相続の知識

自社株の相続対策を解説。評価の仕組みと生前の備え

会社オーナーにとって、自社株の相続は避けて通れない課題です。不動産や預貯金と比べると見落とされがちですが、業績の良い会社の非上場株式ほど評価額が高くなりやすく、相続税が想定外の規模になることがあります。

特に問題になるのは、市場で売買できないにもかかわらず課税評価額だけが膨らむケースです。納税資金をどう確保するか、後継者に株式をどう渡すかという問題は、相続が発生してから考えても手遅れになることがあります。

本記事では、自社株の相続に関わる基本的な仕組みから、生前にできる対策、相続発生後の手続きまでをまとめています。

【この記事でわかること】

  • 自社株(非上場株式)が相続税の対象になる仕組みと評価方法
  • 生前にできる評価額の引き下げ・株式の移転・納税資金の準備
  • 相続発生後の名義変更と申告・納税の手続き
  • 自社株買いがどのような相続対策になりうるか

【こんな方におすすめ

  • 自社株の相続税をどう備えればよいか知りたい会社オーナー
  • 事業承継と相続対策をあわせて検討している後継者・ご家族
  • 被相続人が会社を経営していた相続人で、株式の手続きに不安がある方

自社株を相続するとどうなるか

自社株(会社オーナーが保有する非上場株式)は、相続が発生すると預貯金や不動産と同じく相続財産に含まれます。この章では、相続税がどのように課されるか、評価額の決まり方、そして誰がいくら負担するかという基本的な仕組みを整理します。

  • 自社株も相続税の課税対象になること
  • 評価方法は会社の規模や株主の立場によって異なること
  • 株式を集中して取得した後継者ほど税負担が重くなりやすいこと

自社株も相続税の課税対象になる

自社株には、証券取引所に上場している株式と、上場していない非上場株式があります。本記事で扱うのは主に後者の非上場株式です。取引相場がないため、相続税の評価額の算定や納税資金の確保が問題になりやすいのが特徴です。

被相続人が会社オーナーの場合、自社株が相続財産全体に占める割合は大きくなりがちです。
また、業績が好調で純資産が厚い会社ほど評価額が高くなる傾向があり、相続税が多額になることがあります。自社株の相続を考える際は、まずこの前提を押さえておくことが重要です。

自社株の相続税評価額の決まり方

取引相場のない株式(非上場株式)の評価方法は、財産評価基本通達に基づき、株式を取得した株主の立場によって大きく二つに分かれます。

同族株主が取得する場合は、原則的評価方式が適用されます。会社の規模(総資産価額・従業員数・取引金額)に応じて大会社・中会社・小会社に区分され、それぞれ次の方法で評価します。

  • 大会社:類似業種比準方式(類似業種の株価をもとに、配当・利益・純資産の3要素で比準)
  • 小会社:純資産価額方式(総資産から負債等を控除した残りで評価)
  • 中会社:上記2つの方式を組み合わせた併用方式

これに対し、同族株主以外の株主が取得する場合は、特例的な評価方式である配当還元方式が用いられます。1株当たり年間配当金額を10%の利率で元本換算する方法で、一般的に原則的評価方式より低い評価額になります。

業績や純資産が大きい会社ほど評価額が高くなりやすいため、後継者が同族株主として株式を集中取得する場合、相続税負担への影響が大きくなります。評価の詳細は、関連記事もあわせてご参照ください。

相続税は誰がいくら負担するのか

相続税は、自社株を取得した相続人が負担します。具体的には、相続財産全体に対して算出された相続税の総額を、各相続人が取得した財産の割合に応じて按分する仕組みです。

事業承継の場面では、後継者が自社株を集中して取得するケースが多くなります。その場合、後継者の取得財産に占める自社株の割合が大きくなり、相続税の負担も相応に重くなります。株式の集中取得と税負担の重さはトレードオフの関係にあるため、生前にどのような対策を講じておくかが重要になります。

生前にしておきたい自社株の相続対策

自社株の相続対策は、現役のうちに手を打っておくことが重要です。ここでは、相続される側であるオーナー(現経営者)が生前にできる対策を三つ整理します。

  • 評価額そのものを下げる
  • 後継者へ計画的に株式を移転して課税の機会を分散する
  • 納税資金をあらかじめ準備して相続発生後の資金不足を防ぐ

自社株の評価額を引き下げる

生前に自社株の評価額を引き下げておくことで、相続時の課税のベースを小さくできます。代表的な考え方を以下に示します。

  • 役員退職金の支給:退職金を支給することで会社の利益や純資産が圧縮され、評価額の引き下げにつながります。特に純資産価額方式や類似業種比準方式の比準要素に影響します。
  • 資産構成の見直し:株式等保有特定会社や土地保有特定会社に該当すると純資産価額方式が強制適用されるため、資産バランスを意識した財産構成の見直しが有効な場合があります。

ただし、手法によって効果の大きさや適用できる条件が異なり、税務上の留意点もあります。効果の見通しや実施可否については、税理士など専門家と検討することをおすすめします。

