相続の知識

生前贈与で譲り受けた不動産の名義変更の流れ|贈与登記をしないリスクも解説

親から不動産を生前贈与された場合、「名義変更(贈与登記)」を行わなければ、正式な所有者とはみなされません。放置すると、最悪の場合、不動産を失う可能性もあります。本記事では、生前贈与による不動産の名義変更の必要性や、贈与登記を怠った場合に起こりうるリスクを詳しく解説します。

生前贈与で不動産を譲り受けた際は名義変更が必要

相続とは異なり、生前贈与による不動産の名義変更(贈与登記)は、法的な義務ではありません
登記を行わなくても、形式上は「贈与が成立している」とみなされます。

しかし、登記をしなければ、受贈者(贈与を受けた人)は、その不動産の所有者として公的に認められません。所有者として認められなければ、不動産を売却できなかったり、担保に入れられなかったりと、さまざまな不利益が生じます。自分が受け取った不動産を失うリスクもあるため、任意とはいえ、名義変更(贈与登記)は現実的には必須の手続きです。

生前贈与で不動産を譲り受けた際は名義変更が必要

名義変更(贈与登記)をしないことで懸念されるリスク

不動産の贈与を受けたにもかかわらず、名義変更(贈与登記)を行わずに放置すると、さまざまなリスクが発生します。いずれのケースでも、本来得られるはずの権利を失う可能性があるため注意が必要です。

登記をする前に贈与者が亡くなる

贈与登記を完了する前に贈与者が亡くなった場合、受贈者は深刻なトラブルに巻き込まれるリスクがあります。なぜなら登記という形での公的な手続きが完了しなければ、その不動産は贈与者の財産として扱われ、相続財産に組み込まれるからです。

相続財産に組み込まれると、他の相続人との遺産分割協議の対象になります。その結果、「贈与されるはずだった不動産が、他の兄弟姉妹と分けることになった」「そもそももらえなかった」という事態も十分に起こり得ます。

さらには贈与者の死亡により、その意思確認が不可能になる点にも注意が必要です。「本当に贈与の合意があったのか」など、親族間の紛争につながるケースも少なくありません。

第三者に先に名義変更される

贈与登記を行わず放置するということは、贈与者が不動産を他人に売却できる状態にあるということを指します。前述のように、たとえ口頭や書面で贈与の合意があっても、登記が行われなければ名義上の所有者は贈与者のままです。

不動産登記制度には「公示力」「対抗力」という考え方があり、登記を先に行った者の権利が守られるのが原則です。

  • 公示力:登記の内容が誰にでも分かるように「公開されている状態」
  • 対抗力:登記を行うことでその権利を第三者に対して主張できる力

いくら受贈者が先に不動産の贈与の意を口頭や書面で受けていたとしても、もし第三者が贈与者から不動産を購入し、先に登記を済ませた場合、法的にはその第三者が所有者として認定されてしまう可能性があります。最悪の場合は不動産を失うため、権利を主張するためには早期の名義変更は必須です。

贈与者の債権者によって差し押さえられる

贈与登記が未了のままの不動産は、法的には依然として贈与者の資産として扱われます。そのため、贈与者に借金や保証債務などの支払い義務がある場合、債権者は贈与者の名義である不動産を差し押さえる権利を持ちます。

差し押さえとは、裁判所の命令により財産の処分を禁じる法的手続きです。差し押さえられた財産はその後売却され、債務の返済に充てられます。いったん差し押さえが実行されると、受贈者が「これは私が贈与を受けた不動産だ」と主張しても、登記がなければ基本的に無効とされます。

差し押さえられた不動産は、競売で売られることがあります。競売では市場価格よりも安い値段で売れてしまうことがほとんどです。そして競売で買われてしまうと、その不動産が市場に出てくるときは市場価格で売られることになります。
つまり、不動産を取り戻すためには、売られた金額より高いお金を用意しなければなりません。

