相続の知識

生前贈与とは?相続と比較したメリットや非課税になるケースを解説

生前贈与は、相続と異なり、生きているうちに贈与の相手やタイミングを自分で決めて財産を渡す方法で、相続争いの回避や相続税の節税が期待できます。本記事では、相続との違いを比較しながら、生前贈与のメリットとデメリット、具体的な方法や注意点について解説します。生前贈与を検討中の方はぜひ参考にしてください。

生前贈与を活用するメリット・デメリット

生前贈与はうまく活用すれば、円満な資産承継や税負担の軽減につながりますが、一方でリスクも伴います。ここでは、生前贈与の代表的なメリットとデメリットについて整理し、判断材料となるポイントを紹介します。

生前贈与のメリット

生前贈与には、自分の死後に家族間で争いが起きるリスクを減らせるという利点があります。誰に、どのように財産を承継させるかを自分で決められるため、相続時のトラブルをあらかじめ防ぎやすくなります。また、財産を受け取った相手の喜ぶ姿を生前に見られる点も、生前贈与ならではの魅力です。

さらに、生前贈与を活用することで、相続税の負担を軽くできる可能性もあります。あらかじめ財産を贈与しておけば、相続時に課税される財産の総額が減るため、結果的に税額が抑えられることがあります。

生前贈与のデメリット

一方で、生前贈与には注意すべき点もあります。贈与の内容や方法によっては、かえって家族間の争いにつながるおそれがあります。例えば、誰にどれくらいの財産を贈与するかによって不公平感が生まれ、トラブルに発展する可能性もあります。できるだけバランスの取れた分配を心掛けることが大切です。

また、子どもの配偶者や法定相続人以外の親族に贈与する場合には、法定相続人が納得できるように理由を明確に伝えておくと、トラブルを回避しやすくなります。

さらに、贈与を行うことで自分たちの老後資金に支障をきたすことも考えられます。贈与の金額や時期については慎重な判断が必要です。現在の資産状況を正確に把握したうえで、生活に必要な資金を残しながら、無理のない範囲で贈与を進めることが重要です。

加えて、贈与税と相続税のどちらの負担が軽くなるかは、人によって異なります。もともと相続税がかからない程度の財産であれば、無理に生前贈与を行う必要はありません。反対に、財産が多く相続税の課税が見込まれる場合や、金融資産に余裕がある場合には、非課税制度を活用した生前贈与が有効な選択肢となります。

生前贈与とは?

生前贈与とは、個人が自分の意思で財産を別の人に贈与することです。贈与する財産は現金や預貯金に限らず、株式や不動産なども含まれます。贈与は、渡す側が「贈与したい」という意思を示し、受け取る側がそれを受け入れることで成立します。

生前贈与は、「いつでも」「誰にでも」「何度でも」行えるため、子どもや孫などに財産を前もって引き継ぐ方法として活用できます。ただし、贈与を受けた側には、受け取った金額に応じて贈与税が課されます。贈与を行う際は、相手にかかる税負担も考慮することが大切です。

「生前贈与」と「相続」の違いを確認する

家族間で財産を引き継ぐ方法には、「生前贈与」と「相続」の2つがあります。生前贈与は、本人が生きているうちに、相手を選んで財産を渡す方法です。受け取る側の意思を確認して贈与できるうえ、感謝の言葉を直接聞けることもあります。また、住宅資金や教育資金として子どもや孫の生活を支援できる点もメリットです。

贈与の金額によっては受け取る側に贈与税がかかりますが、家族間での贈与には特例や非課税制度が設けられています。こうした制度を活用することで、贈与税の負担を抑えることが可能です。さらに、生前に財産を分けておくことで、将来の相続税の軽減にもつながります。

一方、相続では本人の死後に相続人が財産を引き継ぎます。そのため、遺言書がない場合には、本人の希望どおりに財産を分けられないことがあります。遺言書がある場合でも、相続人全員の合意によって内容が変更されるケースもあります。また、相続する財産が多いほど相続税がかかるため、最終的に相続人が受け取る金額が減ってしまうこともあります。

生前贈与をする目的を考える

目的をはっきりさせないまま贈与をすると、財産が十分に活用されず、意図しない使われ方をしてしまうおそれがあります。そのため、贈与する側は、何のために贈与するのかをあらかじめ考えたうえで、適切なタイミングと方法を見極めることが大切です。

例えば、現役世代で特に大きな資金が必要になるのは、住宅の購入や増改築を行う時です。孫がまだ小さい場合は、将来的に教育資金や結婚資金が必要になることも予想されます。このように、受け取る側の状況やライフステージを踏まえたうえで、その時々に合った贈与を行うのが理想的です。

