相続の知識

黄金株とは?普通株式との違いや日本企業の事例

黄金株は、株主総会の重要決議に対して拒否権を発動できる特殊な種類株式です。1株保有しているだけでM&Aや役員選任といった重要事項を否決できる強力な権限を持ち、後継者への株式譲渡を進めつつも経営権の最終的なコントロールを残したい中小企業の経営者から注目されています。

本記事では、黄金株の仕組みや普通株式との違い、日本企業での導入事例、発行手続きや注意点までを解説します。事業承継における活用の可否を判断する材料としてお役立てください。

【この記事でわかること】

  • 黄金株の基本的な仕組みと拒否権の対象
  • 普通株式や活用される場面との違い
  • 日本企業における導入事例
  • 発行手続きと注意点

【こんな方におすすめ】

  • 後継者への経営権移譲を検討している中小企業の経営者の方
  • 事業承継対策の選択肢を比較したい方
  • 敵対的買収への備えとして黄金株を検討している方

黄金株とは

黄金株は、種類株式の一種として会社法に位置づけられている特殊な株式です。まずは基本的な仕組みや拒否権の対象、関連する用語との関係を整理しましょう。

  • 黄金株の基本的な仕組み
  • 拒否権を設定できる項目
  • ゴールデンシェアとの関係

黄金株の基本的な仕組み

黄金株は一般的に「拒否権付種類株式」といい、会社法第108条第1項第8号に規定された種類株式の一つです。株主総会または取締役会の決議に対して拒否権を行使できる権限を持ち、1株でも保有していれば重要な決議を否決できる点が特徴です。
通常の株式では1株1議決権の原則に従って多数決で意思決定が行われますが、黄金株の保有者は、種類株主総会で承認しないことにより、定款で定めた決議事項の成立を阻止できます。
発行株式数が1株のみであっても効力を発揮するため、特定の人物や機関に経営などの一定の重要事項について拒否権を残したい場面で活用されています。

黄金株が会社法上の制度として整理されたのは、平成17年(2005年)の会社法制定時です。それ以前から類似の取り扱いは存在していましたが、種類株式の枠組みが整備されたことで、会社が用途に応じて柔軟に株式を設計できるようになりました。買収防衛や事業承継など、特定の目的を持って活用されるケースが増えてきています。

拒否権を設定できる項目

黄金株の拒否権の対象は、株主総会または取締役会の決議事項の中から、定款で具体的に設定できます。代表的な対象としては、取締役の選任・解任や、代表取締役の選定・解職、合併・事業譲渡などの組織再編、新株発行、定款変更といった項目が挙げられます。会社の根幹に関わる意思決定について、保有者の同意を得る形を制度として組み込めます。

具体的な設計例としては、後継者の暴走を防ぐために「重要な資産の売却」「多額の借入」を対象に加える、敵対的買収を想定して「合併・株式交換」を中心に据える、といった使い分けが可能です。承継後の運営方針に応じて、必要な範囲だけ拒否権を設定する形が現実的です。

拒否権の範囲が広すぎると経営の機動性が損なわれる恐れがあり、逆に狭すぎると黄金株の意義が薄れます。会社の実情や承継後の運営方針を踏まえ、どこまで拒否権を及ぼすかを慎重に設計する必要があります。設計には会社法と税務の両面からの検討が欠かせないため、専門家の助言を受けながら進める形が望まれます。

ゴールデンシェアとの関係

「ゴールデンシェア(golden share)」は黄金株の英語名であり、両者は実質的に同じ意味です。海外、特にヨーロッパでは、民営化された旧国営企業に対して政府が保有する株式を指す場面でよく使われています。エネルギーや通信といった公共性の高い分野で、外国資本による買収を防ぐ目的で発行されてきた歴史があります。
日本でゴールデンシェアという呼称はあまり浸透しておらず、「黄金株」の名称が一般的です。活用シーンも欧州とは異なり、日本では、主に事業承継や買収防衛策の一つとして活用が検討されています。

