相続税の申告期限と納付期限はいつまで?相続開始日についても解説
Tweet大切な家族の方が亡くなった時、その方が遺した財産の内容によっては相続人に相続税の支払い義務が生じることがあります。もし相続税を支払わなければならない場合は、税務署に申告をして、税金を納付しなければなりません。
相続税の申告と納付に関しては、期限がはっきりと定められています。それは「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」です。この期限を守らないと、ペナルティーとして附帯税(本来納めるべき税金のほかに課せられる税金の総称)が課せられることがあります。ただし、その期限は絶対ではなく、正当な理由があれば延長を認められることもあります。
この記事では相続税の申告期限と納付期限について解説いたします。
目次
相続税の申告期限・納付期限はいつまで?
相続税には「申告期限」と「納付期限」があります。「申告」とは、申告書と申告内容に関するさまざまな書類を取りそろえて国に納めるべき税額を報告することを指します。「納付」は、申告した内容に沿って税額を支払うことです。相続税の場合、原則として現金による一括払いとなっています。
それぞれの期限ですが、両方とも「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」と定められています。例えば被相続人が1月6日に亡くなった場合、その年の11月6日(土日祝日の場合はその翌日)が申告・納付の期限となります。通常は申告を済ませた後に納付をするという流れになりますが、同時に行っても問題はありません。
なお「相続開始日」は被相続人が亡くなった日のことを指します。亡くなると同時に相続は発生するものの、相続税の申告・納付期限は、そのことを知った日の翌日から10か月以内となるわけです。「亡くなったことを知った日の翌日」としているのは、行方不明になっていたり災害に巻き込まれたりしたといった理由で死亡日を特定できないケースなどを考慮しています。
相続税の申告と納付までの流れをおさらい
相続が発生してから相続税の申告・納付期限までの流れは次のようになります。
①被相続人の死亡日
この日から相続が始まります。相続手続きにおいては「相続発生日・相続開始日」と表現されることが多いです。
②相続人・遺言の有無の確認
財産を相続する人を確認します。法定相続人(民法で定められた相続人)以外にも、遺言書などで財産を取得する人(受遺者)が指定されていることがありますので、遺言があるかどうかについても併せて確認します。
相続人の範囲や優先順位については、以下の記事でも解説しています。
③財産・債務の把握
被相続人が遺した財産および債務(借金など)を調べます。遺産相続では預貯金などのプラスの財産だけではなく、借金などのマイナスの財産も引き継ぐ必要があります。財産金額や内容によっては、相続税が不要になることもあります。
④相続放棄または限定承認の意思表示
相続を放棄する場合、または限定承認(マイナスの財産をプラスの財産の範囲内で相続すること)をする場合は3か月以内に家庭裁判所に申述します。
相続放棄の手続きについては、以下の記事もご覧ください。
⑤準確定申告
被相続人が亡くなった年(1月1日から亡くなった日まで)に所得があった場合は、相続人が代行して確定申告を行う必要があります。これを「準確定申告」といい、期限は4か月以内と定められています。
準確定申告の詳しい手続き方法などについては、下記の記事も併せてご覧ください。
⑥遺産分割協議
遺言書がない場合は、相続する財産の相続方法を相続人全員が話し合って決めていきます。法定相続人にはそれぞれ法定相続分という民法で定められた相続割合がありますので、通常はそれを参考に協議していきます。ただし、法定相続分はあくまでも分割の目安となりますので、相続人間で納得して合意できていれば、その通りでなくとも問題ありません。
遺産分割協議の進め方については、以下の記事もご覧ください。
⑦相続税の申告・納付
相続税の申告に必要な書類をすべてそろえて税務署に提出し、相続税を支払います。前述したように、申告・納付ともに期限は被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内です。
相続をする人たちのそれぞれの事情によって、この流れのとおりにスムーズに進む場合もあれば、そうならないケースもあるでしょう。いずれにしても申告・納付期限は原則として動かせませんので、その期限に間に合うように話し合いや手続きなどを進めるに越したことはありません。
