相続税における「相続対策」と「節税対策」の基本的な考え方
Tweet亡くなった方(被相続人という)が生前に築いた財産や債務を、その方の配偶者や子どもなどの親族が受け継ぐことを「相続」といいます。遺された財産の評価額によっては「相続税」の納税義務が生じることもあります。
納税は国民の義務ですから、相続税は払うのが当然なのですが、当事者にとっては「できるだけ税金は少なくしたい」というのが本音ではないでしょうか。そのために行うのが「節税対策」であり、節税も含めた円滑な相続を進めていくために必要なものが「相続対策」です。
相続対策も節税対策も個々のケースによって方法が異なってきます。しかし基本的な考え方は同じなので、まずはその部分を押さえておくようにしましょう。相続対策の基本は「節税対策・もめごと対策・財源対策」の3つです。
この記事では遺産相続における相続対策の基本的な考え方について解説いたします。
目次
相続対策の基本の考え方
相続税における相続対策としては次の3つが挙げられます。
①節税対策 | 相続税の金額を下げるための対策です。 |
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②もめごと対策 | 相続争いなど相続人同士での感情的なもつれを引き起こさないための対策です。 |
③財源対策 | 相続税の納付に用いる資金確保のための対策です。 |
節税対策
相続税における節税対策としては大きく二つに分けることができます。一つは「生前贈与」で、もう一つが「財産評価を下げること」です。
生前贈与での節税対策
「生前贈与」とは、相続が発生する前に個人の財産を子や孫など他の方に贈与することで相続税の課税対象額を減らしていくというものです。相続税は遺された財産の評価額を元に計算しますから、そのもともとの財産が減れば相続税も少なくなるというわけです。
贈与にも贈与税が課せられますが、原則として1年間(1月1日から12月31日まで)に110万円までの贈与であれば非課税というルールがあります。この課税方式を「暦年課税」といいますが、このルールを利用して毎年コツコツと生前贈与を続けていけば、将来的な相続税の負担を極力抑えつつ、財産をゆずっていくことができるのです。
財産評価を下げることでの節税対策
相続対策における節税対策としてのもう一つの「財産評価を下げる」とは、相続税の制度に設けられている特例などを利用する方法です。特例などを上手く活用すると、財産の評価額を下げて課税対象額を減らすことができます。
たとえば「小規模宅地等の特例」というルールを上手に使えば土地の評価額を最大80%(貸付けの場合には50%)減らすことができます。4,000万円の土地であれば800万円まで下げることができるので、大きな節税効果があります。
また、不動産の場合は現金よりも7〜8割程度低く評価されるため、現金を遺すよりも土地や建物にしておくという方法もあります。1億円の現金なら評価額は1億円ですが、不動産なら7,000万円〜8,000万円前後で評価されるので、ここでも節税効果が生まれるというわけです。
特例などの制度における対策方法
相続に関しては、被相続人が亡くなった後の相続人の暮らしを守るための制度がさまざまに用意されています。すべての制度が使えるというわけではなく、個々の状況に応じて活用していくことになりますが、知識があるとないとでは大きな違いが出てくるため、ぜひ押さえておきたいポイントといえます。ここでは主だったものを紹介します。
生前贈与に関する制度
生前贈与には、以下のように暦年課税方式以外の課税方式や非課税制度などがあります。これらを利用すれば贈与税の節税となります(相続財産を減らすことができます)。
- 相続時精算課税方式
60歳以上の贈与者が20歳以上の子や孫に贈与をした場合、2,500万円までが非課税になるというものです。ただし、相続時には贈与分を相続財産に加算することになるので大きな節税効果は期待できません。
- 贈与税の配偶者控除の特例
20年以上連れ添った夫婦であれば居住用の不動産あるいは購入資金の贈与が2,000万円まで非課税となる制度です。
- 住宅取得等資金の特例
父母や祖父母から住宅取得等のための資金の贈与を受けた場合、一定額が非課税となります(住宅のタイプや贈与時期によって非課税枠が異なります)。
- 教育資金の一括贈与に係る非課税制度
父母や祖父母から教育資金を一括贈与された時に1,500万円までが非課税となる制度です。
- 結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税制度
