相続の知識

相続した株式の名義変更|手続き方法や必要書類、注意点、放置するリスクを解説

相続により株式を取得した場合、その名義を相続人に変更する手続きが必要です。名義変更を怠ると、相続税の申告に関するペナルティや、最悪の場合には株式の権利を失う危険性もあります。本記事では、相続した株式の名義変更に関する手続き方法や必要書類、名義変更を放置することによるリスクについても詳しく解説します。

株式を相続した際の名義変更手続き

株式には上場株式と非上場株式があります。株式を相続する際には、それぞれ異なる名義変更手続きが必要です。

上場株式の場合は、証券会社を通じてスムーズに手続きが行われます。一方、非上場株式の場合は、株式の発行元である企業に直接手続きを依頼します。

名義変更をスムーズに進めるために、事前に各手続きの詳細を理解し、必要書類をミスなく準備しましょう。

上場株式の場合

上場株式を相続する際の名義変更手続きは、証券会社を通じて行われます。対応は証券会社によって異なりますので、事前に問い合わせておけば安心です。

手続き

上場株式の名義変更手続きを進める際には、まず証券会社に連絡し、手続きの詳細を確認することから始めます。相続人がすでに同じ証券会社に自分名義の証券口座を持っている場合、被相続人の株式をその口座に移管する形で進めます。口座自体の名義変更は行われません。証券口座を持っていない場合は、新たに口座を開く必要があります。

手続きを行う証券会社から求められる書類を用意・提出するとともに、所定の手数料を納めます。
証券会社ごとに手続きの流れや提出する書類が異なります。書類の提出方法や手続きにかかる期間なども証券会社によってまちまちです。後々不安にならないためにも事前確認は怠らないようにしましょう。

必要書類

上場株式の名義変更に必要な書類は、証券会社によって若干異なることがありますが、一般的には以下の書類が求められます。

書類の種類

  • 株式名義書換請求書
  • 証券会社ごとに定められている取引口座引継ぎの念書
  • 相続人の戸籍謄本や遺産分割協議書
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続するもの)
  • 証券会社ごとに定められている相続人全員の同意書
  • 相続人全員の印鑑証明書

上記は、相続人が正当な権利者であることを証明するために必要な書類です。また、証券会社によっては追加の書類や特別な手続きが必要な場合があります。事前に担当者にしっかり確認し、書類を漏れなく準備しておくと手続きがスムーズです。

非上場株式の場合

非上場株式を相続した場合の名義変更手続きは、上場株式とは異なり、株式の発行元である企業に対して直接申し出る必要があります。この手続きは、企業とのやり取りが中心となるため、相続した非上場の株式が複数あるなら、株式ごとに個別の対応が必要です。

手続き

非上場株式の名義変更手続きを進めるためには、まず株式を発行している企業に直接連絡を取ります。その際、企業が指定する手続きの詳細や必要書類を確認し、それに基づいて準備を進めます。手続きの流れは企業ごとに異なるため、企業が求める手順に従い、適切に対応しましょう。非上場株式は、企業の規模や株式の性質により、名義変更の手続きが複雑化することもありますので、慎重に進める必要があります。

必要書類

非上場株式の名義変更に必要な書類は、基本的には上場株式の場合と同様で以下の通りです。

書類の種類

  • 株式名義書換請求書
  • 証券会社ごとに定められている取引口座引継ぎの念書
  • 相続人の戸籍謄本や遺産分割協議書
  • 被相続人の戸籍謄本(出生から死亡まで連続するもの)
  • 証券会社ごとに定められている相続人全員の同意書
  • 相続人全員の印鑑証明書

企業によって追加の書類が求められることがあります。例えば、企業が独自に定めた同意書や確認書などがありますが、事前に企業側に詳細を確認し、それに従って書類を準備することが重要です。企業によっては、株主名簿の変更手続きが完了するまでに時間がかかる場合もあります。

