隠し子の相続権とは?注意点と手続きの流れ
Tweet「家族に隠し子がいる可能性がある」「隠し子である自分に相続権はあるのか」などと悩んでいる方もいるかもしれません。隠し子については、親の認知や遺言書の有無によって相続の権利や手続きが大きく変わります。
この記事では、隠し子が相続に関わる場合の注意点と、スムーズな手続きを進めるための事前対策について解説します。
目次
隠し子の相続権とは?
たとえ隠し子でも、親が法的に認知していれば、婚内子※と同等の法定相続権が与えられます。
2013年の民法改正により、婚外子と婚内子の相続分の差が廃止され、すべての実子が平等に相続できるようになりました。
一方、隠し子が認知されていない場合は、「認知請求」の手続きを取る必要があります。この手続きは家庭裁判所で行い、親子関係を証明する書類やDNA鑑定資料などの提出が求められます。手続きが完了すれば、隠し子もほかの兄弟姉妹と同じ権利を持って相続を受けられます。
※婚姻関係にある男女の間に生まれた子どものこと
隠し子の相続における注意点
隠し子が遺産相続に関わる場合、いくつか注意すべき点があります。特に以下に挙げる点が重要です。
- 婚内子と婚外子の相続権の違い:婚内子と婚外子は民法改正で相続権が平等化され、親の認知が法定相続人の要件となる。
- 親の認知があるかの確認:親の認知がないと相続権が発生しない。確認や認知手続きがスムーズな相続の鍵となる。
- 遺言書の有無とその重要性:遺言書の有無は相続の円滑さに影響する。自身が親の場合、遺言書の作成により隠し子の相続権を含め自らの意思を明確に示せる。
以下でそれぞれ詳しく解説します。
婚内子と婚外子の相続権の違い
2013年の民法改正により、婚内子と婚外子は相続権において平等に扱われるようになりました。
親が法的に認知している婚外子も婚内子と同じ法定相続人とされ、相続分に差はありません。すべての実子が平等に相続できる環境が整えられています。
しかし、親が未認知の場合、その婚外子は相続権を認められません。したがって、隠し子が相続権を得るには、親が生前に認知の法的手続きを行っている必要があります。
認知があるかの確認
隠し子がスムーズな相続を実現するためには、親が認知手続きを済ませているかの確認が不可欠です。
認知する方法には、主に以下の3つがあります。
- 認知届による任意認知:親が自らの意思で役所に届け出る方法
- 遺言認知:遺言によって認知する方法
- 強制認知(死後認知):隠し子が裁判所に訴え、強制的に認知を求める方法
「認知届」による認知がなされているかどうかは、戸籍を調べることで確認可能です。家族に隠し子がいる場合はその家族の戸籍に認知情報が、自身が隠し子の場合は自身の戸籍の父の欄に父親の氏名が記載されています。
戸籍で認知の確認がとれなかった場合でも、被相続人が遺した遺言書で認知されている可能性があります。これが「遺言認知」です。
上記2つの方法でも親の認知が確認されない場合、隠し子が相続権を主張するためには「強制認知」という法的手続きを経る必要があります。強制認知は父親の死後に行う(死後認知)こともできます。しかしこの方法は父親が生前に任意で認知しておらず、DNA鑑定のために相手方の協力が必要な場合もあるため、相続トラブルの原因となることがあります。
遺言書の有無とその重要性
前述のように、認知の方法のひとつに遺言認知があります。被相続人が遺した遺言書に隠し子を認知する旨が記載されていた場合、家族は隠し子に連絡をとり、相続人であることを伝えなければなりません。また、認知はしなくても、「遺贈」という形で、遺言によって隠し子に財産の一部を引き継がせる場合もあります。いずれの場合も、隠し子が財産の一部を受け継ぐことで、ほかの家族の相続分が減ることになります。
したがって、自身が亡くなった後の相続において、家族にトラブルなく円滑な相続手続きをしてもらうためには、生前に遺言書を作成しておくことが推奨されます。遺言書が存在する場合、親の意思が明確に示され、隠し子の相続権もはっきりします。これにより、スムーズかつ公平な遺産分割が可能となり、相続手続きが円滑に進められます。
隠し子の相続手続きの流れ
隠し子が関与する相続手続きでは、認知の確認や遺産分割協議の準備が重要です。具体的な流れは以下の通りです。
- 相続の開始と認知の確認:親が亡くなると相続が始まる。認知されていない隠し子が相続権を得るためには、家庭裁判所で認知請求を行い、証拠を提出する必要がある。
- 遺産分割協議の準備:認知された隠し子も遺産分割協議に加わることができ、遺言書の存在や専門家の助言がトラブルを防ぐのに役立つ。
- 遺産分割協議と隠し子の相続分決定:遺産分割協議書を作成し署名捺印後、手続きや税務申告を経て隠し子を含む相続手続きが完了する。
以上の手続きについて解説します。
相続の開始と認知の確認
相続は親の死亡によって開始されます。このとき認知の有無が隠し子の相続権に大きな影響を与えます。親が隠し子を認知していない場合には相続権がないため、家庭裁判所で「認知請求」(死後認知)の手続きを行うことが必要です。この手続きは、親が亡くなってから3年以内にする必要があります(民法第787条)。死後認知が認められると、隠し子は生まれたときにさかのぼって親子関係があったとみなされ、相続権を得ることができます。
