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相続の知識

遺言書で効力を持つ事柄は?効力を失うケースや有効期間についても解説

遺言書を作成しておけば、法定相続分と異なる割合で財産を与えたり、法定相続人以外の人物が特定の財産を受け継げるよう指定したりすることも可能です。しかし、作成した遺言書の内容が法的に有効なのか、またいつまで有効なのかなど、疑問が多いことでしょう。本記事では、遺言書の有効期限や種類、作成時に覚えておきたい注意点について解説します。

遺言書で法的な効力をもつ事柄

遺言書が持つ効力の範囲とは、どのようなものなのでしょうか。遺言書の作成を考えている方の大半は、納得のいく方法で財産を処分したかったり、自分が亡くなったあとの相続で親族が争ったりしないために、遺言の必要性を感じているはずです。

遺言書は、法律で定められた方式で正しく作成しなければなりません。これは民法第960条にも明記されており、要件を満たしていない遺言書は効力を持たないものとされています。
しかし作成方式とは別に、遺言書の内容において法的な効力を持つ事柄は、じつは決まっています。これを「法定遺言事項」といいます。つまり、「法定遺言事項」に定められた以外の事柄を記載しても、法的には効力を持たないということになります。

 

法定遺言事項の主な内容は、以下の通りです。

【相続に関する事項】

  • 相続分の指定、または指定の委託(民法902条1項)
  • 遺産分割方法の指定、または指定の委託(民法908条)
  • 遺産分割の禁止(民法908条)
  • 相続人の廃除、廃除の取消(民法893条、 894条2項)
  • 遺留分侵害額の負担割合の指定(民法1047条1項2号但書)
  • 生命保険受取人の指定、変更(保険法44条)
  • 特別受益持戻しの免除(民法903条3項)
  • 相続人の担保責任の指定(民法914条)
  • 祭祀主宰者の指定(民法897条)

【財産の処分に関する事項】

  • 遺贈(民法964条、 986条~1003条)
  • 財団法人に向けた財産の拠出[寄付の指定](一般社団法人法158条2項)
  • 信託の設定(信託法2条)

【身分に関する事項】

  • 婚姻外の子の認知(民法781条2項)
  • 未成年後見人の指定(民法839条1項)
  • 未成年後見監督人の指定(民法848条)

【遺言の執行に関する事項】

  • 遺言執行者の指定または指定の委託(民法1006条)

いくつか解説をしていきましょう。
民法893条では、被相続人が遺言で推定相続人を廃除する意思を表示したときは、遺言執行者により「相続人の廃除」が行えると明記されています。相続するはずだった人の相続権を消失させるだけでなく、相続権を排除していた推定相続人の相続権を復活させることも可能です。
また、「遺産分割の指定」や「法定相続人以外の指定相続人に遺産を分け与えること(遺贈)」が可能です。ただし遺留分に関しては、遺言であっても指定できないものとされています。(こちらは後述します)

遺言者と婚姻関係にない人物との間に生まれた子どもがいる場合、遺言書で正式に「子の認知」を行えば法定相続人として認められるようになります。相続人に未成年が含まれている場合、相続に必要な手続きを単独では行えません。遺言書では「後見人の指定」もできるため、未成年相続人の遺産相続・管理を信頼できる人に任せることも可能です。
この他にも、被相続者の望む団体へ遺産を「寄付」したり、先祖のお墓や仏壇を守る「祭祀承継者の指定」したりなど、遺言書は相続に関する広い範囲で効力を発揮するのです。

「遺言事項」以外のことは書いてはいけない?

法的な効力を持つ「法定遺言事項」について説明しましたが、これ以外のことを書いてはいけないということではありません。あくまでも法的効力を持つ事柄というだけで、要件に則った書き方であれば他の事柄を書いていても、遺言書は有効です。

法的効力を持たない事柄のことを「付言事項」といいます。この付言事項において、例えば遺産分割に関する被相続人の想いや葬儀方法の希望、残された家族へのメッセージなどを入れることで、後に相続人間におけるトラブルを防ぐことができる場合も多いのです。

遺言書の書き方・種類

続いて、法的に有効な遺言書の作成方法を見ていきましょう。遺言書の書き方には「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。

自筆証書遺言

遺言者による自筆で遺言書を作成する方法です。遺言の全文と氏名、日付を記載して押印するだけで遺言の効力が認められるため、もっとも手軽な作成方法といえるでしょう。自分ひとりで作成できることに加え、遺言書を作成した事実を伝える必要もありません。そのため、他人に遺言内容が漏れる心配がなく、費用もかからないのがメリットですが、不備に気づきにくいといったデメリットもあります。
作成した遺言書は基本的に自宅保管となるため、紛失や同居人の手で改ざんされるリスクもあるでしょう。遺言書の存在をどう相続人に伝えるかについても、しっかりと考えておく必要があります。

