相続の知識

相続財産清算人(相続財産管理人) とは? 違いや選任の流れ、書類、費用などを解説

財産の相続に関して、「相続財産清算人」が必要となるケースがあります。本記事では、故人の財産を清算する必要性を感じている方に向けて、「相続財産清算人」の役割や選任要件、必要な場面について解説します。
申立て時に用意すべき書類や費用にも言及しています。

相続財産清算人(相続財産管理人)とは

「相続財産清算人」が担うべき役割や、選任にあたって必要となる要件を解説します。また、相続財産清算人と相続財産管理人の違いについても言及します。

相続財産清算人の役割について

「相続財産清算人」とは、相続人の存在が明らかでない場合に、遺産の管理や清算などを行うために選任される人です。相続人がいない方が遺した財産は、債権者への弁済などを行い、残った分は最終的に国庫へ帰属されます。しかし、そのための手続きをする人がいなければ、財産の管理や清算が行われず宙に浮いた状態となってしまいます。そこで、家庭裁判所が相続財産清算人を選任し、最終的に国庫へ帰属させるまでの職務を担当させます。

選任のための要件

相続財産清算人は、利害関係人または検察官が家庭裁判所に選任の申立てを行い、家庭裁判所が選任します。
選任の申立てにあたっては、以下の要件を満たす必要があります。

  • 利害関係人であること:利害関係人とは、被相続人(故人)の債権者や特定遺贈を受けた人、特別縁故者、相続を放棄した人などのことです。
  • 相続財産が存在していること:相続財産がなければ管理や清算の必要がありません。
  • 相続人の有無が不明瞭な状態であること:戸籍上の相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合などが該当します。相続人はいるものの単に住所がわからないといったケースは含みません。

相続財産清算人と相続財産管理人の違い

「相続財産清算人」は、2023年4月に施行された改正民法によって役割や要件が定められています。それまでは「相続財産管理人」が近い役割を担っていましたが、法改正にともない、「管理人」から「清算人」に名称が変更されています。

ただし民法改正後も新たな「相続財産管理人」として、清算人とは異なる権限を有しています。現在、両者は以下のように区別されています。

  • 相続財産清算人:相続財産の管理(保存行為)のほか、裁判所の許可を受けることで処分行為も可能です。債権者や受遺者への弁済、特別縁故者への財産の分配、最終的に残った財産の国庫帰属といった手続きを行う権限があります。
  • 相続財産管理人:相続財産の管理(保存行為)が可能です。財産の現状維持、権利の性質を変えない範囲での利用といった保存行為のみ行う権限があります。

相続財産清算人(相続財産管理人)が必要とされるケース

相続財産清算人が必要とされるのは、主として以下の6ケースです。

  • 相続人がいないケース
  • 相続人の全員が相続を放棄したケース
  • 相続人がいない、または全員が相続を放棄しているが、債権者が返済を希望しているケース
  • 第三者への遺贈を指定した遺言書があるケース
  • 特別縁故者として財産分与を受けたいケース
  • 空き家による被害を防ぎたいケース

以下で各ケースについて解説します。

相続人がいない

財産はあっても法定相続人が存在しないケースでは、財産の清算ができません。そのため利害関係人からの申立てにより、相続財産清算人が選任される場合があります。

法定相続人とは、被相続人の配偶者や子ども、親や祖父母、兄弟姉妹です。

配偶者は法的な婚姻関係にあることを条件として、常に法定相続人となります。

配偶者以外は、以下のうち最も順位の高い人が法定相続人です。

  • 直系卑属(子ども、子どもが亡くなっている場合は孫)
  • 直系尊属(父母、父母が亡くなっている場合は祖父母)
  • 兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥・姪)

相続人全員が相続放棄をした

法定相続人がいても、その全員が相続を放棄する場合があります。相続放棄とは、プラスの財産もマイナスの財産も含め、すべての財産権を放棄することを指します。そのため借金やローンなどのマイナス財産が多く、預貯金や有価証券といったプラスの財産を上回る場合などに、相続放棄が選択されます。

