不動産の贈与税|計算方法や節税対策も解説
Tweet無償で財産を渡すことを「贈与」といいます。この場合、財産を渡す人のことを「贈与者」、受けとる人のことを「受贈者」と呼びます。贈与は親から子へ、祖父母から孫へ、配偶者から配偶者へと行われるのが一般的で、さらにその財産も現金であるケースが多いといえるでしょう。もちろん現金以外の財産も贈与することができます。たとえば不動産や有価証券、貴金属などがそうですし、車を買い与えることも贈与に含まれます。
個人から個人への贈与には「贈与税」がかかり、原則として贈与総額が年間で110万円を超えると受贈者に支払い義務が生じることになります。その意味では、不動産の贈与ではほとんどのケースで贈与税がかかると考えていいでしょう。
ただ、不動産の贈与には税負担の軽減につながる特例が設けられています。この記事ではそうした不動産の贈与に活用できる特例と贈与税の計算方法などについて解説いたします。
目次
贈与税がかかる条件
贈与できる財産には現金以外に不動産も含まれますが、その評価額が一定の額(原則として110万円)を超えた場合は贈与税がかかることになります。贈与税がかかる条件としては基本的にはそれだけです。 となると、なかにはこう考える人もいるはずです。
「贈与は無償で財産を渡すことだから、そこに金銭のやりとり(売買行為)があれば、贈与にはならず贈与税の支払い義務は生じないのでは?」
この考えは果たして認められるのでしょうか?
以下、不動産の贈与に贈与税がかかるケースについて見ていくことにしましょう。
基本は不動産の「贈与」を受けた際に発生
まず、不動産の贈与によって贈与税がかかる基本的なケースは、その不動産の評価額が「110万円超」の時です。贈与税の課税方式は「暦年課税」が原則で(後述します)、ここでは非課税枠として110万円が設定されています。つまり年間で110万円以下の贈与なら贈与税の支払い義務は生じません。
しかし不動産の場合は財産としての評価額が大きいこともあり、110万円の非課税枠を超えるケースが大半だと思われます。不動産の贈与には贈与税がかかってくると認識しておいたほうがいいでしょう。
「将来、マイホームを建てる時に」と親から土地をゆずり受けた場合などは、その評価額を算出し、110万円超であるとわかれば贈与税の申告手続きをしなければなりません。親が家を買い与えた場合でも同じです。
なお、不動産業者から「購入」をした場合は「譲渡」となり、当然のことながら贈与税がかかることはありません。譲渡は有償・無償を問わず権利をゆずり渡すことをいいますが、不動産においては売買行為を伴う場合に使うことが一般的です。贈与は無償で、譲渡は有償ということになります。
こんなケースは「贈与」とみなされる場合あり
「不動産を無償で受けとることで贈与税がかかるなら、有償でゆずってもらえば課税されないことになる」と考えるのは不自然なことではないでしょう。
その考えのもと、たとえば5,000万円の評価額の不動産を親から500万円で売ってもらったとします。この場合、思惑どおり贈与税の支払い義務は生じないのでしょうか?