黄金株と普通株式の違い

黄金株は会社法上の種類株式に分類され、議決権の内容や流通性の面で普通株式と異なります。代表的な3つの違いを整理しましょう。

  • 議決権の内容が異なる
  • 1株でも経営に大きな影響を与えられる
  • 一般的に譲渡制限が設けられる

議決権の内容が異なる

普通株式は1株1議決権の原則で多数決により意思決定が進みますが、黄金株は重要事項について「種類株主総会」での決議が必要になります。種類株主総会とは、その種類の株式を持つ株主だけで構成される総会で、黄金株が1株のみ発行されている場合は保有者1人の意思で結論が決まります。
つまり、普通株式の多数決とは別の決議が制度的に必要になるため、黄金株の保有者は事実上の拒否権を持ちます。これが、1株でも経営の根幹に関わる判断を覆せる仕組みの根拠です。

1株でも経営に大きな影響を与えられる

普通株式では1株のみの保有では会社運営に影響を及ぼせませんが、黄金株は1株であっても株主総会の重要決議を否決する力があります。発行株数を増やす意味は薄く、実務上は1株のみ発行されるケースが大半です。
複数株を発行すると拒否権が分散し、意思決定が複雑化する恐れがあります。経営の最終決定権を1人に集約する目的で発行する黄金株では、1株という発行数が制度の趣旨に合致します。

一般的に譲渡制限が設けられる

黄金株は強力な権限を持つ株式であるため、第三者に渡ることを防ぐ目的で譲渡制限を付して発行される形が一般的です。譲渡制限が設けられていないと、敵対的な第三者が黄金株を取得して経営の混乱を招く恐れがあります。
普通株式と比べて流動性は低く、保有者を厳格に管理する必要があります。発行する側は、誰に黄金株を持たせるか、保有者が死亡や認知症で判断能力を失った場合にどう対応するかまでを含めて、運用ルールを定めておくべきです。

黄金株が活用される場面

黄金株は、経営権の保持や買収防衛など、さまざまな場面で活用されています。代表的な3つの場面を整理します。

  • 事業承継における経営権の段階的な移譲
  • 敵対的買収に対する防衛策
  • 公共性の高い事業の保護

事業承継における経営権の段階的な移譲

中小企業の事業承継において、現経営者が株式の大部分を後継者に譲りつつも、自身は黄金株を1株だけ保有することで重要決議の拒否権を維持できます。後継者に経営の主導権を渡しながら、最終的なコントロールを手元に残せる仕組みです。
一気に権限を移譲することに心理的な抵抗を感じる経営者にとって、段階的な事業承継を可能にする手段として有効です。後継者の経営判断を見守りつつ、会社の将来を左右する場面では関与できる体制を整えられるため、円滑な世代交代を後押しします。

実務上の運用例としては、現経営者が代表権を後継者に譲った後も、3〜5年程度は黄金株を保有して経営をチェックし、後継者が安定的に経営を担えると判断した段階で黄金株を会社へ譲渡する形が見られます。承継のペースに合わせて段階的に権限を渡せる点が、合併や買収では得られない柔軟性です。

敵対的買収に対する防衛策

信頼できる第三者に黄金株を発行しておくと、敵対的な買収提案を受けた際に拒否権を行使して重要決議を否決できます。買収者が株式の過半数を取得しても、黄金株の保有者が反対すれば合併や事業譲渡を阻止できる仕組みです。
買収防衛策としての黄金株は、平時から備えとして導入されるケースが多くなっています。導入後に効果を発揮させるには、保有者の選定や拒否権の対象範囲の設計を、自社の事業特性に応じて適切に行う必要があります。

公共性の高い事業の保護

エネルギーや基幹産業など公共性の高い分野では、政府が黄金株を保有することで、海外企業による買収を防ぐ仕組みとして使われる場合があります。国家として守るべき重要事業に対する一種のセーフティネットといえます。
日本国内では、後述するINPEXが代表例です。エネルギー安全保障の観点から、経済産業大臣が黄金株を保有する仕組みが整えられています。