相続放棄をすると、最初から相続人ではなかったと見なされるため、法定相続人全員が相続放棄をした場合、法定相続人が誰もいないのと同じ状態になります。

相続人がいない・全員が相続放棄をしているが、債権者が返済を希望している

前の2項で言及したように、財産があっても相続人がいない場合や相続人のすべてが相続を放棄する場合があります。この場合、被相続人に債務があって、債権者が返済を希望していても、返済が行われません。そのため、債権者が相続財産清算人の選任を申立てることがあります。

第三者への遺贈を指定した遺言書があった

被相続人が法的に有効な遺言書を残していたことで、法定相続人以外への遺贈が行われるケースがあります。
このとき、法定相続人がいれば受遺者(遺贈を受ける人)に財産の一部を引き渡すことが可能ですが、法定相続人が誰もいなければ財産の引き渡しができません。そこで、受遺者などが遺贈を実行してもらう目的で、相続財産清算人の選任申立てを行います。

特別縁故者として財産分与を受けたい

特別縁故者とは、法定相続人がいない場合に、遺産を受け取る権利が生じる人のことです。裁判所から特別縁故者だと認められると財産の全部または一部を受け取ることができるため、特別縁故者として財産分与を受けたい人が相続財産清算人の選任を申し立てる場合があります。

ただし特別縁故者は誰でもなれるわけではありません。以下のいずれかに該当する人に限って認められる可能性があります。

  • 被相続人と生計を同じくしていた人
  • 被相続人の療養看護に努めていた人
  • その他、被相続人と特別の縁故があった人

たとえば、生計をともにしていた内縁の夫・妻、事実上の親子関係や師弟関係にある人、報酬を受け取らずに献身的な介護をしていた知人などが挙げられます。

空き家による被害を防ぎたい

相続人がいない場合や法定相続人全員が相続放棄をした場合、被相続人が所有していた自宅が適切に管理されず、放置されることがあります。
空き家を放置すると、建物の倒壊やゴミの腐敗などによって近隣住民が被害を受けるリスクや、不法侵入者による地域の治安悪化リスクなどが生じます。そのため空き家による被害を受けた近隣住民や市町村長が利害関係人として、相続財産清算人の選任を申し立てる場合があります。

相続財産清算人(相続財産管理人)の選任・選任後の流れ

相続財産清算人が選任されるまでと選任された後に分けて、手続きの流れを解説します。

選任までの流れ

選任までの流れは以下のとおりです。

  1. 家庭裁判所への申立て
  2. 必要書類の提出および費用の納付
  3. 家庭裁判所による審理、選任

利害関係人または検察官が、家庭裁判所に対して相続財産清算人の選任を求めます。申立て先は被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所です。

申し立てる場合は、本当に相続人がいないのか、または相続人全員が相続放棄しているのかを確認しましょう。相続人がいた場合には清算人が選任されません。相続人がいないことは戸籍で確認できます。

また、被相続人に対して債権(特に不動産)があることを理由として申し立てる場合、清算人によって確実に売却され、換価できるわけではありません。買主が現れる見込みがあるのかなど、慎重な検討が求められます。

なお、申立ての際には、複数の書類や費用が必要です。詳細は後述しますが、あわせて裁判所のサイトもご確認ください。

裁判所「相続財産清算人の選任」

選任後の流れ

相続財産清算人が選任された後の流れは以下のとおりです。

  1. 家庭裁判所が選任公告を実施
  2. 相続財産の管理開始
  3. 債権者や受遺者がいる場合、弁済申出の公告や催告を実施
  4. 相続人の捜索の公告、債権者・受遺者への弁済
  5. 特別縁故者がいる場合の財産分与
  6. 残った財産を国に納付
  7. 財産の管理や清算が終了した旨を家庭裁判所に報告

以下に各項目の詳細を記載します。

1、選任公告とは、相続財産清算人が選ばれたことを知らせ、相続人がほかにいないか探すために行う告知です。公告の期間の満了までに相続人が現れた場合は選任が不要となります。

2、確定した相続財産清算人は、相続財産を管理するための目録を作ります。ケースによっては、相続財産に含まれる建物の補修や賃料の支払いなどを命じられることもあります。

