教育資金贈与の非課税制度とは?制度の要件や手続き、注意点を解説
Tweet子どもや孫に教育資金を贈与するとき、「教育資金の一括贈与の非課税制度」の特例を利用できれば贈与税が非課税になります。この記事では、教育資金の一括贈与に関する非課税制度の概要や対象者、手続きの方法などの基本知識に触れながら、令和5年度の改正情報や利用メリットなどをまとめました。
目次
教育資金一括贈与の非課税制度とは
教育資金贈与の非課税制度とは、親から子、祖父母から孫など「直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」のことです。
個人間で財産の贈与を行うとき、年間110万円を超えた場合には超えた額に対して、財産を贈与された人(受贈者)に「贈与税」がかかります。しかし、贈与税にはいくつかの非課税枠・控除額が設けられており、贈与する財産の使い道によっては税金が免除されることがあります。教育資金贈与の非課税制度は、このような贈与税の非課税措置のひとつです。
教育資金贈与の非課税制度とは、一定の条件を満たしたうえで手続きを行うことにより、最大1,500万円までの教育費としての贈与を非課税にできるものです。贈与者は信託銀行などの教育資金口座に資金を預け入れ、金融機関が教育費の支払いを確認できた場合に、受贈者の専用口座にお金が入金される仕組みです。受贈者の普通預金などに一括で資金が振り込まれるわけではなく、後払い方式で入金されます。
教育資金贈与の非課税制度ができた背景
一定要件下での教育資金贈与を非課税にする目的は、高齢層が持っている資産を早い段階で若い世代に受け渡し、経済を活性化させることです。少子高齢化などの影響により、日本では個人金融資産の高齢者層保有率が高まっています(いわゆる「金融資産の高齢化」)。
総務省統計局の資料によると、世帯主が50歳未満の世帯(2人以上の世帯)の純貯蓄額(貯蓄現在高-負債現在高)がマイナスとなっているのに対し、50歳以上の世帯ではプラスに転じ、特に60~69歳の世帯では純貯蓄額が2,323万円にも及ぶという結果が公表されています。
出典:総務省統計局『家計調査報告(貯蓄・負債編)-2021年(令和3年)平均結果-(二人以上の世帯)』
金融資産が高齢者層に偏在しているため、それらを適切なタイミングで現役層に受け渡すことが喫緊の課題となっています。
加えて、平成27年(2015年)1月から施行された相続税基礎控除の減額や最高税率の引き上げなども、教育資金贈与の非課税制度が注目されている理由のひとつです。相続によって資金を受け渡すと多額の税金がかかるため、節税効果を高めるために教育資金贈与の非課税制度を活用する人は少なくありません。
教育資金贈与 制度の要件
教育資金贈与の非課税制度を利用するには、贈与者・受贈者の関係性や受託する金融機関など、いくつかの要件があります。ここでは、利用期限や対象者、利用条件などについて解説します。
利用期限(いつまで)
教育資金贈与の非課税制度を利用できるのは、平成25年(2013年)4月1日から令和8年(2026年)3月31日までに信託された教育資金です。期間は何度か延長されており、もともとは令和5年(2023年)3月31日までとされていましたが、令和5年度の税制改正により令和8年までと3年間の延長が決定されました。
贈与者(教育資金をあげる人)の要件
教育資金贈与非課税制度の適用を受ける場合、資金を受け渡すことができるのは、父母・祖父母・曾祖父母といった受贈者の「直系尊属」のみです。第三者や配偶者の親、おじ・おばなどは本制度を利用できません。
受贈者(教育資金をもらう人)の要件
教育資金贈与非課税制度の適用を受ける場合、資金を受け取ることができる人の要件は、以下のとおりです。
- 受贈者が30歳になっていないこと
- 前年の受贈者の合計所得金額が1,000万円以下であること
受贈者は、信託契約を締結する日において30歳未満であることが条件です。30歳未満であっても、信託を設定する日・信託財産を追加する日において、受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円を超える場合は本制度を利用できません。
