相続税の非課税財産とは?利用できる控除も解説
Tweet相続税は一部のお金持ちだけのもの、と思っている人も多いかもしれません。しかし、土地や建物、株式などを現金に換算したら思ったより財産があった、ということはよく起こります。相続税は知らないと損をする税金です。逆に、知ってさえいれば相続税をなくす、なくせないまでも大幅に減らすことができる方法はたくさんあります。
ここでは相続税を減らす一つの方法として、各種控除について説明します。なかでも配偶者控除や贈与関係の控除は、うまく使うと一気に相続税を減らすことができます。自分に関係する控除がないか、よく確認しておきましょう。
目次
【相続税の基本】非課税枠には限度額がある(基礎控除額)
相続税には、いわゆる非課税枠があります。この非課税枠を基礎控除額といいます。
プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた正味の遺産額(課税価格)が、この基礎控除額を超えると、相続税がかかる可能性が出てきます。
では基礎控除額はいくらかというと、法定相続人が相続するケースであれば最低で3,600万円です(特別縁故者が相続するケースではこれより低くなる場合もあります)。最低でというのは、法定相続人の数によって金額が変わるからです。
基礎控除額は次の式で求めることができます。
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基礎控除額=3,000万円 +600万円 × 法定相続人の数
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基礎控除額についてもっと詳しく知りたい場合は「相続税の基礎控除とは?相続税が免除される遺産額や相続税の計算方法を解説!」をご確認ください。
相続税がかからない非課税財産とは?
相続税は課税価格に対してかかってきます。課税価格とは、土地など相続財産を金額に直して合計し、債務などのマイナスの財産を引いた正味の遺産額です。
相続財産とはいうものの、じつは故人(被相続人)の財産であっても、課税価格には含まないものがあります。これらを知っていれば、課税価格自体を減らせるかもしれません。
墓地・墓石・仏壇など祭祀関係
非課税財産として代表的なものが、墓地や仏壇、仏具といった祭祀に関わる財産です。金銭的な価値を超越したものとみなされるからでしょう。ただし、骨董品的な価値があるものなどは相続税がかかってくる可能性もあります。
ちなみに、葬式費用についても相続財産から控除できます。ただし、香典返礼品代は控除できませんのでご注意ください。
葬式関係でいえば、故人の会社から支払われる弔慰金なども一定額までは非課税です。業務中に亡くなった場合で月額給与(賞与除く)の36カ月分、業務外の場合で6カ月分までとなっています。
公益事業を目的としている財産
相続した個人の方が、その財産を宗教、慈善、学術などの公益事業に使うことが確実な場合は非課税になります。たとえば、個人で学校経営や寺社経営などを行っている人が相続した、遺贈を受けたという場合です。
条例による給付金受給の権利等
ここでいう給付金受給の権利等というのは、「心身障害者扶養共済制度(しょうがい共済)」によって支払われる年金のことです。障害のある方を育てている保護者が加入するもので、保護者が亡くなった後に障害のある方に対して一生涯年金を支給するという制度です。制度の性質上、非課税となっています。
取得した生命保険金のうち「500万円×法定相続人数」の金額
相続によって取得したとみなされる生命保険金(おもに死亡保険金)なども、非課税になる場合があります。
ただし非課税となるのは、「500万円×法定相続人の数」まで。たとえば法定相続人が3人であれば1,500万円です。
ちなみに、生命保険金に対する税金は、じつは契約者(お金を払う人)と受取人(保険金を受け取る人)が、契約上誰になっているかで変わります。この非課税枠を使えるのは、「被相続人が契約者で相続人が受取人」だった場合です。
生命保険は有効な相続税対策ですが、契約内容によっては節税になりません。相続のために加入する場合は、専門家などへの相談も検討してください。
契約内容によって生命保険にかかる税金などがどうなるのかという点については、「生命保険には相続税がかかる?非課税枠や実際の計算例を解説!」をご覧ください。
また、相続によって取得したとみなされる退職手当金等についても、生命保険金と同様に500万円×法定相続人の数まで、非課税枠があります。
個人経営の幼稚園事業で使っていた財産
個人経営の幼稚園に使われていた財産で一定の要件を満たすものも非課税の財産とすることができます。相続人が引き続き幼稚園を経営する必要があります。
公益事業を目的する特定の法人に寄付した財産等
相続や遺贈によって取得した財産で相続税の申告期限までに国又は地方公共団体や公益を目的とする事業を行う特定の法人に寄附したもの、あるいは、相続や遺贈によって取得した金銭で、相続税の申告期限までに特定の公益信託の信託財産とするために支出したものは非課税となります。
相続税を無税にする・近づけるには?
