遺言書の書き方を種類別に押さえよう!自筆証書の注意点も解説
Tweet遺言を作成するというと、なんだか縁起でもないものを用意していると感じるかもしれません。これは「遺書」と「遺言」を混同しているから起こる勘違いです。死期が迫った人が自分の死後に残される家族や友人、知人などの親しい人に向けて、自分の気持ちを伝える遺書と違い、遺言は自分の死後に、認知や相続人の廃除、相続分の指定、遺贈などの権利変動を生じさせる目的で、一定の方式によって作成される書類です。
死後、残された財産を巡ってトラブルが起こったりする可能性がありますから、あらかじめ遺言を作成し、スムーズな相続がなされるように手配しておきましょう。
目次
遺言書には法的効力がある
遺言書とは、死後における自分の財産の分け方などを示した法的な効力をもつ書面です。生前に分配方法や対象者について明確に表しておくことで、自分の希望どおりに財産を相続させることができます。
なお、被相続人(亡くなった人)が遺言書を作成していないと、遺産の分け方は相続人全員で話し合って決めることになっています。この時の話し合いは、民法で定められた「法的相続人」で行うことになります。
遺言書と遺書は別物?
遺言書と似た言葉に、遺書があります。感覚的には同じように使っている人も少なくないかと思います。しかし、相続の手続きにおいては、この2つは基本的に別物です。
遺言書は遺産の分け方を示した法的な書類です。一方の遺書は、被相続人が亡くなる間際に自分の気持ちを家族などへ伝えるために書く書面のことです。遺言書は決まった書き方があるので、それを守っていないただの遺書に、自分の財産の分け方を指示したとしても、法的効力はありません。
ただし、遺言書に遺書のようにメッセージを書くことは可能です。
民法における遺言書
民法では、「遺言書を作成する場合、民法の規定に従っていないと法的効力をもたない」ということが示されています。(第960条)
きちんと法的効力をもつ遺言書を作成するためには、事前に遺言の要件をしっかりと確認することが大切です。
主な遺言書の種類4つ
遺言書は大別すると、次の4つに分けられます。
①自筆証書遺言
②公正証書遺言
③秘密証書遺言
④特別方式遺言
以下、それぞれについて説明します。
①自筆証書遺言
自筆証書遺言は、その名のとおり、自筆で作成した遺言書のことです。
自筆証書遺言は、誰でもすぐに作成できますが、様式が定められており、様式と少しでも異なると無効になってしまう恐れや、紛失や偽造、変造といったリスクがあるので注意が必要です。
②公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で公証人に作成してもらい、公証役場で保管してもらう遺言書のことです。
自筆証書遺言と異なり、公証人に作成してもらうため、様式を誤ってしまって無効になる心配はありませんし、偽造の恐れもありません。
さらに、公証役場で保管してもらうことから、紛失や変造も避けられます。
自筆証書遺言と比較してリスクの少ない遺言書といえるでしょう。
③秘密証書遺言
秘密証書遺言は、自分で作成した遺言書を公証役場に持参し、「その方が書いた遺言書が存在すること」の証明を付けてもらった遺言です。
証明を付けてもらった後は、遺言者が自分で遺言書を保管するか、誰かに保管を依頼することもできます。
公証人による証明があるので、遺言書を遺言者本人が書いたことが間違いないと証明できる点で自筆証書遺言よりもリスクが低いといえます。
④特別方式遺言
特別方式遺言は、遺言者が病気や災害等で死んでしまうかもしれないなどの緊急の状況にいる場合や、伝染病で隔離されている、船舶で航海中であるとなど事情があって、正式な遺言書を作成することが難しい場合に、緊急的な措置として一時的に作成される遺言のことです。
特別方式遺言書はあくまで一時的なものなので、遺言者が通常の方式で遺言ができる状況に戻ってから6カ月間生存した場合には、特別方式遺言の効力はなくなってしまいますので、その前に改めて遺言書を作成するように注意しましょう。
遺言書の書き方
書く内容は同じでも、必要な手順などは異なります。
それぞれの遺言書の書き方を大まかに説明します。
①自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言は、遺言書を残す人が、日付や氏名を含めて全文を自筆で書かなければいけません。氏名まで書き終え、押印したら完成です。
決まった書式はありませんが、下のように情報をまとめてください。この際、不動産の情報は登記簿謄本に記載されているものをそのまま記載します。
遺言書には相続財産の目録を添付します。2019年の民法改正により、これだけはパソコンでつくってもよいことになりました。