教育資金贈与の手続き方法
教育資金贈与の手続きは、以下のステップで行います。
- 贈与者と受贈者との間で「贈与契約書」を作成する
- 金融機関に教育資金口座を開設し、「教育資金非課税申告書」を提出する
- 贈与資金を預け入れる(最大1,500万円まで)
- 領収書を金融機関に提出し、教育資金口座からお金を引き出す
教育資金贈与の非課税制度を利用するとき、贈与者はまず金融機関の営業所に金銭を信託します。信託された金融機関が資産を管理し、受贈者は支払いが発生するときに領収書などを提示することで、信託財産の交付を請求する仕組みです。
金融機関によっては、教育資金贈与信託を扱っていなかったり、手数料がかかったりするケースもあるため、詳細はあらかじめ各金融機関に確認してください。
贈与契約書とは、「いつ、どのような条件で贈与があったのか」を第三者に証明するために、作成する契約書のことです。贈与は金額や時期、関係性、用途などによって税金の種類や金額などが変わります。内容を証明できるものがないと税務署から贈与を否認される可能性もあるため、贈与が発生するたびに贈与契約書を作成することが望ましいと考えられます。
贈与契約書については、下記の記事もご覧ください。
また口座を開設し、金融機関へ「教育資金非課税申告書」の提出が済んだら、贈与者は贈与資金を口座に預け入れます。申告書は口座を作成した金融機関経由で税務署へ提出するため、贈与者が個別に税務署へ赴く必要はありません。
受贈者が支払った教育費の領収書は、そのつど金融機関に提出します。領収書が適正なものであると認められれば、領収書に記載された金額を口座から引き出せるようになります。ちなみに教育資金贈与に使う口座は、受贈者一人につき1つしか開設できません。
令和5年度の改正内容
教育資金贈与の非課税制度は今までに何度か改正が行われてきました。ここでは、令和5年度に行われた主な改正内容2点について解説します。
相続財産5億円を超える者の管理残高への相続税課税が追加
万が一、教育資金の贈与金額が消費される前に贈与者が亡くなった場合、教育資金として使いきれなかった金額(管理残高)に対しては相続税がかかります。しかし、改正前は受贈者が23歳未満である場合や学校等に在学している場合など、一定の要件が満たされていれば、相続税の課税が免除されていました。
令和5年度の改正では、贈与者の死亡にまつわる相続税の課税額が5億円を超える場合は、一定の要件を満たす場合でも、管理残高に対して課税されます。令和5年4月1日以降に拠出する場合は、改正内容が適用されるので注意しましょう。
ちなみに、令和3年4月1日以降に拠出された教育資金贈与の管理残高に関して、相続税の課税対象となった資産を贈与者の子以外(孫など)が相続する場合は、相続税が2割加算となります。資金の拠出時期別の相続税の計算においては、過去の改正の影響による複雑なルールがあるため、詳細は専門家にご相談いただくことをおすすめいたします。
参考:信託受益権又は金銭等の取得時期に応じた贈与者死亡時の相続税の課税関係
信託受益権又は金銭等の取得時期 | 管理残額の相続税課税 | 相続税額の2割加算の適用 |
---|---|---|
~平成31年3月31日 | 課税なし | 加算なし |
平成31年4月1日~令和3年3月31日 | 贈与者の死亡前3年以内の取得分に限り、課税あり ※23歳未満である場合等を除く |
加算なし |
令和3年4月1日~令和5年3月31日 | 課税あり ※23歳未満である場合等を除く |
加算あり |
令和5年4月1日~ | 課税あり ※23歳未満である場合等で、かつ、贈与者に係る相続税の課税価格の合計額が5億円以下の場合を除く |
加算あり |
出典:国税庁『直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税に関するQ&A 』
相続税の2割加算については、下記の記事もご覧ください。
