相続税や贈与税計算時の基準「相続税評価額」とは?基本知識や考え方を解説
Tweet相続が発生すると、亡くなった方(被相続人という)が遺した財産の内容によっては、相続税の支払い義務が生じる場合があります。その際の基準となるのが「相続税評価額」です。財産にはそれぞれに応じた評価方法が決められており、なかには複雑な計算式を使わなければならないものもあります。本記事では相続税評価額の基本的な知識や各種評価方法について解説します。
目次
相続税評価額とは?
相続税の支払いが必要かどうかを判断するには、まず被相続人(亡くなった方)が遺した財産に、どれほどの金銭的価値があるのかを把握する必要があります。
財産と呼ばれるものには現金や預貯金、土地、家屋、有価証券など、さまざまなものがありますが、これらを一つひとつ評価することで財産の総額がわかります。その評価方法は財産ごとに決められており、その評価方法に従って計算した財産の価額を「相続税評価額」といいます。相続税が発生するかどうか、また発生する場合にいくらになるのかは、この「相続税評価額」の合計に基づいて判断されます。
遺産の時価調査と相続税評価額の関連性
相続税評価額の評価方法は財産の種類によって異なりますが、基本的な考え方は同じで、原則として「時価」で計算することになっています。
例えば、現金1億円の時価はそのまま「1億円」です。このように評価が明確であれば話は簡単ですが、財産の種類によっては、そうはいかないケースもあります。
相続税評価額は、相続税の金額を大きく左右するため、正確に算出することが重要です。そのためには、どのような財産が遺されたのかを正確に把握し、それぞれの財産に適した評価方法を理解しておく必要があります。その評価方法については、次に説明します。
なお、それぞれの評価方法については国税庁が詳細なルールを定めています。同庁のホームページで確認できるので参考にしてみてください。
固定資産税評価額との違い
不動産の固定資産税評価額は、納税者本人が計算する必要はありません。毎年自治体が送付する固定資産税の納税通知書に添付されている課税明細書に土地と家屋と別々に記載してありますので、それを参照することで確認できます。そのほか、市区町村の役所(東京23区は税務署)で固定資産課税台帳を閲覧する、固定資産税評価証明書を取得(郵送も可)する、などの方法もあります。
一方、相続税評価額は、相続税を納税する本人が計算しなければなりませんので注意しましょう。
評価方法の種類
ここからは、さまざまな財産の中から代表的なものを取り上げ、それぞれの相続税評価額の算出方法を見ていきます。
取り上げるのは、以下の8つの財産です。
- 土地
- 貸地
- 建物
- マンション
- 上場株式
- 預貯金
- 生命保険金
- 退職手当金
土地の評価方法
土地の評価は相続税評価額を算出する際に最も難しいものといわれています。土地には一つとして同じものがないという特性を備えていることに加えて、評価額を算出するためのルールが複雑であることが、その理由です。
土地の評価方法としては次の二つがあります。
- 路線価方式
- 倍率方式
それぞれに解説していきます。
路線価方式
路線価とは「道路に面する土地1m2(単位「平方メートル」は「m2」と表記、以下同)あたりの評価額」のことを指します。この路線価に基づいて土地を評価する方法が「路線価方式」というわけです。路線価方式による土地の相続税評価額は次の計算式を用います。
【路線価×各種補正率×土地面積】
例えば、以下のような土地があった場合、
路線価:15万円
各種補正率:1.0
土地面積:100m2
相続税評価額は【15万円 × 1.0 × 100】で1,500万円となります。
路線価については、下記記事でも詳しく解説していますので、ご参考ください。
路線価は国税庁のホームページで確認することができます。
倍率方式
「倍率方式」とは、前述した路線価が定められていない地域に関する土地の評価方式です。この方式による土地の相続税評価額は次の計算式を用います。
【固定資産税評価額×倍率】
「固定資産税評価額」は前述した方法で知ることができます。土地と建物は別々の欄なので、土地の「価格」の欄を参照します。
例えば、固定資産税評価額が1,000万円で倍率が1.1の土地を相続した場合、相続税評価額は【1,000万円 × 1.1】で1,100万円となります。
倍率方式については下記記事で詳しく解説していますので、こちらもあわせてご参考ください。
なお、倍率も路線価と同じように国税庁のホームページで確認することができます。
貸地の評価
地代をもらって土地を誰かに貸していた場合の相続税評価額は、貸していない場合に比べて低くなります。この場合の土地の相続税評価額は次の計算式を用います。
