遺産分割協議とは | 分割割合はどのように決める?必要な手続きや進め方も解説
Tweet被相続人の遺産については、遺言書がない場合、相続人による遺産分割協議で分け方を決めることになります。しかし、初めて経験する人は、遺産分割協議をどのように進めればいいのか、わからないことも多いのでは? ここでは、遺産分割の具体的なやり方や進め方、それに関連した手続きについて紹介していきます。
目次
遺産の引き継ぎ方は2通りある
遺産を分割して引き継ぐためには2つの方法があります。遺言に従って引き継ぐか、相続人による遺産分割協議で分割方法を決めて引き継ぐか、の2つです。前者を「指定分割」、後者を「協議分割」ともいいます。
遺言書があれば、それが優先され、遺言で指定された人がその内容に従って遺産を引き継ぎます。遺言書がない場合は、被相続人と一定の関係にある法定相続人(以下、相続人)が全員で話し合い、遺産の分け方を決めることになります。これが遺産分割協議です。
法定相続人については、下記の記事もご覧ください。
相続人が1人だけであれば、遺産分割協議は必要なく、遺産はその人が1人で引き継ぎ、相続手続きを進めることができますが、相続人が2人以上いる場合は、遺産分割協議は不可欠です。
遺産分割協議はいつまでに行わなければならない、という期限はありません。しかし、これが終了しないと、遺産は相続人の共有状態で凍結され、被相続人の預貯金を払い戻したり、不動産の名義変更(法定相続分による登記をする場合を除く)をしたりという相続手続きはできません。相続税がかかる場合は、申告・納付期限までに遺産分割を済まさないと、相続税額を計算することができず、納税額の捻出にも支障をきたす場合があります。
遺言がなく、相続人が複数いる場合は、できるだけ早く遺産分割協議を始めることが重要となります。
遺産分割協議に伴う手続きとは?
遺産分割協議は、相続人全員で行うことになっています。誰か1人が参加しなかったり、欠けていたりすると、その人だけ不利益を被ることもあるため、全員参加しての話し合いが原則となっています。
できれば一堂に会して話し合う場をつくるのが望ましいですが、遠方に住んでいたり、仕事などで忙しい相続人がいて、日時を合わせて集まるのが難しい場合もあります。そのような場合は、電話やメールで連絡を取り合ったり、リモート会議で話し合うといった方法でもかまいません。最終的に全員の意見を聞いて、遺産分割の方法がまとまれば、話し合いのやり方はどのような形でも問題はありません。
分割協議には代理人が必要なことも
相続人は全員参加が基本とはいえ、相続人のなかに認知症の人や知的障がいのある人がいる場合は、適正な判断ができないため、遺産分割協議には参加できません。その場合は成年後見制度を利用して、家庭裁判所に成年後見人を選任してもらいます。
相続人に20歳未満(2022年[令和4年]4月1からは18歳未満)の未成年者がいる場合は、親などの代理人が遺産分割協議に参加します。親も相続人の場合、たとえば夫が亡くなり、妻と幼い子どもが相続人になるような場合は、子どもの親である妻は利害関係が対立するため代理人になれません。この場合は家庭裁判所に申し立てて「特別代理人」を選任してもらいます。
特別代理人や成年後見人は、相続人以外の親族などに依頼することもできます。
また、相続人のなかに長いこと行方不明で連絡が取れない人がいる場合は、同様に家庭裁判所で「不在者財産管理人」を選任してもらい、その人が分割協議に参加します。
分割方法が決まったら書面にまとめる
前述のとおり、参加できない人も代理人を立てて、全員で誰がどの財産をどのように相続するかという話し合いを行います。その話し合いで遺産の分割方法が決まったら、決まった内容を「遺産分割協議書」という書面にまとめます。
口頭での話しあいだけだと、あとで「言った」「言わない」というトラブルになったり、「そういうつもりではなかった」と言い出す人が出てきたりして、せっかく決まった内容がひっくり返ることもあるからです。そうした事態を避けるためにも、書面にまとめて再度、確認し合うことが重要になります。