相続で株式の名義変更をする際の注意点

株式の相続は名義変更をしてしまえば終わりといった簡単なものではありません。特に税務面でいくつかのポイントを理解しておく必要があります。

準確定申告の実施をはじめ、相続税においてはペナルティに関わる申告期限も設けられているため注意が必要です。これらを理解しておくことで、相続トラブルを避け、円滑に遺産分割を行えます。

準確定申告が必要な場合がある

被相続人が生前に株式の売買を頻繁に行っていた場合、相続手続きにおいて「準確定申告」が必要になるケースがあります。準確定申告とは、被相続人が生前に得た所得に対する所得税を、相続人が代わりに申告する手続きのことです。例えば、被相続人が株式の売買を通じて収入を得ていた場合、準確定申告を行わないと、申告漏れとして加算税や延滞税などを相続人が負担しなければなりません。

準確定申告は、被相続人の死亡から4か月以内に相続人全員で行う必要があります。また、複数の相続人がいる場合は全員の準確定申告が必要です。全相続人の連署・押印など、書類の作成だけでも時間がかかります。できあがった書類は被相続人が死亡時に住んでいた住所を管轄している税務署に提出します。ただし、被相続人の証券口座が「特定口座(源泉徴収あり)」で管理されていた場合、源泉徴収が自動で行われるため、準確定申告を行う必要はありません。

相続税が発生する可能性がある

株式の相続では、評価額によって相続税が発生する可能性があります。上場株式の場合、相続税の評価額算出に用いられる株価は、以下の4つです。

  • 相続開始日の終値
  • 相続開始月の終値の平均
  • 相続開始前月の終値の平均
  • 相続開始前々月の終値の平均

このうち、最も低い金額が適用され、「1株あたりの株価×保有株数」で評価額が決定します。このように、相続人にとってなるべく有利な金額が適用されるように設定されていますが、それでも相続税が発生する場合があります。

一方で、非上場株式の場合はさらに複雑です。非上場企業の株式評価は、その企業の規模(大会社、中会社、小会社)や、利益、純資産の状況に基づいて計算されるため、評価額が予想以上に高くなることもあり、相続税が大幅に増える可能性があります。特に、経営に関わる株式を相続する場合は、株式評価が企業経営に与える影響を考慮しながら進めることが求められます。

相続税の申告や納付が必要になった場合、税額の計算や納税資金の準備などに時間や労力を割く必要も出てきます。相続税を少しでも軽減し、費やしたコストを無駄にしないためにも、専門家のアドバイスを受けるのもおすすめです。

株式の相続税評価額計算方法については、下記関連記事で詳細に解説していますので、ぜひご覧ください。

相続税の申告期限は10か月以内と決まっている

株式を相続した際の名義変更には明確な期限が設けられていないものの、相続税の申告には厳格な期限が設けられています。

相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から数えて10か月以内です。この期限を過ぎると、延滞税や加算税が発生する可能性があり、相続人にとって余計な負担となります。そのため、株式を相続した時点で相続税の申告を視野に入れた計画的な名義変更の手続きを考えるのが一番です。

また、相続には財産だけでなく、借金などの負の遺産も含まれます。相続するかどうかの判断は、相続開始から3か月以内に行わなければなりません。この期間を過ぎると、相続放棄が認められなくなる恐れがあります。

また、全相続人で遺産の分割方法や割合について話し合う遺産分割協議が行われますが、遺産相続に関与する権利を持つ人や、その人数を早期に確定させることも重要です。遺産分割協議では相続人全員の合意が求められるため、場合によっては交渉や調整に時間がかかりスムーズに進まないことも考えられます。遺産分割協議を早期に開始し、余裕を持って対応することは、相続手続きを円滑に進めることにもつながります。