受贈者としての権利を確実に守るには、登記によって第三者に対する法的効力を持たせることが何より重要です。

贈与者の債権者によって差し押さえられる

生前贈与で不動産を譲り受けた際の名義変更(贈与登記)の流れ

生前贈与による名義変更をする際は、登記の専門的な知識が求められます。以下の流れに沿って、必要な情報を収集し、正確に登記を行ってください。

  1. 贈与対象の不動産の調査
  2. 税金(贈与税等)の見積もり
  3. 必要書類の収集
  4. 贈与契約書の作成
  5. 登記申請書の作成
  6. 法務局への提出
  7. 登記識別情報(権利証)の受領

以下、それぞれの手順を解説します。

1. 贈与対象の物件調査する

初めに行うべきは、「贈与の対象となる不動産がどのような物件なのか」を正確に把握することです。登記情報と実際の状況に齟齬がないかを確認すれば、後の手続きミスやトラブルを防げます。

まず確認すべきポイントは、所在地や地番、家屋番号です。地番と住居表示は異なるため注意してください。登記事項証明書(登記簿謄本)を取得し、所有者の氏名や共有関係、抵当権などの担保設定状況を確認するのも重要です。次に現地に赴き、登記情報と現況が一致しているか確認します。「未登記建物の有無」「土地の境界が曖昧でないか」などにも注意してください。こうした調査は、登記手続きだけでなく、後述する贈与契約書の作成にも役立ちます。

2. 贈与対象の物件の税金を計算する

不動産を贈与する際は、贈与税や不動産取得税、登録免許税といった税負担が生じるため、事前にどの程度の税金がかかるのかを算出しておきましょう。

税金の算出に必要な評価指標は、「路線価」「固定資産税評価額」です。路線価は、国税庁が毎年公表する土地1平方メートルあたりの価格で、市街地における土地評価の基準となります。固定資産税評価額は、市区町村が課税のために評価する金額です。主に、不動産取得税や登録免許税の算出に用います。固定資産税納税通知書または市町村窓口で確認できます。

路線価については下記の記事をご参考ください。

3. 贈与登記に必要な書類をそろえる

贈与登記を行うためには、複数の公的書類や本人確認書類の準備が必要です。書類の不備は、申請却下の原因になるため、確実にそろえてください。

登記事項証明書

登記事項証明書は、不動産の所在地、面積、構造、権利関係などを記載した法務局発行の公的書類です。「全部事項証明書」とも呼ばれ、対象不動産を特定したり、権利関係を確認したりするのに欠かせません。現在の所有者が誰であるか、共有名義かどうか、抵当権などが設定されていないかなどを確認できます。

その他の添付情報

以下の書類も合わせて提出します。

  • 贈与者および受贈者の印鑑証明書(受贈者は認印でも可ですが実印が望ましい)
  • 受贈者の住民票または戸籍抄本
  • 固定資産評価証明書(市区町村役場で発行)
  • 委任状(弁護士や司法書士など第三者が代理申請する場合)
  • 登記済権利証または登記識別情報

登記済権利証または登記識別情報は不動産取得の際に法務局から発行されるものです。紛失しても再発行はされません。失くした場合、弁護士や司法書士などに依頼すれば調査をしたうえで証明書を発行してくれます。

4. 贈与契約書の作成・取り交わし

不動産の贈与には、贈与契約書の作成をおすすめします。前提として、贈与契約は口頭でも成立します。しかし不動産のような高額資産の場合は、書面で明文化しておけば、後々のトラブルに備えられます。

特に贈与者が高齢で、認知機能の低下が懸念される場合などには、「贈与の意思が本当にあったか」が争点になります。契約書を交わしておけば、当事者双方の意思表示と合意内容が書面に残るため、法的な有効性が担保されます。

贈与契約書に記載すべき主な内容は、以下の通りです。

  • 贈与する不動産の所在地、地番、構造、面積などの詳細
  • 贈与者・受贈者の氏名、住所、生年月日などの個人情報
  • 贈与の無償性・合意の意思(「無償で譲り渡すことに合意する」旨の文言)
  • 契約締結日、押印(実印)