父母や祖父母から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた時に1,000万円までが非課税となる制度です。
財産評価を下げることに関する制度
ここでは各種控除を紹介します。
- 相続税の配偶者の税額軽減
相続人が配偶者である場合、相続財産が1億6,000万円または法定相続分以下なら相続税がゼロになるという制度です。
- 未成年者控除
相続人が未成年である場合に使える控除です。原則として、相続時に20歳未満で住所や国籍など一定の要件を満たす法定相続人が対象となります。控除額は【20歳に達するまでの年数×10万円】です。
- 障害者控除
障害者控除とは、「85歳未満の障害者が財産を相続した場合」に適用されます。一般障害者の場合は【85歳に達するまでの年数×10万円】が控除額となります。
特別障害者の場合は【85歳に達するまでの年数×20万円】が控除額です。
- 相次相続控除
相続開始前10年以内に相次いで相続が起きた時に一定の額を控除していくというものです。この場合、最初の相続(一次相続)で相続人となっていた人が亡くなり、次の相続(二次相続)が起きたというケースで適用されます。
上記の制度にはそれぞれ細かい要件が設定されています。より詳しくは税理士などの専門家に相談してみてください。
相続税の計算方法
基本的な知識として相続税の計算方法を理解しておくことにしましょう。相続税を算出するには、まず被相続人が遺した財産の評価額から基礎控除額を差し引いて課税対象額を出します。その課税対象額を法定相続分の割合に応じて配分していきます。そしてその分した金額にそれぞれ一定の税率を乗じて計算した金額を合計して、相続税額を算出するという流れです。
- 財産の評価額から基礎控除額【3,000万円+(600万円×法定相続人の数)】を差し引く
- 上記の金額を法定相続分の割合で配分する
- 相続人ごとの相続税を計算する
- 相続人全員分の相続税額を合計する
- 実際に取得した財産の割合に応じて相続税額を配分する
法定相続分の割合
配偶者と子どもが相続人である場合 | 配偶者1/2 子ども1/2(2人以上の時は全員で) |
---|---|
配偶者と親が相続人である場合 | 配偶者2/3 親1/3(2人以上の時は全員で) |
配偶者と兄弟姉妹が相続人である場合 | 配偶者3/4 兄弟姉妹1/4(2人以上の時は全員で) |
相続税の税率
法定相続分の取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | 0 |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
もめごと対策
遺産相続においては乗り越えていくべき課題がさまざまにあります。その課題は相続対策の基本的な考えと関係するものであり、それぞれに対策を講じる必要があります。
前述した節税対策はもちろん重要ですが、いかにもめない相続をするかということも非常に重要です。
もめずに遺産分割をするには?
相続で避けたいのは「相続争い」です。俗に「争続」とも呼ばれますが、被相続人にとっては自分の配偶者や子どもたちが財産を巡っていがみあう状況を招きたいとは思わないでしょう。
相続をきっかけに、それまで仲のよかった兄弟姉妹が、その後は一切のつきあいを絶ってしまったという話は珍しくありません。被相続人の配偶者が子どもたちの板挟みになって困惑するというケースも見られます。このような相続争いを起こさないためにはどうすればいいのでしょうか? 対策方法を考えてみましょう。
「遺言」による対策方法
相続争いの原因は突き詰めれば「誰がどれだけの財産をもらうか」について相続人の意見が一致しない点にあります。そこで、生前に「遺言書」によってあらかじめ「誰に何を与えるか」を明確に指示しておくことが争いの抑止力となります。
もっともこの場合、すべての相続人が納得できるような公平性に配慮する必要があります。たとえば「長男夫婦には世話になったから全財産を与える」ということになれば、ほかの相続人は不平・不満を感じるに違いありません。こうした不平・不満を法的手段によって解消しようという動きが出ることも考えられます。配偶者や第1順位・第2順位の法定相続人には「遺留分」といって最低限保障される取得分が決められているので、その請求手続きを行うことができるからです。法的手段にまで発展すると、感情的なもつれはより激しくなってしまいます。このような事態を招かないためにも遺言書の作成は一つのポイントとなります。
もめずに相続手続きをスムーズ・効率よく行うには?
