遺産相続の時効はいつまで?やり直しはできる?適切な手続きをしよう
Tweet遺産相続と聞いても、実際に当事者になったことがある方以外は、詳しくは知らないという方が多いかもしれません。実は遺産相続に関する手続きには時効や期限があります。
この記事では遺産相続に関するさまざまな手続きの種類ごとに、時効・期限について解説します。
目次
遺産相続に時効はある?
時効と聞くとサスペンスドラマなどのワンシーンで刑事事件に関連するイメージを持つ方が多いかもしれません。実は遺産相続の手続きにも時効があります。ただし遺産相続の場合は刑事事件とは異なる時効が適用されます。
そもそも時効とは
民事上の時効には、「消滅時効」と「取得時効」があります。
消滅時効とは、権利を行使しない期間が一定期間継続することにより、その権利が消滅する制度のことです。たとえば人にお金を貸した人にはその返済を要求する権利がありますが、返済期日を過ぎても返済されないまま返済を求めることもしなかった場合、お金を返してもらう権利が消滅することがあります。
取得時効とは、ある事実状態が一定期間継続した場合に、その事実状態を尊重して権利を認める制度のことです。たとえば他人の土地を自分の土地だと思い込み、土地の上に家を建てて長期間住み続けた場合、その土地の所有権を取得することがあります。
遺産相続においても、消滅時効や取得時効が問題になるケースがあります。また厳密には時効とは呼ばないものの、相続に関して期限がある手続きも存在します。
遺産相続の時効一覧
以下、遺産相続の手続きに関する時効・期限です。
①相続放棄:相続開始を知ったときから3か月
②遺留分侵害額請求権:1年(※遺留分が侵害されていることを知らなかった場合は10年)
③遺産分割請求権:なし
④相続回復請求権:相続権の侵害を知ってから5年、または相続開始から20年
⑤相続税申告:5年(※悪意があると判断された場合は7年)、申告期限は被相続人が亡くなってから10か月
⑥生前贈与にかかる贈与税申告:6年(※悪意があると判断された場合は7年)
⑦債権:権利を行使できることを知ってから5年、または権利を行使できるときから10年
⑧相続登記:なし(※令和6年4月より不動産所得を知った日から3年以内の申請が義務化)
それぞれの内容について、詳しく見ていきましょう。
相続放棄の時効
遺産には土地・不動産や預貯金・株などプラスの遺産だけではなく、借金やローンなどマイナスの遺産もあります。相続人は遺産を引き継ぐ権利を手放すことができ、これを相続放棄といいます。
ただし、相続放棄をする場合、マイナスの遺産だけ放棄することはできません。プラスもマイナスも含めてすべての遺産を放棄します。
相続放棄には3か月の熟慮期間があり、それまでに家庭裁判所に申述しなければなりません(民法第915条)。3か月以内に申述しなかった場合は相続放棄できなくなります。
相続放棄の手続きについては、下記の記事もご覧ください。
遺留分侵害額請求権の時効
遺留分とは、一定範囲の相続人に認められる最低限度の遺産取得割合のことです。
遺留分侵害額請求権とは、被相続人の贈与や遺言などにより遺留分を侵害された相続人が、遺留分を金銭で支払うよう求める権利をいいます。遺留分侵害額請求権があるのは配偶者や子ども、親(直系尊属)などの相続人です。
遺留分侵害額請求権の時効は、相続開始と遺留分侵害の事実を知ってから1年です。また知らなかった場合でも、相続開始から10年が経過したとき、自動的に請求権が消滅します(民法第1048条)。
遺留分について詳しくは下記をご覧ください。
遺産分割請求権の時効
被相続人が遺言書を残していない場合に、相続人同士で遺産の分け方について話し合うことを「遺産分割協議」といいます。遺産分割請求権とは、この協議の際に自分への遺産の分割分を主張する権利のことです。
遺産分割請求権に時効はありません。そのため、相続税申告(相続開始から10か月以内が期限)においても、初めは法定相続分で分割をする見込みを申請して相続税を納めておき、後から遺産分割協議によって決まった相続分の修正申請手続きなどをすることも可能なのです。
しかし遺産分割しないで遺産を共有状態にしておいた場合、売却や処分などの行為をする際に共有者全員の同意が必要です。また、世代が進むごとに相続人が増えて権利関係が複雑化しやすい、トラブルになりやすいなどのデメリットもあります。速やかに協議し、遺産分割することが望ましいでしょう。
遺産分割協議については、下記の記事も参考にしてください。
相続回復請求権の時効
相続回復請求権とは、相続人と称して相続人の権利を侵害している人に対し、本来の相続人が遺産を取り戻すために主張できる権利のことです。
相続回復請求権の時効は5年です。相続権の侵害を知ってから5年経つと請求権が消滅します(民法第884条)。ただし相続権の侵害を知らなかったときは相続が発生してから20年で時効が消滅します。
相続税申告の時効
相続税とは、被相続人が亡くなり、相続人が一定額以上の遺産を相続する際に発生する税金のことです。被相続人が亡くなった日を相続開始日とし、10か月以内に申告・納税しなければなりません。
また相続税申告を行っていたとしても、計算に誤りがあった、もしくは申告漏れがあったなどの場合は国税局や税務署より追徴課税のうえ、附帯税などのペナルティを受けることがあります。この処分を受ける可能性のある期間(除斥期間といいます)は申告・納税期限から5年です(国税通則法第70条)。ただし、偽りその他不正の行為により意図的に税額を免れた、または還付を受けた場合は除斥期間が7年に延びます。
生前贈与にかかる贈与税申告の時効
贈与税とは個人から財産をもらったときに発生する税金のことです。贈与税は受け取った財産の金額が110万円未満であればかかりません。ただし、110万円は年間の合計額なので、たとえば父親と母親など2人以上の人から受けた贈与が1年間の合計で110万円以上だった場合には申告・納税が必要です。