贈与資金が使い切れなかった場合の贈与税計算は、年齢問わず「一般税率」に
贈与された資金が30歳までに使いきれなかった場合、残った金額には贈与税が課せられます。その贈与税を計算する際、改正前は受贈者の年齢によって異なる税率が用いられ、18歳未満は一般税率、18歳以上は税率を低く設定する特例税率が適用されていました。
しかし、令和5年度の改正で特例税率が廃止され、年齢に関係なく、すべての人に一般税率が適用されることになりました。令和5年4月1日以降に贈与をする場合は、令和5年の改正内容が適用されます。
一般税率と特例税率について詳しくは以下の記事もご覧ください。
教育資金贈与の対象となる費用
教育資金贈与の対象となるのは、入学金や授業料といった学校に支払う費用や、学習塾や習い事の費用などです。ここでは、教育資金贈与の非課税制度に利用できる費用の内訳をくわしく紹介します。
学校などに対して支払うもの
学校などに直接支払える教育資金の上限は1,500万円です。内訳は以下のようなものが挙げられます。
- 授業料、保育料、施設設備費など
- 入学金、入園料、入学検定料など
- 在学証明書代、卒業証明書代など
- 給食費、スクールバス代、遠足費、修学旅行費、部活動費、寮費など
- PTA、生徒会、学級会などの会費
- 大学入試センター試験受験料など
書店で購入した教科書以外の書籍や下宿代、同窓会費などは対象とはなりません。
学校以外へ支払うもの
学校以外に支払える教育資金の上限は500万円です。内訳は以下のものが挙げられます。
- ランドセル、教科書、上履きなど、学校が書面で保護者に購入を依頼した学用品
- 制服、ジャージなど学校指定の学用品
- 校外学習の活動費用
- 卒業アルバム・写真代
- 通学定期代
- 学習塾、予備校、家庭教師などの月謝
- スポーツ教室や習い事などの月謝、指導者を通して購入した物品、交通費など
- 学童保育の費用
受贈者が23歳以上の場合、学校ではない趣味の習い事の費用は対象にはなりません。
出典:国税庁『祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度のあらまし』
教育資金贈与 非課税制度のメリット
本制度を利用する主なメリットは、一括贈与を非課税で行えることと、教育資金を適切に管理できることです。ここでは、教育資金贈与の非課税制度で期待できる効果をくわしく紹介します。
一括贈与を非課税で行える
教育資金贈与の非課税制度では、子どもや孫に対して1,500万円までの教育資金を非課税で贈与できます。そのため、多額の資産を一括で贈与したい人にとっては節税対策として効果的です。例えば、複数人の孫がいる場合、ひとりあたり1,500万円までの贈与を非課税で行えるため、相続税を削減できる可能性があります。
注意すべき点は、受贈者ひとりが受け取れる上限金額が1,500万円であることです。祖父母がひとりの孫にそれぞれ1,500万円ずつを贈与することはできません。1,500万円以内であれば一括贈与の必要はありません。複数回に分けて受け渡すこともできます。
なお本制度を使わなくても必要な都度、教育資金を非課税枠(年間110万円)の中で贈与すれば良いという考えもありますが、贈与者が認知症などになってしまうと以後の贈与ができなくなってしまうため、元気なうちに一括で贈与できるのが本制度利用の最大のメリットと言えます。
教育資金に限定した利用が行える
教育資金贈与の非課税制度は、教育資金に限定した専用の口座を持ち、費用が発生するごとに金融機関に請求する仕組みです。口座に入金してもらうには領収書が必要になるため、教育資金を適切に管理できるメリットがあります。
加えて、対象となる費用も学校に支払う授業料や設備使用料、指定の学用品・教科書、習い事で必要な道具などに限定されています。物品は基本的に学校や習い事の指導者などが指定したもののみが対象となるため、教育資金贈与の非課税制度を適切に活用することで、無駄遣いなどを減らせる効果が期待できます。
