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相続の知識

【相続税】住宅ローン・アパートローンは債務控除できる?ケース別の考え方

住宅ローンやアパートローンが残る不動産を相続した場合、残債の返済義務が免除されないのかはとても気になる点でしょう。今回は残債のある不動産を受け継いだ場合の相続税に関し、5つのケースをご紹介します。ご自身のケースに合わせてぜひ情報を活用してください。

ローン完済前の不動産を相続!相続税はどうなる?

相続する財産は、預貯金や不動産などのプラスの財産ばかりとは限らず、借金やローンなどのマイナスの財産も受け継ぐ場合があります。
相続税の計算においては、相続する遺産の総額が重要になりますが、課税される遺産の総額を求める際に、マイナスの財産を相続財産の総額から差し引くことができる仕組みがあります。これを「債務控除」といい、対象となるものには住宅ローンやアパートローンの借入金が含まれます。

ただし実際に債務控除できるのか、また相続人にローン残債の支払い義務が発生するのかは団体信用生命保険(団信)への加入有無などによって異なります。
次の章からは、残債のある不動産を受け継ぐ場合に押さえておきたい点・考え方などについて、5つの具体的ケースを挙げて解説します。

1. 団体信用生命保険(団信)加入の住宅ローンの場合

まずは完済前の住宅ローンが、団体信用生命保険(団信)加入だった場合について解説します。

ローンの返済は免除され、不動産に対して相続税が発生

団体信用生命保険(以下「団信」とします)は、住宅ローン契約と同時にローン契約者が加入する生命保険を指します。住宅ローンは、契約の条件に団信への加入を必須にしている場合が多く、加入者の割合も高い状況です。団信に加入していると、ローンの残債がある状態で契約者が死亡したり、高度障害の状態になったりした場合に、団信から契約をしていた金融機関にローン残債と同額の保険金が支払われます。このため、相続の際には残債がない状態で不動産を受け継ぐことができます。団信から支払われる保険金は金融機関が受け取るので、相続税の課税対象にはなりません。

したがって、住宅ローンの残債は債務控除の対象となりません。そもそも住宅ローンという債務が消滅し、相続人がローンを支払う必要がなくなったのですから、債務控除が考慮されることはないのです。
ただし、相続した不動産に関しては相続税がかかります。

「連帯保証」と「連帯債務」の違いに注意

団信に加入している場合でも住宅ローンが免除されないケースがあります。「連帯保証」で住宅ローンを契約している場合です。連帯保証は債務者の収入を合算しローンを組む方法ですが、団信に加入可能なのはメインの債務者だけです。具体的には、夫婦でローン契約をし、夫がメインの債務者となった場合、夫が死亡または高度障害の状態になれば返済は免除されます。しかしメインの債務者ではない妻が死亡した場合には免除されません。

一方、「連帯債務」は連帯保証と同様に複数債務者の収入を合算する方法ですが、フラット35では債務者それぞれが団信に加入できます。そのため、例えば夫婦が連帯債務でローン契約をした場合、夫婦両方が団信に加入すれば、一方が死亡または高度障害状態になった際、ローンは全額免除になります。

2. 団信の代わりに生命保険へ加入していた場合

団信の代わりに他の生命保険に加入していた人からローン残債のある不動産を相続したら、残債はどうなるのでしょうか。

不動産と生命保険に相続税が発生、住宅ローンは債務控除される

一部の住宅ローンでは団信への加入が任意となっているため、代わりに他の生命保険に加入しているケースもあるでしょう。ローン返済者が団信ではない生命保険に加入している場合は、最終的に残債を保険金から支払うとしても、保険金の受取先が直接金融機関になるわけではないので、受け取る保険金と住宅ローンが相続税に影響します。

死亡保険金は相続税の課税対象財産となりますが、その中には非課税枠があり、【500万円 × 法定相続人の数 】より多い部分のみが相続税の課税対象になります。またローンの残った不動産を受け継いだ場合、残債は債務控除として相続税の課税対象から差し引けます。

この場合、相続税の課税対象額の計算式は次の通りです。

自宅を含めた被相続人の遺産総額+死亡保険金-死亡保険金の非課税限度額-住宅ローン

団信加入時との違いは? 相続税計算の例

団信加入時との違いを知るために、まずは相続税の計算方法を押さえておきましょう。

相続税の基礎控除の計算式
基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数

課税遺産総額の計算式
課税遺産総額=被相続人の遺産総額(課税価格の合計額)-基礎控除額

実際の相続税額の計算

  1. 課税遺産総額を法定相続分の割合で分ける
  2. 1の割合で分けた相続額に、それぞれに対応する税率をかけて相続税の総額を算出
  3. 相続税の総額を実際の相続割合で分けて、各人が納付する相続税を算出