遺産分割協議書は、手書きでもパソコンなどで作成してもかまいませんが、誰がどの財産を相続するかを、財産別に具体的に、もれなく記入することが重要です。不動産は土地、建物に分けて、それぞれ登記簿の記載どおりに記入すれば間違いはありません。遺産分割協議書の作り方がわからない場合は、司法書士や税理士などの専門家に聞いて作成するといいでしょう。
作成した遺産分割協議書に全員で目を通し、全員がその内容に承諾したら、必ず作成日を入れて、最後に相続人全員で1人ずつ署名し、実印で押印します。これにそれぞれの印鑑証明書を付けたもので、金融機関での相続手続きや登記所(法務局)での不動産の名義変更などを行うことができます。逆に言うと、遺言書がない場合、相続手続きには遺産分割協議書は必須となるケースが多いので、相続人の人数分だけ作成しておくことをおすすめします。
遺産分割のやり方は4つある
遺言書がない場合、遺産は法定相続割合で分けるものと思っている人もいますが、そうではありません。相続人の話し合いで遺産を分割する場合、どのように分けるかは自由に決められます。全員がその分け方で納得し、合意に達すれば、法定相続割合とはまったく異なる分け方になっても問題ないのです。
とはいえ、自由に決める際にも、遺産の中には株式や不動産、車などの分けにくい財産もあるため、どのように分割したらいいか、迷う場合も少なくありません。そこで、分割協議の前に知っておくと便利な、遺産分割の4つの方法について紹介します。
現物分割
現物分割とは、自宅の土地・建物は母、預金は長女、株式と車は長男・・・といった具合に、遺産を種類別に分けて、そのままの形で引き継ぐ人を決める方法です。相続人は自分が引き継いだ財産を自分1人で引き出したり、名義変更したりすればいいので、手間がかからず、相続手続きも比較的簡単に済むというメリットがあります。
半面、残された遺産によって個々の価値や価額が異なることも多く、誰がどの財産をもらいたいかで揉める場合もあります。全員で公平、均等に分けたいときには、それが難しい場合も多いでしょう。
換価分割
遺産のなかに株式や不動産などの分けにくい財産がある場合、それを売却して換金してから全員または複数の人で分ける方法が、換価分割です。お金に変えて分けることで、均等に分けることもでき、4対6で分けるなど自由に割合を決めて分けることもできます。
ただし、株式の場合はいったん名義変更してからしか売却できず、換金までに価格が動いて、期待通りの金額にならないこともあります。不動産の場合はさらに名義変更と売却までに時間がかかり、売り急げば予想以上に低い価格で売却せざるを得ないこともあります。いずれも、換金したお金を相続税の支払いに充てたい場合は、特に注意が必要です。
代償分割
代償分割とは、遺産の多くが不動産などの分けにくい財産の場合、その不動産を相続した人が、他の相続人に代償金として金銭などを支払う方法のことです。
たとえば、親の遺産が実家と少しの預金だけで、それを子ども3人で分けたいときに、実家を相続した子どもが他の子どもに代償金を支払って納得してもらう、といった利用方法があります。
代償金はいくら支払わなければならない、という決まりはありません。特定の相続人にだけ取得する遺産が偏ってしまう場合に、できるだけ公平性を保つため、また他の相続人への配慮として、双方の話し合いで金額を決めることができます。
共有分割
共有分割とは、特定の遺産を複数の相続人の共有名義で相続する方法です。通常は不動産の相続などで利用されますが、その場合はそれぞれの持分割合を決めて、共有名義で登記します。ただし、その不動産を売却したり、賃貸などに回して活用したりする際には、共有名義にした相続人全員の承諾や同意が必要になります。また、誰が管理するかという手間やコストの負担についても決めなければならず、あとあと面倒な事態になりがちです。
不動産の共有名義は、そのうちの1人に相続が発生すると、次の相続人がまた引き継ぐなどして共有名義の人数が増え、権利関係が複雑になってしまうこともよくあります。そのため、できるだけ不動産は共有名義で相続するのではなく、上記の換価分割や代償分割を利用して相続する方法を検討するといいでしょう。
遺産分割の割合はどうする?
