相続の知識

孫への生前贈与のやり方を解説|節税になる特例や非課税制度を紹介

お孫さんが幸せに暮らせるように資金面でサポートしてあげたい気持ちがある中、贈与税の存在について気になっている方もいるのではないでしょうか。贈与税はすべての贈与に課税されるわけではありません。知識があれば、課税を回避してお孫さんへの財産贈与が可能です。本記事で孫への生前贈与について詳しく解説します。

孫への生前贈与が節税観点でおすすめな理由

孫に生前贈与することが節税につながる理由は、大きく2つあります。

  • 孫は生前贈与加算の対象外であるため
  • 一代飛ばしにより、長期的な税負担軽減になるため

以下、それぞれ詳しく解説します。

1. 持ち戻しルールの対象外であるため

生前贈与には、「持ち戻しルール」と呼ばれる制度があります。これは、被相続人の死亡前一定期間内に行われた贈与について、その財産を相続財産に加算し、相続税を計算する仕組みです。従来、この持ち戻し期間は「死亡日から3年以内」とされていましたが、2023年の税制改正により、経過措置を経て「7年以内」に延長されることとなりました。対象となるのは、財産を取得する法定相続人や遺言により財産を受け取る人です。

しかし通常、孫は法定相続人ではないため、たとえ死亡の7年以内に贈与していたとしても、持ち戻しの対象とはならず、相続税の課税対象から外れます。これも、孫への生前贈与が節税対策として有効とされる理由のひとつです。

ただし、例えば親(贈与者の子)がすでに亡くなっており、孫が「代襲相続人」となる場合は注意が必要です。そのような場合は孫が法定相続人となるため、生前贈与が持ち戻しの対象となる可能性があります。

持ち戻しルールについては、以下の関連記事をご覧ください。

2. 一代飛ばしができるため

孫への生前贈与が節税対策として注目される理由のひとつに、「一代飛ばし」が可能になる点があります。通常、財産は「親→子→孫」と2段階にわたって相続され、その都度相続税が課税されます。

しかし、生前に「子」を飛ばして孫に財産を移転すれば、相続税が発生するタイミングを1回分減らすことができます。結果として、長期的に見たときの税負担を軽くする効果が期待できます。また、この方法は将来の世代間の資産形成の一助となるほか、孫の教育資金の援助にも活用できます。

ただし、孫への遺贈や養子縁組を通じた相続の場合には、通常の相続税額に加えて20%の加算課税が行われるケースがあります。制度の詳細を理解したうえで活用することが大切です。
一代飛ばしについては、以下の記事で詳しく解説しています。

孫に非課税で生前贈与する5つの方法

贈与税には、いくつかの非課税特例が設けられており、特例を活用することで非課税での孫への生前贈与が可能となります。方法としては、次の5つが挙げられます。

  • 教育資金として贈与する
  • マイホーム資金として贈与する
  • 結婚・子育て資金として贈与する
  • タイミングと金額を調整して渡す
  • 基礎控除を活用する

以下、それぞれ詳しく解説します。

1. 「教育資金の一括贈与に係る贈与税非課税措置」を活用する

原則として、日常生活に必要な範囲の教育費や生活費は贈与税の課税対象外です。そうしたことから、祖父母や父母など直系尊属が子や孫(ひ孫も可)に対して教育資金を一括で贈与する場合、一定の要件を満たせば最大1,500万円まで贈与税が非課税となる特例が設けられています。

教育資金非課税贈与制度の要件

  • 贈与者:父母・祖父母・曾祖父母など、受贈者の直系尊属に限られます。配偶者の親やおじ・おばなどは対象外です。
  • 受贈者:0歳から30歳未満の子・孫・ひ孫など直系卑属が対象です。贈与を受けた年の前年の所得が1,000万円以下である必要があります。