上記を踏まえ、団信に加入しているケースと、団信未加入で生命保険に加入しているケースについて、相続税の計算例を紹介します。

【前提条件】

  • 家族構成:夫(被相続人)、妻、成人の子2人
    →今回のケースでは法定相続人が3人のため、基礎控除額は4,800万円
  • 住宅ローンの残債:1,000万円
  • 遺産総額は不動産含め6,000万円

団信に加入している場合

団信に加入している場合は、住宅ローンの残債は保険金によって相殺されるため、課税遺産総額は次の通りです。

【課税遺産総額】
6,000万円(正の遺産総額)-4,800万円(基礎控除額)= 1,200万円

これを実際の相続税額の計算方法に当てはめていきます。

1.課税遺産総額を法定相続分で分ける
配偶者 は2分の1で600万円、子は1人につき4分の1で300万円を相続します。

2.相続税の総額を算出
相続額は相続人全員が1,000万円以下で税率は10%となり、妻の税額は60万円、子はそれぞれ30万円と算出されます。

3.実際に納付する相続税
今回は実際の相続割合も法定相続分と同じと仮定します。この時点での相続税額の総額は120万円です。ここに配偶者の税額軽減(※)を適用すると、相続人全体で納付する相続税の合計は60万円になります。

※被相続人の配偶者の課税価格が1.6億円まで、もしくは配偶者の法定相続分相当額までであれば配偶者に相続税がかからない制度

団信未加入で生命保険に加入している場合

団信に加入せず、別途生命保険に加入しているケースで支払われる保険金は2,000万円とします。また前述した通り、死亡保険金には非課税限度額(500万円×法定相続人の数)があります。

これらを踏まえた上で、課税遺産総額を算出すると次のように計算できます。

【遺産総額】
6,000万円(正の遺産総額)-1,000万円(ローン残債)+2,000万円(生命保険)-1,500万円(保険金の非課税限度額)=5,500万円

【課税遺産総額】
5,500万円(遺産総額)−4,800万円(基礎控除額)=700万円

ではこれを実際の相続税額の計算方法に当てはめていきます。

1.課税遺産総額を法定相続分で分ける
配偶者 350万円、子はそれぞれ1人に175万円ずつを相続します。

2.相続税の総額を算出
税率は全員10%、妻の税額は35万円、子はそれぞれ17.5万円です。

3.実際に納付する相続税
この時点での相続税の総額は70万円です。さらに配偶者の税額軽減を適用すると、相続人全体での合計税額は35万円と算出されます。

今回のケースはわかりやすいよう、特別な事情を考慮せず計算しましたが、結果的に団信未加入で生命保険に加入している場合の方が節税できた形になりました。

相続税の計算方法について詳しくは下記の記事もご覧ください。

3. 団信・生命保険ともに未加入だった場合

団信・生命保険ともに未加入でローンの残債がある不動産を相続することになったら、相続税はどのようになるのでしょうか。

不動産に相続税が発生、住宅ローンは債務控除される

被相続人が団信やその他の生命保険に加入していないことを前提として、住宅ローンが残っている不動産を相続する場合、基本的に何の手続きもしなければ相続人が残りの住宅ローンを返済しなければなりません。

ただし、相続した不動産は相続税の対象となり、ローン残債は債務控除として差し引くことができます。そのため「ローンが残っているからとにかく相続放棄だ」としないほうがいい場合もあります。

住宅ローンを相続したくないときの対処法

住宅ローンを相続したくない場合の対処法としては、「限定承認」と「相続放棄」があります。

限定承認

限定承認とは、被相続人のプラスの財産を限度額として、借金やローンといったマイナスの財産を相続する制度です。限定承認を選択すると、プラスの財産がマイナスの財産よりも少ない場合でも、プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を相続することができます。

例えばプラスの財産が3,000万円、住宅ローンの残債が5,000万円の場合は、3,000万円のみを返済すればよく、残りの2,000万円は返済する必要がありません。

相続放棄

またすべての相続を放棄するわけではないので、必要な財産を取得することができます。例えば自宅を残したい場合、競売にかけられた不動産を相続人が優先的に購入できる「先買権」を行使することで自宅の相続が可能です。相続放棄は読んで字のごとく相続を放棄することなので、プラスの財産もマイナスの財産も一切を放棄します。住宅ローンを抱えてまで自宅を相続したくない場合などは相続放棄をすることで住宅ローンの返済義務がなくなります。
ただし、預貯金や不動産などのプラスの財産もすべて相続できなくなるため注意が必要です。例えば被相続人と同居していた場合、住宅ローンの返済義務がなくなっても自宅を出ていかなければなりません。
なお相続放棄をした場合でも死亡保険金の受け取りは可能です。死亡保険金は相続税の対象ではありますが、相続財産ではなく受取人の固有財産のため放棄の対象になりません。ただし相続税を計算するうえでは相続放棄により相続人でない人が死亡保険金を受け取ることになるため、保険金の非課税も受けられなくなる点に注意が必要です。

