相続の知識

相続で揉める家族は一般家庭?その特徴や揉めないための解決策とは

人が財産を残して亡くなった場合、その遺産は基本的に配偶者相続人や血族相続人などに引き継がれます。このとき遺産の相続割合や分割方法などを巡って家族間でトラブルに発展するケースが少なくありません。本記事では遺産相続で揉める家族の特徴を紹介するとともに、トラブルに発展してしまう原因やその対策について解説します。

遺産相続で揉める家族はどれくらいいるのか?

財産を遺して死亡した人は「被相続人」、遺産を引き継ぐ人を「相続人」と呼びます。基本的には遺言がなければ、残された財産は相続人たちによって「遺産分割協議」で分けられることになります。しかし遺産分割協議でも相続人同士が合意に至らない場合は、家庭裁判所に対して「遺産分割調停」あるいは「遺産分割審判」を申し立てることになります。

では、相続人たちが合意に至らず、トラブルが法廷へと持ち込まれてしまった相続事案の数はどのくらいあるのでしょうか。

最高裁判所事務総局の司法統計年報によると、令和3年に家庭裁判所が取り扱った遺産分割の事案のうち、認容・調停が成立したものの数だけでも件数は6,934件となっています。
一般的な家庭の場合、「遺産相続トラブルは富裕層の話であり、うちは家族間で揉めるような財産を保有していない」と思われる方も少なくないかもしれません。しかし同調査によると、遺産総額が1,000万円以下の事案件数は2,279件、1,000万円超5,000万円以下は3,037件となっており、5,000万円以下の事案が全体の約76%を占めています。
このことから、遺産総額の大きさと相続トラブル発生率が比例するとはいえません。むしろ全体の割合としては富裕層よりもマス層やアッパーマス層ほど遺産相続トラブルに巻き込まれているのが実情です。

出典:最高裁判所『令和3年司法統計年報 3家事編(p.66)』

遺産相続で揉める家族の特徴10選

遺産相続で揉める人と揉めない人の差はどこにあるのでしょうか。遺産相続でトラブルに発展してしまう家族にはいくつかの共通点があります。
代表的な特徴として挙げられるのが以下の10要素です。

1. 相続人の数が多い

法定相続人の数が多い場合、異なる考え方や対立する意見が増えるため、遺産分割協議がまとまらないケースが多々あります。被相続人の正式な遺言書がない場合、原則として相続人全員の合意に基づく遺産分割協議書を作成しなくてはなりません。
たとえば預金の引き継ぎや不動産の相続登記をする場合などは、基本的に遺産分割協議書の提出を求められます。遺産分割協議書を作成するためには、法定相続人全員の署名と実印による押印が必要です。一人でも合意に至らない場合は無効となるため、法定相続人の人数が増えるほど意見がまとまらず、協議成立までに多くの時間を要する傾向にあります。

想定されるトラブルの原因

  • 相続人の数が多く意見がまとまらない
  • 分割割合に納得できない法定相続人が署名・押印に応じない
  • 合意に至らず遺産分割協議書を作成できない

2. 相続人の仲が良くない・疎遠である

遺産相続で揉める家族の特徴として挙げられるのが人間関係の不和です。たとえば3人の子をもつ被相続人が5年前に妻と死別しており、亡くなる一週間前に再婚相手と婚姻関係を結んだとします。配偶者相続人としての資格に婚姻期間は関係なく、仮に婚姻届を提出してから1日しか経過していなくとも配偶者は財産の1/2を相続する権利が発生します。
わずか一週間の婚姻期間しかない後妻が遺産の半分を相続するとなれば、被相続人の子どもたちとトラブルに発展しても何ら不思議ではありません。また、法定相続人同士が疎遠になって久しい場合は連絡が取れず、遺産分割協議を進められないといったケースも想定されます。

想定されるトラブルの原因

  • 人間関係の不和から合意に至らない
  • 法的な正しさを理解できても感情の面で納得できないケースがある
  • 他の法定相続人と連絡が取れない

3. 協議を進めるのに支障がある相続人がいる

法定相続人に認知症や精神障害者などの方がいる場合、程度によっては遺産分割協議を円滑に進めるのが困難なことがあります。たとえば医師に「意思決定能力がない」と判断された場合、認知症などを患う相続人の権利を保護するためには、成年後見人を選任しなくてはなりません。意思能力を欠いた法定相続人を強引に遺産分割協議へ参加させた場合、その協議は無効となる可能性があるからです。

また法定相続人に該当する人が行方不明の場合も、家庭裁判所に失踪宣告を申し立てたり、不在者財産管理人を選任したりといった手続きが必要です。このようなケースでは遺産分割協議をスタートすること自体がハードルとなり、誰が手続きや費用を負担するのかなどの話し合いが難航することもあります。

