相続の知識

暦年贈与とは?税制改正を踏まえた活用方法や注意点を解説

日本の贈与税や相続税は累進課税となっており、多額の財産を引き継ぐ場合には、受け取る側に税金が発生します。しかし、贈与者の生前から暦年贈与をはじめとしたさまざまな制度を上手に活用することで、効率的に相続税対策を行えます。本記事では、暦年贈与のメリットや活用事例、併用できる各種制度を解説します。

暦年贈与とは

暦年贈与とは、「1月1日から12月31日までの1年間における贈与額が110万円以下であれば、贈与税が発生しない」という贈与税の基礎控除の仕組みを使った贈与の方法をいいます。例えば、親から子へ年間100万円ずつ贈与をするとして、それを10年間続けた場合は、合計で1,000万円の贈与を非課税で行うことができます。

贈与の対象となる財産の種類は、現金や土地・建物、さらには美術品・骨董品など、金銭的価値のあるものは全てですが、暦年贈与を活用する際においては年110万円以下に抑える必要があるため、主に現金を計画的に贈与するのがおすすめです。この制度を上手に活用することで、贈与する人(贈与者)は生前に財産額を減らすことができ、それが将来の相続税の軽減へとつながります。

ただし令和5年度の税制改正により、2024年1月1日以降の贈与については、相続税の課税対象財産に加算される贈与の期間が「贈与者の相続発生前3年間」から「7年間」へと延長されました。この改正により暦年贈与は、なるべく早めの開始・対策が強いられることとなりました。(詳しくは【暦年贈与を行なう際の注意点】の章で解説しています。)

非課税枠は110万円以下

前述した通り、暦年贈与では年間110万円までを非課税で贈与でき、110万円を超えた部分に関しては贈与税がかかります。贈与額は贈与を受ける人(受贈者)を基準に計算され、年間110万円以下の場合は贈与税の申告も不要です。

たとえば、父から50万円、母から50万円の贈与を受ける場合は、受贈者が受け取る贈与額は合計100万円なので非課税枠内です。しかし、父から100万円、母から100万円を受け取る場合は、合計200万円となり非課税枠を超えるため、200万円-110万円=90万円分が課税対象となります。このように、受贈者側を軸に考えて贈与税が課される点に注意が必要です。

贈与税の税率は2種類

年間の贈与額が110万円を超えた場合は、贈与税の申告が必要です。
贈与税は累進課税のため、多額の財産を受け取るほど税率が上がります。贈与税の税率の幅は10%~55%です。一方、父母・祖父母などの直系尊属から18歳以上の子や孫へ贈与する場合に適用となる「特例税率」と、それ以外の贈与に適用される「一般税率」では税率 が異なるため、贈与税の計算の際にはどちらに該当するのか確認が必要です。

贈与税率については以下の記事に早見表を載せていますので、参考にご覧ください。

暦年贈与と相続時精算課税との違い

贈与税の課税制度方式には、もう一つ「相続時精算課税制度」という方式があります。この制度は暦年贈与と異なり、利用申請(相続時精算課税選択届出書の提出)を行うことで活用できる方式です。相続時精算課税では、特別控除額として最大で2,500万円まで贈与税が非課税になりますが、名前の通り、贈与した累計金額がすべて相続発生時に相続税の課税対象財産とされる制度です。
まとまった金額の早期贈与には活用できる制度ですが、実際には相続税で精算されるため、実質的な節税にはつながらない制度とされていました。

しかし、2023年の税制改正により、相続時精算課税制度を選択する場合でも「年間110万円までの基礎控除」を利用できるようになりました。この改正によって、使い方と贈与金額によっては節税につながる可能性が高まりました。年間110万円までの贈与は相続開始まで何度でも行うことができ、累計で2,500万円を超えない限り非課税となります。ただし、累計2,500万円を超えた部分については相続財産に加算され、一律で20%の贈与税が課されます。

相続時精算課税制度の詳細については、下記の記事でも紹介しています。2023年の改正情報と過去の制度との比較についても解説していますので、検討する際にはぜひ参考にご覧ください。

暦年贈与と相続時精算課税方式それぞれの特徴を理解し、適切に使い分けることが重要です。加えて、相続時精算課税を選べる条件は、贈与者が贈与をした年の1月1日時点 で、60歳以上の父母または祖父母であること、受贈者が贈与を受けた年の1月1日時点 で、18歳以上の直系卑属にあたる推定相続人(子)または孫であることです。

暦年贈与の活用が適している主なケース

暦年贈与を活用するのにふさわしいケースは、主に下記の二点です。

  • 贈与する相手が複数いるケース
  • 贈与者が若いケース

贈与したい人数と、贈与にどの程度のスパンをかけていくのかがポイントとなります。ここではそれぞれのメリットについて取り上げます。

贈与する相手が複数いる場合

年間の非課税枠が110万円であるゆえ、多額の財産を一度に贈与したい場合には向いていません。ただし、多額でも1人ではなく複数人に贈与する場合は、暦年贈与の活用が適しています。

