相続の知識

婿養子とは?婿入りとの違いや相続時のメリット・デメリットを解説

婿養子とは、妻の親との間に養子縁組を結び、養子になることです。この記事では、婿養子になるとどのような立場に置かれるのか、婿養子の概要、相続に関するメリット、注意点などについてわかりやすく解説します。婿養子を今後検討している人は、ぜひ参考にしてください。

婿養子とは

婿養子とは、妻の親と養子縁組を結び、養子になることです。妻の親と親子関係になるため、妻側の姓を名乗ることとなります。妻の親からすると、法律上では自分の子どもがもうひとり増えることになります。

婿養子を選ぶ主なケースは、以下の通りです。家業や名字を守らなければならないなど、特定の目的があることがほとんどです。

  • 妻の家系が営む家業を男性に継いでもらいたい場合
  • 妻がひとりっ子であり、跡取りとなる子どもが複数人必要な場合
  • 希少な名字を保存できるように、嫁入りを控えさせたい場合

婿入りとの違い

婿養子は「婿入り」とはまったく異なります。妻の名字を名乗るという点は共通していますが、いわゆる「婿入り」は妻の親と養子縁組を結びません。妻の親と親子関係にはないので、遺産相続上のメリットを享受することもありません。婿入りは嫁入りに比べて、結納時の結納金が2、3倍になる風習があると言われています。それだけ婿入りは「妻側の家の都合で行う」という見方が強いのかもしれません。

婿養子の相続におけるメリット

婿養子になると、相続の場面でも扱われ方が一般的な婚姻とは異なります。ここでは代表的なものを取り上げて解説します。

妻の親・実親の両方から相続ができる

婿養子になれば、妻側の親の遺産も相続ができます。妻の親と親子関係となるため、相続権が認められるからです。もちろん実親の相続権も保有しているため、両家の財産を相続できます。つまり妻の親と養子縁組を結ぶことで、結んでいない人と比べて相続を受ける機会が増えるということになります。婿入りの場合は、このような相続はできません。

相続分は実子と変わらない

婿養子は、実子と変わらず、同じ割合で遺産を相続できます。たとえば妻の親が亡くなり、妻に兄がひとりいた場合、自分(婿養子)・妻・妻の兄の3人で遺産を分け合うことになりますが、その法定相続分はそれぞれ3分の1ずつです。婿養子だからといって、相続時の立場が実子に劣ることはありません。

相続する割合は、相続人の関係性や人数などによって変わります。詳しくは以下の記事もご覧ください。

代襲相続や遺留分請求ができる

婿養子にも、「代襲相続」や「遺留分侵害額請求」が認められます。
代襲相続とは、本来なら相続人になるべき人が亡くなっていた場合、その子や孫などが代わりに遺産を相続することです。妻の祖父が亡くなった際にすでに妻の父が他界していたら、婿養子も祖父の遺産を相続できます。

また遺留分とは、法定相続人が最低限確保できる財産の割合のことです。もし遺言書に「婿養子には財産を一切相続させない」と記載があっても、法定相続分の2分の1の金額を遺留分として請求できます。

代襲相続については、以下の記事もご覧ください。

遺留分については、以下の記事もご覧ください。

婿養子の相続におけるデメリット

上記までご紹介した通り、婿養子にはさまざまな利点もありますが、反面注意すべきデメリットも存在します。ここでは主な注意点を取り上げます。

離婚しても解消されない

養子縁組は、妻と離婚したとしても解消されません。なぜなら、妻との婚姻関係と妻側の親の結んだ養子縁組は連動しないからです。離婚と養子縁組解消の手続きを、それぞれ行う必要があります。もし妻が亡くなった場合も、手続きを行わない限りは養子縁組の関係が続いていきます。
なお、養子縁組解消は養子と養親の合意で進めなければなりません。一方の主張のみで解消することは不可能なので、丁寧な話し合いが求められます。

負の財産を相続するリスクがある

婿養子として妻の親(養親)の遺産を相続する権利があるとお伝えしましたが、遺産というのはプラスの財産だけではありません。マイナスの財産、つまり負債を相続しなければならないこともあります。たとえば、亡くなった方が借金をしていたり、連帯保証人になっていたりなどの状況も考えられるでしょう。
場合によっては、プラスの財産よりもマイナスの財産のほうが、金額が大きいこともあります。その場合は、すべての相続権を放棄する「相続放棄」の選択を検討することも重要です。