申告・納付期限に遅れると罰金が課せられます
相続税の申告・納付を適正に行わなかった場合はペナルティーが課せられます。具体的には次の三つが挙げられます。
①無申告加算税
②延滞税
③重加算税
①無申告加算税
期限内に申告をしていないことに対するペナルティーとして課せられる税金です。納付すべき税額に対して50万円までは15%、50万円を超える部分は20%の税金を上乗せして払わなければなりません。
ただし、税務調査の通知前に自主申告をした場合の税率は5%で、さらに申告期限から1か月以内に申告を済ませれば無課税となります。
また、税務署から税務調査の通知があった後、調査が着手されるまでに申告をした場合は、50万円までは10%、50万円を超える部分は5%となります。
税務調査を受けた場合
- 納付すべき税額に対して50万円まで:【15%】
- 納付すべき税額に対して50万円を超える部分:【20%】
税務調査を受ける前
- 納付すべき税額に対して【5%(※申告期限から1か月以内であれば無課税)】
- (通知を受けていた場合)納付すべき税額に対して50万円まで:【10%】
- (通知を受けていた場合)納付すべき税額に対して50万円を超える部分:【15%】
なお、申告期限を過ぎると「小規模宅地等の特例」など有利な特例の適用も受けられなくなります。
②延滞税
延滞税は納税を延滞したことで課せられる税金です。支払いが遅れた分に対する利息と考えるとわかりやすいでしょう。
延滞税の税率は、納付期限の翌日から2か月以内は原則【年7.3%】、2か月を経過した日以降は原則【年14.6%】と定められています。ただし令和3(2021)年1月1日以後の期間では、納付期限の2か月以内の場合は「年7.3%」と「延滞税特例基準割合 + 1%」のいずれか低い割合、2か月を経過した日以降の場合は「年14.6%」と「延滞税特例基準割合 + 7.3%」のいずれか低い割合とされています。
「延滞税特例基準割合」については詳細の解説は控えますが、例えば令和4(2022)年1月1日から令和6(2024)年12月31日までは特例の割合として、納付期限の翌日から2か月以内は年2.4%、2か月を経過した日以後は年8.7%となっています。
- 納付期限の翌日から2か月以内:【原則 年7.3%(令和6年末までは2.4%)】
- 納付期限の翌日から2か月を経過した日以後は:【原則 年14.6%(令和6年末までは8.7%)】
③重加算税
重加算税は隠蔽や偽装など意図的に相続税の申告を操作したと判断された場合に課せられます。その税率は大変重く、申告・納付はしたものの、意図的に相続税を少なく申告していた場合は原則として35%。申告も納付もせず、意図的に相続税から逃れようとした場合は原則として40%が課せられます。
また、平成29(2017)年1月1日以降で、過去5年以内に相続税に関して無申告加算税や加算税が課せられたことがあれば、50%の税率となります。
- 申告・納付はしたが意図的に少なく申告した場合:【35%】
- 申告・納付をせずに意図的に逃れようとした場合:【40%】
- 過去5年以内に無申告加算税や加算税を課せられていた場合:【50%】
申告・納付期限に間に合わない時
相続税の申告・納付は「期限厳守」が原則ですが、なかにはさまざまな事情から「間に合わない」という方もいるはずです。そのような時の対策としては、いったん申告・納税をした後に払い過ぎた税金の還付を受けるといった方法があります。また、事情によっては期限が延長されることもあります。期限に間に合いそうにない時にどのような対策をとればいいのかを解説していきましょう。
なお、申告・納付の期限が土曜や日曜、あるいは祝日だった場合は、その前日ではなく、翌日が期限となります(土曜日は翌々日)。土日祝が期限になることはありません。
申告期限に間に合わない時の対策
申告期限に間に合わない原因の多くは遺産分割協議がまとまらないケースです。いわゆる「相続争い」ですが、それによって期限を過ぎてしまうと、先に述べたように無申告加算税などのペナルティーが科せられます。
こうした場合はいったん法定相続分で申告・納付をし、後から「更正の請求(税金の還付を受けるための手続き)」で納め過ぎた税金を取り戻すという方法があります。また、この際に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出しておくと、申告期限後3年以内に分割がまとまれば小規模宅地等の特例などの適用も受けられるようになります。