結論からいえば、贈与税の課税対象となります。というのも、5,000万円の価値のあるものを500万円で売買することはいかにも不自然であり、税務署では贈与と考えるのです。このように、市場価値からかけ離れた価格で譲渡することを「低廉譲渡(ていれんじょうと)」といいます。この場合、5,000万円から500万円を差し引いた4,500万円が贈与されたとの判断が下されます。
また「借金なら贈与ではないから贈与税を支払う必要はない」という考え方もできます。この場合は借用書を作成し、定期的に返済していれば税務署も贈与とは判断しません。
また、途中で借金を免除された場合は贈与税の対象となるので気を付けましょう。借用書を作成したとしても「あるとき払いの催促なし」のように表面だけの借金と判断された場合も同じく贈与とみなされる可能性が高くなります。
贈与税の課税方式について
贈与税の課税方式には「暦年課税」と「相続時精算課税」があります。原則として用いることが多いのは暦年課税方式ですが、相続時精算課税は2,500万円の控除額があるため、高額の不動産の贈与の際には考慮してみていいかもしれません。
以下、それぞれについて見ていきましょう。
暦年課税方式
暦年課税方式とは、1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた額に対して課税するものです。この場合、年間110万円までの非課税枠が設定されています。すなわち、年間の贈与総額から110万円を差し引いた残りの部分に規定の税率を適用して贈与税を算出することになります。その計算方法は次のとおりです。
【贈与税額=(贈与を受けた額−110万円)×税率−控除額】
税率は「特例税率」と「一般税率」がありますが、ここでは特例税率の表を示しておきます。特例税率とは、両親や祖父母などの直系尊属から20歳以上の子や孫が贈与を受けた場合に適用される税率のことです。
特例税率
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
たとえば5,000万円の不動産を贈与された場合、最高税率が適用され、贈与税は以下のとおりとなります。
【(5,000万円−110万円)×55%−640万円=2,049万5,000円(贈与税)】
相続時精算課税方式
もう一つの課税方式である「相続時精算課税」は2,500万円までの贈与が非課税となる方式です。2,500万円を超えると、その分に一律20%の税率が適用されます。
たとえば、5,000万円の評価額の不動産贈与であれば、2,500万円までが非課税で、それを超えた2,500万円に20%の税率がかけられ、贈与税は500万円となります。同じ5,000万円の不動産の贈与でも先の暦年課税が2,000万円以上の贈与税だったことに対し、相続時精算課税はそのおよそ4分の1です。
このことから、一見有利な課税方式に思えますが、じつはこの時の贈与額はのちに相続が発生した時に相続税の課税対象としてカウントされます(すでに払っていた贈与税は相続税から控除されます)。そのため、相続時精算課税は基本的には「納税の先送り」といわれ、節税対策としては弱い部分があります。ただ、多くの資産を自由な時期に移転できること、また贈与する資産額や方法によっては相続税と併せても節税になることがあります。
なお、相続時精算課税を使うための条件は次の3つです。
- 贈与をした年の1月1日に贈与者が60歳以上であること
- 贈与をされた年の1月1日に受贈者が18歳以上であること
- 贈与者が受贈者の親か祖父母であること
【2023年最新情報】相続時精算課税制度の見直し
2022年12月16日に発表された「令和5年度 税制改正大綱」によって、相続時精算課税制度を選択した場合における制度の内容が以下の通り見直されることが決まりました。
①相続時精算課税の特別控除額2,500万円とは別に、基礎控除110万円が創設
②相続までに贈与財産が災害被害を受けた場合、相続時の財産評価額は再評価となる
適用時期は【令和6年(2024年)1月1日以降】です。
この見直しにより、より多くの人が相続時精算課税制度を活用しやすくなるのではないかと思われます。
詳細は下記の記事をご覧ください。
贈与税の優遇措置
ここまで見てきたように、不動産の贈与には多額の贈与税が課せられがちです。しかしその一方で、贈与税の負担が減る特例なども設定されています。不動産を贈与する際には、こうした制度を上手に活用することが大切です。
以下、贈与税の「優遇措置」について見ていくことにしましょう。
基礎控除
すでにふれましたが、贈与税には年110万円の基礎控除額が設定されています(暦年課税方式の場合)。さらに、基礎控除後の課税価格に関しても、200万円超であれば追加の控除額が設定されています。