相続税の申告・納付期限は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」です。たとえば1月6日に被相続人が亡くなると11月6日が申告期限となります(その日が土・日・祝日の場合は次の平日が期限)。
10か月という期間は長いように思えますが、意外に早く迎えてしまいます。その間に相続人は相続財産の内容を把握し、遺言書の有無を確認し、遺言書がない場合は遺産分割協議を済ませ、相続税を算出し、相続税の申告・納付をしなければなりません。
こうした一連の流れをスムーズに行わなければ申告・納付期限に間に合わなくなり、もし期限を過ぎてしまった場合は加算税や延滞税が課されます。こうした事態を防ぐためにはどうすればいいのかを考えてみましょう。
生前での財産整理による対策方法
相続税の手続きをスムーズかつ効率的に進めるための対策としては、まず相続財産の内容をすぐに把握できるようにしておくことです。相続財産がどれくらいあるのかわからなければ、そもそも相続税の申告義務が生じるのかどうかも判断できません。
その意味から、被相続人があらかじめ相続人に財産内容を伝えておき、あるいは財産目録をつくって保管しておくことが対策として挙げられます。その際は、タンス預金などの存在もしっかりと伝えておきましょう。申告後に見つかると、あらためて申告し直さなければならなくなるからです。また、使っていない預金口座は整理し、負債も解消しておきたいものです。
こうすることで相続人は余分な手間から解放されますし、相続人間で面倒な手続きを押し付けあうことも少なくできるでしょう。そのほかにも海外に財産があったり、海外に相続人が住んでいたりといったケースも考えられますが、こうした個々の事情は専門家である税理士の力を借りたほうがいいかもしれません。
財源対策
相続対策というと節税に関心がいきがちですが、財源対策(納税資金の確保)も忘れてはならないポイントです。節税対策に力を入れて相続税額を下げることはできたものの、いざ相続税を納めようとしたら資金がなかった……ということでは苦労が報われません。
納税資金をどう確保するのか?
納税資金の確保に苦心するのは、相続財産に含まれる現預金が少ないケースや遺産分割協議がまとまらずに預金が引き出せない(被相続人の預金口座が凍結されているため)ケースが考えられます。それを踏まえて対策を講じておく必要があります。
不動産などの遺産の現金化による対策方法
相続財産に含まれる現預金が少ないケースから考えてみましょう。この場合、不動産や株などすぐには現金化しにくい財産が多くを占めていることになります。そのため、被相続人が存命中に土地や株を現金化しておくといった対策が考えられます。遺産分割協議に関していえば、「もめずに遺産分割をするには?」のところでも説明したように遺言書の作成などで対策をしておきます。
このほか、生命保険に入っておくという方法もあります。生命保険には相続税の非課税枠が設定されており【法定相続人の数×500万円】を死亡保険金から差し引くことができるのです。この生命保険の非課税枠を使う方法はポピュラーな節税対策として知られています。
遺産相続を相談する場合の税理士の選び方
遺産相続における相続対策として前向きに検討したいのが「税理士に依頼する」ことです。税理士は税の専門家なので節税に関する有効なアドバイスや申告・納付に関するサポートなどで力になってくれます。費用はかかりますが、自身で対策を行うよりも手間も時間もかからず、また相続税額を引き下げることもできるため、結果的にはコストダウンになることがあります。
ただ、税理士であればどこに頼んでも安心というわけではありません。税理士の業務の守備範囲は広く、さまざまな専門分野があります。税理士によっては得意不得意もあるのです。医師免許をもっていれば、あらゆる病気の治療ができるわけではないということと同じです。
相続税に関しても得意とする税理士とそうではない税理士がいます。相続税の手続きを依頼する時は、以下のポイントを押さえるようにしましょう。
- 申告実績が多い
目安としては年間100件以上をとり扱っている税理士なら安心です。
- 税理士報酬を公開している
報酬がいくらかかるかをあらかじめHP等で明示している税理士であれば安心できます。
- 税務調査を熟知している
税務調査が入らない申告手続きのノウハウを備えた税理士は安心して任せられます。
おわりに:相続税は基本的な相続対策に沿って節税を考えていくことが大切
相続が生じた時に多くの人が気になるのは「相続税はいくらになるのか?下げることはできるのか?」といった節税対策だと思われます。もちろん節税対策も大切な要素の一つですが、相続対策にはほかにも、もめごと対策や財源対策があり、これらを総合的に考えることでスムーズな相続が実現できます。相続は個々の事情によって内容も変わってきますが、基本として押さえるべきは共通です。今回の記事では、相続対策におけるその基本的な考え方について説明いたしました。
記事でもふれましたが、相続対策をより安心なものにするためには専門家である税理士の力を借りることが有効な手段です。節税対策のみならずもめごと対策や財源対策のサポートも提供してくれるので、より万全を期すことができるといっていいでしょう。まずは税理士に相談をしてみることから始めましょう。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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