相続放棄も限定承認も相続開始から3カ月以内に手続きする必要があるので、相続することが分かったタイミングで税理士に相談するなど、早めに準備をしていきましょう。

4. 親子リレーローン・夫婦ペアローンを組んでいた場合

住宅ローンを親子リレーローンや夫婦ペアローンで組んでいる場合に、どちらか一方が死亡または高度障害の状態になったら残債はどうなるのでしょうか。

被相続人の負担分のみを相続財産として扱う

不動産購入時に親子でリレーローンまたは夫婦でペアローンを組んでいた場合は、被相続人の権利分のみを相続財産として考えます。例えば4,000万円の不動産に対し、親子リレーローンもしくは夫婦ペアローンで双方2,000万円ずつ支払っていた場合に一方が亡くなったとします。

こうしたケースで、被相続人が団信に加入していた場合は、被相続人の負っていたローンの残債分のみが返済免除となります。そして被相続人の負担分であった2,000万円(の不動産持ち分)に対してだけ相続税がかかるのです。

夫婦ペアローンは節税対策になることも

夫婦ペアローンで契約した場合と単独ローンの場合ではどちらが節税になるのか見ていきましょう。単純に節税という面から見ると、ペアローンでそれぞれが団信に加入していた方が、単独ローンで団信に加入している場合よりも効果があります。

単独ローン(団信加入)

相続発生時にローン返済は免除されますが、相続する不動産に対して相続税がかかります。
例えば、相続財産が不動産のみで、その価値が4,000万円分、かつローン残債が3,000万円ある場合、団信に加入しているのでローン返済は免除されます。
一方で、相続する4,000万円分の不動産に対しては相続税がかかります。相続人が配偶者1人であれば基礎控除額は3,600万円なので、相続税の課税対象は400万円分です。課税対象が1,000万円以下のため、税率は10%となり相続税は40万円です。
ただし、配偶者の税額軽減が適用されれば、今回のケースでは相続税の申告は必要ですが納税は発生しません。

ペアローン(団信加入)

相続発生時に被相続人のローン負担分のみが返済免除されます。ただし不動産の相続分が単独ローンの場合より低くなるので、不動産にかかる相続税の節税ができます。
例として、4,000万円の価値がある不動産を夫婦折半でペアローン契約しており、被相続人のローン残債が1,000万円あった場合は、被相続人の残債については返済が不要です。またこの場合だと相続する分は2,000万円なので基礎控除額(3,600万円)を差し引けばそもそも相続税はかかりません。

今回はいずれの場合も最終的な相続税はかかりませんでしたが、トータルで見たときには必ずしも単独ローンよりもペアローンのほうがお得とは限りません。相続財産の総額や法定相続人の人数、相続人の将来にわたる返済能力などさまざまな要素を考慮する必要があるため、ペアローンを組む前には状況に応じてよく検討することが大切です。

5. 賃貸用住宅における「アパートローン」の場合

相続が発生した場合、賃貸用不動産購入におけるアパートローン(いわゆる自身の居住用以外の不動産に対するローン)を組んでいるケースもあります。また相続税対策としてアパートローンを検討している方もいるでしょう。

不動産に相続税が発生、ローン残債は債務控除される

不動産を相続した際、その不動産が居住用でなく賃貸用だったとしても、被相続人が団信に加入していれば、残りのローンに対する相続人の支払い義務は免除されます。
被相続人が団信に加入していない場合は、ローン残債の支払い義務は免除されませんが債務控除の対象になります。建て替えに対する借入金があった場合も債務控除の対象です。

アパートローンで相続税対策するなら、団信未加入がお得?

相続税対策としては、預貯金や現金などをそのまま相続するよりも、アパートローンを組んで賃貸用のアパートやマンションを建てたほうが相続税を節税できるケースがあります。これは資産評価方法の違いによるものです。
例えば土地の相続税評価額は、土地に面する道路ごとに設定された価格を基に算出する「路線価方式」か、固定資産税評価額に地域で定められた倍率をかける「倍率方式」で算出されます。しかしこれがアパートなどの賃貸用の土地となれば、借地借家法が適用されるため、国税庁が定めている一定の割合で土地の評価額を減額することが認められています。

さらに相続税対策という点では、ローンを組む際は団信にあえて加入しないほうが効果的な可能性があります。団信に加入しないとローンが残りますが、債務控除の対象となるため相続税の負担が減り、結果的にプラスになる場合があるのです。

おわりに:ローン残債がある不動産の債務控除は、保険やローンの種類によって異なる

ローン残債のある不動産を相続する場合について解説しました。相続税やローンの支払い義務については、団信に加入していた場合、団信の代わりに生命保険に加入していた場合、いずれにも加入していなかった場合によって異なります。また親子リレーローン・夫婦ペアローンやアパートローンの利用で相続税が節税できる場合もあります。

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この記事を監修した⼈

陽⽥ 賢⼀

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

武田 利之(税理士)

武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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