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相続の知識

遺留分放棄と相続放棄の違いは?生前と死後では手続きが異なる!

「遺留分放棄」と「相続放棄」は、どちらも相続に関する権利を自ら手放すことです。混同しやすい用語ですが、両者には違いがあります。
この記事では、遺留分放棄の概要やメリットやデメリット、相続放棄との違いについて解説します。生前と死後では手続き方法が異なりますので、それぞれの手続きについても確認しましょう。

遺留分とは?

遺留分とは、一部の法定相続人に最低限保障される遺産取得分のことをいいます。
亡くなった方(被相続人という)が遺言書を残している場合、基本的には遺言書の内容にしたがって相続します。ただし、その内容が「愛人に全財産を譲り、法定相続人である配偶者と息子には財産を一切残さない」といったものだと、残された家族としては納得がいかないでしょう。

そのような場合に、遺言書に書かれている内容にかかわらず、法定相続人が遺産を取得する最低限の権利が保障されています。遺留分に相当する財産を受け取れなかった場合、遺留分権利者は遺贈や贈与を受けた者に対し、金銭の支払いを求めることできます。これを「遺留分侵害額請求」といいます。

法定相続人になれるのは、被相続人の配偶者と直系卑属(子どもや孫)、直系尊属(父母や祖父母)、兄弟姉妹(代襲相続する場合は甥・姪)です。ただし、このうち遺留分が認められるのは配偶者と直系卑属、直系尊属に限られます。兄弟姉妹および甥・姪には遺留分は認められませんので注意です。

被相続人が亡くなるまでに築いた財産は、家族の協力あってのものです。そこで法定相続人である家族には一定の遺産を取得する権利がある、という考え方に基づいています。

遺留分侵害額請求については、以下の記事もご覧ください。

遺留分を放棄するとは?

遺留分が法定相続人に保障された権利であるなら、それを放棄するというのはどういうことなのでしょうか?遺留分の放棄とは、遺留分の権利者である法定相続人が、その権利を自分から手放すことです。一旦権利を放棄したら、その相続人は相続が始まってから、遺留分を請求できなくなります。
ただし、あくまでも「遺留分の放棄」なので、「相続の放棄」ではありません。例えば、子の遺留分が1,000万円だったとして、遺言に800万円を譲ると書かれていた場合、遺留分を放棄してもその800万円はもらうことができ、差額の200万円を請求する権利を失うというだけになります。

そのため、被相続人が不公平な遺言書を作っていたとしても、遺留分をめぐったトラブルが発生する恐れがなくなります。遺留分放棄は、被相続人の生前と死後、どちらでも行うことができます。

遺留分放棄のメリット

遺留分を放棄する(または放棄させる)最大のメリットは、相続が始まってから遺留分について相続人間でトラブルが起きるのを回避しやすくなることです。

行う理由としては、以下のように様々です。

  • 再婚歴があり、前妻と後妻の家族が遺産相続で揉めないよう、前妻には生前のうちに代償金を支払い、遺留分放棄をしてもらった
  • 次男はマイホーム購入時に親から援助をしてもらったため、長男と同じくらいの遺産はもらわなくてもよいと考えている

被相続人が特定の相続人に遺産を集中させたい場合は、そのような遺言書を残しても、遺留分があるとその権利を主張されて、相続人同士でもめてしまう場合があります。しかし事前に代償を支払い、相続人が遺留分を放棄すれば、被相続人の思い通りに相続させやすくなります。

例えば、こんな例もあります。

【事業承継が関わるケース】

  • 被相続人が会社を経営、相続人は長男と次男
  • 事業を引き継いでもらうため、長男に全ての財産を相続させたいと考えている

このとき、次男に相続させる財産が長男の財産より少なかったら、次男は不満に思い、遺留分を請求してくる可能性があります。そうなると、長男は事業を行うための資金が十分確保できず、被相続人が努力して築き上げた事業が資金不足のため継続できなくなってしまう恐れがあります。
次男が遺留分を放棄すれば、長男は事業を継続するのに必要な財産を相続できるため、被相続人の「会社を長男に引き継がせたい」という意思の通りにできるのです。

その代わり、被相続人は、遺留分を放棄してもらいたい相続人に対して生前贈与などで代償金を支払う必要があります。したがって、遺留分を放棄する相続人は、それに見合った財産を得ることができます。

遺留分を超えて遺産をもらう相続人からしても、ほかの相続人が遺留分放棄をしてくれれば、遺言により相続した財産から遺留分を支払う必要がありません。

遺留分放棄のデメリット

遺留分を放棄することによるデメリットもあります。

  • 基本的に撤回ができない
  • 生前にしようとすると、手続きが複雑である
  • 負債がある場合は負担しなければならない

被相続人の立場からすると、自分の思い通りに相続させるために、特定の人に遺留分を放棄してもらうメリットは大きいでしょう。一方、遺留分を放棄する相続人の立場からすれば、本来もらえるはずだった最低限の相続財産がもらえないため、単に遺留分を放棄するだけなら損でしかありません。
また、生前の遺留分放棄の手続きは複雑です。家庭裁判所に申し立てをしなくてはならず、いろいろな書類を集めて提出しなければなりません。さらに遺留分を放棄しても、相続自体を放棄することにはならないので、負債があれば負担しなければなりません。

こうした相続人のデメリットも踏まえ、被相続人の生前に放棄してもらうのであれば、遺留分の放棄に見合った代償金をしっかり用意する必要があります。

遺留分放棄した場合の他の相続人への影響

民法第1049条2項には「共同相続人の一人のした遺留分の放棄は、他の各共同相続人の遺留分に影響を及ぼさない」と規定されています。つまり、ひとりが遺留分を放棄しても、他の相続人の遺留分が増えるわけではないということです。

なお、相続放棄をした場合は他の相続人の相続割合が増えます。この点も遺留分放棄と相続放棄の違いです。

他の人に遺留分放棄をさせることはできる?

