相続の知識

遺産相続の手続きに期限はあるの?期限を過ぎるとどうなる?

遺産相続は、亡くなった方(被相続人という)が財産を残して死亡した時から始まります。相続に関するルールは民法で定められており、相続人とその順位は決まっています。
遺産相続に関わる相続の手続きはとても煩雑で、必要な書類の取得には時間がかかるものが多数あります。 そこで気になるのが、相続手続きの期限です。期限がある場合は、必要書類の収集を期限内に行い、手続きをすませなくてはいけません。この項目では、手続きが必要な遺産相続とその期限、期限が過ぎた場合の対応方法を説明します。

遺産相続とは「亡くなった人の財産を引き継ぐ」こと

民法の条文には、「相続は、死亡によって開始する」とあります。相続は、ある人の死亡をもって始まり、死亡した人は被相続人となります。民法で定められた相続の権利を有する人は、たとえ死亡の事実を知らなくても、その瞬間から「法定相続人」という立場になります。
遺産相続とは、被相続人の遺産を引き継ぐことです。相続人は被相続人が所有していた不動産や預貯金といったプラスの財産と同時に、被相続人が残した借金などのマイナスの財産も引き継ぐことになります。

相続手続きを期限ごとに紹介

遺産相続に関する手続きには、遺言書の有無の確認、相続人の確定、財産・債務の調査、相続放棄・限定承認、所得税の準確定申告、財産の確定と評価、遺産分割協議、財産の名義変更手続き、生命保険の死亡金受取の申請などがあります。
手続きの内容により、「期限のないもの」と「期限のあるもの」があります。以下で詳しく見ていきましょう。

期限 やること
3カ月以内 遺言書有無の確認
相続人の確定
相続放棄または相続限定承認
4カ月以内 所得税の準確定申告
10カ月以内 財産・債務の調査
財産・債務の確定と評価
遺産分割協議(遺言書がない場合)
遺産分割協議書の作成
相続税額の計算
相続税申告・納付 ー ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ ↓ 5年以内
1年以内 遺留分侵害請求
2年以内 死亡一時金の手続き
3年以内 死亡保険金の受取請求
(5年10カ月以内) 相続税更正の請求(還付)

①【3カ月以内】相続方法の選択

相続人の確定と被相続人の財産・債務の調査が終わったら、相続人は次の三つの相続方法を選ぶことができます。
    1. 1 相続する(単純承認)
    1. 2 相続しない(相続放棄)
    1. 3 財産の範囲内で債務を引き受ける(限定承認)

①の「単純承認」とは、相続人が被相続人の財産をありのまま受け入れ、すべて相続することです。マイナスの財産が多い場合でも引き受けることになります。負債を相続したくない時は、被相続人の権利や義務を放棄し、財産の一切を相続しない②「相続放棄」を選ぶことも可能です。相続放棄は単独で行えます。
一方、マイナスの財産がプラスの財産より多いのかわからない場合や、マイナス財産があるけど相続したいプラスの財産がある場合、相続で得るプラスの財産の範囲内でマイナスの財産も相続する③の「限定承認」という方法もあります。

「相続放棄」と「限定承認」を選ぶ場合は、相続開始を知った時から3カ月以内に、家庭裁判所に申立てする必要があります。限定承認の場合、相続人全員が共同で家庭裁判所へ申立てしなければならないため、相続放棄より時間がかかるので注意してください。もし期間内に申し立てができなかった場合、単純承認したとみなされてしまいます。

また、相続財産の一部または全部を処分してしまった場合にも、単純承認したとみなされます。プラスの財産もマイナスの財産も相続人全員が共同して、あるいは特定の人がすべてを受け継ぐことになります。

限定承認については、以下の記事もご覧ください。

②【4カ月以内】準確定申告

被相続人に一定の所得があれば、死亡時までの所得の申請が必要となります。被相続人が死亡した年の所得税を相続人が申告することを「準確定申告」といいます。
準確定申告の期限は相続の開始があったことを知った日の翌日から4カ月以内となっており、期限を過ぎると延滞税がかかります。
準確定申告は、被相続人が死亡した時点での納税地の税務署に、相続人の住所・氏名などを記載した書類を添付して提出します。相続人が2人以上いる場合は、各相続人が連署により準確定申告書を提出することになります。ただし、ほかの相続人の氏名を付記して各人が別々に提出することもできます。この場合、当該申告書を提出した相続人は、他の相続人に申告した内容を通知しなければならないことになっています。