生命保険や寄付の非課税枠をうまく使えば、課税価格を減らせることはご理解いただけたと思います。では、それでも基礎控除額を超えてしまった場合、何もできることはないのでしょうか。
そういった際に役立つのが、控除を受けられる各種特例です。これは誰が相続人になるのかによって、使える場合と使えない場合があります。
これらの控除を活用することで、相続税をなくす、あるいはなくならないまでも無税に近づけることができます。代表的な特例を見ていきましょう。
なお、課税価格から相続税額を求める計算については「相続税の計算は誰でもできる!基本の式と手順を解説」をご覧ください。
無税にする・近づける場合に利用する控除
障害者控除
相続人が85歳未満の障害者の場合、相続税額から一定の金額を差し引くことができます。
差し引かれる額は、相続人の年齢によって異なり、
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障害者控除額=10万円×(85歳―相続時の年齢)
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で求めることができます。
相続人が特別障害者の場合には、控除額が倍になります。
なお、控除額が相続税額より多い場合、引ききれなかったぶんは、扶養義務者の相続税額から差し引くことが可能です。
未成年者控除
相続人が未成年(20歳未満)の場合、相続税額から一定の金額を差し引くことができます。 控除額は年齢によって異なり、
――――――――――――――――――――――――――――
未成年者控除額=10万円×(20歳―相続時の年齢)
――――――――――――――――――――――――――――
で求めることができます。
相続時の年齢は、1年未満は切り捨てて計算します。たとえば16歳10カ月だった場合、16歳で計算してください。
なお、控除額が相続税額より多い場合、引ききれなかったぶんは、扶養義務者の相続税額から差し引くことが可能です。
生前贈与の加算と控除
生前贈与が相続税対策になるという話を聞いたことがある人は多いと思います。ただ仕組みを理解していないと、十分な効果は得られません。
まず注意してほしいのが、生前贈与にも相続税がかかる場合があるという点です。
相続税に加算されるのは、被相続人が亡くなった日から遡って3年前までの生前贈与です。贈与を受けた時の価額を加算します。
贈与税には1年間一人あたり110万円の基礎控除がありますが、死亡から3年以内の贈与であれば、基礎控除額以下であっても加算されるので気をつけてください。
ただし、すでに払っている贈与税額は控除されます。
相次相続控除
被相続人が10年以内に相続税を払っていた場合、相続人の相続税額から一定の金額を控除します。
この時の控除額は次の式で求めることができます。
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相次相続控除の額=A×{C÷(B-A)}*×D÷C×(10-E)÷10
A:今回の被相続人が前回の相続で課せられた相続税額
B:今回の被相続人が前回相続した財産の価額(純資産価格)
C:今回の相続で対象となる財産の総額(純資産総額)
D:今回の相続人が相続した財産の価額(純資産価格)
E:前回の相続から今回の相続までの年数(1年未満切捨)
*1を超える場合は1で計算する。
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配偶者控除
配偶者が遺産を相続すると、配偶者の税額の軽減の特例が適用されます。いわゆる配偶者控除です。
被相続人の配偶者が相続によって財産を得た時、取得した正味の遺産額が一定金額以内であれば、相続税が控除されます。この時の限度額は次のいずれか多いほうです。
- 1億6千万円
- 配偶者の法定相続分相当額
例えば、配偶者の法定相続分が2分の1だとすると、
- 全体の正味の遺産額が2億円の場合、1億6千万円まで(1億6千万円>2億円×1/2)
- 全体の正味の遺産額が5億円の場合、2億5千万円まで(1億6千万円<5億円×1/2)
は、配偶者が財産を取得しても配偶者の税額はゼロになります。
このように、配偶者の税額の軽減の特例は非常に効果の高い特例です。ただし、実際に使う場合には、子どもへの二次相続まで念頭に入れておいたほうがいい場合もありますので、金額によっては専門家への相談をおすすめします。
小規模宅地等の特例による控除
被相続人か、被相続人と生計を一にする親族が、居住・事業用としていた宅地を相続した場合、「小規模宅地等の評価減の特例」を適用することができます。最大で土地の評価額を80%減らす、非常に節税効果の大きな特例です。
減額できる額と減額を受けられる面積には4つのパターンがあります。
- 特定居住用宅地
土地を住宅地として使っていた場合。330平方メートルまでの部分について80%。 - 特定事業用宅地
自営業の店舗などとして事業で使っていた場合。400平方メートルまでの部分について80%。 - 特定同族会社事業用宅地
法人化しており、被相続人および親族等の持ち株割合が50%を超える同族企業の事業用に使っていた場合。400平方メートルまでの部分について80%。 - 貸付事業用宅地
賃宅地、貸家建付地、構造物のある駐車場など。200平方メートルまでの部分について50%。
ほかにも細かい要件があります。詳しくは「小規模宅地の特例で相続税を最大80%減額!計算方法や申告書も徹底解説」をご確認ください。
被相続人が生前にできる非課税対策
相続税への対策としてよく使われるのが生前贈与です。贈与は本来相続よりも税率が高めに設定されているのですが、さまざまな非課税枠があるため、うまく利用することで効果的に資産を移すことができます。
年間110万円以下の贈与による対策(暦年課税)