たとえば孫が多いケースなどでは、10人に非課税上限の110万円をそれぞれ贈与すると、総じて相続財産総額を抑えることにつながります。条件が揃っていれば、贈与者が健在の頃から計画し、適切な手続きを経て暦年贈与を活用すると、メリットも最大限得られます。

贈与者が若い場合

贈与者が若い場合は、贈与税の非課税枠を長期間活用できる点がメリットです。たとえば、贈与者が110万円の非課税枠内で贈与を行う場合、一度に贈与できる金額はこの枠内に限られます。しかし、贈与者が若い時期から毎年贈与を行うことで、長い年月をかけて110万円の非課税枠を利用することが可能です。

10年以上にわたって贈与を続ければ、非課税で1,000万円以上の贈与も実現できます。国民の平均寿命を考慮すると、少なくとも10年から20年以上の時間をかけて贈与を行うことで、贈与税の節税効果を最大限に活かすことができます。

このような贈与計画は、生命保険の設計などで使われる簡易生命表を参考にしながら進めることが一般的です。厚生労働省の資料によると、男性の平均寿命は約81.05歳、女性は約87.09歳となっています。

参照:厚生労働省|令和4年簡易生命表の概況

暦年贈与を行う際の具体的な流れ

暦年贈与をしていくことを決めた場合、必要な手続きについては大きく三つに分けられます。

  1. 贈与者と受贈者間で贈与契約書を締結すること
  2. 契約書の内容通りに贈与を行うこと
  3. 贈与額が110万円を超える場合は贈与税申告を行うこと

ここからは、それぞれの手続きの詳細や注意点について解説します。

1. 贈与者と受贈者間で「贈与契約書」を結ぶ

暦年贈与が行われる際は、そのやりとりを証明するために贈与者と受贈者間で贈与契約書を結ぶことが一般的です。契約には双方の合意が前提となるため、贈与契約書は合意を証明するためにも用いられます。具体的な内容として、「誰が誰に、いつ、いくら贈与する」などの事柄を明記しておく必要があります。契約書は2通作成し、双方が署名捺印したものを贈与者・受贈者それぞれが1通ずつ保管します。

契約書に記載すべき内容や項目は以下の通りです。
  • 贈与契約書の作成日
  • 贈与者(甲)の氏名と住所
  • 受贈者(乙)の氏名と住所
  • 贈与財産について具体的に種類・金額など
  • 贈与日(贈与する日)
  • 贈与方法(金銭の場合、基本的には銀行振り込みがよい)
  • 贈与者および受贈者の署名捺印

2. 贈与者が受贈者の金融機関に振り込む

贈与契約書の締結が完了したら、契約書の内容に則り、贈与実行日に指定の金融機関口座へ振り込みます。銀行振り込みのメリットは、金融機関に記録が残ることでトラブルの回避につながることです。ただし、後述する名義預金とみなされないように、受贈者が管理できる口座へ入金しなければなりません。
贈与方法については法律で定められているわけではありませんが、特別な事情がない場合は銀行振り込みで行うのが好ましいです。

3. 贈与額が110万円超の場合、受贈者は贈与税申告を行う

1年間(1月1日~12月31日)の贈与額が110万円を超えた場合、受贈者は贈与税の申告を行う必要があります。申告方法は以下の4種類です。
  • 税務署で直接行う
  • 所轄税務署へ書類を郵送する
  • e-Taxを利用した電子申告
  • 税理士に代行依頼する

不備が発生しないよう、金額や状況に応じて負担の少ない適切な方法を選択し、申告手続きを進めることが重要です。

暦年贈与と併用できる非課税制度や特例措置

贈与者と受贈者の関係性や贈与の目的によっては、暦年贈与と併用して別の非課税制度を活用することも可能です。具体的には以下の4つがあげられます。
  • 結婚・子育て資金を一括贈与する
  • 住宅取得等に関する資金贈与
  • 教育資金を一括贈与する
  • 夫婦間での不動産贈与を行う

それぞれの特例措置についての詳細や、適用に必要な要件を解説します。

結婚・子育て資金の一括贈与の特例

結婚や子育てのための資金として両親、祖父母などの直系尊属から一括で贈与を受けた場合、1,000万円までの非課税枠が認められています。贈与契約の支払い日時点で受贈者の年齢が50歳未満までと定められていること、また贈与者が亡くなった時点で残高があると相続税がかかる可能性があることなどいくつかの注意点がありますが、暦年贈与と併用すれば最大1,110万円の非課税枠が活用できます。