自筆証書遺言は最も簡単につくれる遺言書です。もっと詳しく知りたい場合は下記の記事もご覧ください。
②公正証書遺言の書き方
公正証書遺言は、二人以上の証人の立ち会いのもとで、公証人が遺言者から遺言内容を聴き取りながら作成する遺言の形式です。公正証書遺言を作成するには、遺言者の本人証明のために実印と印鑑証明書を用意し、二人以上の証人を連れて公証役場に行きます。公証人に遺言の内容を伝え、遺言書を作成します。遺言者が亡くなったら、最寄りの公証役場に行き、遺言書の内容を確認して、相続手続きを行っていきます。
公正証書遺言は、最も選ばれる機会の多い遺言です。
③秘密証書遺言の書き方
秘密証書遺言とは、遺言者が作成した遺言を二人以上の証人を連れて公証役場に持ち込み、遺言書の存在を保証してもらう遺言の形式です。
秘密証書遺言は、署名と押印だけ遺言者自身が行えば、遺言書自体はパソコンで作成したり、代筆してもらったりしても問題ないという特徴があります。遺言書は遺言者自身で保管する必要があります。秘密証書遺言も自筆証書遺言と同様、家庭裁判所で検認してもらう必要がありますので、勝手に開封しないように注意しましょう。
秘密証書遺言について、詳しくはこちらもご覧ください。
④特別方式遺言の書き方
特別方式遺言は、通常の遺言書を作成できない状況で作成されるものですから、その時の状況によって作成方法が異なります。
病気などで死期が差し迫っている場合には、証人3人以上の立ち会いのもと、証人の一人に遺言者が口頭で内容を伝え、証人がこれを記載する方法で作成します。これを一般臨終遺言といいます。
伝染病で隔離されているケースでは、警察官一人と証人一人以上の立ち会いのもとで遺言者本人が遺言書を作成します。これは一般隔絶地遺言といいます。
船舶の中にいるときには、船長または事務員一人および証人二人以上の立ち会いで遺言者本人が遺言書を作成します。これを船舶隔絶地遺言といいます。
なお、船舶中で死期が差し迫っている場合は、証人二人以上の立ち会いのもと、口頭で行うことも可能です。これは難船臨終遺言といいます。
自筆証書遺言の注意点5つ
自筆証書遺言は自分だけで作成することが可能です。そのため手軽に書くことができますが、不備などがあるとかえって相続トラブルの原因などになりかねません。
もし自筆証書遺言を選択するのであれば、次の5つの点にはくれぐれも注意してください。
①自筆で記載する
自筆証書遺言は、必ず「全文」を「自筆」で書かなければなりません。用紙やペンは自由で、横書き・縦書きなどの指定もありません。しかし、偽造などを防止するために、破れやすい用紙や鉛筆・シャープペンシルなどは避けた方がよいでしょう。
最近では、文章を作成するときは、パソコンで作成することがほとんどになりましたが、パソコンで作成した遺言書は、仮に本人の署名や押印があっても無効になりますので、必ず「自筆」で作成してください。
なお、財産目録についてはパソコンで作成しても大丈夫です。
②署名・押印する
自筆証書遺言には、遺言者が、必ず、氏名を自書したうえで、押印をする必要があります。
また、署名をするのは、必ず遺言者1名のみとされており、夫婦2人で共同で遺言をするということはできないので、注意が必要です。つまり、夫婦連名での遺言書は作成できないということです。
なお、押印は実印でなくてもOKで、拇印でもよいのですが、拇印だと遺言者本人のものかどうかわからなくなる可能性があるので注意が必要です。
③日付を記載する
自筆証書遺言には、必ず作成日を記載する必要があります。
そして、この日付も「自書」しなければならないので、スタンプ等を利用すると無効になってしまいますので、注意してください。
また、「令和〇〇年〇月吉日」というような書き方も、作成日が特定できず、無効となりますので、必ず、年月日をきちんと記載することが大切です。
なお遺言書が複数ありそれぞれ日付が異なる場合は、新しい日付のものが効力を持ちます。
④訂正に気を付ける
自筆証書遺言の記載内容を訂正する場合もその方法が厳格に定められています。
必ず、訂正した場所に押印をして正しい文字を記載します。そのうえで、どこをどのように訂正したのかを余白等に記載してその場所に署名しなければなりません。
具体的には、訂正したい箇所に二重線を引き、二重線の近くに訂正印として押印し、その横に正しい文字を記載します。
そして、遺言書の末尾などに、「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記して署名します。
このように、訂正方法もかなり厳格ですので、万が一、遺言書を訂正したいときは、訂正するよりは、書き直した方がよいでしょう。その場合、訂正前のものは無用な混乱を避けるため必ず破棄してください。
⑤複数枚になったら契印と封をする