まず、覚えておいてほしいのが、一人あたり110万円の基礎控除です。1年間(1月1日〜12月31日)に贈与を受けた額が110万円以下であれば、贈与税はかかりません。
また、110万円を超えた場合も、110万円を差し引いて贈与税を計算します。
つまり、親から子に1,000万円の贈与を行った場合には、890万円に贈与税がかかる計算です。
この時、気をつけてほしいのが110万円の基礎控除は、贈与した側ではなく、贈与を受けた側が基準となることです。たとえば、父から60万円、母から60万円の贈与を受けると非課税枠を超えることになります。
この基礎控除内で毎年少しずつ贈与していけば、贈与税を払わなくて済むわけです。たとえば、1,000万円の贈与も、10年に分けて100万円ずつ行えば、贈与税はかかりません。
ただし、この方法には注意が必要です。毎年同じ金額の贈与を長期間繰り返していると、その総額に対して贈与税がかかる場合があるからです。基礎控除を最大限活用する場合は、毎年金額を変えたり、たまに基礎控除額を超える贈与を行ったりという工夫が必要です。
加えて、この範囲内であっても、3年以内の贈与であれば相続税の計算には加算することになりますので、気をつけてください。
親または祖父母から、子・孫へ贈与する対策(相続時精算課税)
60歳以上の親や祖父母から、20歳以上の子や孫へ贈与を行う場合にだけ使える「相続時精算課税」という制度があります。
生前贈与の際には暦年課税の基礎控除を大幅に上回る非課税枠(特別控除)が使える一方、贈与した人が死亡したときにはこの制度を利用して贈与した総額を相続財産に組み入れて、相続税として精算するというものです。
この制度を利用した場合、贈与時に2,500万円までの特別控除を受けることができます。この金額を超えるまでは非課税になり、超えた部分には20%の贈与税がかかります。
この相続時精算課税は、贈与を受ける人が、贈与する人ごとに適用するかどうかを選択することができます。2,500万円の非課税枠は贈与する人ごとに設定され、適用を選択してから贈与する人が死亡するまでの贈与の総額に対する控除額となります。
また、相続時精算課税は、一度適用を選択すると暦年課税に戻すことはできません。2,500万円の控除額いっぱいまで贈与を受けたので、翌年から年110万円までの暦年課税の基礎控除を受けよう、ということはできないということです。
この制度を利用した場合、過去に贈与した財産すべてが相続時に相続財産として組み入れられるのですが、その贈与財産の評価額は贈与時のもので計算されます。これから値上がると予想される土地や、収益が上がる土地は、この制度を使うことで税金を抑えることができます。
この制度は、マイホーム購入資金の贈与を行う場合、使い勝手が向上します。
通常は贈与する側は60歳以上という制限がありましたが、マイホーム資金として贈与する場合は親の年齢は問われません。
また、住宅取得等資金の非課税制度を併用することができます。こちらは親や祖父母が子や孫へ住宅取得のための贈与を行った場合、最大1,500万円が非課税になります(令和3年に適用を受けた場合)。
つまり、最大4,000万円の非課税枠が使えるということです。
教育資金および結婚や子育てのための資金を一括贈与する対策
親や祖父母から子や孫への贈与を助ける制度は、ほかにもいくつか存在します。
次のような場合には贈与税がかかりません。
しかも、この制度を利用する場合、相続開始前3年以内の贈与だったとしても、相続税はかかりません。
教育資金を一括贈与する場合
30歳未満の個人が教育資金にあてるために、両親や祖父母から受けた贈与は1,500万円まで非課税です。
結婚や子育ての資金を一括贈与する場合
結婚・子育て資金も非課税になります。こちらは1,000万円が限度額です。
ただし、この制度を使う場合は贈与を受ける側名義の、管理用口座を開設し管理します。贈与の目的以外でお金を使うと、贈与税がかかります。
また、教育資金については30歳まで(例外あり)、結婚・子育て資金については50歳までに使い切れないと、残っている金額に対して贈与税がかかります。
どちらも、今のところ令和5(2023)年3月31日までの措置です。
妻・夫へ居住用の不動産を贈与する対策(配偶者控除)
贈与税にも配偶者控除が存在します。
これは、「婚姻期間20年以上の夫婦間で、居住用不動産、またはその取得のための金銭の贈与に限り、2,000万円までは贈与税がかからない」という制度です。
しかも、この制度を利用する場合、相続開始前3年以内の贈与だったとしても、相続税はかかりません。
ただし、同一の配偶者からの贈与では、1度しか使えませんのでご注意ください。
おわりに:相続税を減らすには控除を利用すること
基礎控除額は基本的に最低3,600万円です(法定相続人が1人の場合)。かなり高額な非課税枠に思えますが、不動産が関わってくるような相続では決して超えない金額ではありません。
老後資金として3,000万円が必要という報道もありましたから、そのくらいの貯蓄をしている人も少なくはないでしょう。数千万円の退職金をもらう人もいるかもしれません。
相続税は、税金のなかでも知らないと損をすることの多い税金です。逆にいえば、準備さえしていれば大きく抑えることのできる税金でもあります。
基本は各種控除を上手に利用していくことです。とくに贈与関係の控除は非常に充実しています。贈与税の基礎控除など、早めに準備を始めるほど利用しやすい制度もありますから、思い立った段階で一度税理士などの専門家に話を聞いてみてもいいと思います。
控除を使う以外にもいろいろな相続税対策があります。「相続税における「相続対策」と「節税対策」の基本的な考え方」も併せてご覧ください。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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