相続の知識

不動産の相続税はいくらかかる?相続時の注意点とあわせて解説

大切な家族の方が亡くなった時、相続が発生します。亡くなった方(被相続人という)が遺した財産の評価額が一定の金額以上であれば相続税の申告・納付義務が生じることもあります。その財産のなかでもとくに金額的に大きくなりがちなのが「不動産」です。「不動産を相続したら、どれくらいの相続税を払わなければならないのだろう?」と気になる人も少なくないはずです。
不動産は相続税の申告手続きにおいて、とくに扱いが難しいといわれています。不動産を相続することで発生する相続税以外にも税金がかかってきますし、土地と家屋(建物)はそれぞれ異なる方法で評価額を出さなければなりません。また、相続する不動産が一つであるのに対して、相続人が複数いるというケースも珍しくありません。
この記事では不動産の相続に関する注意点などについて解説いたします。

不動産を相続する時に発生する税金とは?

土地や家屋などの不動産を相続した時は、次の二つの税金を支払う必要が生じてきます(一定の金額以上の財産を取得した場合)。

  1. 相続税
  2. 登録免許税

それぞれどのようなものかを見ていきましょう。

相続税

亡くなった方の遺した財産を引き継ぐことで生じる税金が「相続税」です。相続をしたすべての人にかかる税金ではなく、財産の相続税評価額の合計から基礎控除額を差し引いた額がプラスになった人に申告・納付の義務が生じます。 基礎控除額は次のとおりに算出します。

【3,000万円+600万円×法定相続人の数=基礎控除額】

法定相続人とは民法で定められた相続人のことで、被相続人の配偶者や子どもなどを指します。たとえば、相続をする人が配偶者と子ども二人だった場合、基礎控除額は【3,000万円+600万円×3人=4,800万円】となります。もし遺された財産の評価額合計が4,800万円よりも多ければ相続税の申告・納付義務が生じます。

法定相続人 1人 2人 3人 4人 5人
基礎控除額 3,600万円 4,200万円 4,800万円 5,400万円 6,000万円

相続税の申告・納付期限は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」と定められています。たとえば1月6日に亡くなった場合は、その年の11月6日が期限です。
この期限は「厳守」と考えておいたほうがいいでしょう。というのも、期限を守らないと「無申告加算税」をはじめとするさまざまなペナルティーが課せられてしまうからです。

なお、不動産の相続は大きな節税対策になります。現金などに比べて相続税の負担軽減につながる特例や評価のルールがあるため有利になることが多いのです。

登録免許税

不動産を相続した時は、その名義を被相続人から相続人へと変更する必要があります。これを「相続登記」といいます。相続登記を行う場合は「登録免許税」という税金を支払わなければなりません。税額は次のように算出します。

【相続登記をする不動産の固定資産税評価額×0.4%】

固定資産税評価額は市町村から毎年送られてくる「固定資産税課税明細」に記載されてています。たとえば、5,000万円の評価額なら【5,000万円×0.4%=20万円】となります。

相続登記は義務付けられておらず、期限も決められていませんでした。しかし税制改正によって令和6(2024)年までには義務化が始まる予定です。この場合、相続による不動産の取得を知った日から3年以内に相続登記を行わないと10万円以下の過料の対象になります。

相続登記の義務化について、詳しくはこちらもご覧ください。

不動産の相続税はどれくらいかかる?

不動産を相続した場合、多くの人が思いがちなのが「この不動産に対して、どれくらいの相続税がかかってくるのか」ではないでしょうか。しかし相続税はすべての遺産(遺された財産)の評価額を算出してから計算していくため、不動産の相続税だけを個別に出すことはできません。相続した不動産の評価額を一定のルールに従って算出し、そのほかの遺産の評価額と合わせたうえで相続税額を導き出していくのです。
ここからは、その評価額の算出方法を見ていくことにしましょう。