遺留分は一定の相続人に保障された権利です。被相続人の財産がいくらあるのかを相続人が生前に調べることは難しいので、遺留分を放棄する人は、自分がどれだけのメリットを失うことになるのか分からないまま放棄することになります。そのため、本人にその気がなければ、他の人が放棄を強要することはできません。被相続人の生前に行う遺留分放棄の場合、家庭裁判所は他人に放棄を強要されていないか、慎重に調べて判断します。

遺産分割協議によって特定の相続人に遺産を集中させることはできますが、全員の合意が必要です。遺留分放棄をした人が法定相続分の相続を主張した場合などには、結局は法定相続分どおりに分けられてしまう可能性があります。また、遺言書に遺留分を放棄させる旨の記載があったとしても、遺留分を放棄するか否かは本人の意思に委ねられます。

したがって、他の人に遺留分放棄をさせる確実な方法はありません。
どうしても遺留分を放棄させたいと思ったら、なぜ遺留分を放棄してもらいたいかを丁寧に伝えて説得するしかありません。遺留分に相当する対価を渡せば納得を得られる可能性があるでしょう。

遺留分放棄と相続放棄の違い

相続放棄とは、負債も含めた全ての遺産を相続しないことです。相続放棄した人は相続する権利自体を失い、制度上、初めから相続人ではなかったことになります。相続放棄をするには、被相続人が亡くなった後に家庭裁判所で申述の手続きを行います。被相続人の生前にはできません。

一方で、遺留分放棄をしても相続権は失いません。あくまでも遺留分を放棄するだけなので相続することは可能です。相続財産に負債があれば負債も相続します。また被相続人の死後だけでなく生前に放棄することもできます。

遺留分放棄の生前手続き

遺留分放棄は、被相続人の生前でも死後でも行うことが可能ですが、手続き内容に違いがあります。ここからは、生前の手続きと流れを解説していきます。

家庭裁判所の許可が必要

被相続人の生前に遺留分放棄をする場合は、家庭裁判所に許可をもらう必要があります。

被相続人の住所地を管轄する家庭裁判所に、遺留分放棄許可の審判申立を行います。裁判所の審問では、遺留分放棄の意思や、なぜ放棄するのかについて確認されます。裁判所が許可すれば、遺留分放棄が認められます。

手続きに必要な書類として、家事審判申立書、財産目録、被相続人と申立人の戸籍謄本などが必要です。収入印紙800円分とあわせて準備しておきます。

遺留分放棄が認められるには?

遺留分放棄が家庭裁判所で認められるための条件は以下の通りです。

  • 本人の本当の意思に基づくものである
  • 申立の理由に合理性や必要性がある
  • 申立人が、遺留分放棄をする代償を得ている

遺留分は相続人の大事な権利のひとつなので、家庭裁判所は3つの条件にあてはまっているかを慎重に判断します。他人から放棄を強要されていないか、また、放棄する理由について合理的な理由や必要性があるかを確認します。
相続人が本来もらえるはずだった相続財産の権利を放棄するのですから、その代償として金銭その他の財産を渡しているかどうかも判断の根拠となります。

また裁判所に申立をしても、必ずしも認められるとは限りません。もし、遺留分放棄が認められなかった場合は、被相続人の死後に手続きすることになります。

生前の遺留分放棄は撤回できない

生前に家庭裁判所に申立をして遺留分放棄が許可されたら、被相続人の死後、許可の取り消しや撤回は基本的にできません。そもそも、生前に遺留分放棄を申立するには理由があるはずです。その理由に変化が生じた場合などの特殊な例を除いて、家庭裁判所は許可を取り消しません。
申立を行う場合は、本当にその判断でよいのかよく考えた上で慎重に行いましょう。

遺留分放棄の死後の手続き

生前に放棄する場合と異なり、相続が開始してから放棄する場合は、家庭裁判所の許可などは必要ありません。遺留分を放棄することを他の相続人に対して意思表示すればよく、遺留分侵害額請求権を行使できる相手に対して、念書などを作成します。

また、遺留分侵害額請求権には時効があります。相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間(知らなかった場合は10年間)、この権利を行使しないことで権利は消滅し、遺留分を放棄したのと同じことになります。

おわりに:遺留分放棄も相続放棄も行う際は慎重に

遺留分は一定の相続人に認められた最低限の遺産の取り分のことであり、遺留分放棄とはこれを自ら手放すことです。
相続放棄では負債も含めた全ての相続をしないのに対し、遺留分放棄をしても相続権は残るため負債ごと相続することになります。また、一度許可された遺留分放棄を被相続人の死後に撤回することは基本的にできません。遺留分を放棄するか否かは慎重に判断しましょう。

遺留分放棄の手続きは複雑です。特に生前に申請する場合は準備する書類も多く、専門知識も必要になりますので、迷ったら相続の専門家に相談することをおすすめします。

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この記事を監修した⼈

陽⽥ 賢⼀

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

武田 利之(税理士)

武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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