想定されるトラブルの原因

  • 認知症や精神障害によって法定相続人に意思決定能力がない
  • 後見人を選任しなくてはならない
  • 失踪宣告を申し立てや不在者財産管理人の選任が必要な場合がある

4. 想定していない相続人が現れる

法的効力のある遺言書がない場合、遺産分割協議における最初のステップは法定相続人の確定です。先述したように、遺産分割協議書の作成には法定相続人全員の署名と実印の押印が必要となるため、戸籍謄本や除籍謄本、あるいは改製原戸籍謄本などを取得し、法定相続人を確定させなくてはなりません。
被相続人の戸籍を辿る際に、婚姻関係のない女性との非嫡出子の存在や、前妻との間に生まれた子など、想定外の人物が法定相続人として浮上する可能性があります。非嫡出子や前妻との子であっても、民法上は第一順位の法定相続人となるため、現在の家族とトラブルに発展してしまうケースが少なくありません。

想定されるトラブルの原因

  • 誰が法定相続人なのか把握できない
  • 非嫡出子がいた
  • 前妻との間に子がいた

5. 財産管理を一人で行っている

被相続人の財産を特定の法定相続人が管理している場合も、トラブルに発展しやすいため注意が必要です。たとえば被相続人に長女・次女・三女の子がいると仮定し、長女は認知症を患っている被相続人と同居しながら一人で介護をしていたとします。このようなケースでは長女が被相続人の預金や年金、各種保険などを管理せざるを得ません。
ところが、被相続人の財産を長女が一人で管理していた場合、次女や三女の立場からするとお金の使い道が不透明になり、財産の使い込みを疑われる可能性があります。また、次女や三女が財産開示を依頼しても長女がそれに応じず、姉妹間で揉めてしまうというケースも考えられます。

想定されるトラブルの原因

  • 財産を管理していた人が使い込みを疑われる
  • 財産の管理状態が不透明となり公平性を担保できない
  • 財産管理をしていた人が財産開示に応じない

6. 生前贈与や資金援助が多い相続人がいる

被相続人から生前贈与を受け取っていた場合は「特別受益」という扱いになり、「特別受益の持ち戻し」により相続割合が減少する場合があります。たとえば被相続人に長男と次男の子があり、長男のみ大学進学や海外留学の費用を故人が全額負担したといったケースです。このような場合は長男に特別受益が認められ、相続割合から相殺される可能性があります。

ただし、被相続人が遺言書に特別受益の持戻免除の意思表示を盛り込んでいた場合はその限りではありません。しかし遺産分割協議によって相殺割合を決定する場合は、相続人同士が特別受益を判断するため、援助を受けなかった側の見解の相違からトラブルに発展しやすい傾向にあります。

想定されるトラブルの原因

  • 特定の人が私立へ進学し学費援助、もしくは住宅購入時の資金援助を受けた
  • 特定の人が多額の生命保険の受取人になっている(必ずしも特別受益に該当しない)
  • 被相続人が特別受益の持戻免除の意思を示している

7. 遺産に不動産がある

不動産は相続トラブルを招きやすい遺産のひとつです。たとえば被相続人が遺した財産が「預金800万円」と「200万円の家屋と600万円の土地」であったと仮定します。この遺産を二人の兄弟が相続する場合、「預金800万円」と「合計800万円分の家屋と土地」をそれぞれが相続すると同意すれば問題はありません。
しかしこれが「現金800万円」と「4000万円の家屋と1億円の土地」だった場合はどうでしょう。単純に「現金」と「不動産」では平等に分けることができず、不動産は物理的に2つに割ることはできません。共有持分にして保有する方法もありますが、売却する際には両方の同意がないとできないため、実家を残したい兄と、売却して現金化したい弟などといったように、意見の違いからトラブルが生じやすくなります。

想定されるトラブルの原因

  • 誰が不動産を相続するのか決まらない
  • 実家を残しておくか、売却するかで意見に相違がある
  • 不動産は現金のように平等な分割が困難

8. 被相続人が事業をしていた

相続財産に事業が含まれる場合は遺産内容が複雑化しやすく、事業の後継者と他の相続人との衝突が生まれやすい傾向にあります。たとえば先述した例と同じく「預金800万円」と「200万円の家屋と600万円の土地」を相続財産とし、その家屋と土地が「賃貸物件」で不動産賃貸業を担っていた場合を考えてみましょう。
仮に現金と不動産で分けた場合は、それぞれが平等に800万円の遺産を受け取ることと同義です。しかし家屋と土地を相続した人は、その後の継続的な家賃収入が見込めます。預金を相続する側は事業価値も考慮すべきだと主張するのではないでしょうか。
今回は分かりやすく簡単な例を出しましたが、亡くなった方が株式会社の社長で、相続財産に自社株が含まれる等のことが生じると、なおさら分割協議が複雑化するでしょう。