相続税は遺産総額を出してから計算するのが基本

相続税は遺産総額を出してから計算をすることが基本で、不動産の相続税だけを抜き出してくることはできません。たとえば「この不動産の評価額は5,000万円だから、税率20%で控除額200万円を差し引いて、800万円が相続税」ということにはならないのです。もし、不動産のほかに現金1億円があれば、1億5,000万円を元にして計算していき、各相続人の取得額に応じて按分していくという形をとります。

遺産の総額を出すには不動産の評価額を計算する必要があります。この場合、不動産は土地と家屋それぞれに異なる方法で算出していくことになります。

土地の評価方法

土地の評価方法としては「路線価方式」と「倍率方式」があります。

路線価方式

路線価とは「道路に面する土地1㎡あたりの評価額」のことを指します。この路線価に基づいて土地を評価する方法が路線価方式というわけです。路線価方式による土地の相続税評価額は次の計算式を用います。

【路線価×各種補正率×土地面積】

例を出してみましょう(各種補正率には「奥行価格補正率」や「奥行長大補正率」などがありますが、ここでは詳細は割愛します)。
路線価が30万円、各種補正率が1.0、面積が200㎡の土地を相続したとします。すると、相続税評価額は次の計算で算出できます。

【30万円×1.0×200㎡=6,000万円】

相続税評価額は6,000万円となるわけです。

倍率方式

路線価が定められていない地域に関する土地の評価方式が「倍率方式」です。この方式による土地の相続税評価額は次の計算式を用います。

【固定資産税評価額×倍率】

「固定資産税評価額」とは市町村から毎年送られてくる「固定資産税課税明細」に記載されています。明細書の土地の「価格」の欄の額が固定資産税評価額です。

例を出してみましょう。
固定資産税評価額が2,000万円で倍率が1.1の土地を相続したとします。すると、相続税評価額は次の計算で算出できます。

【2,000万円×1.1=2,200万円】

相続税評価額は2,200万円となるわけです。

なお、路線価と倍率については国税庁のホームページで確認することができます。

参考:国税庁ホームページ『路線価図・評価倍率表』

建物の評価方法

家屋(建物)の相続税評価額の算出方法は簡単です。毎年市町村から送られてくる「固定資産税課税明細」に記載されている額が固定資産税評価額となります。たとえば価格に「2,000万円」と記載されていた場合は相続税評価額は2,000万円です。戸建てであれマンションであれ、これは変わりません。

特例や財産の状況により相続税を減らすこともできる

「小規模宅地等の特例」を使う

不動産の相続に評価額を軽減する特例や評価のルールがあります。その代表的なものが「小規模宅地等の特例」です。

「小規模宅地等の特例」とは、相続した土地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。たとえば土地の相続税評価額が4,000万円だった場合、この特例を使うことで800万円にまで引き下げることも可能です(ただし適用には要件があります)。その意味でも、土地を相続する方にとってはぜひ活用したい特例です。

「配偶者の税額の軽減」を使う

また「配偶者の税額の軽減」という有利な控除もあります。 配偶者の税額の軽減は被相続人の配偶者が相続した財産に対して適用されるもので、相続税評価額に対して1億6,000万円(または法定相続分)までは相続税が課税されません。
たとえば、相続人が配偶者のみだった場合、基礎控除額は【3,000万円+600万円×1人】で3,600万円となります。これに対して相続した財産の評価額が不動産を含めて1億5,000万円だったとすると、基礎控除額を上回り、通常は相続税が課税されます。しかし、配偶者が相続した財産1億5,000万円は1億6,000万円より少ないため、相続税の支払いは不要ということになります(ただし、この特例は申告が条件となっていますから申告義務が生じます)。

土地を貸している場合は評価額が下がる

もし、相続した土地が誰かに貸しているものだったとした場合、その相続税評価額は、貸していない場合に比べて低くなります。この場合の土地の相続税評価額は次の計算式を用います。

【更地の評価額×(1−借地権割合)】

ここでいう「更地」とは、土地を貸していない(借地権のない)状態の土地を意味します。その評価額は上記の「路線価方式」または「倍率方式」で調べます。 一方「借地権割合」ですが、これは国税庁が地域ごとに30〜90%の間で定めており、一般的に土地の利用価値が高いエリアは借地権割合も高い傾向があります。

