相続の知識

相続税における「相続対策」と「節税対策」の基本的な考え方

「相続税、できるだけ抑えたい……」多くの方がそう願うのではないでしょうか。しかし、相続の準備は複雑で、何から手をつければ良いか分からない、という方も多いかもしれません。
大切な資産を円満に次世代へ遺すためには、相続税への備えが欠かせません。適切な対策を講じれば、納税額を賢く減らすことが可能です。本記事では、具体的な節税策から、実行するうえでの注意点まで、専門的な知識を分かりやすく解説しますのでぜひ参考にしてください。

相続対策の基本的な3つの考え方

相続対策の基本的な3つの考え方

相続の際に知っておきたい、基礎的な「相続税対策」は以下の3点です。

①節税対策 相続税の金額を下げるための対策
②もめごと対策 相続争いなど相続人同士での感情的なもつれを引き起こさないための対策
③財源対策 相続税の納付に必要な資金を確保するための対策

ここからは3つの対策について、詳しく解説します。

1. 節税対策

相続税をできるだけ減らすためには「生前贈与での節税対策」と「財産評価を下げることでの節税対策」の2つが有効です。

「生前贈与での節税対策」とは、亡くなってからではなく、生きているうちに所有している資産を贈与しておく方法です。相続税は、遺された財産の評価額を元に計算されるため、遺産が少ないほど相続税が低くなります。

生前の贈与にも贈与税が課せられますが、原則として1年間に110万円以下であれば非課税です。
つまり生前に毎年110万円以下の贈与をしておけば、将来の相続税負担を抑えられる可能性が高くなります。

一方「財産評価を下げることでの節税対策」とは、資産の形を見直したり、税制優遇措置を活用したりして、相続税の計算基準となる財産価値(相続税評価額)を低く抑える方法です。

具体的な例を挙げると、現金で持っているよりも、土地や建物といった不動産に変えておく方が有利なケースがあります。不動産の相続税評価額は、一般的に現金よりも低く評価される傾向にあります。つまり、現金を不動産に換えておくことで、相続税の対象となる金額を抑えられる場合があります。

2. もめごと対策

相続人が複数いる場合には、いわゆる「相続争い」を防ぐための事前の対策が重要です。相続争いの多くは「どの遺産を、誰が、どの割合で受け継ぐか」について、相続人同士の話し合いがまとまらないことが原因です。こうした事態を避けるためには、財産を持つ人が生前に遺言書を作成し、財産の分配方法を具体的に定めておくことが効果的です。

ただし、遺言書を作成する際には、相続人全員が可能な限り納得できるよう、内容の公平性に気を配る必要があります。例えば「人物Aだけに、全財産を譲る」といった指定の場合、他の相続人が納得しないかもしれません。内容があまりに偏っていた場合、不満を持った相続人が法的な手段で取り分を主張することもあり得ます。

配偶者や子などの法定相続人には、最低限保障される遺産の取得割合として「遺留分」が法律で定められており、これを侵害された相続人は、不足分を請求する権利があるからです。将来的な問題を未然に防ぐという観点からも、遺言書によって明確な意思を示しておくことは、有効な対策です。

3. 財源対策

故人の資産を遺された人に譲る際には、納税資金の確保も忘れてはいけないポイントです。たとえ節税対策によって税額を低く抑えられたとしても、期限までに現金で納付できなければ、その効果も薄れてしまいます。

納税資金確保が難しくなる主なケースは次の2つです。

1.相続財産に占める現預金の割合が低い場合
相続財産の多くが不動産等や、すぐ現金化できない場合は、生前に一部資産を売却し、納税用の現金を準備しておくことが有効です。

2.遺産分割協議が長引き、故人の預金口座が凍結されたままになる場合
遺産分割が長引き、口座凍結で預金を引き出せず困ってしまうケースもあります。遺言書などで円滑に分割できるようにしておくことが納税資金確保につながります。

故人の資産を家族などに円滑に引き継ぐためには、以上の3つの対策を講じておくことが基本ですが、中でも特に重要なのが「節税対策」です。次章では、節税対策のより具体的な方法を詳しく解説します。

相続税を節税するための具体的な対策10選

相続税を節税するための具体的な対策10選

相続税を少なくする方法として、以下10のポイントを紹介します。

 