贈与税の申告についても、相続税と同様に申告漏れなどがあると延滞税などのペナルティを受けます。ただし贈与税申告の除斥期間は6年と、特則により相続税よりも長く定められています(相続税法第36条)。申告義務があると知りながら意図的に申告をしなかった、または悪質な脱税行為とみなされた場合は7年まで延長されます。
債権の消滅時効
債権とは、相手方に特定の財産上の行為を求める権利をいいます。たとえば被相続人が知人にお金を貸していた場合に、被相続人には知人に返済を求める権利があり、これが債権です。債権も相続財産のひとつなので、債権を相続した人はこの知人に対して引き続き借金の返済を求めることができます。
債権の消滅時効は、債権者が権利を行使できることを知ってから5年です。また権利を行使できるときから10年を経過したときも時効によって消滅します(民法第166条1項)。
相続登記の時効
相続登記とは土地・建物など不動産の所有者が亡くなった際に、相続により名義を変更することです。これまで、相続登記は義務ではなく、登記の申請期限もありませんでした。しかし相続登記がなされずに所有者が不明な不動産が多く発生し、災害の復興事業や取引に支障をきたすことがあり問題視されていました。こうした問題を防ぐため、相続登記は令和6年4月より義務化されます。
相続登記の義務化について、詳しくはこちら
相続登記の申請期限は3年です。不動産を相続した人は、不動産の取得を知ってから3年以内に相続登記しなければ過料を受ける可能性があります。
時効がない「遺産分割協議」はやり直しができる?
ここまでで様々な手続きの時効を見てきましたが、唯一「遺産分割請求権」については時効がありませんでした。では、遺産分割協議はいつでもやり直しできるのでしょうか?
やり直しはできるが条件がある
遺産分割協議は相続人全員の合意によって成立するため、基本的にやり直しは想定されていません。しかし相続人全員の合意があればやり直しが可能です。また、協議自体が無効となった場合もやり直しできます。
具体的には、相続人の権利がある全員が参加していなかった、遺産分割協議の内容に大きな勘違いがあった、認知症の高齢者や未成年者など判断能力のない相続人が単独で協議に参加していたといった場合です。
また、遺産分割協議に際して詐欺や強迫などの行為があった場合はほかの相続人の合意がなくても協議の取り消しを主張できます。取消権の時効は詐欺や強迫などに気づいてから5年です。遺産分割が行われてから20年が経過したときも同様に取消権が消滅します(民法第126条)。
やり直しには注意が必要
遺産分割協議はやり直しが可能ですが注意が必要です。
やり直しによって元々相続した人から新たな人へ相続する場合、贈与とみなされ、贈与税が発生してしまうことがあります。ただし、遺産分割協議が無効となった場合はそもそもその協議が認められませんので贈与税は発生しません。
また、遺産分割協議のやり直しによって不動産を相続した人から新たな人へ所有権を移すと、別途不動産取得税がかかることもあります。
忘れやすい手続きの時効
ここまで説明した他にも遺産相続の際に必要な手続きなどがあります。忘れやすい手続きとして、準確定申告と保険金請求について紹介します。
準確定申告の時効
準確定申告とは、亡くなった人の所得税の確定申告です。亡くなった人の代わりに相続人全員で申告手続きを行います。
確定申告の場合は、毎年1月1日から12月31日までの所得を計算し、翌年の2月16日~3月15日までに申告します。一方、準確定申告では亡くなった日の翌日から4か月以内に申告する必要があります。また、申告書の提出場所は申告者の住所地ではなく、亡くなった人の住所地を管轄する税務署です。
なお、準確定申告は確定申告に準ずるため、亡くなった人が会社で年末調整をしている場合は必要ありません。また年金を受け取っていた人で、年金額が400万円以下かつ他の所得が20万円以下だった場合も不要です。
準確定申告については、下記の記事で詳しく解説しています。
保険金請求の時効
被相続人の保険加入状況についてしっかりと把握できていない方も多いかもしれません。保険金は被保険者が亡くなったからと言って自動的に支払われるものでなく、請求しなくてはもらえません。
保険金の請求期限は、保険法第95条の消滅時効の規定に沿って、被保険者が亡くなってから3年としている保険会社が多いようです。条件が整えば期限が過ぎたあとに請求できることもありますが、状況や保険会社の規定によるでしょう。
受け取った死亡保険金などは相続税の計算において「みなし相続財産」とされます。直接亡くなった方から相続をするお金ではありませんが、相続税法においては相続財産という位置づけになりますので注意しましょう。非課税枠もありますので、こちらも押さえておきましょう。
保険金の相続税については、以下でも解説しています。
おわりに:時効の有無にかかわらず、相続では余裕を持った手続きをしましょう
遺産相続にはさまざまな手続きがあり、手続きごとの時効や期限があります。遺産分割協議については時効や期限はありませんが、やり直しできるケースが限定されており、やり直しするとしても注意が必要です。
とはいえ、身内の方が亡くなり悲しみの中で行う手続きです。期限ぎりぎりではなく、余裕をもって予め把握したうえで手続きを進めるほうが良いでしょう。
相続手続きにあたって、いつまでに何をすればいいかよく分からない、お任せしたいといった場合は、相続専門の税理士に相談しましょう。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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