納付期限に間に合わない時の対策
納付期限に間に合わない原因としては「現金が足りない」ことがまず考えられます。相続税は原則として現金による一括払いなので、相続税が多額の場合は「払いたくても払えない」状況に陥ることもあるわけです。相続した財産の多くが不動産だった場合は現金化するにも時間がかかります。
こうした場合は「相続税の延納」という制度を使うことも一つの方法です。これは、納めるべき相続税を分割によって毎年少しずつ支払っていくというもので、利息として「利子税」も付きますが、支払いの負担は大きく軽減される制度といっていいでしょう。
相続税の延納を行う場合は税務署に申請をしますが、申請を認めてもらうには次の四つの要件を満たしている必要があります。
- 相続税の金額が10万円を超えること
- 金銭納付が困難な金額であること
- 申告期限までに延納申請書・担保提供関係書類・金銭納付を困難とする理由書を提出すること
- 延納税額に相当する担保を提供すること
また、延納でも納付が困難な場合は不動産や有価証券など現物で相続税を納める「物納」という方法もあります。
延長の申告ができるケース
相続税の申告期限を延長できるケースとしては次の五つが挙げられます。
①災害などにあった場合
新型コロナウイルス感染症の影響、地震や津波、豪雨、台風などの自然災害、火災やガス爆発など人為的災害により期限までに申告・納付ができない場合です。
②相続人の異動があった場合
認知や廃除などで相続人に異動が生じたことが発覚した場合です。相続人の間であらためて話し合いが必要なので延長の対象になります。
③遺留分侵害額の請求があった場合
「遺留分」とは法定相続人が最低限相続できる割合のことです。被相続人が遺言などで法定相続人以外に財産を遺したことなどで遺留分を侵害された人は、遺留分相当額に達するまでの金銭を請求することができますが、それが認められた場合です。
④遺贈に係わる遺言書が見つかった場合
後から遺言書が見つかった場合、計算のやり直しが必要になりますので延長が認められます。
⑤胎児が生まれた場合
民法では胎児は相続人と考えますが、相続税法では出生によって納税義務が生ずるとしています。相続開始時に胎児がいたとしても、そのほかの相続人の申告期限は相続の開始を知った日の翌日から10か月以内(胎児が出生した場合の胎児の申告期限は、法定代理人が出生を知った日の翌日から10か月以内)ですので、申告期限においても出生していない場合は本来の申告期限までに申告をしなければなりません。しかし、仮に胎児が出生したものとしたら、相続税の申告書を提出する義務がなくなる時は胎児が生まれてから2か月の範囲内で延長が可能です。
延長できる期間
上記の六つのケースのうち、②〜⑥に関してはいずれも延長期間は2か月です。①に関しては「その理由のやんだ日から2か月以内」となっています。この場合は「災害による申告、納付等の期限延長申請書」を提出します。国税庁のホームページからダウンロードできるので必要に応じて使用してください。
また、延長をした場合は申告書の提出日が納付期限となります。この点は注意が必要です。後日あらためて納付をするということになれば延滞税が課されてしまいます。
おわりに:相続税の申告期限と納付期限はどちらも10か月以内です
相続税の申告・納付には明確な期限が設定されています。「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」に申告・納付を済ませないと追徴課税(追加で払う税金)がプラスされるうえに有利な特例などが使えなくなります。
10か月という期間は長いようで短く、財産の把握や遺産分割協議、関連書類のとりまとめなどを行ううちにあっという間に期限が迫ってきます。ただし、期限の厳守が原則とはいうものの、正当な理由がある場合は延長が認められる可能性もあります。
相続税の申告・納付に関して不安や戸惑いを覚える方は専門知識が豊富な税理士に相談をするのも有効な手段です。申告・納付を期限に間に合うように適切な助言をしてくれるだけではなく、節税に関するさまざまなアドバイスにも期待ができます。安心して相続税の手続きを進めるためにも、ぜひ税理士への相談をご検討ください。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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