活用する際は、以下の点に注意しましょう。

  • 受贈者ごとに金融機関で専用口座を設ける必要がある

1人につき1金融機関・1営業所でしか開設できません。

  • 教育資金として実際に使ったことを証明する必要がある

領収書等の提出がない場合や使途が教育資金以外の場合、対象外となります。必ず領収書等を保管しておきましょう。

  • 教育資金が「必要な都度」支払われる場合に限られる

教育資金としての支出が必要な都度でない場合、一括贈与でも贈与税が課される可能性があります。

  • 利用できるのは原則29歳まで

30歳になった時点で贈与された財産を使い切れなかった場合には、その残額に対して贈与税がかかります(ただし、30歳になった時点に在学中であれば、40歳までの利用が可能)。

  • 途中で贈与者が亡くなった場合、残額が相続税の課税対象となることがある

なお、この場合の教育資金とは、入学金や授業料、入園料、保育料などを指します。また、学用品の購入費や修学旅行の費用なども含まれます。塾や習い事といった学校以外の費用にも使えますが、その場合の非課税は500万円までとなります。

2. 「住宅取得等資金の非課税の特例」を活用する

教育資金の場合と同じように、住宅の購入に関する金銭的なサポートについても非課税枠の大きな特例が設けられています。これを活用して、非課税枠で生前贈与できます。

住宅資金非課税贈与制度の要件

父母や祖父母といった直系尊属から住宅の購入や新築、増改築のための資金の贈与を受けた場合、一定の要件を満たせば贈与税が非課税になります。非課税枠は最大で1,000万円(省エネ等住宅の場合)です。

活用するための贈与者の要件は、父母や祖父母などの直系尊属であることです。受贈者は、贈与を受けた年の1月1日時点に18歳以上であることのほか、さまざまな要件が設けられています。

また、住宅にも日本国内にある住宅であることや床面積が40㎡以上240㎡以下であることなどさまざまな要件があります。

資金は贈与を受けた年の翌年3月15日までに、贈与された資金の全額を住宅の新築・取得・増改築等に充てるか、あるいはその住宅に実際に居住しなければなりません。

なお、非課税限度枠は住宅の性能(耐震性やバリアフリーなど)によって変わってきます。
住宅購入資金贈与の最新情報については、こちらもご覧ください。

3. 「結婚・子育て資金の贈与の特例」を活用する

両親や祖父母が子や孫に結婚・子育てのための資金を一括贈与した場合、最大1,000万円まで贈与税が非課税となる制度です。

制度を利用するには、受贈者名義で金融機関に専用口座を開設後、結婚・子育て資金非課税申告書を、金融機関を通じて税務署に提出する必要があります。贈与された資金はこの口座で管理され、結婚や子育てにかかる費用を支払う際に、領収書などを金融機関に提出して引き出します。

この特例を活用すれば、結婚や出産、育児など将来のライフイベントに備えて、まとまった資金を贈与税の負担なく贈与できるため、資金準備や節税対策として有効です。ただし、対象となる費用や手続きには細かい条件があります。

結婚・子育て資金の贈与の要件

対象者は以下の通りです。

  • 贈与者:父母や祖父母など直系尊属
  • 受贈者:18歳以上50歳未満の子や孫(贈与時点)

ただし、受贈者の前年の合計所得金額が1,000万円以下でなければなりません。

非課税限度額は、受贈者1人あたり最大1,000万円までです。子育て資金(妊娠、出産、育児、保育、教育など)は最大1,000万円の対象ですが、結婚資金としては300万円が上限となっています。具体的な使途は結婚式や披露宴、妊娠・出産費用、保育料、教育費などです。新婚旅行や海外の医療・教育費などは対象外です。

注意するべきポイントとしては、受贈者が50歳に達した時点や、贈与者が亡くなった時点で口座に残っている資金が贈与税の課税対象となることが挙げられます。また、この制度には適用期間があります。なお2025年の税制改正により、制度の適用期間が令和9年(2027年)3月31日まで延長されました。