  • 暦年贈与を活用する
  • 相続時精算課税制度を活用する
  • 生命保険の非課税枠を活用する
  • 仏具や墓地などの非課税財産を生前に購入する
  • 配偶者の税額軽減を活用する
  • 配偶者に居住用不動産を贈与する
  • 小規模宅地等の特例を活用する
  • 養子縁組によって基礎控除額を増やす
  • 資産の組み換えによって相続税評価額を減らす
  • 一代飛ばしによって相続税を節税する

 

ここからは、それぞれの方法について詳しくみていきましょう。

1. 暦年贈与を活用する

「暦年贈与」を利用することで、相続税を減額することが可能です。暦年贈与とは、生前贈与における方法のひとつで「暦年課税」の制度を活用した方法です。

暦年課税では、基礎控除額が110万円なので、年間(1月1日~12月31日)110万円以下の財産の贈与であれば、税金を支払わずに財産を贈与できます。この制度を死去する以前に適用し、毎年110万円以下の資産を家族に地道に贈与をしておけば、後に残る相続財産を減らすことができるため、結果的に相続税の減額につながるというわけです。

ただし、財産を贈与した人が亡くなった時点以前の3~7年間に贈与されたものに関しては、相続財産として相続税の課税対象になる点に注意しましょう。これを「生前贈与加算」といいます。暦年贈与や生前贈与加算について、詳しく知りたい方は以下の記事もご参照ください。

2. 相続時精算課税制度を活用する

将来的に値上がりする可能性のある株や不動産を18歳以上の子または孫に遺産を渡したい場合は、生前に「相続時精算課税制度」を利用して節税するという選択肢もあります。

相続時精算課税制度は、累計2,500万円までの贈与であれば、課税されずに資産を譲ることができる制度です。相続時精算課税制度で贈与した2,500万円までの財産は、特別控除額2,500万円が控除され、贈与税としては税金が課されません。

また相続時精算課税制度で贈与する財産には、特別控除2,500万円とは別に基礎控除として年間(1月1日~12月31日)110万円以下を控除できます。この基礎控除が適用された資産は、相続税の課税対象にはなりません。

贈与した資産は、後に相続税の対象となり、結果的に課税されることになります。ただし、その際の評価額は、贈与したタイミングの評価額が基準です。つまり、価値が上がったとしても、その分の税金を抑えられる仕組みです。相続時精算課税制度の詳細は、以下でも解説しているので、ぜひあわせてご覧ください。

3. 生命保険の非課税枠を活用する

生命保険に加入して、受取人を相続人にしておけば「法定相続人の数×500万円」の保険金を非課税で遺せます。例えば、生命保険金が2,000万円で、法定相続人が配偶者と子1人の計2人だった場合、相続人兼、受取人は1,000万円を非課税で受け取れます。また、生命保険の保険金は現金で受け取れるため、納税資金の確保にもつながります。相続発生時にすぐに使える資金を確保しておくことは、財源対策としても重要です。

ただし、この生命保険非課税枠の適用条件は、受取人が相続人本人であること、加えて保険料を負担した被保険者が亡くなった方自身であることです。相続を放棄した相続人には、この非課税措置は適用されませんので注意が必要です。詳しい内容は、以下の記事にて紹介していますので、ご参照ください。

4. 仏具や墓地などの非課税財産を生前に購入する

4. 仏具や墓地などの非課税財産を生前に購入する

仏壇や墓地、墓石といった必要なものを生前に購入しておく方法も、相続税の軽減に役立ちます。
これらは祭祀財産(さいしざいさん)という扱いになり、相続税が課税されないためです。

仮に現金で1,000万円を遺すと相続税の対象ですが、同額相当の仏壇や墓石などを祭祀財産として引き継ぐ場合には相続税はかかりません。結果的に課税される相続財産を減らし、非課税となる資産を準備できることになります。

しかし、祭祀財産として購入しても、それが投資対象であったり骨とう品としての価値が高いと判断されたりすると、相続税が課される点には留意が必要です。祭祀財産以外で相続税がかからない他の財産について詳しく知りたい場合は、関連する記事をご参照ください。

5 . 配偶者の税額軽減を活用する

配偶者の税額軽減という制度を利用することで、相続税額を大きく減らすことが可能です。この制度は、亡くなった方の配偶者が遺産を受け取る際に、その取得額が「1億6,000万円」または「配偶者自身の法定相続分」のどちらか高い方の金額までは相続税がかからない仕組みです。これは、遺された配偶者の今後の生活保障や、夫婦で共に築き上げてきた財産への貢献を考慮した優遇措置のひとつです。

