暦年課税とは? メリット・デメリットや注意点をわかりやすく解説
Tweet暦年課税とは、1年間に行われた財産贈与に対する課税方式のひとつです。本記事では、暦年課税の基本的な仕組みや相続時精算課税制度との違い、そしてメリット・デメリットについて解説します。暦年課税の仕組みや注意点を理解することで、賢く財産を移転し、相続税の負担を軽減する方法が見えてきます。
目次
暦年課税とは
贈与税に対する2つの課税方式のうちのひとつです。暦年課税は、1年間(1月1日から12月31日まで)に行われた財産贈与に対して課税されます。この期間内の基礎控除額は110万円で、これを超える部分に対して受贈者(贈与を受ける人)が申告し、贈与税を支払います。
参照:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
ここで重要なのは、110万円とは贈与者(贈与する人)が贈与できる額ではなく、あくまで受贈者側が意識する金額であることです。例えば、1年間に複数の贈与者から贈与を受けても、贈与された額の合計が110万円以下であれば贈与税はかかりません。詳しい申告方法については以下を参照してください。
暦年課税の対象財産には、現金、有価証券、不動産などが含まれます。また暦年課税の利用者に制限はありません。贈与者が誰であっても、受贈者が誰でも構いません。暦年課税の税率は累進課税制度が採用され、基礎控除額110万円を超過した額に応じて10%から55%まで変動します。何度でも利用できるため、相続対策として財産を計画的に減らす目的でも利用されています。
なお、暦年課税を撤廃し相続時精算課税制度と一本化することが検討されたこともありますが、令和4年度税制改正(2022年時点)では見送られています。詳しくは以下の記事もご覧ください。
暦年課税と相続時精算課税制度との違い
暦年課税とは別に、もうひとつの課税方式として「相続時精算課税制度」があります。暦年課税の違いに対象条件が挙げられます。相続時精算課税制度では、贈与者は60歳以上の父母・祖父母、受贈者については18歳以上の子または孫が対象です。
非課税される限度額も異なります。相続時精算課税制度では、受贈者には2,500万円まで贈与税が課税されません。これにより、贈与税の負担を軽減することが可能ですが、贈与者が亡くなると、贈与した額が相続財産に組み込まれます。そのため、相続税が別途かかります。
また、法改正により2024年1月から、毎年110万円までの基礎控除額が認められ、この部分は贈与者が亡くなっても相続財産に組み込まれません。相続時精算課税制度についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
暦年課税のメリット
暦年課税には、相続時精算課税制度とは異なり、以下のメリットが存在します。
- 親子関係や年齢に関係なく、誰でも自由に贈与を行える
- 相続人・被相続人が若いうちから相続財産を移転できる
贈与者・受贈者の対象条件がない
暦年課税では、親子関係や年齢に関係なく、誰でも自由に贈与を行えます。友人や知人、オーナーと従業員など、どのような間柄でも構いません。特に相続財産においては、相続時精算課税制度では不可能であった60歳未満の親が子供に贈与することや、18歳未満の孫が受贈することも、暦年課税では可能です。年間110万円の基礎控除枠に注意すれば、早い段階で財産を移転できます。
暦年課税のデメリット
暦年課税には以下のデメリットも存在します。
- 110万円を超える贈与には、最大55%の贈与税がかかる
デメリットを詳しく見ていくとともに、回避する方法を解説していきます。
財産が多額な場合には向いていない
暦年課税は毎年110万円までの贈与に対して非課税という大きなメリットがありますが、これを超える分には贈与税がかかります。累進課税制度が採用されており、基礎控除後の課税価格に応じて最低10%から最大55%の税率が適用されます。例えば、基礎控除後の課税価格が1,000万円を超えると、一般贈与では税率が45%、特例贈与では40%となります。そのため、財産が多額な場合には暦年課税は向いていません。
参照:国税庁|No.4408 贈与税の計算と税率(暦年課税)