この手続きでは、親子関係を証明する証拠が求められます。たとえば医療記録や生前の父親とのやり取りが記録されたメールなどです。DNA鑑定が必要になることもあり、実施する場合は鑑定費用もかかります。DNA鑑定をするには親のDNA資料が必要ですが、すでに亡くなっているため取得が難しいケースが少なくありません。この場合は親の近親者のDNA資料で鑑定する方法もあります。いずれの場合も亡くなった親の家族・親族に協力を得る必要があるため、非協力的な場合には専門家のサポートを得ることも必要です。
遺産分割協議の準備
誰がどの財産を取得するのかを相続人全員で話し合う手続きが遺産分割協議です。認知済みの隠し子は、遺産分割協議に参加する権利があります。遺言書が存在する場合、その内容が遺産の分配方法や割合に反映されますが、遺言書がない場合には協議が必要です。また、遺言書があっても相続人および相続人以外の受遺者全員の合意があれば協議による分割ができます(この場合、相続人以外の受遺者は財産の取得ができなくなります)。
協議では取得したい財産や配分などについてほかの相続人と意見が異なることが多く、トラブルが発生する可能性も考慮する必要があります。
このため、スムーズな遺産分割を実現するためには専門家のサポートを受けることが大切です。専門家は法的知識と経験を活用して、相続人同士の対立を解消し、合意形成を助ける役割を果たします。遺産分割協議の準備をしっかりと行い、専門家のアドバイスを受けることで、円滑な相続手続きを進められます。
遺産分割協議と隠し子の相続分決定
遺産分割協議では、相続人全員が合意した内容を「遺産分割協議書」にまとめます。この協議書に相続人全員が署名・捺印を行い、協議内容を正式に確定させます。
その後、この協議書を基に金融機関での手続きや不動産の名義変更などを進めるという流れです。
必要に応じて税務申告も行い、相続手続きを完了させます。
隠し子に関する相続トラブルの事前対策
自分の死後、家族の相続トラブルを避けるためには、事前対策が重要です。特に隠し子がいる場合にはトラブルが発生する可能性が高いため、以下の対策を検討しましょう。
- 生前の相続対策と遺言書の準備:公正証書遺言で隠し子の相続権を明記することで、相続トラブルを回避しやすくなる。
- 家族・親族間の事前協議の必要性:隠し子の存在を事前に共有し、遺産分割について話し合うことで、相続手続きが円滑に進みやすくなる。
- 専門家への相談:隠し子が関わる相続には専門家のサポートを受けることで、税務や認知請求を安心して進め、法的リスクを抑えられる。
それぞれの対策について、以下で詳しく解説します。
生前の相続対策と遺言書の準備
親が生前に遺言書を準備することは、隠し子やほかの相続人とのトラブルを回避するために非常に重要です。遺言書に具体的な内容を明記することで、隠し子の相続権を確保し、ほかの相続人との不和を防ぐことができます。
遺言書の種類は公正証書遺言を選ぶことを推奨します。法律の専門家である公証人が作成するため形式不備による無効のおそれがなく、改ざんや破棄などのリスクも回避できます。親の意思が確実に伝わり、すべての相続人が円滑に相続手続きを進められます。
家族・親族間の事前協議の必要性
隠し子の存在を家族で共有することは、相続時の認知確認や手続きをスムーズに進めるために重要です。
自身の死後に隠し子の存在が発覚した場合、遺された家族は動揺の中で会ったこともない相手との連絡や手続きを進めなければならず、心身ともに大変な負担となります。認知していない場合は隠し子からの認知請求の可能性もあり、その際にも家族、隠し子ともに多大な負担を抱えるはずです。そのため、可能なら生前に隠し子の存在を明らかにしておく、あるいは遺言書に遺しておくことが求められます。また、すでに被相続人が亡くなっており、相続人のうち自分だけが隠し子の存在を知っている場合も、できるだけ早く隠し子の存在を家族で共有することが大切です。
隠し子がいることも踏まえ、事前に家族・親族間で遺産分割に関する意見を話し合っておくことで、実際に相続が発生した際に協議や手続きが円滑に進みやすくなります。ただし、事前協議の際にも意見の相違が発生する可能性があるため、必要に応じて弁護士や相続専門家を交えた話し合いの場を設けることを推奨します。
専門家への相談
隠し子が関わる複雑な相続ケースには、相続専門の弁護士や税理士のサポートが非常に役立ちます。相続税の申告、認知請求、遺産分割協議など、専門的な支援を受けることで手続きを安心して進められるのが大きなメリットです。
また、事前に専門家へ相談することで、後から発生する法的リスクを最小限に抑えられます。専門家のアドバイスは、法的な側面から問題を解決し、すべての相続人が納得のいく形で相続を進めるための強力なサポートとなります。
隠し子であっても、親が法的に認知していれば婚内子と同じ相続権が与えられます。しかし、認知がない場合は家庭裁判所で認知請求を行うことが必要です。相続トラブルの防止には、遺言書の準備や家族間の事前協議が有効です。また、専門家のサポートを受ければ、相続手続きをスムーズに進められます。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表