贈与契約書作成の流れに関して詳しくは、以下の記事も参照してください。

5. 登記申請書を作成する

登記申請書は、不動産の名義を変更するために法務局に提出する正式な申請書類です。記載内容に誤りがあると、申請が却下されたり、正しい情報で再申請を行ったりすることになるため、慎重に作成してください。

主な記載項目は以下の通りです。

登記の目的 「所有権移転」と記載。移転の原因が「贈与」であることも明記
原因・日付 「令和◯年◯月◯日贈与」のように、契約が成立した日を記載
申請人の情報 不動産の新しい所有者(受贈者)の氏名・住所などを記載
不動産の表示 登記事項証明書の記載内容と一字一句違わず一致させる必要がある。土地の場合は「所在・地番・地目・地積」、建物の場合は「所在・家屋番号・種類・構造・床面積」など
添付書類の目録 提出する各種書類(贈与契約書、印鑑証明書、住民票など)を一覧化し、「別紙目録」として添付

6. 所轄の法務局へと書類を提出する

登記申請書と添付書類がそろったら、不動産の所在地を管轄する法務局に提出します。窓口提出の場合は、不備をその場で指摘してもらえるため、初心者であればこちらがおすすめです。法務局によっては予約が必要な場合もあるため、事前に確認してください。

郵送提出は、法務局に足を運ぶことなく提出できるため、時間がない人にとっては便利です。ただし書類の不足や不備があった場合、対応に時間がかかります。

オンライン申請(登記・供託オンライン申請システム)は、e-Taxのような専用ソフトを使って申請します。確定申告をe-Taxで実施しているなど、ITシステムや電子証明書などに一定の理解がある人であれば、こちらもおすすめです。

提出後、法務局にて内容の審査が行われ、問題がなければ登記が完了します。

7. 権利証を受け取る

登記が完了すると、法務局から「登記識別情報通知」が発行されます。登記識別情報通知は、不動産の新たな所有者としての証明書です。今後、不動産の売買や抵当権設定などを行う際に必要です。登記識別情報通知は重要な書類なので、紛失しないよう厳重に保管してください。

贈与契約書の作成時に印紙代

贈与登記にかかる費用の目安

生前贈与による不動産の名義変更を行う際は、登記手続きそのものだけでなく、複数の項目にわたってコストが発生します。費用の主な内訳は以下の通りです。

  • 贈与契約書の作成に伴う印紙税
  • 登記手続きに必要な各種書類の収集費用
  • 登記申請時に課される登録免許税
  • 受贈者が支払う贈与税・不動産取得税・固定資産税等

贈与契約書の作成時に印紙代

不動産を贈与する際は、当事者間で贈与契約書を作成するのが一般的です。契約書には、「不動産の所在」「面積」「地番」「贈与者・受贈者の情報」などが明記され、贈与の証拠として機能します。

贈与契約書は、国が課税対象とする「課税文書」に該当する書類です。作成時には、印紙税法に基づいて収入印紙を貼付する義務が生じます。非課税になる場合もありますが、以下のようなケースでは基本的に課税対象です。

  • 贈与契約書に不動産の価格を記載した場合
  • 不動産を渡す代わりに「何かのお返しをもらう」といった内容(対価性)が含まれている場合

たとえば、記載金額が1,000万円超5,000万円以下であれば、印紙税は1万円です。

贈与登記に必要な書類の収集費

登記に必要な書類のほとんどは、法務局や市町村役場などの公的機関から取得します。こうした書類は、取得に際して交付手数料が発生します。主な書類と交付手数料は、以下の通りです。

  • 登記事項証明書:約500円~600円
  • 固定資産評価証明書:約300~400円
  • 印鑑証明書:約200円~500円
  • 住民票:10円~400円
  • 戸籍謄本:約300円~450円