このような高額の税負担を避けるためには、複数回に分けた贈与が必要です。毎年110万円以内の贈与を繰り返すことで、非課税枠を最大限に活用しながら、10年間で1,100万円の財産を移転できます。ただし、受贈者が他の人からも受贈していた場合、基礎控除額110万円を超過してしまうので注意が必要です。
暦年課税の注意点
暦年課税を用いて贈与する場合、以下の点に気をつけてください。
- 定期贈与を回避するため、贈与契約書の作成をする
- 生前贈与加算の期間が7年になったことを考慮する
それぞれ詳しく見ていきます。
定期贈与とみなされないように注意する
暦年課税を利用して贈与する場合、贈与契約書の作成と保管を行い、税務署に対して「贈与」であることが明確にわかるように証拠を残すことが重要です。しかし、例えば契約書に「毎年100万円、10年間にわたり贈与する」などと記載してしまうと、総額1,000万円を分割して贈与していると判断され、「定期贈与」とみなされる可能性があります。定期贈与とは、毎年一定額を数年にわたって継続的に贈与することを指し、その総額に対して贈与税が課せられるものです。上述の例では、1,000万円全額が一度に課税対象となる恐れがあります。
定期贈与とみなされないためには、毎年独立した贈与契約を締結することが肝心です。毎年契約時期をずらしたり、贈与額をある年は110万円、ある年は90万円と変えたりすることも必要です。
このように、適切に贈与契約書を作成・保管することで、定期贈与と判断されるリスクを回避できます。
受贈者が法定相続人の場合、持ち戻し期間7年に注意する
相続が発生すると、一定期間内に被相続人が生前に贈与した額が相続財産に組み込まれます。これが生前贈与加算です。従来の生前贈与加算の期間は3年でしたが、令和5年度税制改正(2023年)により、2024年1月1日以後の贈与は7年となりました。例えば毎年100万円を贈与されたとしても、相続が発生した時点で、700万円(100万円×7年)が相続財産に加算され、相続税の対象となります。
受贈者が法定相続人である場合の暦年課税には持ち戻し期間7年という重要なポイントがあるため、節税効果を最大限に引き出すためには、事前に十分な計画と準備が必要です。生前贈与加算についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
暦年課税が有利に働く2つのケース
相続時精算課税制度を選ばずに暦年課税を利用した場合、以下の点で有利になります。
- 若いうちから基礎控除を最大限に利用した長期的な資産移動が可能
- 受贈者が多ければ多いほど、毎年の基礎控除額が増える
それぞれ詳しく見ていきます。
贈与者が若く、長期的な資産移動が可能な場合
生前贈与加算により、相続発生前の7年間の贈与額は相続財産に組み込まれます。しかしながら、贈与者が健康かつ若ければ、7年という期間を大幅に超えて資産を移動させることが可能です。例えば、親が若いうちに子供に対して毎年100万円の贈与を行えば、10年で1,000万円、30年で3,000万円を非課税で移動できます。暦年課税では、年間110万円の基礎控除を最大限に活用し、時間をかけて贈与を行うことで、将来の相続時の負担軽減につなげられます。
贈与先となる対象者が多い場合
暦年課税の基礎控除は受贈者に適用されます。したがって、受贈者が多い場合は、一度に多額の贈与を行うことが可能です。例えば、親が3人の子供に贈与する場合、贈与者(親)から見て毎年330万円(110万円×3人)が非課税で贈与できます。このように非課税枠を最大限に活用することで、相続税の負担が軽減されます。また、親から見て法定相続人に当たらない孫にも贈与することで、さらに非課税で資産の移転ができます。
生前贈与のお悩み・ご相談は専門家まで
暦年課税は、年間110万円の基礎控除を活用して財産を非課税で贈与する方法です。基礎控除を最大限に活用し、早い段階から贈与を行うことで、相続税の負担を軽減し、計画的に財産を移動することが可能です。
相続時精算課税制度とどちらを選択すべきか悩まれる方も多いと思います。創業60周年を迎えた税理士法人レガシィは、相続専門の税理士法人です。生前贈与や相続対策に関する悩みを相談したい、また暦年課税について有効活用したいと考えている場合には、ぜひご相談ください。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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