結婚・子育て資金の一括贈与については、こちらの関連記事もご覧ください。

詳細や最新情報は、こども家庭庁のホームページで公表されています。

こども家庭庁ホームページ『結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置』

4. 孫に生活費などを必要なタイミングで渡す

孫への生前贈与として、生活費などを渡す場合「仕送り」として必要なタイミングで必要な金額を都度渡す方法があります。祖父母など扶養義務者が、孫の生活費や教育費としてその都度必要な分だけ仕送りをした場合、原則として贈与税はかかりません。

ただし、一括で多額の資金をまとめて渡すと贈与税の課税対象となるため注意が必要です。仕送りが非課税となるのは、あくまで「通常必要と認められる範囲の金額」を「必要なタイミング」で渡した場合に限られます。金額やタイミングは状況によって異なるため、不安な場合は専門家に相談しましょう。

また、孫が受け取った資金を生活費や教育費以外(貯蓄や投資、贅沢品の購入など)に使った場合、その分は贈与税の対象となることがあります。仕送りの目的や用途を孫としっかり共有し、必要に応じて振込記録や領収書を保管しておくことも大切です。

5. 年間110万円の基礎控除額を利用する

「暦年贈与」の仕組みを活用し、年間110万円までの基礎控除額を利用する方法も存在します。これを活用して1年間(1月1日~12月31日)に1人の孫に対して110万円以下の金額を贈与した場合、贈与税はかかりません。申告も不要です。

この非課税枠を毎年活用すれば、10年間で1,100万円を非課税で贈与することも可能です。複数の孫がいる場合は、それぞれに毎年110万円ずつ贈与することもできます。

ただし、最初から「毎年110万円を10年間贈与する」といった約束を交わしていると、税務署から「定期贈与」とみなされ、合計額に対して贈与税が課税される場合があるため注意が必要です。
そのため、毎年贈与契約書を作成し、贈与の意思をその都度明確にしておくことが大切です。

暦年贈与については、こちらの関連記事もご覧ください。

贈与税の計算方法と計算例

贈与税を正しく理解するには、実際に税額を算出してみるのが効果的です。「いくら贈与すれば、どれくらいの税額がかかるのか」を知ることで、より計画的な贈与が可能になります。
例えば、年間110万円を超える生前贈与を行った場合、贈与税はどれくらいになるのでしょうか?
ここからは、その計算方法について詳しく解説します。

贈与税額の計算の基本

贈与税は、以下の計算式に基づいて算出されます。

【贈与税額=(贈与を受けた額−110万円)×税率−控除額】

「贈与を受けた額」は、その年の1月1日から12月31日までに受贈者が受け取った財産の合計額です。そこから非課税分の110万円を差し引き、残った金額に税率をかけて控除額差し引くことで、贈与税額が算出されます。この方式は「暦年課税」と呼ばれ、贈与税の基本的な計算方法です。
なお、暦年課税方式の税率は「特例税率」と「一般税率」の2種類があります。特例税率は祖父母や親など直系尊属が18歳以上の孫や子に贈与をした場合に、一般税率は18歳未満(未成年)の孫や子に贈与をした場合に適用されます。

それぞれの税率に関しては、以下の表を参照してください。

特例税率(孫が18歳以上の場合)
基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% 0円
200万円超400万円以下 15% 10万円
400万円超600万円以下 20% 30万円
600万円超1,000万円以下 30% 90万円
1,000万円超1,500万円以下 40% 190万円
1,500万円超3,000万円以下 45% 265万円
3,000万円超4,500万円以下 50% 415万円
4,500万円超 55% 640万円
一般税率(孫が18歳未満の場合)
基礎控除後の課税価格 税率 控除額
200万円以下 10% 0円
200万円超300万円以下 15% 10万円
300万円超400万円以下 20% 25万円
400万円超600万円以下 30% 65万円
600万円超1,000万円以下 40% 125万円
1,000万円超1,500万円以下 45% 175万円
1,500万円超3,000万円以下 50% 250万円
3,000万円超 55% 400万円

【孫の年齢・金額別】贈与税の計算例

ここからは、具体的な金額をもとに贈与税を計算してみましょう。
今回は、年間受贈額が「200万円」と「1,000万円」の2パターンについて、孫が18歳以上(特例税率)と18歳未満(一般税率)の両方で検証します。