地域によって異なるため、詳細は各自治体の公式ホームページなどで確認してください。

登記申請時には登録免許税

不動産の所有権を移転するには、登記を通じて法的な手続きを行わなければなりません。その際、国に納める税金として「登録免許税」が課されます(原則として受贈者負担)。不動産の贈与に伴う所有権移転の場合、登録免許税の税率は2%です。たとえば固定資産評価額が2,000万円の場合、登録免許税は「2,000万円×2%=40万円」となります。登録免許税は、現金納付のほか、収入印紙を申請書に貼付しても納められます。

受贈者側が負担するその他の各種税金

登記関連の費用以外にも、不動産を贈与された事実に関係して、受贈者に課される税金がいくつかあります。

贈与税

贈与税は、個人から財産の贈与を受けた場合に課される国税です。基礎控除額の枠があり、年間110万円までは課税されません。ただし不動産の贈与の場合、基礎控除を超えるケースが多いため、贈与税が発生する可能性が高いです。

税率は、10%~55%の累進課税です。たとえば評価額が2,000万円の不動産を贈与された場合、「2,000万円-110万円(基礎控除)=1,890万円」が課税対象となります。所得税の速算表に基づいて課税額を算出します。

上記の課税方法は「暦年課税」と呼ばれるものですが、贈与税には「相続時精算課税」という制度もあります。相続時精算課税は、一定の条件を満たせば、贈与税の課税を一時的に猶予できる制度です。

2,500万円まで非課税になる可能性があるため、評価額の大きい資産を早めに処理したい場合には便利ですが、将来的な相続税計算に影響します。デメリットもあるため、どちらの課税方法を用いるのか、慎重に判断してください。

不動産取得税

不動産取得税は、不動産を取得した際に一度だけ課される地方税で、各都道府県が課税主体です。
対象となるのは、不動産の取得に関するすべてのケースであり、贈与による取得であっても例外ではありません。そのため、「無償でもらったから課税されない」と誤解しないよう注意してください。売買や相続に限らず、贈与、交換、法人からの現物出資なども課税対象となります。

不動産取得税の課税対象となるのは、「土地」および「建物」です。税額は、以下のように算出されます。

税額 = 固定資産評価額×原則税率(4%)

「固定資産評価額」は、固定資産税課税のために市区町村が評価する不動産の価格です。「固定資産税納税通知書」や「固定資産評価証明書」で確認できます。

取得する不動産の用途や性質によっては、税率が軽減される場合があります。控除額が設定される特例もあり、課税標準額が大幅に軽減されるケースもあるため、事前に情報を収集するのが重要です。詳細は、各都道府県の税事務所に確認してください。

翌年以降は固定資産税など

不動産の名義を変更し、正式に受贈者が所有者となると、翌年以降、受贈者にはその不動産に対する税金を納める義務が生じます。具体的には、「固定資産税」「都市計画税」の2つです。不動産を持っている限り毎年かかる税金であり、贈与によって所有者が変わった場合も、課税自体は継続して行われます。

固定資産税は、土地や建物などの固定資産を所有している人に対して課される地方税で、市区町村が課税主体です。税額の計算方法は、「固定資産評価額×1.4%(標準税率)」であり、一般的には年4回に分割されて納付します。

都市計画税は、都市計画区域内の土地や建物に対してかかる税金です。実際の税率は自治体ごとに異なりますが、最大0.3%以内の範囲で課税されます。贈与された不動産が複数ある場合や、商業用地などの場合は、税額が高額になる可能性もあります。

不動産の贈与でお悩みは専門家まで

親から不動産を譲り受けた場合、名義変更(贈与登記)を行わなければ正式な所有者として認められません。贈与登記を怠ると、将来的に相続財産として扱われたり、第三者に売却・差し押えられたりする可能性もあるため注意が必要です。不動産を取得した後も、固定資産税や都市計画税など継続的な費用負担が発生するため、贈与を受ける前から将来的な見通しを立てましょう。

相続専門の税理士法人レガシィでは、贈与・相続を見据えた不動産管理に関するコンサルティングサービスを提供しています。手続きのサポートだけでなく、税務・不動産戦略・資産継承に至るまで一貫したご提案が可能です。ぜひ以下のページよりご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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