相続の知識

「延納」で相続税を分割して払える!|期間・要件を解説

大切な家族の方が亡くなると、相続が発生します。亡くなった方(被相続人という)の遺した財産によっては相続税を払わなければならないケースも起きてきます。もし、相続税を払わなければならないにもかかわらず、それが困難な時はどうすればいいのでしょうか?
一般的に相続税は現金による「一括払い」が原則となっています。しかし相続税額が大きかった場合は、支払いが困難になる人も出てきます。とくに不動産が割合の多くを占める相続は、すぐに現金化ができなかったり、そもそも売却をする予定がなかったりといった事情から相続税が重い負担となるケースが少なくありません。
その結果として一括払いが難しくなるわけですが、じつは相続税は「分割払い」をすることもできます。支払いが困難な場合は担保を提供することによって分割払いに変更をすることが可能となっているのです。
この記事では相続を分割払いにする「相続税の延納」について解説いたします。

延納とは|相続税を分割払いできる

相続税は原則として「一括払い」をすることが決まっています。しかし相続税の額が大きく、一括で払うことが難しい場合もあります。そんな時に活用したいのが「相続税の延納」です。
これは、納めるべき相続税を分割によって毎年少しずつ支払っていく制度です。利息として「利子税」も付きますが、支払いの負担は大きく軽減される制度といっていいでしょう。この延納制度を活用するケースとしては、相続をした財産の多くが不動産で占められ、手元にそれほど現金がない場合が一般的です。

【相続税は一括払いが原則】
【一括払いが困難な時は分割払いも可】

では、相続税の延納期間はどれくらいまで設定されているのでしょうか?
これは相続した財産の内容に応じて期間が異なってきます。まず、相続した財産のうち不動産などの割合が75%以上の場合、「動産等に係る延納相続税額」が10年、「不動産等に係る延納相続税額」は20年です。
不動産などの割合が50%以上75%未満の場合、「動産等に係る延納相続税額」は同じく10年ですが「不動産等に係る延納相続税額」は15年となります。
不動産などの割合が50%未満の場合、「一般の延納相続税額」としてどちらも5年となります。

不動産などの割合が75%以上

動産等に係る延納相続税額 10年
不動産等に係る延納相続税額 20年

不動産などの割合が50%以上75%未満

動産等に係る延納相続税額 10年
不動産等に係る延納相続税額 15年

不動産などの割合が50%未満

一般の延納相続税額 5年

具体例を出してみましょう。
9,000万円の土地と1,000万円の乗用車を相続したとします。相続財産の合計額は1億円。そのうち土地の占める割合は90%です。

( 9,000万円÷(9,000万円+1,000万円)=0.9)

この場合「不動産などの割合が75%以上」なので、動産等に係る延納相続税額に関しては期間が10年、不動産等に係る延納相続税額に関しては20年となります。仮に相続税を 3,000万円とすると、この3,000万円のうち90%の2,700万を20年で、10%の300万円を10年で分割払いしていくということになります。

相続税を延納する場合は、その総額に加えて「利子税」を払わなければなりません。その年割合(金利と考えてください)ですが、先ほどの延納期間と同じように相続した財産の内容によって異なってきます。
不動産などの割合が50%以上の場合は「動産等に係る延納相続税額」は1.10%、「不動産等に係る延納相続税額」は0.70%です。また、不動産などの割合が50%未満あれば、いずれも1.30%となります(令和3(2021)年5月14日現在)。

先ほど用いた例をふたたび使ってみましょう。

  • 相続した土地 9,000万円
  • 相続した自家用車 1,000万円
  • 相続税額 3,000万円

この場合、土地の占める割合は50%以上なので、動産等に係る延納相続税額に関しては1.
10%の年割合が、不動産等に係る延納相続税額では0.70%の年割合が適用されます。
相続税額の3,000万円のうち90%が不動産ですから
【3,000万円×90%×0.7%】
という計算になり、利子税は18万9,000円として算出されます。
同じように動産等に係る延納相続税額は
【3,000万円×10%×1.10%】
という計算になり、利子税は3万3,000円になります。
両者を合計すると22万2,000円となり、この金額を利子税として支払うわけです。なお、相続税の支払いが進むにつれて残額も減っていくため、そのぶん利子税の負担額も減っていきます。

延納の四つの要件

相続税の延納は税務署に申請をしますが、申請を認めてもらうには次の四つの要件を満たしている必要があります。

①相続税の金額が10万円を超えること
②金銭納付が困難な金額の範囲内であること
③申告期限までに延納申請書・担保提供関係書類・金銭納付を困難とする理由書を提出すること
④延納税額に相当する担保を提供すること

それぞれに解説していきましょう。

①相続税の金額が10万円を超えること
延納制度を利用するには相続税額が10万円超である必要があります。「超」という表記の場合、その数字自体は含みません。つまり10万円以下の場合は申請ができないということです。
では、相続人が複数いて、相続税額の合計が10万円を超えていた場合はどうなるのでしょう? この場合も申請ができない可能性があります。というのも、延納制度の判定は相続人ごとに行われるためです。もし相続人の一人の相続税が10万円以下だとしたら、その人は申請ができないことになります。