前に説明した通り、誰がどれくらいの遺産を相続するかという遺産分割の割合は、特に決められていません。相続人が1人で、遺言もない場合は、その相続人が遺産をすべて引き継ぎますが、遺言で相続人以外の人に遺贈や寄付を指定していれば、法的に問題がない限り、それに従うことになります。
相続人が2人以上で遺言がなければ、誰が遺産の何を相続するか、どれくらいの割合で相続するかも遺産分割協議で自由に決められます。ですから、先祖代々の家や土地を守るため、家を引き継ぐ子どもの1人がすべて相続するという結果になっても、他の相続人がそれに合意すれば、そのとおりにすることができます。
とはいえ、最近は子どもの相続分は均等という考えが浸透し、法定相続割合にこだわる相続人も少なくありません。法定相続割合は、相続税を計算するときに利用するほか、遺産分割で揉めて家庭裁判所の調整などに進んだ場合(詳しくは後述)に、分割の目安とされるものです。ですから、相続人同士の話し合いがうまく進まない場合や、揉めそうにときは、いったん法定相続割合で分けるとどうなるかを検討するのも1つの方法です。
法定相続割合については、下記の記事もご覧ください。
遺産の総額をもとに、法定相続割合で分割しても、遺産には不動産などの金額に換算しづらいものもあり、そのとおりに分けられない場合も多いでしょう。そのため、法定相続割合はあくまでも目安と考え、それぞれの状況に応じて、相続人ごとに引き継ぐ遺産を増減するなどして調整していくのが現実的といえます。相続人が配偶者や子ども、父母の場合は遺留分があるため、本人が辞退するのでなければ、遺留分を配慮した分け方を考えることも大切です。
不動産があるときの遺産分割のポイント
一般的に遺産に不動産が含まれている場合は、誰が相続するか、どうやって分けるかでトラブルになりやすいようです。相続税が課税される人の遺産価額の内訳では、土地が半分近くを占めるなど、不動産の中でも特に土地の資産価額が大きいこともその要因といえるでしょう。そこで遺産に土地・建物などの不動産がある場合にどうやって分ければいいか、注意したいポイントを紹介します。
自宅は居住する人が相続するのが基本
被相続人が居住していた自宅の土地・建物は、そこに居住していた配偶者や同居の子どもなどがいれば、そのどちらかが相続するのが自然でしょう。相続税がかかる場合、居住用の宅地は配偶者が相続するか、同居の親族が相続して住み続ける場合、「小規模宅地等の特例」を利用でき、土地の評価額を80%減額することができます(面積の制限あり)。
土地の評価額が大きく下がれば、相続税がかからなくなったり、かかる場合も大幅に軽減できたりするため、他の相続人にとっても税負担の軽減につながります。
配偶者が相続するなら、それ以外の相続人は納得しやすいものですが、相続人が子どもだけで、同居の子どもが自宅を相続することで、他の子どもの相続分が少なくなってしまう場合は、前に説明した代償分割を利用し、他の相続人に納得してもらう方法もあります。
配偶者も同居の子どももいない場合、別居の子どもが相続する場合でも、過去3年以内に本人、本人の配偶者または本人の三親等内の親族などの持ち家に住んだことがないなどの条件を満たせば、上の特例を使える場合があります。しかし、相続人は全員、持ち家に住んでいて、被相続人の家に住む予定がないなら、売却してから現金で分ける換価分割を検討するといいでしょう。
被相続人の事業用の土地やアパートなどの貸付用の宅地についても、その事業などを承継する人が相続すれば、上と同じ特例により、宅地の評価額は一定の減額を受けられるので、合わせて配慮するといいでしょう。
土地が広い場合は現物分割を利用できる
被相続人の持ち家や、それ以外に所有する不動産でも、敷地の面積が広い場合は2つか3つに分割して、現物分割で相続できる場合もあります。ただし、建物がついている場合は、敷地の分け方は難しくなり、場合によっては解体などの手間もかかる場合があります。
1つの土地を一定の面積で分けて、複数の相続人がそれぞれ相続する場合は、測量や境界線の確定をして、登記の際には分筆という手続きが必要になります。いずれも土地家屋調査士などの専門家に依頼する必要があるため、事前に相談するといいでしょう。
土地は所在地が住宅地か商業地かという立地や、周辺地域の状況などによって、広すぎても狭すぎても売却や活用はしにくくなり、建物などを建てる際にも制限を受けることがあります。土地の分割や活用方法は必ず専門家に相談して行うほうがいいでしょう。
共有分割はできるだけ避ける
相続する土地を複数の人で共有状態にすると、売却する際に共有名義者全員の同意が必要になり、有効活用をしたいと思っても、全員の意見がまとまらず、思うように活用できない場合があります。売却することを前提に、一時的に共有名義で相続する場合は別ですが、使いみちが決まらないまま、共有分割にして遺産分割をまとめるというやり方はできるだけ避けるほうが賢明です。
遺産分割がまとまらないときは?