公正証書遺言

公証人と共同して遺言書を作成し、公正証書として遺言を残す形式です。相続トラブルを回避するという目的で、近年、遺言を公正証書遺言の形で残すケースが増加傾向にあるようです。公正証書遺言では、遺言内容を公証人に対して口述し、公証人の記述によって遺言書を作成します。遺言者が自筆するのは、公証人の作成した遺言に誤りがないことを承認する署名のみです。
公証役場には管轄がありません。そのため、国内の公証役場であればどこでも公正証書遺言の相談および作成に応じてもらえます。ただし、突然役場へ出向いてもその日のうちにすぐ遺言が作れるわけでなく、事前の打ち合わせが必須となります。

公証役場での打ち合わせには、不動産登記簿謄本や固定資産評価証明書、財産目録といった遺産の全容を把握できる資料が必要です。遺言を作成するときは、証人2名の立ち会いが義務付けられています。作成した公正証書遺言の保管場所は公証役場です。
そのため、紛失や改ざんされる心配はありません。遺言の内容を証人に知られてしまうことや、費用がかかる点はデメリットといえるものの、証人立ち会いのもとで法律の専門家が作成する遺言書は、自筆証書遺言と比較して無効になる確率が非常に低いのもメリットといえるでしょう。

秘密証書遺言

パソコン・代筆を問わず、遺言者が自作した遺言書に署名・捺印したうえで封印し、公証人役場へ持参して公証人と証人の立ち会いにより保管を依頼する方法です。公正証書遺言とは異なり、遺言内容を誰にも知られることなく遺言書を保管するため、紛失や改ざんのリスクがありません。遺言書の存在を家族が認知できる点は、秘密証書遺言のメリットといえるでしょう。

ただし、遺言書の内容を自分で考えて作成するうえ、封をした状態で公証人と証人から遺言書であることのみを認めてもらうといった性質上、不備があっても封を開けるまで気づけないのがデメリットです。準備した遺言書が無効になるリスクが高いため、秘密証書遺言が選択されるケースはほとんどありません。さらに、作成された秘密証書遺言は自分で保管する必要があるため紛失リスクもあり、また相続発生後にこの秘密証書遺言を家庭裁判所で検認を行わなければならない点もデメリットといえます。

【番外編】緊急時の「特別方式遺言」の存在

前述した3つは大きく分けると「普通方式遺言」に分類されます。日常生活を送る中で遺言を残したいと思えばいつでも作成できる方式です。
一方、命の危険が迫る特殊な状況下でのみ認められるのが「特別方式遺言」です。普通方式遺言の作成が困難な際の略式となるため、特別方式遺言は期限が設けられており、遺言作成後に6カ月間生存した場合には無効になります。特別方式遺言には「危急時遺言」「隔絶地遺言」の2種類があり、それぞれ適用されるケースが2つに分けられています。

1.危急時遺言

病気や事故などのさまざまな理由により、遺言者に危難が迫っている際、口頭で残した遺言を証人が書面化する方式です。危急時遺言は、状況に合わせてさらに「一般危急時遺言」と「難船危急時遺言」に分かれます。どちらの方式も、本人以外が筆記を行うため、作成後は家庭裁判所の確認が必要です。

【一般危急時遺言】
「一般臨終遺言」「死亡危急者遺言」ともいわれており、病気やケガにより命の危険が迫っている場合に使う方式です。3名以上の証人が立ち会ったうえで遺言者が遺言の趣旨を口授し、証人が筆記します。筆記した内容は、閲覧もしくは読み聞かせの方法により内容が正しいことを確認し、すべての証人が署名・捺印すれば完了です。20日以内に家庭裁判所で確認手続きを行わなかった場合、遺言は無効となってしまいます。

【難船危急時遺言】
船や飛行機の利用中に、遭難や事故が発生するなどして命の危険が迫った際に採用される方法です。2名以上の証人が立ち会い、遺言者の口授によって承認し筆記を行い、署名・捺印します。このケースでは、早急に家庭裁判所で申請手続きを行えないことが多いため、いつまでといった期限は特に定められていません。

2.隔絶地遺言

伝染病や長期にわたる乗船中などの理由により、一般社会や陸地から離れた場所にいる遺言者が利用できる方式です。「一般隔絶地遺言」「船舶隔絶地遺言」の2種類があり、どちらのケースも本人が遺言書を作成するため、家庭裁判所の確認手続きは必要ありません。

【一般隔絶地遺言】
「伝染病隔離者遺言」とも呼ばれており、遺言者が伝染病である場合に限らず、行政処分を受けて一般社会から隔離された状態にある遺言者にも認められている方式です。警察官1名と証人1名以上が立ち会い、遺言者が自分で文書を作成します。遺言者、警察官、証人すべての署名・捺印が必要です。

【船舶隔絶地遺言】
長期の航海により通常の遺言書の作成が困難なケースで使われる方式です。遺言書は、一般隔絶地遺言と同じく遺言者が文書を作成します。船長または事務員1名および証人2名以上の立ち会いが必要であり、それぞれが署名・捺印すれば完成です。