遺言書が2枚以上に渡った場合には、ホチキス等でつづり、契印をしましょう。
※契印とは、2枚以上の書類がある場合に、それらが一式の書類で、順番に違いないことを証明するために、複数のページに渡って印影が残るように押す印鑑のことです。
契印は遺言書が有効となるための必須の条件ではありませんが、偽造や変造を防ぐためには大切なことです。複数枚に渡る場合は契印しておきましょう。
同じ様に、遺言書を作成したら、封筒などに入れて封印をして保管するようにしましょう。
封印の有無は遺言書の必須条件と関係はありませんが、偽造や変造を防止するためには重要なポイントです。
遺言書で相続人を困らせないための注意点3つ
公正証書遺言などであれば書式などの問題で無効になることはありません。しかし、内容まで精査してくれるわけではありません。自筆証書遺言の場合はもちろんですが、公正証書遺言を選んだ際も、次の3点に注意して内容をまとめるようにしてください。
①意思を明確に記載する
遺言書の内容は、遺言者が亡くなった後に他人が読んで明確に意味がわかるように書く必要があります。
記載の内容が曖昧だったり、誤記があったりした場合、遺言書を開封したときには、当然遺言者は既に亡くなっているので、遺言者本人に確認することができないからです。
過去の判例では、「遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが、可能な限りこれを有効となるように解釈する」と判断されていることから、遺言書の内容に曖昧な部分や不明瞭な部分があったとしても、それだけで無効になるわけではありません。
そうはいっても、相続人間に無用なトラブルを生む可能性があるので、曖昧な表記等には気を付ける必要があることに変わりはありません。遺言内容ははっきりわかりやすく記載してあげましょう。
②遺留分に配慮する
兄弟姉妹以外の相続人には、遺言内容にかかわらず奪われない最低限度の相続分として、法律上、遺留分(法定相続分の2分の1。親などの直系尊属のみが相続人の場合はその法定相続分の3分の1)が認められています。
遺留分を有する相続人に遺留分を下回る財産しか相続させない遺言、つまり遺留分を侵害する遺言も法律上有効ですが、遺留分を侵害された相続人は、相続開始後にほかの相続人に対して、遺留分侵害額請求をすることが可能です。
遺言によって遺留分を侵害すると、遺言者の死後、相続人同士でもめ事が起きる可能性があるので、その点に配慮して遺言書を作成しましょう。
最低限度の相続分は割り振るように配慮すると無用なトラブルを避けることができるかもしれません。
③遺言執行者を選任しておく
相続財産のなかに不動産がある場合、遺言者が死亡した後、不動産の名義(登記)を遺言者から相続人(受遺者)に変更しなければなりません。
このケースでは、不動産を相続する者が1名だとしても、名義変更(所有権移転登記)の手続きには、相続人全員の協力が必要です。
実際の相続の場面において、相続人の煩雑さを回避するために、遺言のなかで遺言執行者を選任するという方法があります。
遺言執行者は、相続が開始した後(つまり遺言者が死亡した後に)、遺言書の内容に従って相続させるために必要な手続きを単独で行う権限を有します。
万が一、相続人の協力が得られない場合でも、さまざまな手続きを執行できるというメリットがあります。
遺言執行者は、相続人のなかから選任しても大丈夫です。
ただ、名義の変更等は専門的な知識を要するので、弁護士や司法書士に依頼する場合が多いようです。
おわりに:書き方を把握し積極的に遺言書を活用しましょう
遺産は、被相続人が、人生の長い時間をかけて築いてきた財産ですから、その行く末については、被相続人自身で決定したいと思うのは当然のことです。その意向をしっかりと伝えるのが遺言書です。
遺言書は基本的に財産の分け方を伝えるものです。自分の死後、残された家族がもめないように、正しい書き方を身に着けて、自分の状況にあった遺言書を残す必要があります。
法的な効力は発生しませんが、遺言書にも、遺書のように自身のお葬式をどのようにして執り行ってほしいとか、遺族にどのように生きて行ってほしいかといった、最後のメッセージを記してしまっても問題はありません。
死後、自身が残した財産で親族がもめないように。そして何より遺族にしっかりと自分自身のメッセージを伝えるためにも、一度遺言の作成を検討してみてはいかがでしょうか。
自分で作るのが難しい、ミスをしてかえってトラブルになるのを避けたい、と思う場合には相続を得意とする専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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