日本企業における黄金株の導入事例

日本の上場企業で黄金株を発行している企業として知られているのが、株式会社INPEX(旧:国際石油開発帝石)です。エネルギー安全保障の観点から、経済産業大臣が黄金株を1株保有する仕組みになっています。
同社が発行している黄金株は「甲種類株式」と呼ばれ、重要な経営判断について経済産業大臣に拒否権が認められています。具体的には、定款変更や合併、重要な資産の処分など、エネルギー政策上の影響が大きい事項について拒否権を行使できる仕組みです。
公共性の高い事業の保護背景には、INPEXが国内の石油・天然ガスの安定供給を担う企業として、外資による買収を防ぐ必要がある事情があります。資源開発という公共性の高い事業を担うため、株主平等の原則の例外として黄金株の保有が認められている形です。

なお、日本の上場企業において、INPEXのような黄金株の導入は極めて例外的です。背景には、東京証券取引所のルールが影響しています。黄金株が「株主の権利を不当に制限する」と判断された場合、上場廃止の対象となる可能性があります。さらに、株主平等の原則に反するという批判も根強く、上場企業にとっては導入のハードルが高い制度といえます。
これに対し、非上場の中小企業では上場規則による制約を受けないため、事業承継の手段として活用される事例が見られます。後継者への株式譲渡時に現経営者が黄金株を1株保有することで、経営の最終決定権を残す形が代表的な活用例です。中小企業ならではの柔軟な使い方ができる点が、上場企業との違いといえます。

黄金株の発行方法と手続きの流れ

黄金株を発行するには会社法上の手続きが必要です。新規発行と既存株式の変更でそれぞれ流れが異なります。

  • 新規に黄金株を発行する場合
  • 既存の普通株式を黄金株に変更する場合

新規に黄金株を発行する場合

黄金株を新たに発行する場合は、株主総会の特別決議で定款を変更し、黄金株の内容と発行可能株式総数を定めるところから始まります。特別決議には、議決権を行使できる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
定款変更が完了したら、募集事項を決定し、引受人への通知と申込、割当と払込を経て、最終的に法務局へ変更登記を行う流れです。登記には、効力発生日から2週間以内の対応が求められます。

発行と同じタイミングで、譲渡制限と取得条項を設定しておくと、運用上のリスクを抑えられます。譲渡制限は黄金株が第三者に渡るのを防ぐ役割を持ち、取得条項は保有者の死亡や成年後見開始など一定の事由が生じた際に会社が黄金株を取り戻せる仕組みです。発行段階で運用ルールまで固めておくと、後々のトラブルを防げます。

既存の普通株式を黄金株に変更する場合

すでに発行されている普通株式を黄金株に変更する場合は、株主総会の特別決議による定款変更、対象株主と会社の合意書の締結、ほかの株主の同意取得、法務局への変更登記という流れになります。新規発行と比べて、関係者の合意形成に手間がかかる点が異なります。
対象株主の同意だけでは足りず、ほかの株主にも影響が及ぶ変更となるため、全株主からの理解を得ることが前提です。実務上は、株主構成がシンプルな段階で先に黄金株を発行しておく形が運用しやすいといえます。

黄金株の注意点

黄金株は強力な権限を持つ反面、運用には慎重さが求められます。導入前に押さえておきたい3つの注意点を整理します。

  • 拒否権の乱用や保有者の判断能力低下のリスクがある
  • 黄金株の存在が登記により公開される
  • 事業承継税制の活用に支障が出る可能性がある

拒否権の乱用や保有者の判断能力低下のリスクがある

黄金株の保有者が拒否権を不合理に乱用すると、会社の重要な意思決定が滞り、経営に支障をきたす恐れがあります。後継者と現経営者の方針が対立した場合、黄金株が経営判断のブレーキとして働いて、新規事業の展開や組織改革が進まなくなる可能性も考えられます。
また、保有者が認知症などで正常な判断能力を失った場合にも、決議が進まなくなる可能性が出てきます。本人に拒否権を行使する意思があるかどうかを確認できないため、重要事項の決議が事実上ストップしてしまう構造です。