【更地の評価額×(1−借地権割合)】
ここでいう「更地」とは、土地を貸していない(借地権のない)状態の土地を意味します。その評価額は上記の「路線価方式」または「倍率方式」で計算します。一方「借地権割合」ですが、これは国税庁が地域ごとに30〜90%の間で定めており、一般的に土地の利用価値が高いエリアは借地権割合も高い傾向があります。
例えば、更地の評価額が5,000万円で、借地権割合が50%の土地(貸地)を相続した場合、相続税評価額は次の計算で算出できます。
【5,000万円×(1−50%)=2,500万円】
相続税評価額は2,500万円です。
建物の評価方法
土地と建物を別々に評価する、という考え方は、戸建てとマンションで変わりません。マンションの場合は「更地」という概念がないので、敷地すべての評価額(基本的には「路線価方式」)を、敷地権割合(持分割合ともいう)で按分した金額が土地の評価額となり、それと建物分を合わせて相続税評価額となります。
一戸建ての評価方法
建物(家屋)の評価はいたってシンプルです。相続税評価額は以下の計算式で算出できます。
【固定資産税評価額×1.0】
前述した「固定資産税課税明細書」の「家屋」の欄を参照し、価格に「2,000万円」と記載がある場合、相続税評価額の計算式は以下になります。
【2,000万円×1.0=2,000万円】
相続税評価額は2,000万円です。
マンションの評価
相続をした家がマンションの場合の評価方法は戸建てと同じで、家屋と土地それぞれに分けて行います。家屋の評価方法は前述した「固定資産税課税明細書」の「価格」の欄の額が該当します。計算式は次のとおりです。
【固定資産税評価額×1.0】
例えば価格に「3,000万円」と記載されていた場合、相続税評価額は次のとおりです。
【3,000万円×1.0=3,000万円】
一方の土地ですが、路線価とマンション全体の敷地における所有する占有部分の割合(敷地権割合)に基づいて評価されます。敷地権割合は不動産の全部事項証明書に記載されていますし、一般的にマンション売買契約書でも確認できます。マンションの土地の相続税評価額は、次の計算式を用います。
【路線価×土地の面積×敷地権割合】
例えば、路線価が40万円でマンション全体の土地の面積が2,000m2、敷地権割合が8,000/400,000の場合、相続税評価額は次の計算式で算出できます。
【40万円×2,000m2×8,000÷400,000=1600万円】
この1,600万円に家屋分の相続税評価額を加えれば、相続したマンションの相続税評価額がわかります。
ただし、2024年1月1日以降にマンションを相続する場合は、相続税評価額の計算方法が変わりました。これは、いわゆるタワーマンションの相続税評価額が市場価格とかけ離れてしまい、公平性を損なっているとの見解から見直されたものです。タワーマンションに限らず、すべての「居住用の区分所有財産」(いわゆる分譲マンション)に適用されます。具体的には、
(「家屋部分の相続税評価額」+「路線価×土地の面積×敷地権割合」)×区分所有補正率
となります。前述の相続税評価額3,000万円+1600万円のマンションで、市場価格:1億円、築年数:5年、総階数:20階、対象戸室の専有面積:30m2として試算すると、区分所有補正率は1.0722となります。
4,600万円×1.0722=約4,932万円
現行の相続税評価額とは、約332万円との差が生じます。
区分所有補正率の算出は以下の国税庁のパンフレットを参照してください。
建物の評価についてより詳しく知りたい方は下記をご覧ください。
株式・金融資産などの評価方法
株式・金融資産などは、それぞれ独自の評価方法があります。主たるものとして、次の4種類について解説します。
- 上場株式
- 預貯金
- 生命保険金
- 退職手当金
上場株式の評価
「上場株式」とは、金融証券取引所に上場されている株式のことです。その評価方法としては、次の4つの中から最も低い額を採用することになっています。
- 相続日(被相続人が亡くなった日)の最終価格(終値)
- 相続日の月の最終価格の月平均額
- 相続日の月の前月の最終価格の月平均額
- 相続日の月の前々月の最終価格の月平均額
例えば、被相続人が3月30日に亡くなり、その日の上場株式の終値が1,500円、3月の終値の平均額が1,300円、前月(2月)の終値の平均額が1,000円、前々月(1月)の終値の平均額が1,400円だった場合、最も低い額は前月(2月)の1,000円なので、この額を採用します。仮に上場株式数が1万株だとしたら【1,000円×1万株】で1,000万円が相続税評価額となります。
