贈与税は親子間でもかかる?課税あり・なしをケース別に解説
Tweet親には子どもを養育する義務があります。我が子の成長を支え、日々の生活の面倒を見ることは当然のこととされています。そのことから、親から子に財産を渡すことも不自然なことではなく、それに対して税金がかかるはずはないと考えている方も多いようです。
しかし個人から個人へと無償で財産を渡す「贈与」という行為に対しては、「贈与税」がかかってくることがあります。それはたとえ親子間であっても例外ではありません。
したがって親から子へと贈与を行う際には、贈与税に対する理解を深めておくことが重要になってきます。この記事では親子間の贈与があった場合の贈与税の考え方と、その贈与税を非課税にする方法について解説いたします。
目次
贈与税は財産をもらう時にかかる税金のこと
国税庁では贈与税のことを「個人から財産をもらった時にかかる税金」と位置付けています。また、自身が保険料を負担していない生命保険金を受けとった場合や債務などの免除などによって利益を受けた場合も贈与とみなします。
法人から財産をもらう場合にかかってくるのは「所得税」で、個人からの場合が「贈与税」になるというわけです。この「個人」には親や祖父母も含まれます。「家族同士の財産のやりとりなのに税金がかかるの?」と思う方もいるでしょうが、税法上ではそのように決められています。
ただし、すべての贈与に対して課税が行われるわけではありません。生活費や教育費など暮らしを送っていくうえで必要なお金に対しては、贈与税はかかりません。しかし、それ以外の贈与は課税の対象となってきます。その点でも、どういう場合に贈与税がかかるのかを知っておくことが大切です。
贈与税が親子間でもかかるケースを5つ紹介
親子間の贈与に関して贈与税がかかってくるおもなケースとしては、次の5つが挙げられます。
①親からもらったお金をためていた場合
②親が保険料を負担した生命保険金を受けとった場合
③親に借金を肩代わりしてもらった場合
④親から借りたお金の返済を怠った場合
⑤土地・建物やマンションなどの不動産をもらった場合
それぞれに解説していきましょう。
①親からもらったお金を貯めていた場合
生活費や教育費など暮らしのなかで必要なお金に対しては、基本的に贈与税はかかりません。
ただし、その使途によっては贈与税と対象となることもあります。たとえば次のような場合です。
- 不動産や車、株などの有価証券の購入に使う
- 学資保険などの保険料に使う
- 余った生活費を預貯金に回している
これらは本来の生活費・教育費としての目的にそぐわないので課税対象となります。
②親が保険料を負担した生命保険金を受けとった場合
親が保険料を負担していた保険金を子どもが受けとった場合も贈与税の対象になります。保険金を受けとるパターンとしては、保険料を負担していた親が生きている間にその保険が満期を迎えたり、あるいは解約をしたり、被保険者(保険の対象となっている人)が死亡した場合などが考えられます。
税法上においては「保険料を実質的に負担することで、親が子どもにお金を渡した」と考えるため、贈与税の対象となってくるわけです。ただし、ケガや病気を理由に受け取った保険金に関しては非課税です。
③親に借金を肩代わりしてもらった場合
子どもの借金を親が肩代わりするという話はよく耳にします。我が子が借金の返済に苦しんでいたら、手を差し伸べたいと思うのが親心でしょう。しかしこの場合、税務署では「借金の肩代わりは贈与と同じ」と考えます。そのため贈与税の対象として扱うことになります。
「それなら子どもに貸したことにすればいい」と考える方もいるでしょうが、その際に返済が不可能と思われる額を貸したり、契約書がなかったり、利子や返済期限が設定されていなかったりすると贈与と判断される可能性が高くなります。
④親から借りたお金の返済を怠った場合
上でふれた借金の肩代わりに関して、贈与税がかからないようにと契約書をつくったとします。きちんと返済をしていれば問題はないのですが、親子間では「これ以上、水くさいことはなし」とそのうち返済がうやむやになってしまうこともないとはいえません。
貸したお金を「返済しなくてもよし」とすることを「債務免除」といいますが、この場合も贈与とみなされてしまいます。
ただし、子どもが返済能力を失うほどの多額の借金を背負った場合は、例外的に贈与税の対象から外されます。
⑤土地・建物やマンションなどの不動産をもらった場合
贈与税の対象となるのは現金だけに限りません。土地や家屋、マンションといった不動産も「財産」ですから、それをゆずる時は贈与となります。したがって贈与税の対象になるわけです。