例を出してみましょう。更地の評価額が5,000万円で、借地権割合が50%の土地(借地)を相続したとします。すると、相続税評価額は【5,000万円×(1−50%)=2,500万円】となるわけです。

建築中の場合は評価額が建築費の7割に

家屋の建築中に被相続人が亡くなった場合でも、その家屋は相続税の対象となります。 その際の相続税評価額の計算式は次に示すとおりです。

【費用原価の額×70%】

「費用原価の額」とは、亡くなった日までにかかった建築費のことを指します。

複数人の相続人に対し、一つの不動産しかなかった場合はどうする?

たとえば、相続をする不動産が「独り暮らしをしていた親御さんの自宅(実家)のみ」というケースがあります。これに対して相続人が複数いた場合、どのようにすればいいのでしょう?
相続に際して相続人が複数いる場合は「遺産分割協議」が行われることがあります。「誰がどの遺産を取得するか(分割するか)」を話し合って合意をすることが目的の協議です。通常は遺言があるならその内容に従い、遺言がない場合は法定相続分(民法で定められた各相続人の取り分の割合)を一つの目安に分割をしますが、遺産分割協議で全員の合意が認められたら、その結果が優先されます。
遺産分割協議の際には相続した不動産の扱いについても話し合われることは、まず間違いありません。その際、分割に関しては次の4つの方法があります。

①現物分割
②換価分割
③代償分割
④共有分割

ここでは、相続をした財産のうち不動産が実家のみで、相続人は3人の息子たちだったと仮定し、それぞれに説明していきましょう。

①現物分割

財産を現物のまま分割する方法です。この場合、長男が不動産(実家)を取得し、そのほかの現金などの財産を現物として次男と三男が取得するというイメージです(たとえば現金などの財産が多くて不動産だけを取得したら分割のバランスが取れない時は、それに応じた話し合いをします)。この場合、それぞれが取得した財産額に応じて相続税を算出します。

②換価分割

財産を売却して現金に換え、それを分けるという方法です。実家を売り、それによって得た現金を長男・次男・三男で分けます。この場合もそれぞれが取得した財産に応じて相続税を算出します。ただし、売却によって利益が出た場合は所得税と住民税も発生します(詳しくは後述します)。

③代償分割

相続人の一人が現物を取得し、ほかの相続人に現金を払う方法です。長男が実家を取得し、その評価額が3,000万円だとしたら、代償分として次男と三男に1,000万円ずつ払うというわけです(※代償金額を相続税評価額で決めた場合。時価を基準に計算する方法もあります)。
この場合、長男は3,000万円から代償分の2,000万円を差し引いた1,000万円が相続税評価額となります。次男・三男もそれぞれ受け取った1,000万円が相続税評価額です。

④共有分割

現物を複数の相続人で共有する方法です。長男・次男・三男が実家を共有で取得し、名義も共有名義とします。この場合の相続税評価額は、不動産に対するそれぞれの持分に応じて算出します。3分の1ずつの持分なら、それぞれ1,000万円です。

不動産の相続は相続トラブルが起きやすい

不動産の相続は相続人同士のトラブルが生じやすく、感情的なもつれから遺産分割協議がまとまらないケースも少なくありません。その結果、相続税の申告・納付の期限に間に合わなくなると、ペナルティーとして加算税が課税されることになってしまいます。そのため、不動産を相続する可能性のある人はあらかじめ対策を考えておく必要があるでしょう。
もし、相続人同士でもめることになりそうな場合は税理士や弁護士などの専門家に相談をすることも大切です。専門家のアドバイスに耳を傾けることで、全員が納得する分割につながることは十分に考えられるのです。

不動産を相続する時の注意点

不動産を相続する時の注意点として理解をしておきたいのは、先にふれた相続税や登録免許税以外にも税金がかかってくる可能性があることです。具体的には「固定資産税」「都市計画税」「所得税」「住民税」があります。