なお、非上場株式の場合には下記で詳しく解説していますので、こちらをご参考ください。
預貯金の評価
預貯金は「普通」と「定期」に大きく分けられます。このうち、利子が少ない普通預貯金に関しては、相続開始日の残高が相続税評価額となります。一方、定期預貯金は相続の開始時点で解約をしたとみなし、元本に利子(源泉徴収税を差し引いた額)を加えた額を相続税評価額とします。
生命保険金の評価
被相続人が亡くなったことで受け取る生命保険金(死亡保険金)は、受け取った額が相続税評価額に相当します。ただし、この場合は「死亡保険金の非課税枠」という税制上の特典があります。これは法定相続人一人あたり500万円が非課税になるというものです。
【500万円×法定相続人の数=非課税限度額】
例えば、保険金が3,000万円おりたとし、法定相続人は配偶者と二人の子どもだったとします。この場合は次のように計算します。
【3,000万円−500万円×3人=1,500万円】
相続税評価額は1,500万円ということになります。
非課税枠が設定されているのは、死亡保険金に遺族の暮らしを守るという役割があるためです。なお、法定相続人の中に相続を放棄した人がいても、その人も非課税枠の計算上、法定相続人の数に含まれることになっています。
生命保険関連で注意が必要なのは、被保険者が被相続人以外の保険です。例えば、契約者と受取人が被相続人、被保険者が妻とする生命保険がわかりやすいでしょう。
この場合、被相続人が亡くなると、相続人の誰かが保険の契約を相続して継続するか、契約を解約することになります。保険を解約すれば「解約返戻金」を受け取ることができますが、その解約返戻金相当額が相続税評価額になり、上記の被保険者が被相続人の生命保険金とは異なり、非課税枠の特典が適用されません。そのほか、前納保険料や剰余金の分配などがあれば加算します。
退職手当金の評価
退職手当金は本来なら(亡くならなければ)被相続人が受け取っていたお金です。そのため、被相続人が亡くなった後で退職手当金が支給された場合は、被相続人の財産とみなされ、相続税の課税対象となります(死亡後3年以内に支給が確定したものに限る)。
ただし、この死亡退職金にも先の生命保険金の非課税枠とは別に非課税枠が設けられています。算出方法は生命保険金の非課税と同じで以下となっています。
【500万円×法定相続人の数=非課税限度額】
もし退職手当金が3,000万円で、法定相続人は配偶者と二人の子どもだった場合は次のように計算します。
【3,000万円−500万円×3人=1500万円】
相続税評価額は1500万円ということになります。
相続税評価額を下げて節税するカギは「不動産」にある
相続税評価額は不動産の場合、減らす、つまり節税することが可能です。不動産をお持ちの場合、賢い節税方法を知っておきましょう。
土地の相続税評価額を減らす
土地の相続税評価額は、以下の方法で減額が可能です。
- 賃貸物件を建てる
- 地積規模の大きな宅地に該当する場合がある
賃貸物件を建てる
土地に賃貸物件を建てると、土地は「貸家建付地」になります。「貸家建付地」とは「人に貸している建物が建っている土地」という意味です。
「貸家建付地」の相続税評価額は、以下の計算式で算出します。
自用地の評価額×(1−借地権割合×借家権割合×賃貸割合)
地域によって異なる借地権割合と違い、借家権割合は全国一律で30%です。
何も建てていない土地よりも、相続税評価額は20~30%ほど下がります。
地積規模の大きな宅地
地積規模の大きな宅地とは、近隣の土地と比較して面積が広すぎ、ひとつの区画としては使いにくい宅地を指します。一般的に考えて、数区画に分譲することになるため、その際に敷地内道路として潰れてしまう分などを考慮するのが趣旨となります。なお、路線価地域にある宅地は、普通商業・併用住宅地区および普通住宅地区にあるものに限定されます。
面積の広さは、首都圏・近畿圏・中部圏では面積が500m2,これら以外の地域では1,000m2以上です。これらのうち以下の場合は地積規模の大きな宅地には入りません。
(1) 市街化調整区域(都市計画法第34条第10号または第11号の規定に基づき宅地分譲に係る同法第4条第12項に規定する開発行為を行える区域を除く)に所在する宅地
(2) 都市計画法の用途地域が工業専用地域に指定されている地域に所在する宅地
(3) 指定容積率が400パーセント(東京都の特別区においては300パーセント)以上の地域に所在する宅地
(4) 財産評価基本通達22-2に定める大規模工場用地
建物の相続税評価額を減らす
建物の相続税評価額は基本的に固定資産税評価額ですが、以下の方法で減額が可能です。