生前贈与の方法は3種類ある

生前贈与には、以下の3種類の課税制度を利用する方法があります。

  1. 暦年課税
  2. 相続時精算課税
  3. 特例・非課税制度

このうち、暦年課税と相続時精算課税は、どちらか一方しか利用できません。どちらが節税につながるかは、贈与の金額や期間によって異なるため、それぞれの制度の特徴を理解したうえで自身にあった方法を選びましょう。なお相続時精算課税を一度選択すると暦年贈与には戻せないため注意が必要です。特例・非課税制度は、一定の要件を満たす場合に利用可能です。

1. 「暦年課税の非課税枠」を利用して贈与する

贈与税は、1月1日~12月31日までの1年間に贈与された財産の合計金額に基づいて課税されます。この仕組みを「暦年課税」といいます。暦年課税には年間110万円の基礎控除があり、この1年の贈与額が110万円以内の場合は贈与税がかかりません。また、税務署への申告も不要です。

この非課税枠を活用し、毎年110万円以内で贈与を繰り返すことで、受け取る側(受贈者)に贈与税の負担をかけずに済みます。贈与する側としても、生前のうちに相続財産を計画的に減らすことができ、相続税対策として有効です。例えば500万円の財産を持っている場合、100万円ずつ5年間に分けて贈与することで、贈与税を抑えながら資産を移転できます。

2. まとまった資金の贈与は「相続時精算課税」を検討する

60歳以上の父母や祖父母が、18歳以上の子どもや孫に贈与を行う場合、「相続時精算課税制度」を利用できます。この制度では、贈与を複数回に分けて行った場合でも、毎年の基礎控除110万円に加え、更に累計2,500万円までは非課税となり、これを超えた部分に対してのみ、一律20%の贈与税が課されます。
例えば、毎年800万円ずつ5年間にわたって贈与した場合の贈与額は以下のように計算されます。

(800万円-基礎控除110万円)×5年=3,450万円
3,450万円 − 特別控除2,500万円 = 950万円(課税対象)
950万円 × 20% = 190万円(贈与税)

ただし、この制度で受け取った財産は、基礎控除分を除く金額がすべて相続時に他の遺産と合算され、相続税の対象となります。そのため、生前に贈与しても基礎控除分以外は相続税の節税には直結しません。

この制度のメリットは、相続を待たずに早めに資産を承継できる点です。一方で、一度選択すると暦年課税には戻せず、毎年の贈与額が110万円を超える場合は贈与税の申告が必要になるため、十分に検討してから選択しましょう。

3. 「特例や非課税制度」を活用した生前贈与も検討する

贈与税の特例や非課税制度の活用も検討しましょう。子どもや孫に贈与する住宅取得費、教育費、結婚・子育て資金、夫婦間での不動産贈与などは、要件を満たせば非課税になるケースがあります。

ただし、制度を利用して贈与税がゼロになった場合でも、申告が必要な点には注意が必要です。贈与を受けた年の翌年2月1日~3月15日までに、e-Taxや郵送で税務署に申告するのを忘れないようにしましょう。生前贈与の特例が適用される3つのケースを以下に紹介します。

①住宅の取得等資金を生前贈与で受け取る方法

居住用の住宅の購入・新築、増改築資金の援助を受ける場合、一定の要件を満たせば贈与税が非課税になります。直系の父母や祖父母から、18歳以上の子どもや孫に贈与するケースが対象です。この特例は期限付きで、2024年1月1日から2026年12月31日までに取得・増改築する住宅は、最大1,000万円の贈与税が非課税になります。省エネ等住宅の場合は1,000万円まで、それ以外の住宅は500万円が限度です。特例の適用にはさまざまな要件が定められているため、詳しくは以下の国税庁HPを確認してください。

国税庁|No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税

②教育資金や結婚・子育て資金を生前贈与で受け取る方法

直系の父母・祖父母が、子や孫に教育資金や結婚・子育て資金を贈与する場合、一定の要件を満たせば贈与税が非課税になります。

【教育資金】

  • 対象:30歳未満
  • 非課税額:最大1,500万円

【結婚・子育て資金】

  • 対象:18歳以上50歳未満
  • 非課税額:最大1,000万円

どちらも、専用口座に一括で資金を預け入れ、使った分については領収書などで支出を証明する必要があります。教育資金は30歳に、結婚・子育て資金は50歳に達した時点で契約が終了し、使い残した金額は贈与税の課税対象となります。