教育資金贈与の非課税制度では、資金の使い方が明確に定められています。「孫の教育費用を援助したい」「資産を大学の学費に充ててほしい」などの希望がある人にとっては、ほかの用途で使用されるリスクがないため、安心して贈与できます。
教育資金贈与 非課税制度のデメリット
教育資金贈与の非課税制度はメリットも多いものの、あらかじめ確認しておくべき注意点もあります。ここでは、申請前に知っておきたいデメリットとその対策を紹介します。
使いきれないときは贈与税の対象になる
教育資金贈与の非課税制度を利用して信託に預けた資金は、受贈者が30歳になるまでに使い切るようにしましょう。教育資金贈与の非課税制度には年齢制限があるため、30歳に到達したときに使いきれなかった分は贈与税の対象になるからです。教育資金口座の使用を終了させるときに、口座残高がある場合にも残高に対して贈与税がかかります。
最大1,500万円まで贈与できるからといって必要以上の教育資金を贈与し、使いきれずにのちのち贈与税がかかってしまうケースも見受けられます。「節税効果を重視したい」「すぐに多額の資金を受け渡す必要性は感じていない」などの人は、あらかじめ贈与額をよく検討することが大切です。
出金には手続きが必要なため、手間がかかる
教育資金贈与の非課税制度を利用して受け渡した資金は、そのまま受贈者の普通預金に入るわけではなく、信託銀行などの金融機関で管理されます。出金するには教育費として支払ったことが証明される領収書などを、そのつど提出しなければなりません。一般的な預金とは異なり、ATMなどではお金を引き出せません。
近年はインターネットバンキングを活用することで、直接銀行に出向かなくても出金できるケースが増えていますが、教育資金贈与の非課税制度では、教育資金口座の開設や領収書の提出などは必要になるため、制度の開始時や払い出しの手続きでは、ある程度の時間や手間がかかることを覚えておきましょう。
一度契約をすると解約ができない
教育資金贈与の非課税制度では、契約が完了してしまうと途中で解約することはできません。一度信託に預けた教育資金は、贈与者に戻すことはできないので注意しましょう。
したがって、契約後に教育資金口座の利用を終了するときは、以下の2つの理由が考えられます。
- 受贈者が30歳までに預け入れた教育資金を使い切り、追加の教育資金を贈与しないとき
- 預け入れた資金が残っているものの、教育資金として使用しないとき
教育資金贈与の非課税制度では、最大1,500万円までの贈与に課税されないことが認められていますが、必ずしも一括で信託に預け入れる必要はありません。資金が必要になったタイミングで追加の贈与を行うこともできます。必要な費用を見極めながら、使い切れる金額を預け入れるのが望ましいでしょう。追加の贈与をするときはそのつど手続きが必要なため、余裕を持って計画を立てることが重要です。
おわりに:改正点に留意して、子や孫への教育資金贈与を有効に活用しよう
教育資金贈与の非課税制度とは、直系尊属への教育資金を1,500万円まで非課税で贈与できるものです。相続税の節税効果があり、一括で多額の資金を受け渡せるメリットがあるため、多くの人に利用されています。
教育資金贈与の非課税制度は、令和5年度の税制改正により、令和8年まで期間が延長されました。より多くの人が活用しやすくなった一方で、管理残高への相続税・贈与税課税強化など、以前よりも要件が厳しくなった点も見受けられます。不明点は専門家に相談し、制度の内容をよく理解したうえで活用するのがおすすめです。
税理士法人レガシィは、50年以上の歴史がある「相続専門」の税理士法人です。相続・贈与等の資産税に関して経験豊富な税理士が多数在籍しておりますので、教育資金贈与をはじめ、生前対策にお悩みの方はぜひご相談ください。
当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。
詳細はこちらこの記事を監修した⼈
陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
無料面談でさらに相談してみる