3、被相続人に債務がある場合、債権者および受遺者に向けて、2か月以上の期間を確保したうえで、請求の申し出をするよう公告します。

4、弁済申出の公告期間が終了してもなお相続人が見つからなかった場合、家庭裁判所は6か月以上の期間を定めて相続人の捜索の公告を行います。相続財産清算人は、この期間までに判明した債権者や受遺者に対して弁済を実行します。

5、特別縁故者がいる場合、家庭裁判所の審判に沿って財産の分与を行うことがあります。

6、債務の弁済や特別縁故者への分与などを経て、なお残った財産があるケースでは、国庫に納めるための手続きを行います。

7、相続財産清算人は家庭裁判所に対して報告を行うことによって役割を終えます。

相続財産清算人(相続財産管理人)の選任に必要な書類

選任の申立てに必要な書類は以下のとおりです。

  1. 申立書
  2. 財産目録
  3. 被相続人の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  4. 被相続人の父母の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  5. 被相続人の子(およびその代襲者)で死亡している方がいる場合、その子(およびその代襲者)の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  6. 被相続人の直系尊属が死亡した記載のある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  7. 被相続人の兄弟姉妹で死亡している方がいる場合、その兄弟姉妹の出生時から死亡時までのすべての戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  8. 代襲者としての甥・姪で死亡している方がいる場合、その甥または姪の死亡の記載がある戸籍(除籍、改製原戸籍)謄本
  9. 被相続人の住民票除票または戸籍附票
  10. 財産を証明する資料(不動産登記事項証明書、未登記の場合は固定資産評価証明書)、預貯金や有価証券の残高がわかる書類(通帳写し、残高証明書など)
  11. 利害関係人からの申立ての場合、利害関係を証明する資料(戸籍全部事項証明書、金銭消費貸借契約書写しなど)
  12. 相続財産清算人の候補者がある場合にはその住民票または戸籍附票

裁判所「相続財産清算人の選任」

上記のうち、申立書と財産目録は、裁判所のサイトからダウンロード可能です。

裁判所「相続財産清算人の選任の申立書」

このほかに審理のために必要な場合には、家庭裁判所から追加の書類を求められることがあります。

相続財産清算人(相続財産管理人)を選任するための費用

家庭裁判所に選任の申立てを行う際には、費用や予納金が発生します。以下に項目別に解説するので、事前に用意してください。

申立ての費用

かかる費用は以下のとおりです。

  1. 収入印紙代:800円分
  2. 連絡用の郵便切手代:1,000円前後(家庭裁判所によって異なります)
  3. 戸籍謄本などの書類を取り寄せる費用:(例)戸籍全部事項証明書は一通450円(書類の種類や枚数によって異なります)
  4. 官報公告料:5,075円

また、相続財産清算人が親族の中から選ばれた場合には無報酬が一般的ですが、司法書士や弁護士がその任にあたる場合、報酬を払わなければなりません。司法書士や弁護士への報酬は財産の額や発生する手間によって変わりますが、月当たり1~5万円が相場です。これらの費用は清算人の選任を申し立てる人が負担します。

予納金

相続財産清算人が財産を管理・清算するための費用に不足が生じる可能性がある場合に、先に納める費用のことです。

その費用は状況によって異なり、金額は家庭裁判所が決定します。財産が潤沢にある場合は求められないこともありますが、財産が少なく不足が予想される場合は、100万円程度を要求されるケースもあります。

予納金を負担するのは、清算人の選任を申し立てる人です。すべての手続きと報酬の支払いが終わって残金があれば返金されます。

相続に関するお悩みは専門家までご相談ください

財産のある人が亡くなったとき、相続人が存在しない場合や全員が相続放棄した場合などは、そのままだと財産の清算が行われません。こうした状況を改善するために、利害関係人が申し立て、家庭裁判所が選任するのが相続財産清算人です。相続財産清算人は財産を管理、清算して、なお残った財産は国庫に帰属させます。

法的な決まりは一般的にわかりにくいことが多く、「できれば専門家に任せたい」と思う人は少なくありません。60年以上の歴史をもつ「税理士法人レガシィ」は、相続に関連する手続きを専門とする税理士法人です。相続税に関連することでお困りでしたら、ぜひ「税理士法人レガシィ」にご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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