相続で取得した株式の名義変更を行わないリスク

相続により株式の名義変更を怠ると、さまざまなリスクが伴います。株主の権利を失うリスク等、面倒だからと後回しにすることで大きな損失を被ることもあり得ます。

相続税未払いのペナルティを受ける可能性がある

相続税の申告は、被相続人が亡くなった日から10か月以内に行わなければなりません。もし、この期限を過ぎてしまうと、無申告加算税や過少申告加算税、さらには延滞税といったペナルティが課される可能性があります。こうしたペナルティは、相続人にとって経済的な負担を大きくするだけでなく、申告漏れの責任を問われることにもなります。

後から知らない株式が発見された、少額すぎて自分には関係ないと思っていた、などといった悪意のない申告遅れだった場合、時効が成立するまでの期間は被相続人が亡くなった日から数えて5年10か月に及びます。もし故意に申告を怠った場合なら、期間が2年延長され、7年10か月経たなければ時効は認められません。さらに、時効が成立したとしても、今度は、次に説明する株式の権利自体を失うリスクも発生します。

権利自体を失う可能性がある

株式の名義変更を行わずに放置しておくと、最終的には株式の権利自体を失う可能性も生じます。
企業側から見て株主の所在が一定期間不明な状態が続くと、その株主は「所在不明株主」として扱われます。

所在不明株主とは、以下の要件を満たす株主のことです。

  • 継続5年間、株主に通知または催告が到達していない場合
  • 継続5年間、剰余金の配当を受領していない場合

株主の所在が不明のまま5年が継続経過すると、株式が競売に掛けられたり、企業が自社で株式を買い取ったりといった措置が取られる場合があります。さらに、近年問題化している事業継承の観点から、一定の要件を満たしたうえで、都道府県知事から認定を受けた上場会社等以外の中小企業者である株式会社であれば、5年を1年と短縮できる特例が令和3年8月2日に施行されました(所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例)。

中小企業経営承継円滑化法 申請マニュアル「会社法特例」 (所在不明株主の株式の競売及び売却に関する特例) |中小企業庁財務課

ただし、企業に買い取られた株式は、買い取られてから時効までの10年の間に買い取り代金の請求をすれば、該当の金額が払い戻されます。

所在不明株主の株式売却制度とは|一般社団法人 所在不明株主支援機構

また、事業継承が絡む場合には、企業が株式の売渡請求を行うこともあります。これらの手続きが進むと、名義変更をしていない株式の権利が失われ、相続人が保有するはずだった株式は消失します。

議決権を行使できない

名義変更が行われていない株式では、株主としての権利を主張することは難しくなります。名義が変更されていないと株主総会招集通知や議決権行使書類が届かず、議決権も行使するどころか、いつ株主総会が開かれたかも認識できません。企業の経営層の選任や定款の変更など、経営に関する重要な決定が株主総会でなされるため、議決権を行使できないことは、相続人にとって不利益となります。

配当金を受け取れない

名義変更を行わないことで、配当金を受け取れなくなるリスクもあります。名義変更をしていれば、相続手続きが完了するまでの間に発生した配当金は後から受け取れますが、名義変更を行わないと、配当金の支払い案内が届かず、未受領のまま放置されることになります。

未受領の配当金の受け取りには期限が設けられていますが、この期限は配当支払開始日から3~5年程度と、企業によってさまざまです。期限が過ぎると配当金を受け取る権利を失ってしまうため、配当金を確実に受け取るために名義変更を早急に行うことが大切です。

株式の相続でお困りの場合は専門家までご相談ください

相続した株式の名義変更は、スムーズに手続きを進めるために必要書類の準備や手続きの流れをしっかりと理解することが重要です。特に、相続税の申告期限や、名義変更を怠ると、相続税のペナルティや株式の権利を失うリスクが生じます。相続手続きに不安がある場合や、複雑なケースに直面している場合は、専門家に相談しながら、必要に応じたアドバイスを受けるのもおすすめです。

「税理士法人レガシィ」は、相続専門の税理士法人です。株式の相続手続きなど相続に際して直面する問題にしっかり対応いたします。相続の問題でお悩みなら、60年以上の歴史がある「税理士法人レガシィ」にぜひご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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