年間受贈額が200万円だった場合

①年間受贈額から非課税分を差し引いて基礎控除後の課税価格を算出する

【200万円−110万円=90万円】

②基礎控除後の課税価格90万円に該当する税率と控除額を確認する(上記の表を参照)

【孫の年齢に関わらず、特例税率・一般税率ともに税率は10%、控除額は0円】

③基礎控除後の課税価格に該当する税率と控除額を適用し、贈与税額を算出する

【90万円×10%−0円=9万円】

この場合、孫の年齢に関わらず、贈与税は9万円ということになります。

年間受贈額が1,000万円だった場合

①年間受贈額から非課税分を差し引いて基礎控除後の課税価格を算出する

【1,000万円−110万円=890万円】

②基礎控除後の課税価格890万円に該当する税率と控除額を確認する(上記の表を参照)

【孫が18歳以上(特例税率)の場合: 税率は30% 控除額は90万円】

【孫が18歳未満(一般税率)の場合: 税率は40% 控除額は125万円】

③基礎控除後の課税価格に該当する税率と控除額を適用し、贈与税額を算出する

【孫が18歳以上(特例税率)の場合: 890万円×30%−90万円=177万円】
【孫が18歳未満(一般税率)の場合: 890万円×40%−125万円=231万円】

この場合、孫が18歳以上(特例税率)では贈与税が177万円、孫が18歳未満(一般税率)では231万円となります。

孫に生前贈与する際の注意点

孫に生前贈与をする場合、トラブルを防ぐために事前に以下の2つのポイントを確認しておきましょう。

  • 贈与契約書をあらかじめ用意する
  • 名義預金だと疑われないよう、対策を施す

贈与契約書を用意すること

孫への生前贈与を行う際は、贈与契約書をきちんと作成しておくことが大切です。贈与は「贈与する側」と「受け取る側」の双方の合意が必要です。この贈与契約書がない場合、税務署から「本当に贈与があったのか」と疑われ、名義預金と判断されてしまう可能性もあります。その結果、本来非課税のはずの金額に相続税が課されるおそれもあります。

贈与契約書には、「誰から」「誰に」「いつ」「いくら」「どのように」贈与したかを明記し、双方が署名・押印することが大切です。未成年の孫への贈与の場合は親権者が代理で合意し、署名・押印しなければなりません。

名義預金に注意すること

名義預金とは、口座の名義は孫になっていても、実際の管理や使用を祖父母や親が行っている預金のことをいいます。
このような場合、税務署から「贈与ではなく、贈与者の財産」とみなされることがあり、結果的に相続税の課税対象になるリスクがあります。

名義預金と疑われないようにするためには、次のような対策が有効です。

  • 贈与契約書を作成し、贈与の事実や内容を明確に証拠として残す
  • 孫本人が自分の名義で口座を開設し、通帳や印鑑、キャッシュカードを本人が管理する
  • 贈与された資金は孫が自由に使える状態にしておく
  • 贈与の都度、銀行振込など記録が残る方法で資金を移動する

大切なのは、書類や形式だけでなく、実際に贈与の実態がともなっているかどうかです。証拠をしっかり整えておくことで、後々のトラブルを防ぐことができます。

おわりに:相続・贈与のお悩みはレガシィまでご相談ください

大切なお孫さんに少しでも財産を残したいと考える方は多いはずです。その際に気にかかるのが、やはり贈与税です。孫への生前贈与は、持ち戻しルールの対象外となるなど、長期的に見てメリットのある方法です。また、贈与税には非課税枠や特例制度が設けられており、これらを上手に活用すれば、より多くの財産を無理なく渡すことが可能になります。教育資金や住宅取得資金の特例などを含め、状況に応じた最適な贈与方法を選ぶことが大切です。

もし贈与や相続に関して不安がある場合は、相続専門の税理士法人レガシィにご相談ください。私たちは60年以上にわたり相続の現場をサポートしており、経験豊富な税理士があなたのケースに合わせて丁寧に対応いたします。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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