夫婦間での贈与の場合は非課税
不動産の贈与は夫婦間でも行うことができます。この場合「贈与税の配偶者の税額軽減」を活用すると贈与税の負担が大きく軽減できます。
この制度は「おしどり贈与」とも呼ばれており、配偶者に対して居住用の不動産あるいはその購入資金を贈与した場合は2,000万円までが非課税になるというものです。贈与税の基礎控除額110万円をあわせて使うこともできるので、2,110万円までが非課税となります。
贈与は夫から妻に対してでも、妻から夫に対してでもかまいません。贈与を受けた配偶者は翌年3月15日までに、その不動産に暮らしている必要があります。
この制度を使うための条件は20年以上婚姻関係にある夫婦であることです。事実婚は法的な関係ではないため対象外となります。
また、この制度を使う際は、贈与税の申告が必要です。非課税枠の適用で贈与税を支払わなくても良い場合も、申告手続きは行うようにしましょう。
住宅購入費用の贈与は特例措置あり
不動産の贈与ではなく、その購入資金を贈与する場合には「住宅取得等資金の非課税の特例」を使うことができます。これは贈与をする人が、18歳以上の直系卑属(子や孫)にマイホームの購入資金や増改築費用を贈与した時に一定の非課税枠を設定している特例です。設定されている非課税枠は1,000万円までで、要件としてはおもに次の項目が挙げられます。
- 贈与者が直系尊属(両親や祖父母)であること
- 贈与を受けた年の1月1時点で受贈者が18歳以上であること(令和4年3月31日以前の贈与の場合は20歳)
- 贈与を受けた年の所得金額が2,000万円以下であること(住宅の床面積が40㎡以上50㎡未満の場合は1,000万円以下)
上記以外にも細かい要件が設定されています。
※令和4年度税制改正によって、住宅購入資金贈与の非課税枠は最大1,500万円 → 1,000万円に変更されました。
住宅購入資金贈与の最新情報については、こちらもご覧ください。
贈与税の申告方法
贈与を受けた結果、贈与税の支払い義務が生じたとわかった場合は税務署に申告の手続きを行います。その申告方法や納税の仕方について簡単に説明しておきましょう。
納税時期
贈与税の申告時期は、贈与があった年の翌年2月1日から3月15日までとなっています。もし3月15日が土・日・祝日の場合は、次の平日が申告期限です。期限に遅れて申告をしたり、申告そのものをしなかった場合は追加の税金が課せられることになるので必ず守るようにしましょう。
なお、所得税の確定申告は2月16日から始まります。この時期になると税務署は大変混み合いますので、十分に相談ができなかったり待ち時間が長引くことが考えられます。申告は早めに行うようにしましょう。
納税場所
贈与税を納める方法としては以下の四つがあります。
①現金で納付
「納付書」をもって金融機関または受贈者の住所地を管轄している税務署へ行き、現金で納めます。
②e-Taxで納付
預貯金口座からの振替やインターネットバンキングなどからの納付ができます。
③クレジットで納付
インターネットの専用サイトから納付をします。ただし、決済手数料がかかります。
④コンビニで納付
QRコードを利用してコンビニエンスストアで納付します。ただし利用可能額は30万円以下で、QRコードは国税庁のホームページで作成・出力する必要があります。
申告書の書き方など、贈与税の申告方法について詳しくは下記の記事もご覧ください。
おわりに:不動産の贈与税で迷ったら専門家に相談しましょう
贈与は現金以外の財産で行うこともでき、不動産や有価証券、貴金属なども含まれます。今回の記事では不動産をとり挙げ、贈与における考え方や贈与税の計算方法、税負担の軽減につながる特例などを解説いたしました。
不動産の贈与には評価額の算出方法など専門的な知識が必要になってくるケースが多くあります。そのため申告においても手続きが複雑化し、不安や疑問が生じる方も少なくありません。財産としては高額なので、贈与税額もそれに伴って大きくなります。今回の記事でお伝えした特例を知らないまま申告した場合と活用した場合とでは、大きな差が生じることはいうまでもありません。
その意味では税の専門家である税理士の力を借りることで安心感が得られるといえるでしょう。豊富な実績をもつ税理士であれば、節税に関するさまざまなアドバイスへの期待にも応えてくれるでしょう。まずは気軽に相談することから始めてみることをおすすめいたします。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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