想定されるトラブルの原因

  • 遺産の内容が複雑化する
  • 事業の継承者は継続的な収益が見込める
  • 遺産分割協議の遅れが事業に支障をきたす

9. 介護の負担が平等でない

相続トラブルで多い問題のひとつが介護負担です。被相続人の財産について特別な貢献をした人は、他の相続人よりも遺産を多く受け取る権利が発生します。これを「寄与分」と呼びます。そして、寄与分を得る根拠として認められる行動のひとつが、生前の被相続人に対する献身的な療養看護です。被相続人の介護は同居する家族が担う場合が多い傾向にあります。たとえば二人姉妹のうち、長女は被相続人と同居しながら長年にわたって介護をし、次女は他家に嫁いで一切介護に関わらないといった場合です。このような事例では長女に寄与分が認められて然るべきですが、次女が認めずに揉めるケースが考えられます。

想定されるトラブルの原因

  • 介護負担が特定の人に偏っていた
  • 寄与分の算出方法が合意に至らない
  • 他の法定相続人が寄与分を認めない

10. 遺言書の内容が平等でない

不平等な内容の遺言書も相続トラブルを招く大きな要因です。たとえば遺言書に「長男に全財産を相続させる」と書かれていた場合、長男は遺言に則ってすべての財産を相続できます。しかし他の法定相続人が納得する可能性は低く、トラブルに発展するのは必至といえるでしょう。
ただし遺言書は強い効力をもちますが、遺留分は遺言書よりも優先されるという大原則があります。遺留分とは、兄弟・姉妹や甥・姪以外の法定相続人に保証されている相続割合の最低保証額です。遺留分を侵害している場合、正式な遺言書があっても「遺留分侵害額請求」や「遺言無効確認調停」の対象となります。

遺留分については、下記の記事をご覧ください。

想定されるトラブルの原因

  • 遺言書の内容が遺留分を侵害している
  • 遺留分侵害額請求権を行使される
  • 遺言無効確認調停を申し立てられる

遺産相続で家族が揉めないためにできる対策

遺産相続トラブルを回避する基本的な対策として挙げられるのが以下の5つです。

生前から話し合いの場をもうける

遺産相続におけるトラブルを回避するためには、家族間による話し合いが何よりも重要です。被相続人の生前から法定相続人全員で遺産相続に関する話し合いを進めておくことで、後々のトラブルを回避できる可能性が高まります。たとえば不動産や事業の継承者、生前贈与に該当する財産の洗い出し、介護負担に関する寄与分、預金の相続割合といった事柄を取り上げ、それぞれを家族間で共有しておくことが大切です。

遺言書を残す

被相続人の生前から家族で話し合いを進め、その内容に基づいて正式な遺言書を作成しておくことが理想といえます。ただし、遺言には民法で定められた厳格なルールがあり、民法第960条にて「遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない」と定められている点に注意が必要です。遺留分や寄与分なども考慮する必要があるため、法的効力を有する正式な遺言書を用意するにあたっては、弁護士などの専門家に相談しながらの作成が望ましいといえます。

後見制度を利用する

法定相続人に重い障害を患っている方がいる場合、成年後見制度を活用する必要があります。成年後見制度は知的障害や精神障害などの理由によって判断力が欠如している方に対し、その権利行使を支援・保護する制度です。家庭裁判所が調査した上で後見人を選任する「法定後見」と、本人や家族が自主的に後見人を選ぶ「任意後見」といった形態があります。法定後見は対象者の判断能力が低下してからでなければ利用できない制度ですが、任意後見は対象者の判断力があるうちに後見契約を結ぶ制度です。

家族信託を利用する

家族信託とは財産管理における手法のひとつです。たとえば認知症になった人は意思能力を喪失したと判断され、銀行預金や定期金などが凍結されるケースがあります。家族信託は財産の所有権を「財産から利益を受け取る権利」と「財産を管理・運用・処分できる権利」に分類し、後者のみを子に渡すことで資産凍結を防止する法的制度です。家族信託の契約は委託者の死後も継続されるため、遺言書に近い効力をもつ財産管理手法といえます。

相続のプロに相談する

相続トラブルを平和的に解決する方法のひとつは、法的根拠に基づいて公平な視点から相続割合を決定することです。そのためには民法で定められた遺産相続に関する高度な知識が求められます。遺産相続で揉めないためには相続の専門家に委任するのがおすすめです。財産調査から法定相続人の確定、遺産目録や遺産分割協議書の作成、家族信託や調停の手続きなど、遺産相続に関する一連の業務を請け負ってくれます。相続トラブルを回避するためにも、可能な限り早い段階で専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。

おわりに:「争族」にならないように生前から対策を

遺産相続で揉める主な原因としては、「相続人の数が多い」「遺産に不動産がある」「介護の負担が平等でない」「遺言書の内容が平等でない」などが挙げられます。遺産相続トラブルを回避するためには、家族と話し合いながら遺言書を作成するとともに、後見制度や家族信託といった制度を活用することが重要です。
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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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