準確定申告については、以下の記事もご覧ください。

③【10カ月以内】相続税申告

相続税とは、相続した財産の額に応じて課税される税金で、正味の遺産総額が「相続税の基礎控除」を超える場合に発生します。基礎控除とは、基本的に認められる税金控除の金額です。相続税の場合、最低で3,000万円の基礎控除があります。
相続税を納めなければならない場合、期限は相続の開始を知った日の翌日から10カ月以内です。

財産の調査・確定に手間がかかったり、遺産をどのように分けるか決まらなかったりしている場合でも、この期限までに法定相続分で相続したものとして計算した税額を納付します。
相続税の申告と納付は、被相続人の死亡した時の居住地の税務署に申告し、相続税を金融機関で納付します。延納や物納を選ぶ場合も、相続税の申告期限までに手続きします。

相続税申告の流れについては、以下の記事もご覧ください。

④【1年以内】遺留分侵害額請求

遺産相続では「法定相続よりも遺言による相続が優先される」という大原則があります。
ただし、遺言に従うと被相続人の配偶者や子が法定相続人としての権利と利益を侵されてしまうこともあるため、民法では法定相続人が相続できる最低限度の相続分を「遺留分」として規定しています。
遺留分を主張するには、遺留分を侵害している人に対して、自分の取り分を請求する意思表示が必要です。遺留分の請求手続きを「遺留分侵害額請求」といいます。
遺留分侵害額請求は、相続開始と遺留分侵害の事実を知った日から1年以内に遺留分を請求しなければいけません。被相続人が死亡したことと不公平な遺言や贈与があったことを知りながら1年間放置すると、遺留分を請求できなくなります。

遺留分侵害額請求については、以下の記事もご覧ください。

⑤【2年以内】死亡一時金の受取請求

「死亡一時金」とは、一定の条件を満たした遺族に対して支払われる年金のことです。
死亡一時金は、死亡日の前日において第1号被保険者(自営業者・学生・無職の人などの国民年金加入者と任意加入被保険者)として保険料を納めた月数が36月以上ある人が、老齢基礎年金・障害基礎年金を受けないまま亡くなった時、その人と生計を同じくしていた遺族に支給されます。
この場合の遺族とは、配偶者、子、父母、孫、祖父母、さらに兄弟姉妹のなかで優先順位の高い人となります。死亡一時金を受ける権利の時効は、死亡日の翌日から2年。何も手続きしないで2年を過ぎてしまうと、時効で受け取ることができなくなってしまいます。

⑥【3年以内】死亡保険金の受取請求

生命保険の死亡保険金の受取請求は、亡くなった日の翌日から3年以内に、加入している保険会社に連絡しなければなりません。必要な書類は、保険証券、死亡診断書、被保険者の死亡記載のある住民票、請求する人の本人確認書類などです。

<参考>【3年10か月以内】「配偶者の税額軽減」「小規模宅地等の特例」など特例の適用

相続税の申告期限(亡くなった日の翌日から10カ月後)から3年以内に遺産分割できた場合は、相続税の軽減措置である「配偶者の税額軽減」や「小規模宅地等の特例」などの特例が適用されます。
つまり、相続税の申告期限までに遺産分割が間に合わなかったとしても、一旦、相続人が法定相続分で相続した形の申告書と分割見込書という書類を作成して申告期限までに提出しておき、その後、遺産分割が終了した段階で更生の請求を行えば、特例を適用して相続税を引き下げ、多く支払っていた税金を取り戻すことができるのです。
ただし、前述したとおり申告期限後3年以内に遺産分割を終えており、本来の申告期限までに申告書と分割見込書を提出していることが条件となります。
分割見込書の詳細については、下記国税庁のHPをご覧ください。 【参考】国税庁ホームページ『相続税の申告書の提出期限から3年以内に分割する旨の届出手続』

⑦【5年10カ月以内】更正の請求(還付請求)

相続税の納付後、税額の計算に誤りを発見し、相続税を納め過ぎたことがわかった場合は、申告をやり直して税金を取り戻すことができます。この手続きを「更正の請求」といいます。更正の請求ができる期限は、相続税の申告期限から5年以内、つまり、相続の発生から5年10カ月以内となります。

このほか、厚生年金保険の被保険者中、または被保険者であった人が亡くなった時、その人によって生計維持されていた遺族が受けることができる「遺族厚生年金」の期限は5年です。
遺族厚生年金は一定の要件を満たした遺族が請求しなければ、受け取ることができません。年金を受ける権利(基本権)は、権利が発生してから5年を経過した時は、時効によって消滅します。