不動産をそのまま所有するなら「固定資産税」「都市計画税」が発生する

固定資産税とは土地や家屋、償却資産(事業用資産)に対して課せられる税金です。また、これにあわせて徴収されるのが都市計画税です。これらの税金は不動産を所有している限り、毎年徴収が続きます。不動産を相続した場合は、その負担も考慮に入れておかなければなりません。
また、相続はしたものの、住まいなどにはせず放置していた場合は国から「特定空き家」に指定される可能性もあります。もしそうなってしまったら、固定資産税が6倍、都市計画税が3倍になる可能性もあります(200㎡以下の土地で固定資産税の住宅用地の特例措置を適用されていた場合)。相続をした不動産を所有し続けるのなら、適切な管理も必要なのです。

不動産を売るなら「住民税」「所得税」が発生する

相続をした不動産を売却した場合、売却益が出ると「譲渡所得」となり、所得税と住民税がかかってきます。もともとの不動産取得額よりも売却額のほうが高いことで利益が出るわけですが、それは「所得」とみなされるわけです。
譲渡所得は【売却代金−取得費−譲渡費用】によって算出します。「取得費」とは不動産の購入代金や建築費、その際に必要となった仲介手数料や印紙代のことです。一方の「譲渡費用」は不動産を売却する際にかかった仲介手数料や印紙代を指します。

もし、売却をする不動産の保有期間が譲渡した年の1月1日現在で5年超の場合、所得税が15%、住民税は5%かかります。譲渡した年の1月1日現在で5年以下の場合は所得税は30%、住民税は9%です(これらのほか、2037年までは所得税額に対して2.1%の「復興特別所得税」も課せられます)。
相続した不動産を売却する際にはこうした譲渡所得のことも考えておくようにしましょう。

不動産を相続したらその後どう活用するべき?

不動産を相続した時は、ここまで解説してきたことを踏まえて、その後どのように活用していくかを考えることが大切です。方法としては次の四つが考えられるでしょう。

①自分たちで住む

不動産を相続する場合、多くが親御さんの家ですから、生活環境に大きな変化がないようなら自分たちで住むというのも一つの方法です。ただし、家屋が古くなっていて修繕費用がかさんだり、狭くて住みづらいといった可能性も考えられます。

②売却する

相続をした人が誰も住まず、将来的にもその予定がない場合は売却を検討してもいいかもしれません。売却することで現金が得られるのは大きなメリットといえるでしょう。ただし売却益が出た場合は先にふれたように所得税・住民税がかかってきます。

③収益化を目指す

たとえば貸家として誰かに貸したり、更地にして駐車場を経営をしたり、新たに賃貸アパートを建てるなど土地活用による収益化を図ることも考えられます。不動産収入があれば生活面での安心につながるでしょう。だたし、不動産による収益化は難易度が高いことも考慮しておいたほうがいいと言えます。

④放置する

そのまま放置しておくことはおすすめできません。先にふれた固定資産税・都市計画税の負担がありますし、周辺環境の保全の面から空き家に対する世間の目は厳しくなっています。メリットはほとんどないといっていいでしょう。

不動産を相続した人それぞれに事情があるとは思いますので、上記のうちどれがベストの選択かを安易に決めつけることはできません。当事者としてよくよく考えたうえで最良の選択をしてください。

相続不動産の活用や売却については、税理士法人レガシィでもお手伝いしています。相続税申告だけではなく、手続きをはじめ相続全般サポート可能ですので、ぜひお気軽にご相談ください。

おわりに:不動産の相続はモメやすいので相続税対策はお早めに

相続税のなかでもとくに扱いが難しいといわれる「不動産」。評価方法が複雑なこともそうですし、相続税以外の税金が生じたり、相続人が複数いる時はトラブルが生じやすいといった点も挙げられるでしょう。将来的に不動産を相続する予定のある人は、早めに対策を講じておくと安心です。
もしも不動産の相続に関して心配なことや戸惑うようなことがあれば、専門知識の豊富な税理士に相談をすることをおすすめいたします。さまざまなサポートが期待できるのはもちろんですが、節税に関するアドバイスも得られます。安心の相続税対策のためにも税理士へのご相談を検討してみてください。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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