- 賃貸に出す
- 集合住宅の空室を減らす
- リフォームする
賃貸に出す
他人に貸す、ということは持ち主が自由に使えない、すなわち用途が限られることを意味しますので、評価額は下がります(土地に関しても基本的な考え方は同じです)。家を賃貸に出す場合、相続税評価額は以下の計算式で算出します。
【固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)】
集合住宅の空室を減らす
アパート・マンションの場合、以下の計算式で算出します。
【固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)】
空室が減り賃貸割合が100%に近づくほど評価額が低くなり、建物の相続税評価額を下げられます(家一軒を丸ごと貸せば賃貸割合は100%です)。ただし、賃貸割合は相続が開始した時点で判断されますので、いざ相続が始まってから慌てて入居者を増やしても意味がありません。また、学生相手のアパートで年度替わりの時期に一時的に空室が多い場合などは、考慮されるケースもあります。
リフォームする
増改築を伴うリフォームをした場合は固定資産税評価額が改定されますが、そうでない場合は反映されませんので、自身で計算する必要があります。
相続税評価額=【リフォームする前の固定資産税評価額+リフォーム費用】
これだけ見ると、相続税は上がってしまうことになります。しかし、ここで言う「リフォーム費用」は、「状況の類似した付近の家屋の固定資産税評価額を基として(国税庁HPより引用)」算出する建前ですが、実際には以下の計算式で求めることが認められています。
【(リフォーム費用−償却費相当額)×70%】
償却費相当額とは、「リフォーム費用×90%×耐用年数÷経過年数(端数は1年)」です(耐用年数は「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」に準じます)。つまり、現金で相続するよりも、リフォームに使ってしまった方が節税になるということです。
国税庁「増改築等に係る家屋の状況に応じた固定資産税評価額が付されていない家屋の評価」
小規模宅地等の特例は大きく節税できる
相続税評価額を大きく減額できる制度として「小規模宅地等の特例」があります。被相続人、つまり亡くなった方と生計を一にしていた親族に適用されます。この特例を使うと、相続した土地の相続税評価額を最大で80%まで減額できます。ただし、こちらは土地についての特例なので、建物自体には適用になりません。
土地の相続税評価額が4,000万円の場合、条件によっては800万円にまで引き下げることも可能です。その意味でも、土地を相続する方はぜひ活用したい特例です。
この特例は、土地を相続したことで、逆にその土地を手放さざるをえなくなる事態を防ぐためにあります。一般的に土地は高額で、相続税も多額になりがちです。
相続税は原則的に現金一括払いです。そのため、土地を売却して現金を用意する人もいます。しかし、相続する土地は家屋とセットが大半ですので、土地を売却することで住まいを失わないためにあるのが、この「小規模宅地等の特例」です。
国税庁「No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)」
「小規模宅地等の特例」は、被相続人が事業を行っていた土地と、住居として使用していた土地により適用の要件が異なります。詳しくは下記の記事を参考にしてください。
おわりに:相続税評価額は種類によって計算式や考え方が異なる
相続税を計算する時の基準となる相続税評価額は、財産の種類によって評価方法が異なります。相続人が亡くなった時、すべての財産を調べ出し、それぞれの評価方法で相続税評価額を算出していかなければなりません。この作業には相応の労力と時間がかかることが予想されますが、相続税の申告期限(被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内)に間に合うよう、計画的に進めていくことが大切です。なお申告期限を過ぎるとペナルティーが発生するため注意が必要です。
相続税評価額について不安や疑問がある場合は、専門知識の豊富な税理士にご相談することをおすすめします。評価方法について丁寧にサポートしてくれるのはもちろん「小規模宅地等の特例」など、相続税評価額を抑えるためのさまざまなアドバイスも受けることができます。
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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表