現在、適用できるのは2025年3月31日までとされています。さらに詳しい適用条件などについては、国税庁のホームページをご覧ください。

参考:国税庁『No.4511 直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税』

住宅取得等に関する資金贈与の非課税特例

住宅取得等に関する資金贈与の非課税特例として、直系尊属から住宅取得にかかる費用として資金贈与を受けた場合、最大で1,000万円まで非課税となる特例があります。ただし、省エネ等住宅の基準を満たさない場合は、非課税額が500万円となる点に注意が必要です。

また、この特例も暦年贈与と併用することが可能で、最大で1,110万円が非課税となります。適用期限は2026年12月31日までです。適用条件が細かく定められているため、詳しくは以下の記事もご覧ください。

教育資金の一括贈与の特例

教育資金の一括贈与の特例として、30歳未満の子または孫が直系尊属から教育資金として一括で贈与を受けた場合、または受け取った金銭で有価証券などを購入した場合は、最大1,500万円が非課税となります。ただし、受贈者となる30歳未満の子・孫は、所得が1,000万円以下であることが必要です。

この特例も暦年贈与と併用が可能で、最大まで活用すると1,610万円までが非課税となります。適用されるのは2026年3月31日までです。

夫婦間での不動産贈与に関する配偶者控除(おしどり贈与)

婚姻歴20年以上の夫婦間で行われる不動産贈与や不動産購入用の金銭贈与に関しては、配偶者控除が適用されます。この特例は「おしどり贈与」とも呼ばれ、最高2,000万円までが控除(配偶者控除)できるため、暦年贈与と併用することで、最大2,110万円が非課税となります。

おしどり贈与は夫婦間の資産移転を円滑に行うための優遇措置であり、老後の住まいの確保や資産形成をスムーズに進めることが可能です。期限は定められていませんが、適用には居住期間をはじめとしたさまざまな要件が求められるため、詳しくは以下の記事もご覧ください。

暦年贈与を行う際の注意点

暦年贈与を検討する際は、以下の点について押さえておく必要があります。

  • 定期・連年贈与だとみなされないようにする
  • 名義預金とみなされないようにする
  • 相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される

不可抗力の場合もありますが、不注意で暦年贈与以外の形式とみなされたり、税務調査の対象になったりする場合もあるため、十分な準備をしたうえで贈与を実行しましょう。それぞれの注意点について細かくお伝えします。

定期贈与だとみなされないようにする

定期贈与とみなされてしまうと、贈与税の課税対象になるため、注意が必要です。定期贈与は、契約書で定めた期間・財産を毎年贈与する考え方です。贈与額や贈与時期が毎年同じであり、契約書が存在するという特徴は暦年贈与と似ている部分がありますが、最初から贈与する総額が決まっており、それを毎年分割していると判断されると、定額贈与として契約書の金額が贈与税の課税対象になります。

贈与が発生する都度、贈与契約書を作成し、毎年時期や金額をずらして贈与を行う対策が有効です。

名義預金とみなされないようにする

名義預金とは、口座の名義人と実際に入出金している人が異なることです。贈与税や相続税の課税は実質的に所有している人に課税されるため、税務調査で名義預金とみなされないようにする必要があります。

たとえば、祖父母が孫名義の口座に入金している場合や、親が子ども名義の口座に入金している場合は、名義人に口座情報を渡すまでは実質的な所有者は祖父母や親です。また、夫の給料を妻名義の口座で管理している場合も、預金の実質的な所有者は夫 と判定されます。
名義預金には贈与税の時効もないため、税務調査で指摘されないよう贈与契約書を締結したり、口座の入出金を名義人ができる状態にしたりするなどの対策が有効です。

相続開始前7年以内の贈与は相続財産に加算される

令和5年税制改正により、生前贈与加算の加算期間、つまり暦年贈与の相続税への持ち戻し期間が3年から7年に延長されました。持ち戻し期間とは、死亡直前に贈与することで相続税を回避しようとする行為を防ぐために設けられた期間です。なお、持ち戻し期間の延長は2024年1月1日から段階的に行われ、2031年1月1日からは完全に7年となります。

暦年贈与は一度廃止も検討されていましたが、結果的に生前の加算期間を7年へ延長することでまとまりました。相続税対策としては開始時期の検討をより慎重に、かつ早期から実施する必要性が高まっています。

暦年贈与には注意点が多い!専門家に相談して計画的に行おう

暦年贈与を利用すれば年間110万円まで非課税で贈与できるうえ、結婚・子育て資金や住宅購入資金のための特例制度を併用することでさらに効果的な節税対策が期待できます。ただし、それぞれの制度には適用の要件が細かく定められており、内容の確認と適切な手続きが必要です。

相続専門の税理士法人レガシィは60年の歴史があり、経験豊富な税理士による適切な贈与・相続のコンサルティングを行っております。相続税対策についてもお客様に沿ったご提案をいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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