こうした事態への備えとして、取得条項を付けておく方法が有効です。たとえば「保有者が成年後見開始の審判を受けた場合」「保有者の死亡時」などを取得事由として定めておけば、会社が黄金株を取り戻して経営の停滞を防げます。発行時点で運用上のリスクを想定し、必要な条項を盛り込んでおくとよいでしょう。

黄金株の存在が登記により公開される

黄金株を発行すると、会社の登記情報にその内容が記載されるため、第三者が容易に存在を確認できます。取引先や金融機関、投資家など、誰でも登記簿を閲覧すれば黄金株の発行を把握できる構造です。
将来的に資金調達やIPOを検討する場面では、黄金株の存在がマイナスに働く可能性があります。投資家は経営の自由度や少数株主の権利保護を重視する傾向があり、黄金株があると経営判断が一部の保有者に握られているとみなされやすいためです。長期的な資本政策まで見据えたうえで、発行の可否を判断する形が望まれます。

事業承継税制の活用に支障が出る可能性がある

中小企業経営承継円滑化法に基づく事業承継税制は、一定の要件を満たすことで非上場株式の贈与税や相続税の納税が猶予される制度です。事業承継対策として広く活用されていますが、黄金株を発行している場合は、その活用に制約が生じる可能性があります。
制度上、後継者以外の者が黄金株を保有していると、事業承継税制の適用が認められないケースがあります。現経営者が黄金株を保有したまま株式を後継者に贈与する形では、要件を満たさない可能性が出てくるため、注意が必要です。
具体的な要件や除外条件は制度改正によって変動するため、黄金株と事業承継税制を組み合わせて検討する場合は、税理士などの専門家へ事前に確認することをおすすめします。

黄金株に関するよくある質問

黄金株について検討を始める際によく寄せられる疑問について整理します。

  • Q:黄金株を1株だけ発行することに意味はありますか
  • Q:黄金株の相続税評価はどうなりますか

黄金株を1株だけ発行することに意味はありますか

1株でも種類株主総会の決議を通じて重要事項を否決できるため、1株のみの発行で十分に機能します。むしろ、複数株を発行すると拒否権が分散して意思決定が複雑化するため、実務上は1株のみ発行されるケースが一般的です。
現経営者や信頼できる第三者に黄金株を集中保有させる運用が多く、経営の最終決定権を1人に集約することで、制度の趣旨と整合性を取りやすくなります。

黄金株の相続税評価はどうなりますか

黄金株の相続税評価は、拒否権の有無を考慮せず普通株式と同様に評価される取り扱いです。1株だけだとしても、強力な拒否権を持つから評価額が高くなる、ということはありません。
ただし、相続を通じて意図しない第三者に黄金株が渡ってしまうリスクには十分な注意が必要です。発行時に取得条項を設定しておけば、相続が発生した際に会社が黄金株を取り戻せる仕組みを作れます。事業承継の文脈で黄金株を活用する場合は、相続発生時の取扱いまでセットで設計しておく形が安心です。

黄金株は事業承継の課題に応える選択肢のひとつ

黄金株は、1株でも重要決議を否決できる権限を持つ種類株式として、事業承継や買収防衛の場面で活用されています。後継者に株式を譲りつつも経営権の最終的なコントロールを残せる点で、世代交代を進めたい中小企業の経営者にとって有力な選択肢といえます。
ただし、発行時の設計や運用ルールの整備が不十分だと、拒否権の乱用や事業承継税制との不整合などの問題を招く恐れがあります。黄金株の活用は、株式設計と税務の両面からの検討が欠かせません。

税理士法人レガシィは、相続専門50年・累計1.5万件超の実績を持つ専門家集団です。事業承継・M&Aコンサルティングサービスでは、黄金株の活用検討から発行手続き、事業承継税制との組み合わせまでを一貫してサポートしています。判断材料としてお役立てください。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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