遺産分割協議が長引いて、相続人同士ではどうしても話がまとまらない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停を利用することができます。裁判所で第三者を交えて話し合うことで、冷静に遺産分割の方法を決められることもあります。
遺産分割調停
調停を利用する場合は、相続人の1人または複数人が申立人、そのほかの相続人が相手方となり、相手方のうち1人の住所地の家庭裁判所、または当事者が合意で定める家庭裁判所で申し立てます。申し立ての際は、申立書のほか、被相続人と相続人全員の戸籍謄本などの必要書類を提出し、収入印紙1200円分と、連絡用の郵便切手代がかかります。
調停は平日の2時間程度、1~2か月に1度のペースで行われます。当事者同士は会わず、申立人と相手方が交互に出廷し、調停室で裁判官と調停委員2人を交えて話し合います。調停に必要な資料は、主張した側が集めて裁判所に提出する必要があります。調停委員は双方の主張を聞き、中立的立場で合意を目指してくれます。弁護士を付ける必要はありませんが、弁護士がいれば法的な助言をもらえ、代理人として調停に出席してもらうこともできます。
最終的に裁判官と調停委員が提案する遺産分割の方法に対し、1人でも反対する人がいれば調停は成立せず、全員の合意によって調停が成立します。成立後は調停証書が作成されるので、これで預貯金の払い出しや不動産の名義変更などの手続きができます。
遺産分割審判
調停が成立しない場合は、自動的に遺産分割審判に進み、審判では裁判所が判断して結論を伝えます。審判に不満があれば、審判が下った翌日から2週間以内に不服申し立て(即時抗告)を行う必要があり、2週間を過ぎると審判が確定します。
時間や労力をかけて調停や審判を行っても、最終的には法定相続分で分けることも多いという話もあります。必ずしも自分に有利な結果になるとは限らないため、家庭裁判所の調停や審判に進まずに済むように、相続人同士で冷静に分割方法を決めたいものです。
遺産分割が遅くなるとどうなる?
遺産分割の話し合いを先送りにして、何もしてしなかった場合、どうなるかを知っておくことも大切です。たとえば、遺産分割をしていない財産は、すべて相続人の共有状態となり、預金の払い戻しや不動産の名義変更なども、全員の合意がなければできなくなります。
相続税がかかる場合、申告期限までに遺産分割協議がまとまらないと、法定相続分で分割したものとして相続税の申告・納付を行わなければならず、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例などが利用できなくなります。その結果、予想以上の税負担になることもあり、それを各相続人が自己負担で納めなければなりません。その後、一定の期限までに遺産分割がまとまれば、再度申告して、納めすぎた税額があれば更正の請求で払い戻しを受けることもできますが、申告だけでも2度手間になります。
不動産の場合、相続人が決まらないと所有権の移転登記もできず、所有者が被相続人になっている状態では、売却や活用も難しくなります。それでいて、固定資産税などの負担は相続人全員で負担することになり、管理の手間とコストもかかります。さらに借金や保証人といったマイナスの財産がある場合は、原則としてそれも相続人全員で共有し、返済の義務を負うなどのリスクがあることを知っておきましょう。
遺産分割が決まらないうちに、相続人の1人が亡くなると、その人の相続人たちがまた、相続人に加わるため、遺産分割協議はさらに複雑になり、面倒な手続きも増えてしまいます。遺産分割協議はできるだけ早く、すみやかに進めることが大切となります。
おわりに:遺産分割は期限を決めて話し合う
繰り返しになりますが、遺産分割がまとまらないと、前述のように相続税がかかる場合はとても不都合な状況になるため、相続税額の計算や申告書の作成、納税資金の準備の時間も考えて、相続開始から半年後くらいまでを目途に、まとめるようにするといいでしょう。
遺産の洗い出しから始めると、6カ月という時間はとても短く、相続人を慌てさせることにもなるため、高齢になったら誰でも、日ごろから財産の整理やリスト化を進めておきましょう。
相続税がかからない場合でも、遅くなればなるほど話し合いはしづらくなり、いつまでたっても相続手続きは進められなくなります。遅くても1年以内には結論を出せるように、相続人全員で協力し合うようにしましょう。取得する遺産が多い、少ないなどということで、相続人同士で揉めたり争ったりするようなことになれば、遺産よりももっと大事な家族のきずなを失うことにもなりかねないことを、心に留めておきたいものです。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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