後継者へ計画的に株式を移す

生前に後継者へ自社株を計画的に移転することで、相続発生時の課税対象財産を減らすことができます。主な方法は次のとおりです。

  • 暦年贈与:毎年110万円の基礎控除の範囲内で贈与を繰り返し、株式を少しずつ移転します。早くから始めるほど累積の移転額が大きくなります。ただし相続開始前の一定期間内(令和6年1月1日以後の贈与は段階的に延長)の贈与は相続財産に加算される点に留意が必要です。
  • 相続時精算課税:一定の要件のもと、累計2,500万円まで贈与税を非課税で株式を移転できます。ただし、贈与時に精算課税を選択すると以降の暦年課税への切り替えができないため、慎重な判断が必要です。
  • 法人版事業承継税制:非上場株式等についての相続税・贈与税の納税猶予及び免除の制度です。特例措置は平成30年1月1日から令和9年12月31日までの相続・贈与に適用されます。要件を満たした場合に相続税の全額猶予・免除が受けられる可能性があり、事業承継を本格的に検討するオーナーにとって有力な選択肢です。特例承継計画の提出期限があるため、早めの着手が求められます。

いずれの方法も、選択肢の多さとメリットは早く動くほど大きくなるため、まずは自社の状況を確認し、それに合った移転計画を検討しましょう。

納税資金をあらかじめ準備する

相続税の納税は原則として現金一括払いです。自社株の評価額が高い場合、後継者が多額の現金を用意しなければならないケースがあります。生前に納税資金を準備しておくための主な方法を以下に挙げます。

  • 生命保険の活用:被相続人(オーナー)を被保険者、後継者を受取人とする生命保険に加入することで、相続発生時に現金を受け取れる仕組みをつくります。生命保険の死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税枠もあります。
  • 配当・役員報酬による資金蓄積:在職中から後継者の配当や役員報酬を通じて、計画的に手元資金を積み上げる方法です。
  • 自社株の一部を会社に買い取らせる:相続後に発行会社へ株式を売却する方法も選択肢のひとつです。ただし課税上の論点があるため、後述のFAQも参照してください。

納税資金が不足する場合の具体的な対処(延納・物納など)については、関連記事でも詳しく扱っています。

自社株を相続したあとの手続き

相続が発生した後、自社株を取得した相続人はいくつかの手続きを行う必要があります。ここからは、相続人として対応が必要な二つの手続きを説明します。

  • 発行会社への名義書換:議決権の行使や配当受領のために必要
  • 相続税の申告・納税:相続開始を知った日の翌日から10か月以内に完了する必要あり

株主名簿の名義を書き換える

非上場株式の名義変更は、証券会社が代行する上場株式と異なり、発行会社に直接株主名簿の書換(名義書換)を請求して行います。

手続きに必要な書類の例として、次のものが挙げられます。

  • 被相続人の出生から死亡までの戸籍一式
  • 遺産分割協議書または遺言書
  • 相続人全員の印鑑証明書
  • 株式の保有を証明する書類(株券がある場合は原本)

名義変更を放置すると、議決権の行使や配当の受領ができないリスクがあります。特に後継者が経営を引き継いでいる場合、株主としての権利が宙に浮いた状態は会社運営上も支障をきたすため、早期に手続きを進めることが望まれます。手続きの詳細は、関連記事もあわせてご参照ください。

10か月以内に相続税を申告・納税する

相続税の申告と納税の期限は、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内です。たとえば1月6日に被相続人が亡くなった場合、申告・納税の期限は同年11月6日になります。

自社株を含む相続では、この10か月が慌ただしくなりがちです。非上場株式の評価は専門的な作業が伴い、計算に時間がかかります。加えて、評価額が確定してから納税資金を準備しようとしても、間に合わないケースがあります。

期限を過ぎると加算税や延滞税が発生します。相続が発生したら速やかに税理士へ相談し、評価作業と資金準備を並行して進めることが重要です。

自社株の相続に関するよくある質問

自社株の相続について多く寄せられる疑問を二つ取り上げます。

自社株の相続税はいくらくらいかかりますか

自社株にかかる相続税の額は、一概には答えられません。相続税額は次の三つの要素によって決まります。

  • 自社株の評価額(会社の規模・業績・純資産によって異なる)
  • 相続財産全体の規模(不動産・預貯金・債務等を含めた総額)
  • 相続人の構成(法定相続人の数が多いほど基礎控除が大きくなる)

評価額の算定が出発点になりますが、業績の良い会社ほど評価額が高くなりやすく、相続税が多額になる傾向があります。具体的な金額は、税理士が実際に評価額を算定したうえで試算する必要があります。

自社株買いは相続対策になりますか

自社株買い(会社が自社の株式を買い取ること)は、相続した非上場株式の換金手段として活用される場合があります。相続人が株式を発行会社に譲渡することで現金化でき、相続税の納税資金を確保する手段のひとつになります。

ただし、通常は会社から金銭を受け取る際、資本金等の額を超える部分について「みなし配当課税」が生じます(所得税法第25条)。相続後に非上場株式を発行会社に譲渡した場合、一定の要件を満たせばこのみなし配当課税を回避する特例が設けられています。

具体的には、相続等によって非上場株式を取得し、かつ納付すべき相続税額がある個人が、相続開始日の翌日から申告書の提出期限の翌日以後3年を経過する日までの間に発行会社に譲渡した場合、みなし配当課税を行わず、全額を譲渡所得として計算する特例があります。

自社株の相続は生前対策で備える

自社株の相続は、評価額の仕組みを知り、生前から計画的に備えることが出発点です。評価額の引き下げ・後継者への計画的な株式移転・納税資金の準備という三つの柱に早めに着手すればするほど選択肢が広がります。相続が発生した後は、名義書換と相続税の申告・納税を10か月以内という期限を念頭に進める必要があります。

税理士法人レガシィは、相続・事業承継を専門とした50年超の実績を持ち、累計1.5万件超の相続手続きをサポートしてきました。自社株の評価や事業承継対策について、具体的にご相談されたい方は、ぜひ事業承継・M&Aコンサルティングサービスをご活用ください。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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