配偶者が全遺産を取得する場合や、他の相続人と遺産を分ける場合でも、受け取る財産がこの非課税枠の範囲内であれば、配偶者自身に相続税は課されません。ただし、この制度を利用して相続税が結果的に0になったとしても、相続税の申告手続き自体は期限内に行う必要がある点にはご注意ください。配偶者の税額軽減の制度については、以下でより分かりやすく解説していますので、あわせてご覧ください。

国税庁|No.4158 配偶者の税額の軽減

6 . 配偶者に居住用不動産を贈与する

婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産やその購入資金を生前に贈与すると、将来の相続税負担を軽減できる場合があります。これは、婚姻期間20年以上の夫婦の場合、贈与税の「配偶者控除」の特例を適用できるためです。

この配偶者控除は、配偶者に居住用不動産あるいは、居住用不動産の購入費用としての資金を贈与した場合に、最大2,000万円までを控除できる制度です。さらに、贈与税は基礎控除額として110万円を控除できます。つまり最大合計2,110万円までなら、居住用不動産やその購入資金を、贈与税がかからずに配偶者へ渡すことが可能です。なお贈与税の配偶者控除を適用する方法や詳しい内容は、以下の記事でご確認ください。

国税庁|No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除

7. 小規模宅地等の特例を活用する

「小規模宅地等の特例」を適用して、相続税を抑える方法もあります。小規模宅地等の特例とは、事業用・居住用の宅地など(土地または、土地の上にある権利)を相続する際、一定の要件を満たしていれば、相続税評価額を最大80%下げることができる制度です。

特例適用のための詳しい条件や、評価額がどの程度減額されるかの割合は、その宅地等が事業用だったか居住用だったか、また事業用であればどのような用途だったかといった状況に応じて変わってきます。小規模宅地等の特例の細かな要件や評価額の減額率などは、以下の記事で詳しく解説しているのでご参照ください。

8. 養子縁組によって基礎控除額を増やす

養子縁組をして法定相続人の数を増やし、基礎控除額を上げるという方法も検討できます。相続税は原則、基礎控除額として「法定相続人の数×600万円+3,000万円」を控除することが可能です。

つまり、養子縁組によって法定相続人が増えれば、基礎控除額も上がるため、結果として相続税の節税額も増えることになります。法定相続人が増えると、生命保険金や死亡退職金などの非課税枠も増額できるため、より大きな節税効果を得られる可能性があります。

ただし、法定相続人として認められる養子の数には制限があります。相続をする人の実の子がいる場合には、法定相続人の養子は1人まで、相続をする人に実の子がいない場合には、法定相続人の養子は2人までです。その他にも、節税のための養子縁組については注意点がありますので、詳細は以下の記事をご覧ください。

9. 資産の組み換えによって相続税評価額を減らす

資産の形を変えることで、相続税評価額を引き下げることも、節税方法のひとつです。例えば、更地に賃貸マンションなどを建設すると、土地は「貸家建付地」となります。これは、入居者の権利によって土地利用が制限されるため、更地よりも低い評価額になるためです。

また、古い賃貸物件のリフォームも節税に有効な場合があります。リフォーム費用として現金を支出することで、その分相続財産を減らす効果が期待できます。ただし、リフォームにより建物の評価額が上がるケースもあるため、その点は注意しましょう。

10. 一代飛ばしによって相続税を節税する

被相続人に子と孫がいる場合、子が存命していて特別指定がなければ通常、遺産は法定相続人の第1順位である子に相続され、相続税が発生します。しかし子が受け継いだこの財産を将来的にさらに自分の子に相続する場合、この時点でも相続税が課されるため、結局、同じ財産に2回相続税が課されていることになります。

この二重課税を回避する考え方として、被相続人が子を介さず、直接孫へ遺産を遺す方法が「世代飛ばし相続」です。この方法を選択することで相続税が課される機会を一度に減らし、節税できます。孫へ直接財産を遺すには、遺言書で指定する方法や、孫と養子縁組を行うといった手段が考えられます。ただし、この世代飛ばし相続を選択した場合、孫が納める相続税額は通常よりも2割多く計算される点には留意が必要です。

