相続の知識

医療法人の持分とは?あり・なしの違い、税務上のリスクと対策について解説

医療法人は、医療業務を営む多くの病院や診療所のことです。その設立には「持分あり医療法人」と「持分なし医療法人」という2種類があり、これらの法人形態は法的、税務的に大きな違いがあります。特に「持分」という概念は、医療法人の運営において重要な要素となるため、詳細に理解しておくことが求められます。本記事では、医療法人の持分とは何か、持分あり・なしの医療法人の違い、税務上のリスクや相続対策について解説します。

医療法人における「持分」とは

医療法人の「持分」とは、法人の所有者が法人の財産に対する権利をどれだけ保有しているかを示すものです。厚生労働省は、”「持分」とは、「定款の定めるところにより、出資額に応じて払戻し又は残余財産の分配を受ける権利」”と定義しています。

厚生労働省「「持分なし医療法人」への移行に関する手引書」(P.3)

具体的には、医療法人の出資者(通常は医師)が出資金を提供し、その見返りとして得る法人内の権利が持分に相当します。持分を持っている出資者は、出資金の払戻しや解散時の財産分配を請求する権利を有します。
かつて、医療法人は出資者が持分を有する「持分あり医療法人」が主流でした。しかし、平成18年(2006年)の医療法改正により、平成19年4月1日以降に設立される医療法人には持分が廃止され、出資者が法人の財産を直接的に分配されることはなくなりました。

出資持分あり・なしの医療法人について

出資持分ありの医療法人は、出資者の持分放棄時や死亡時に、贈与税・相続税が発生するリスクがあります。
出資持分なしの医療法人では、出資者という概念自体がなくなるため、贈与税・相続税が発生しません。

出資持分あり医療法人(旧)

出資持分あり医療法人は、2006年の医療法改正以前に設立された医療法人です。医療法人の設立時に出資者が一定の出資金を拠出し、その対価として法人の持分を取得する形態です。持分を所有することで、出資持分の払戻しや、解散時に法人財産を請求する権利を有します。
出資持分ありの法人は、出資者が死亡した際の相続や譲渡の問題が発生するため、相続税や贈与税の負担が生じることが多く、税務上のリスクを伴います。現在は「経過措置医療法人」とも呼ばれており、出資持分なし医療法人への移行が進められています。

出資持分なし医療法人(新)

2006年の医療法改正以降に設立された医療法人はすべて、出資持分なしの医療法人になります。医療法人の出資者に対する持分の設定が禁止され、設立されるようになった法人形態です。出資者という概念がないため、個人が医療法人の財産権を所有することはありません。したがって、解散時における財産分配を受けることはなく、相続税や贈与税に関しても問題は生じにくくなります。
ただし、出資持分なし医療法人の一種である基金拠出型法人は、拠出者に対して拠出した資金等を変換する義務があります。その際の条件は定款に記載しておく必要があります。

出資持分あり(経過措置型医療法人)の税務上のリスク

平成19年3月31日以前に設立された出資持分あり医療法人は「経過措置型医療法人」ともいわれ、税務上さまざまなリスクを抱えています。特に以下の点で注意が必要です。

出資者が死亡した場合:相続税

出資持分あり医療法人の出資者が死亡した場合、その持分は相続財産として相続税の課税対象となります。持分の評価額が高い場合、相続税の負担が重くなる可能性があります。持分の評価によっては数億円の相続税が発生することも、珍しくはありません。医療法人の持分は換金性がないため、資金調達が難しい点も問題です。後述するように、医療法人の持分の評価は「取引相場のない株式の評価」に準じて行われます。非常に難解であり、適切な評価をしないと過剰な相続税を支払うことになる場合があります。

出資者が持分放棄した場合:贈与税

出資者が自分の持分を放棄する場合、放棄した出資者に税金が課せられることはありません。しかし、持分の放棄により他の出資者の持分価値が上昇するため、他の出資者に贈与税の負担が生じることに注意が必要です。
例えば、医師Aと医師Bが50%ずつ出資して設立し、医療法人評価額が20億円だったとしましょう。医師Aが持分を放棄した場合、課税財産10億円について医師Bに贈与税が課せられます。

持分なし医療法人へと移行した場合:贈与税

持分あり医療法人から持分なし医療法人への移行において、上記の医師Aおよび医師Bがそれぞれの持分を放棄する場合を考えてみましょう。その場合、通常であれば医療法人に対して、計20億円の贈与があったとされ、贈与税が課せられます。ただし、持分なし医療法人への移行計画の認定を受けており、一定の条件を満たしている場合には贈与税が非課税になります。

出資持分あり(経過措置型医療法人)の持分の評価方法

持分あり医療法人の持分の評価方法は複雑であり、評価額を適切に算定することが求められます。評価方法としては一般的に、類似業種比準方式や純資産価額方式などの、取引相場のない株式の評価方法に準じて評価されます。医療法人は配当が禁止されているため思った以上に評価額が高くなる傾向にあります。

取引相場のない株式の評価については、以下の記事をご覧ください。

出資持分あり(経過措置型医療法人)の相続対策

出資持分あり医療法人の相続対策としては、「持分の評価を引き下げる」、「持分なし医療法人へと移行する」、「持分以外の財産について相続対策を施す」といった方法が考えられます。

持分の評価を引き下げる

法人の事業運営を見直し、持分の評価を下げます。具体的には、病院の大規模改修や退職金の支払い等で利益を圧縮し、純資産を減らします。他には、MS法人(メディカル・サービス法人)に利益を移転するという方法もあります。

持分なし医療法人へと移行する

持分あり医療法人から持分なし医療法人へと移行することで、相続税の負担を軽減できます。ただし、財産放棄に近しい考え方である点には注意が必要です。また、税務上の取り決めや法人内での出資者の合意が重要であり、移行に伴い贈与税が発生する可能性もあるため、事前に税理士など専門家と相談し、適切な手続きを踏むことが求められます。

厚生労働省「「持分なし医療法人」への移行に関する手引書」

持分以外の財産について相続対策を施す

医療法人の持分以外の相続財産(例えば、現金や不動産、株式など)についても適切な相続対策を行うことで、相続税の負担を軽減できます。例えば生命保険を活用することで、生命保険の非課税枠を活用しつつ、相続税を支払うためのキャッシュを準備できます。また、死亡退職金を相続人に渡すようにしておくことでもキャッシュを増やせます。さらに、現金や不動産の贈与を生前に行い、相続時の財産規模を縮小することも有効です。ただし医療法人の持分は換金性に乏しく納税資金にはならないため、現金の減らし過ぎとならないよう納税資金確保とのバランスも重要ですので、税理士に相談しながら実行するようにしましょう。

出資持分あり医療法人の相続対策は、レガシィまでご相談ください

出資持分ありの医療法人と持分なしの医療法人では、法人の財産権や解散時の取り決め、相続における税務の取り扱いに大きな違いがあります。特に、出資持分あり医療法人には相続税や贈与税が発生するリスクがあるため、持分なし医療法人への移行を検討することは有効な選択肢のひとつです。ただし、移行に伴う税務上のリスクにも注意を払う必要があるため、専門家のサポートを受けながら対策を講じましょう。

税理士法人レガシィは、60年以上の歴史を持つ相続のプロフェッショナルです。コンサルティングサービスにより、医療法人の課題を解決に導きます。お悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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