更正の請求(相続税の還付請求)については、以下の記事もご覧ください。

期限が決められていない手続き

遺産相続には、期限が決められていない手続きもあります。①遺産分割協議、②預貯金の解約・名義変更、③不動産の相続登記です。以下、詳しく説明します。

①遺産分割協議

遺産分割協議とは、相続人全員の合意で被相続人の遺産の分け方を決めることです。遺産分割協議には、法律上の期限がありません。 相続開始後10年以上経っていても有効です。

②預貯金等の解約・名義変更

金融機関は口座の名義人が亡くなったことを知れば、その口座を凍結します。預貯金の解約と名義変更などの相続手続きには期限がないため、相続が始まってもすぐに相続手続きをする必要はありません。ただし、10年間以上口座を使用していない場合、その口座は休眠口座に入るので注意が必要です。

③不動産の相続登記【2024年最新情報】

2021年現在は、遺産相続による不動産の名義変更に期限の定めはありません。ただし先延ばしにして相続人の世代交代が起こると、登記手続きが煩雑になります。法律上の期限はありませんが、実務上は相続税の申告と一緒に行うのが望ましいです。自動車の名義変更も法律上の義務ではなく、いつまでに名義変更をしなければならないという期限は決められていません。

【2024年4月1日から】相続登記の義務化

相続登記の義務化に関する法案が2021年4月21日に参院本会議にて可決・成立し、2024年4月1日に施行されました。相続によって土地・建物を取得した場合に3年以内に相続登記をしなかったときは、10万円以下の過料が課されます。

相続登記の義務化については、以下の記事もご覧ください。

請求期限が過ぎた場合に生じるデメリット

相続に関する手続きのうち、期限が過ぎた場合、デメリットが生じるものがあります。
なかでも相続税については、申告期限までに申告・納付を怠った場合には、延滞金が発生したり、特例措置が受けられなかったりするので大きなデメリットが生まれます。次に詳しく説明します。

相続税の申告が遅れた時の不具合

相続税の申告・納税をしないまま10カ月を過ぎると、「延滞税」や「無申告加算税」といった附帯税が課されます。
「延滞税」とは期限までに納税されない場合に、期限の翌日から納付する日までの日数に応じて課されるものです。
「無申告加算税」は納付すべき税額が50万円までは15%、50万円を超える金額については20%の税率で課されます。申告・納税期日を過ぎてしまうと、納税する場合に延滞税や無申告加算税が課されるので、相続税の申告期限には細心の注意が必要です。

また、相続税は、現金で一括支払いするのが原則ですが、相続税に限っては一括で納付することが困難な税額は分割して支払う「延納」が可能で、「延納」によっても納付が困難な税額については「物納」が認められています。ただし、どちらも相続税の申告・納税期限までに申請しなければいけません。
さらに、相続税の申告・納税が遅れた場合は、配偶者の税額軽減や小規模宅地等についての特例は受けられません。ただし、10カ月の申告期限までに間に合わないときは前述した「分割見込書」を提出する方法があります。相続開始から3年10カ月以内に遺産分割を終えれば、各種特例の適用は受けられますので、覚えておくと役立つかもしれません。

専門家へ遺産相続を依頼する際の注意点

相続税の計算や申告など相続に関する手続きは、基本的にはすべて相続人自身で行うことができます。それでも、時間的にも労力的にも難しそうだと思えるものは、「士業」とよばれる専門家に任せたほうが安心な場合があります。相続にかかわる士業には、税理士を始め弁護士や司法書士、行政書士などがあります。
それぞれ専門分野が異なり、その職業でなければ実施できない手続きもあります。相続の内容に応じて、相談や依頼する専門家を選ぶのがよいでしょう。

それぞれの専門家がどのような分野を得意としているか知りたい方は「相続の相談はどの専門家にするべき? 専門家の職種ごとに徹底解説!」をご覧ください。

おわりに:期限を把握して遺産相続をスムーズに行いましょう

相続直後はやるべきことが多く、手続きは煩雑です。故人の葬儀・法要などを手配しながら手続きを進めなければならないことも多く、肉体的にも精神的にも疲弊してしまいがちです。
必要書類の提出先だけでも、市役所(区役所、役場)、法務局・運輸局、金融機関、税務署など多岐にわたります。また、被相続人が遠方に住んでいたような場合だと、郵送でのやりとりが発生することも多く、必要な書類の取得に時間がかかるケースも。
相続の内容に応じた相続手続きの期限を把握しておくことが必要です。手続きを進めていくなかで、期限までに申告ができないようなら、専門家に相談して適切に対処していきましょう。
ミスをなくすという意味でも、相続財産の調査や評価など、専門的な知識が必要な部分だけでも、相続を得意とする専門家に相談することをおすすめします。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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