相続税の節税で注意したいポイント

相続税の節税で注意したいポイント

工夫をすれば、相続税を節税することは十分可能です。ただし、やり方を間違えるとトラブルが発生するおそれがあるため、注意しなくてはなりません。相続税について対策する際には、以下の2点に気をつけておきましょう。

 

  • 税務署による否認のリスクに注意する
  • 老後資金に悪影響が出ないようにする

 

2つの注意点について詳しく解説します。

税務署による否認のリスクに注意する

過度な節税対策を行った場合、税務署から否認されるケースがあることを頭に入れておきましょう。過去には、タワーマンションの市場価格と相続税評価額の差を利用した、いわゆる「タワマン節税」を実践したものの、税務署に否認され、裁判で敗訴した事例がありました。

これは、国税庁の財産評価基本通達にある「評価方法が著しく不適当と認められる場合、国税庁長官の指示に基づき評価する」という規定が適用された結果です。タワーマンションは、その特性上、市場での取引価格と相続税計算上の評価額に乖離が生じやすく、その差を利用した節税方法でした。

実際に、こうしたタワマン節税の事例などを背景に、分譲マンションの相続税評価額の算出方法が見直される税制改正も行われています。このように、節税策が社会的な妥当性を欠くと判断されれば、税務署による否認や、場合によっては税制自体の見直しにつながることもあります。

常に最新の税制や判例の動向を注視し、専門家とも相談しながら、適切な範囲での対策を心がける必要があります。税制改正後のタワマン節税の実情や詳細は、以下の記事でも解説していますので、ぜひあわせてご覧ください。

国税庁「居住用の区分所有財産」の評価方法の概要

老後資金に悪影響が出ないようにする

相続税の節税対策として資産の組み換えや計画的な贈与などを検討することは大切ですが、その結果、老後の生活資金が不足してしまっては本末転倒です。節税への意識も重要ですが、それ以上に安心して豊かな生活を送るための資金を確保しておくことが、人生設計の基盤となります。

「人生100年時代」と言われる現代においては、老後の期間が長くなることも想定されます。そのため、長期的な視点に立ち、現在の生活費だけでなく、将来の医療費や介護費用、趣味や生きがいに関わる費用なども含めた十分な備えが必要です。人生100年時代と言われる時代の変化や生き方などを、以下の記事で紹介しているのでぜひ参考にしてください。

遺産相続を相談する場合の税理士の選び方

遺産相続を相談する場合の税理士の選び方

遺産相続の税金に関する準備は、自身で進めることも可能ですが、専門的な知識が求められることも多いため「税理士への依頼」を検討することも手です。税理士に依頼すれば「適切な節税方法・税金の申告・納付に係る手続き」などを専門的な立場から支援してくれます。費用はかかりますが、自身で対策を行うよりも手間も時間もかからず、また相続税額を引き下げられる可能性もあるため、結果的にはコストダウンになることもあります。

ただ、税理士であればどこに頼んでも安心というわけではありません。税理士の業務の守備範囲は広く、さまざまな専門分野があります。税理士によっては得意不得意があり、医師免許を持っていれば、あらゆる病気の治療ができるわけではないのと同じです。相続税に関しても得意とする税理士とそうではない税理士がいますので、相続税の手続きを依頼するときは、以下のポイントを押さえるようにしましょう。

申告実績が多い

目安としては年間100件以上をとり扱っている税理士なら安心です。

税理士報酬を公開している

報酬がいくらかかるかをあらかじめHP等で明示している税理士であれば安心できます。

税務調査を熟知している

税務調査が入らない申告手続きのノウハウを備えた税理士は安心して任せられます。

おわりに:相続税は基本的な相続対策に沿って節税を考えていくことが大切

相続においては、節税対策・もめごと対策・財産対策などが重要ですが、中でも相続税の節税についてはよく理解しておきましょう。遺された家族の相続税納付による負担を軽減するためにも、生前に贈与したり財産の評価を下げたりして対策を行っておきましょう。

相続・承継に関するトータルサポートは、レガシィマネジメントグループにお任せください。レガシィには、相続専門20年以上の多くの経験と知恵をもった、高難易度の相続案件にも適切に対応できる税理士が在籍しています。相続税申告実績累計は30,000件を超えており、さまざまなケースに対応してきた実績があります。相続税申告や遺産整理を行う際には、気兼ねなくご相談ください。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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