遺言書の有効期限と無効になる事例

遺言書には有効期限がありません。作成から長い年月の経った遺言書でも、形式さえ正しく書かれていれば効力が発揮されます。しかし、上述したように、遺言書の形式が法律に則った様式で書かれていない場合、無効となるケースがあります。遺言書を意味あるものとして残すためには、無効になる理由についても正しく理解したうえで準備を進めるようにしましょう。

自筆証書遺言が無効となるケース

自筆証書遺言が無効となる主なケースは、以下の通りです。

  • 作成日の記載がない
  • 自筆ではない
  • 署名・押印がない
  • 相続財産の内容が不明確

自筆証書遺言では、明確な年月日の記載が求められています。令和○年○月○日といったように、必ず日付を入れないと無効になってしまいます。署名も必ず自筆で行い、押印も忘れてはなりません。遺言書の作成に使用する印鑑の指定はないものの、偽造防止の観点から極力実印を使用した方が望ましいといえるでしょう。
なお、パソコンで作成した遺言書は無効となってしまうため、必ず自筆で作成してください(ただし、財産目録についてはパソコンでの作成が許可されています)。遺言書の文書は、第三者が読んだときに明確でわかりやすいかどうかも意識しなくてはなりません。財産分与にあいまいな部分があると、遺産分割協議が難航するきっかけとなってしまうでしょう。

不動産を特定の相続人に相続させたいという希望がある場合、登記簿に記載された内容を正確に遺言書に記載する必要があります。これは、該当する不動産を特定できないといったトラブルを防ぐためです。遺言書の作成に取り掛かる前には、必要な書類を取り寄せるなどして自身の財産を正確に把握し、整理するようにしましょう。財産内容を間違えて遺言書に書いてしまうと、相続の際に指定の財産が存在しないといった事態にも陥りかねません。

自筆証書遺言の書き方について、詳しくは下記の記事もご覧ください。

公正証書遺言が無効となるケース

公正証書遺言を作成したからといって、この方式で作成されたすべての遺言書が認められるものとは限りません。

公正証書遺言で無効となる主なケースは、以下です。

  • 遺言能力がない被相続人により作成された
  • 欠格者に証人を依頼した

自筆の場合と同様に、公正証書遺言においても遺言能力のない人が作成したとみなされれば無効になります。認知症以外にも遺言書作成時の精神状態、複雑な遺言内容を遺言者自身がきちんと理解したうえで書かれているかどうかといった点も基準となる場合があります。なお、認知症や精神疾患については、遺言書作成当時にかかっていた担当医師に診断書を作成してもらう方法が有効です。
また証人の資格がない欠格者に誤って証人を依頼してしまった場合も、遺言は無効になります。配偶者や法定相続人は欠格者にあたるため、証人を選ぶ際は欠格者を除いて選定するようにしましょう。

公正証書遺言の書き方について、詳しくは下記の記事もご覧ください。

遺言書の注意点

相続に備えて作成した遺言書が相続時に無効にならないよう、いくつか把握しておくべき注意点があります。知らなかったでは済まされない場合もありますので、相続人に関わる注意点については、予めご家族などに伝えておきましょう。

遺言書を勝手に開封してはいけない

被相続者の遺品を整理する際に、遺言書を発見するといったケースもあるかもしれません。そのような場合、内容をすぐに知りたくても勝手に開封してはいけません。
遺言書に有効期限はありませんが、自筆証書遺言の遺言書を有効とするには「裁判所の検認」が必要になります。その際、勝手な開封は禁止されており、違反すると5万円以下の過料が課せられる可能性もあります。もし思いがけず遺言書を見つけても、その場での開封は控えて裁判所に届け出を行い、内容を確認してもらうようにしましょう。

遺言書の検認については、下記の記事も参考にご覧ください。

遺言書よりも優先される「遺留分」

遺言書の内容が100%の効力を持つわけではありません。法律では、兄弟姉妹以外の法定相続人に対して、最低限の相続財産が保証されています。この遺産取得分を「遺留分」といい、被相続人の配偶者または子ども(子どもがいない場合は親)が遺留分権利者となります。相続する財産が不動産である場合、相当する金額の支払いを請求できると民法第1046条に明記されています。
遺留分は、相続のトラブルを回避するために法で守られているものです。たとえ被相続人が、法定相続人以外の人物に全ての財産を譲ると遺言書に記載しても、法定相続人には遺留分侵害額(減殺)請求を行使する権利が与えられています。

遺留分については、以下の記事もご覧ください。

おわりに:作成様式と内容をきちんと把握して、効力を持つ遺言書を作成しよう

遺言書に有効期限はありません。本記事で解説した注意点をよく理解したうえで、様式に則って効力のある遺書を作成するようにしましょう。遺言書を残したからといって、すべてが丸くおさまるとは言い切れません。特に、不動産が含まれる遺産相続は複雑になりやすく、遺産分割協議が難航するケースも少なくありません。

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この記事を監修した⼈

陽⽥ 賢⼀

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

武田 利之(税理士)

武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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