②金銭納付が困難な金額であること
相続税は現金一括払いが原則です。その際には相続した財産から払い、さらに相続人のもともとの財産から払っていくことになります。しかし、相続した財産が現金ではなかった場合、支払いが難しくなります。したがって、相続人のもともとの財産を支払いにあてても全額を払いきれない場合は延納の要件の一つを満たすことになります。

なお、相続人の財産をすべて相続税の支払いに使わなければならないわけではありません。生活をしていくうえで必要な分は残しておいても問題はありません。

③申告期限までに延納申請書・担保提供関係書類・金銭納付を困難とする理由書を提出すること
相続税の申告・納付には期限があります。原則は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」となっています。たとえば、被相続人が1月6日に亡くなったとすると、その年の11月6日が申告・納付の期限となるわけです。もし、その期限が土・日・祝日にあたったら、その翌営業日が期限になります。

その申告期限までに「延納申請書」「担保提供関係書類」「金銭納付を困難とする理由書」を税務署に提出しなければなりません。各書類は国税庁のホームページからダウンロードすることができます。
以下のURLからアクセスしてください。
相続税・贈与税の延納申請書(国税庁)

④延納税額に相当する担保を提供すること
延納制度を利用する際には延納税額に相当する担保の提供も求められます。担保に使えるものとしては不動産や有価証券、自動車などがありますが、一般的には土地を担保とするケースが多く見受けられます。

なお、延納税額が100万円以下であり、なおかつ延納期間が3年以下の場合は担保の提供は必要ありません。

延納の件数と金額

延納の申請件数は年々少なくなっています。国税庁が発表しているデータによると、平成12(2000)年度における相続税の延納の申請件数は1万1,258件でした。その後、ほぼ毎年といっていいほどに件数は減っていき、令和元(2019)年度には1,122件と約10分の1にまでなっています。

延納の申請件数

単位:件

年度 件数 年度 件数
H12 11,258 H22 2,195
H13 9,734 H23 1,811
H14 9,023 H24 1,450
H15 8,333 H25 1,304
H16 7,026 H26 1,144
H17 5,763 H27 1,376
H18 4,705 H28 1,423
H19 3,222 H29 1,344
H20 3,030 H30 1,289
H21 2,737 R1 1,122

納税額も同じで、平成12(2000)年度は3,321億円分の申請がありましたが、令和元(2019)年度には459億円と、およそ7分の1にまで減っています。

出典:相続税の延納処理状況等(国税庁)

ここまで減少した理由としては平成18(2006)年の税制改正によって延納の要件が厳格化されたためと考えられています。たとえば「金銭納付を困難とする理由書」の作成の義務化など申請のハードルが上がったことが理由です。また、地価の下落や土地取引の減少も要因として挙げられます。さらに、税理士のアドバイスによって相続税額が下がり、延納をしなくてもよくなったケースがあることも考えられるでしょう。

延納担保の要件

延納制度を利用するには担保を提供する必要があります。その担保には次の三つの要件が備わっていなければなりません。

①担保として提供できる財産の種類であること
②担保として不適格な事由がないこと
③必要担保額を充足していること

それぞれに解説していきましょう。

①担保として提供できる財産の種類であること
担保として提供できる財産は、以下にあるとおりです。このなかから、可能な限り処分が容易であり、価格の変動が少ないものを選びます。

  • 国債及び地方債
  • 社債(特別の法律により設立された法人が発行する債券を含む)その他の有価証券で税務署長等が確実と認めるもの
  • 土地
  • 建物、立木及び登記・登録される船舶、飛行機、回転翼航空機、自動車、建設機械で、保険に附したもの
  • 鉄道財団、工場財団、鉱業財団、軌道財団、運河財団、漁業財団、港湾運送事業財団、道路交通事業財団及び観光施設財団
  • 税務署長等が確実と認める保証人の保証

②担保として不適格な事由がないこと
担保として不適格とされるものは、一般的に以下のとおりになります。

  • 法令上担保権の設定又は処分が禁止されているもの
  • 違法建築、土地の違法利用のため建物除去命令等がされているもの
  • 共同相続人間で所有権を争っている場合など、係争中のもの
  • 売却できる見込みのないもの
  • 共有財産の持分(共有者全員が持分全部を提供する場合を除く)
  • 担保に係る国税の附帯税を含む全額を担保としていないもの
  • 担保の存続期間が延納期間より短いもの
  • 第三者又は法定代理人等の同意が必要な場合に、その同意が得られないもの

③必要担保額を充足していること
提供する担保の見積価格が、延納税額と1回目の利子税の3倍を合わせたものより多いことが必要です。

【担保の見積価格>延納税額+利子税×3】

おわりに:延納の相談は税理士へ

現金による一括払いが原則の相続税ですが、相続した財産に占める不動産などの割合が多い時などは、その一括払いが容易ではなくなる人も出てきます。そうした人たちのために用意された制度が相続税の延納で、この記事ではその詳細についてお伝えいたしました。

記事のなかでもふれましたが、延納の申請は減少傾向にあり、その背景としては要件の厳格化による影響も考えられます。延納の申請をより確実なものにする意味においても専門知識が豊富な税理士にご相談することをおすすめいたします。
また、税理士に相談をすることで相続税額が当初の予定よりも下がり、延納の必要がなくなることも十分にありえます。その意味でも、税理士への相談をぜひ検討してみてください。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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