ちなみに、養子縁組を結ぶことで、妻の両親への扶養義務も発生します。もちろん実の親への扶養義務も変わらず続いているため、医療費や生活費の補助が自分の生活を圧迫することも考えられます。

実子との間で問題が起きる可能性がある

婿養子になると、妻以外の実子(妻の兄弟姉妹)と問題が起こるリスクも高いです。婿養子によって相続人が増えると、1人あたりが相続できる金額が減ってしまうからです。
例えば妻の父親が亡くなった(母親はすでに他界)場合、相続割合は以下のようになります。

婿養子がいる場合

婿養子…総額の4分の1
妻(長女)…総額の4分の1
次女…総額の4分の1
三女…総額の4分の1

婿養子がいない場合

妻(長女)…総額の3分の1
次女…総額の3分の1
三女…総額の3分の1

遺産総額が3000万だったとすると、

  • 婿養子がいる場合…ひとりあたり750万円
  • 婿養子がいない場合…ひとりあたり1,000万円

婿養子が存在すると、ひとりあたりの相続額が250万円分も減額してしまいます。家庭で考えると長女の家は1,500万円相続するので2倍の差を感じてしまうことが考えられます。そうなると妻の妹たちが相続内容に納得できず、トラブルに発展するケースもあります。人間関係を円滑に進めるためにも、結婚や養子縁組を結ぶ前に、妻の兄弟姉妹とも話し合いをしておくことが重要です。

婿養子と相続税の関係

相続が発生した際に気掛かりなのは相続税です。婿養子の場合、相続税の扱いはどのようなものとなるのでしょうか。主な特徴を2つピックアップして解説します。

基礎控除額に影響する

婿養子の場合、実子と同じ法定相続人として基礎控除額の計算の人数に含まれます。相続税の対象となる「課税遺産総額」は【相続財産の額-基礎控除額】の計算で求められますが、その基礎控除額は【3,000万円+600万円×法定相続人の数】の計算で算出されます。養子を含め法定相続人が多いほど、基礎控除額が増えるという仕組みです。

また、生命保険の死亡保険金や死亡退職金に関する非課税限度額も、【500万円×法定相続人の数】で算出されます。よって、こちらも相続税の節約につながります。

ただし、法定相続人として認められる養子には人数の制限があることに注意しましょう。

  • 被相続人に実子がいる場合、養子のうち1人まで
  • 被相続人に実子がいない場合、養子のうち2人まで

相続税の計算方法については、以下の記事もご覧ください。

2割加算の対象にならない

婿養子は、相続税において2割加算の対象になりません。2割加算とは、亡くなった方の配偶者もしくは一親等以外の人が遺産を相続する場合、相続税が2割増しになることです。2割加算制度は「孫への贈与(相続の世代飛ばし)を行う際、税の公平性を守る」「相続人と血縁関係が近い者の生活を守る」といった目的のために制定されています。
例えば妻の父親が亡くなり、仮に婿入りした夫に遺言で財産を遺す(遺贈)場合は2割加算が強いられますが、婿養子の場合は妻の父と夫が親子関係を結んでおり一親等以内となるため、2割加算はされません。

2割加算については、以下の記事もご覧ください。

おわりに:婿養子は相続時のメリットが多いが、相続人間のトラブルにも注意

婿養子は、妻の親と養子縁組を結んで養子となります。相続税の節約など実子と同じ待遇を望めますが、親族間の細かな配慮が必要になる場面もあり注意が必要です。もし相続についてお悩みがある場合は、経験が豊富な税理士法人レガシィにご相談ください。

税理士法人レガシィは、50年以上もの歴史を持つ相続専門の税理士法人です。相続税申告実績数は累計1.5万件を超えており、キャリアある税理士が多数在籍しているため、婿養子の相続問題にも柔軟に対応します。婿養子を含む遺産分割や相続税に関してお悩みがありましたら、レガシィにぜひお気軽にご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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