また、預入期間中に贈与者が亡くなった場合は、非課税拠出額から使った金額を差し引いた残額が相続税の対象とみなされます。なお、孫が代襲相続人でない場合は、相続税が2割加算される点にも注意が必要です。

教育資金、結婚・子育て資金の一括贈与については以下の記事で詳しく解説しています。

③夫婦の間で居住用不動産等を贈与する方法

婚姻期間が20年以上の夫婦は、「贈与税の配偶者控除」を一度だけ利用できます。居住用不動産または取得資金の贈与に対し、2,000万円まで非課税になり、基礎控除とあわせて最大2,110万円が非課税となります。
この制度を利用して贈与した自宅は、贈与税だけでなく相続税もかかりません。かつては生前贈与された自宅も特別受益として遺産分割の対象とされることがありましたが、法改正により除外されるようになりました。
贈与税の配偶者控除については以下の記事で詳しく解説しています。

生前贈与をする際の注意点

生前贈与は相続対策として有効な方法ですが、やり方を誤ると贈与が認められなかったり、予定外の税負担が生じたりする可能性があります。
特に、以下の4つの点に注意しましょう。

  • 名義預金に注意する
  • 贈与税の特例・制度の適用要件を確認する
  • 遺留分侵害額請求に注意する
  • 老後の資金計画にも注意する

名義預金に注意する

生前贈与をしたつもりでも、税務署の調査で「贈与とは認められない」と判断されることがあります。例えば、子どもや孫の名義で口座を作り、そこにお金を移しても、その通帳や印鑑を贈与者が管理していた場合は「名義預金」とみなされ、相続財産として相続税の対象になることがあります。

そのため、贈与した資金は、受け取った本人が自分で管理し、自由に使える状態にしておくことが重要です。その都度「贈与契約書」を作成することも有効です。

また、暦年課税で毎年少しずつ贈与する場合は、受贈者が日常的に使用している口座に振り込むと、通帳に記録が残り、贈与の証拠になります。さらに、信託銀行が提供する、暦年贈与をスムーズに行う信託商品を活用する方法もあります。

贈与税の特例・制度の適用要件を確認する

贈与税の特例や非課税制度を利用する際は、申告書の提出が制度適用の要件になっているケースもあるため注意が必要です。たとえ非課税になる場合でも、申告を忘れると適用されない可能性があります。

また、年間110万円を少し超える贈与を行い、贈与税の申告と納付をしておくことで、申告書の控えが贈与の証明資料として役立ちます。例えば年間200万円の贈与であれば、贈与税率10%により税額は9万円で済みます。手取り200万円を確保したい場合は、贈与税分を加えて210万円を贈与するという方法もあります。

遺留分侵害額請求に注意する

遺留分とは、法定相続人に法律で保障されている最低限の遺産取得分のことです。遺言や生前贈与によって特定の人に多くの財産を渡していた場合でも、他の相続人が遺留分を侵害されたと感じれば、「遺留分侵害額請求」に発展する可能性があります。

例えば、特に可愛がっていた孫に資産の大部分を贈与したような場合、他の相続人との間で不公平感が生じ、トラブルに発展することがあります。生前贈与は相続争いを避ける手段として有効ですが、財産の配分が偏ることでかえって争いを招くおそれもあるため、相続人全体のバランスを意識して慎重に判断することが重要です。

老後の資金計画にも注意する

生前贈与を行う際は、自身の将来の生活資金に支障が出ないようにすることも大切です。教育資金や結婚・子育て資金の支援として多額の贈与を行った結果、自分の生活費や医療・介護費が足りなくなると、かえって家族に負担をかけることになります。

近年は長寿化が進み、老後に必要な費用は想定よりも多くなる傾向にあります。そのため、生前贈与を検討する際は、長期的な生活設計を立てたうえで、余裕資金の範囲内で無理なく行うことが重要です。

生前贈与のご相談はレガシィまでお寄せください

生前贈与を行う際は、制度の仕組みや加算対象となる期間をしっかり把握しておくことが重要です。2024年1月以降、相続開始前の加算対象期間は段階的に「3年→7年」へと拡大されており、また相続時精算課税制度を利用した贈与も、相続財産に含まれます。こうした加算を避けて節税効果を高めるためには、贈与する側が心身ともに元気なうちに、早めに対策を進めることがポイントです。

ただし、生前贈与には、遺留分侵害請求や老後資金の不足といったリスクも伴います。大切な資産を次の世代に安心して引き継ぐためには、ご自身と受け取る側の両方の状況をよく考え、無理のない計画を立てることが大切です。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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