親子間の贈与で贈与税がかからないケースを3つ紹介
ここまで、親子間の贈与において贈与税がかかるケースを見てきました。しかし贈与が発生したからといって、そのすべてに贈与税の支払い義務が生じるわけではありません。たとえば次のような場合は贈与税を支払う必要はないのです。
①贈与額が年間110万円以下の場合
②教育費や生活費の場合
③出産費用や結婚費用の場合
それぞれに解説していきましょう。
①贈与額が年間110万円以下の場合
贈与税は原則として「暦年課税」という方式によって算出します。1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた額に対して課税をしていくというものです。この場合、非課税枠として年間110万円が設定されています。つまり110万円以下の贈与であれば贈与税を払わなくてもいいわけです。
非課税枠の110万円は、贈与の合計額に対して控除されるものです。たとえば父親と母親からそれぞれ100万円を贈与された場合、両親からの贈与額はそれぞれ110万円以下ですが、個別の控除はしません。合計額の200万円から110万円を控除した(差し引いた)額の90万円に贈与税がかかってきます。
②教育費や生活費の場合
すでにふれたように、子どもを養育していくなかで必要な教育費や生活費に対しては贈与税はかかりません。当然のことながら、暦年課税の非課税枠110万円を超えた場合でも大丈夫です。
たとえば留学費用として150万円がかかったとします。非課税枠を越えますが留学に必要な「教育費」ですから、贈与税の対象にはならないのです。ただし、前述したように本来の目的から離れた使途となった場合は贈与税の対象となるので注意しましょう。
③出産費用や結婚費用の場合
結婚や出産に関わる費用を親が支払った場合も贈与税の対象とはなりません。
結婚式は地域色が強いセレモニーですから、費用を誰が負担するのかということに関してもそれぞれの慣習があります。そうした事情を踏まえて社会通念上相当と認められるものは非課税になっています。結婚式の費用に限らず、新居への入居費用や家具・家電の購入費用も贈与税の対象とはなりません。
また、出産に関しても同じで、贈与税の対象からは外されます。ベビー用品に関しても同じです。
親子間の贈与税を非課税にする方法3選
本来は贈与税の対象であるものの、非課税枠が設定されていることから、それを活用することで贈与税がゼロになるケースがあります。主なケースは次の3つです。
①相続時精算課税制度を活用する
②教育資金または結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税枠を活用する
③住宅取得資金贈与の非課税特例を活用する
それぞれに解説していきましょう。
①相続時精算課税制度を活用する
「相続時精算課税」とは、相続が発生した時に相続税の課税対象とすることを条件にした贈与税の課税方式の1つです。受けとった財産の合計額から2,500万円までは特別控除額として差し引くことができます。したがって2,500万円以下なら贈与税はかからないということです。この場合、1年間の贈与ではなく累計した額となります。
2,500万円を超えた場合は、その額に対して一律20%の税率で課税されます。たとえば3,000万円の贈与であれば課税対象は特別控除額を差し引いた500万円となり、その20%の100万円を贈与税として支払うわけです。非課税枠は大きいのですが、相続時精算課税は「相続時までの納税の先送り」であり、基本的には節税対策にはなりません。ただ金額や贈与の方法によって、お得になるケースもあります。
なお、この制度を使うには贈与税の申告が必要です。たとえ非課税枠の適用で贈与税を支払わなくてよくなっている場合でも、申告は必ずしてください。また一度相続時精算課税を選択すると、年間110万円が控除となる暦年課税は同じ贈与者において使えなくなるので要注意です。例えば母親からの贈与に相続時精算課税を適用すると、その後は暦年課税に戻すことができません。一方、母親以外、例えば父親からの贈与であれば暦年課税の利用が可能です。
2022年12月16日に発表された「令和5年度 税制改正大綱」によって、相続時精算課税制度を選択した場合における制度の内容が以下の通り見直されることが決まりました。
①相続時精算課税の特別控除額2,500万円とは別に、基礎控除110万円が創設
②相続までに贈与財産が災害被害を受けた場合、相続時の財産評価額は再評価となる
適用時期は【令和6年(2024年)1月1日以降】です。
この見直しにより、より多くの人が相続時精算課税制度を活用しやすくなるのではないでしょうか。
