありません。
逆に言うと、遺産総額が基礎控除額を超えた場合のみ、納税義務があるのです。

相続税の基礎控除額は【3,000万円+(600万円×法定相続人の数)】の式で計算されます。
例えば遺産総額5,000万円を、被相続人の配偶者・長男・長女のあわせて3人で相続するケースの場合、基礎控除額は3,000万円+(600万円×3人)=4,800万円になります。遺産総額5,000万円と基礎控除額4,800万円の差額である200万円が課税対象です。

遺産総額が基礎控除額を下回っている場合、納税はもちろん、申告も不要です。

2.その他税額控除を使った場合

相続税には基礎控除以外にも控除の制度があります。未成年者控除、障害者控除、相次相続控除などを利用して相続税がゼロになれば納税の必要はありません。また、これらの税額控除は申告も不要です。

未成年者控除

相続人が未成年の場合、成人するまでの期間について、1年10万円を控除できる制度です。
例えば、相続人が15歳の場合、18歳までの3年間分(令和4年3月31日以前は20歳まで)、合計30万円が控除されます。また、控除額が税額より大きく控除額が残った場合、その金額を扶養義務者であるほかの相続人の控除として利用することもできます。

障害者控除

相続人が85歳未満の障害者であれば、85歳になるまでの期間について、1年あたり10万円(特別障害者は20万円)を控除できる制度です。
例えば、相続人が50歳の場合は85歳まで35年間なので10万円×35年=350万円を控除できます。また、控除額の全額が引き切れなかった場合は、配偶者や直系血族などの扶養義務者の相続税額から控除できます。

相次相続控除

前回の相続から10年以内に今回の相続が発生した場合に、相続税額から一定の範囲内の金額が控除される制度です。
前回の相続の際に課税された相続税額のうち、1年につき10%の割合で逓減した後の金額を今回の相続にかかる相続税額から控除できます。

3.小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減を使用した場合

小規模宅地等の特例・配偶者の税額軽減制度を利用すれば、税額が減額またはゼロになる可能性があります。ただし、こちらは2までの各種控除と違い、相続税の申告が必要です。

小規模宅地等の特例

条件を満たした親族が、被相続人が住んでいた土地や事業を行っていた土地を相続した場合に、土地の相続税評価額を最大で80%減額できる制度です。課税対象となる評価額の減額割合が大きく非常に有利な制度なので、適用されれば相続税を大幅に減らすことができます。
ただし、適用を受けるには税務署への申告が必要です。特例を使った結果、相続税が0円になった場合でも申告が必要なので注意しましょう。

小規模宅地等の特例については、以下の記事もご覧ください。

配偶者控除(配偶者の税額軽減)

被相続人の配偶者が受け取った財産額が、以下の①もしくは②のいずれか多い金額までなら、配偶者の相続税がかからないという制度です。

  1. 1億6,000万円
  2. 配偶者の法定相続分相当額

配偶者の税額軽減については、以下の記事もご覧ください。

おわりに:相続税の納税義務者は基本的に「亡くなった方から財産を受け取った人」

相続税の納税義務者は、法定相続人のほかに遺言で財産を受け取った受遺者、死因贈与で財産を受け取った受贈者などが該当します。また国内・国外の財産に課税される無制限納税義務者と、国内財産にのみ課税される制限納税義務者があります。

税制は複雑化しており、自分が納税義務者に該当するのか、該当するとして相続税の納税・申告義務があるのかといった判断は難しい面があります。詳しくは相続の専門家に相談してみましょう。

税理士法人レガシィは、相続専門30年以上の実績があり、相続税申告実績は累計1.5万件を超えています。相続税について少しでも不安がある場合は、ぜひお気軽にご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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