詳細は下記の記事をご覧ください。
②教育資金または結婚・子育て資金の一括贈与に係る非課税枠を活用する
教育費および出産費用・結婚費用が贈与税の対象とはならないことはすでに触れましたが、これは費用の支払が必要となった都度、親に出してもらうというイメージです。これに対して事前に教育資金または結婚・子育て資金を一括贈与できる制度があります。
令和5年度税制改正大綱により、教育資金贈与の非課税制度において以下の内容が変更となりました。
● 適用期限が3年延長(2023年3月31日→2026年3月31日)
● 贈与された資金が30歳までに使いきれなかった場合、残額にかかる贈与税の税率は受贈者の年齢により「特例税率」か「一般税率」を判断だったが、改正後はすべて「一般税率」へ統一
● 贈与者が死亡した際の残額は相続税の課税対象、ただし対象外の条件(① 23歳未満である場合 ② 学校等に在学している場合 ③ 教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受けている場合)に該当すれば課税されない
→ 対象外となる条件に該当しても、相続税の課税価格が5億円以上ある場合は課税
令和5年度税制改正大綱により、結婚・子育て資金贈与の非課税制度において以下の内容が変更となりました。
● 適用期限が2年延長(2023年3月31日→2025年3月31日)
● 贈与された資金が50歳までに使いきれなかった場合、残額にかかる贈与税の税率は、特例税率 → 一般税率へ変更
③住宅取得資金贈与の非課税特例を活用する
マイホームを購入する子や孫に資金面で援助をする際に活用したいのが、「住宅取得等資金の非課税の特例」です。令和4(2022)年1月1日以降に住宅の取得に関する贈与があった場合は、最大1,000万円までが非課税となります。
マイホームの購入時期や消費税率、住宅の性能(耐震性やバリアフリーなど)によって非課税限度枠は変わってきます。
※令和4年度税制改正によって、住宅購入資金贈与の非課税枠は最大1.500万円 → 1,000万円に変更されました。
住宅購入資金贈与の最新情報については、こちらもご覧ください。
消費税が10%の住宅を取得した場合の非課税限度枠
住宅用家屋に係る契約の締結日 | 一般の住宅の場合 | 省エネ等の住宅の場合 |
---|---|---|
2019年4月1日~2020年3月31日 | 2,500万円 | 3,000万円 |
2020年4月1日~2021年12月31日 | 1,000万円 | 1,500万円 |
上記以外の住宅を取得した場合の非課税限度枠
住宅用家屋に係る契約の締結日 | 一般の住宅の場合 | 省エネ等の住宅の場合 |
---|---|---|
~2015年12月31日 | 1,000万円 | 1,500万円 |
2016年1月1日~2020年3月31日 | 700万円 | 1,200万円 |
2020年4月1日~2021年12月31日 | 500万円 | 1,000万円 |
贈与税の非課税枠について、詳しくは下記の記事を参照してください。
おわりに:親子間の贈与税について詳しく知りたい人は税理士に相談してみよう
個人が個人へと無償で財産を与えることを「贈与」といい、その贈与額によっては受けとった側が「贈与税」を支払わなければならなくなります。それはたとえ親子間であっても例外ではなく、親から子へと贈与を行う際には贈与税に対する理解を深めておくことが大変重要になってきます。子どものためを思って贈与をしたら、重い税負担を強いることになったというのでは本末転倒というものでしょう。
この記事では親子間であっても贈与税がかかるケースやかからないケース、贈与税を非課税にする方法などを解説いたしました。親子間の贈与を行う際の参考にしていただければと思いますが、なかには自分たちだけで判断するには不安や心配を感じる方もおられることでしょう。
そういう場合、専門知識が豊富な税理士に相談をしてみるのも一つの有効な手段です。贈与税に詳しい税理士なら、親子間の贈与について詳しく教えてくれますし、贈与税の計算や特例の活用、申告をサポートも行ってくれます。また、節税につながる有効なアドバイスもさまざまに提供してくれます。相続まで含めた節税対策の助言をしてくれる点でも心強いでしょう。より安心できる贈与税対策のためにも税理士へのご相談をおすすめいたします。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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