相続の知識

孫に遺産相続できる三つの方法|節税方法も解説

大切な家族の方が亡くなった時、相続が発生します。亡くなった方(被相続人という)が遺した財産の評価額が一定の金額以上であれば相続税の申告・納付義務が生じることもあります。
多くの財産を築いた方が高齢であれば、孫もそれなりの大人になっていることでしょう。大学に通っていたり、出産を控えたりしている孫に対し、財産の一部でも相続させてあげたいと考えられる方は数多くおられます。しかし、実子が存命であれば孫は法定相続人に入らず、なにもしなければ相続することができません。
それでも孫に遺産を相続させたいとお考えであれば、生前から対策を打っておく必要があります。
この記事では、孫に遺産相続させるための三つの方法があること、遺産相続が難しいケースもあること、孫に遺産相続するなら節税が重要になることなどを紹介します。

孫にも相続税はかかる

実際に財産を受けとるかどうかにかかわらず、民法の規定により被相続人の遺産を相続する権利をもつ人を「法定相続人」といいます。相続人になれる範囲と相続順位は、

被相続人の配偶者=常に相続人
第1順位=子(孫、ひ孫)
第2順位=親
第3順位=兄弟姉妹(甥・姪)
です。

第1順位の該当者がいない場合には第2順位に、第2順位がいない場合には第3順位に、相続人の順位は移動します。
相続第1順位の子は、実子はもちろん、認知している子、養子も対象になります。
被相続人より先に子が死亡している場合、または兄弟姉妹が相続人となるケースでその兄弟姉妹が被相続人より先に死亡している場合は孫や甥・姪が代わりに相続人(代襲相続人)となりますが、第1順位のみ再代襲(先に子と孫が死亡の時、ひ孫が相続)となり、甥・姪には再代襲はありません。

被相続人の実子が存命の場合、孫は法定相続人に入りません。しかし、孫に財産を残したいと思われる方は少なくありません。そのため、遺言を残して孫に財産を相続させる方もおられます。
被相続人が遺した財産が一定の金額以上であれば、相続税が課せられます。しかも、1親等の血族(子ども、父母)と配偶者以外の人に課せられる「2割加算」という制度があります。これは文字どおり、払うべき税金が2割増しになるというものです。

孫に相続した計算例

たとえば、遺言で孫に財産をゆずり、相続税額が100万円だったとしましょう。
加算金額=各人の税額控除前の相続税額×0.2
となりますので20万円が加算され、納めるべき税金が120万円になるわけです。

孫に遺産を相続させる三つの方法

被相続人のなかには、孫に遺産を相続させることを願う人が少なくありません。そのためには①遺贈、②養子縁組、③代襲相続の三つの方法があります。

遺贈

これは遺言によって遺産の中身とゆずる相手を指名することです。この場合、法定相続人以外の他人にも財産を引き継げます。

「遺贈」とよく似た言葉で「死因贈与」があります。これは生前に契約書で遺産をゆずる相手を指名することです。こちらの場合も、法定相続人以外の他人にも財産を引き継げます。
遺言とどこが違うの? と思うかもしれませんが、「契約書による贈与」という点に注目しましょう。「遺贈」は相続で、受け取る相手の意思は必要ありません。一方、「死因贈与」は契約であり、相手との合意が必要です。

「遺贈」と「死因贈与」のどちらでも、被相続人の子が存命していて、孫に財産をゆずった場合には税金の2割加算が課せられます。さらに死因贈与で法定相続人でない人に不動産をゆずると、不動産取得税がかかります。

養子縁組

孫を養子にする(いわゆる孫養子)ことで、孫に相続することができます。この場合、孫は法定相続人の第1順位である子になるわけです。ただしこの場合、例外的に、孫養子の納めるべき相続税は2割加算されます。
相続全体として見れば、法定相続人が増え、相続税を計算する際の基礎控除額が増えるので、2割加算されてもメリットのほうが大きい場合もあります。この辺りの計算はケースごとにさまざまですし、養子縁組が明らかな相続税の節税目的と認定された場合は相続人の一人として認められないこともあります。
国税庁のホームページには、「養子の数を法定相続人の数に含めることで相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合、その原因となる養子の数は、養子の数に含めることはできません」と書かれています。

出典:国税庁ホームページ『相続人の中に養子がいるとき』

また、相続税計算上の養子の数は一定数に制限されており、被相続人に実子がいる場合は一人まで、実子がいない場合は二人までとなっています。
養子による節税対策に関しては、専門家に相談することをおすすめします。

代襲相続

「代襲相続」とは、被相続人の死亡時に本来相続人となるはずだった人がすでに死亡していたなどの場合に、その子など(つまり孫など)が代わって相続する制度のことです。相続が開始される前に、被相続人の子が亡くなっており、孫が代襲相続人になっていると、孫に相続できることになります。この場合、納税金額は2割加算されません。しかし、代襲相続は子が亡くなっていることが前提なので、意図的にこの状況をつくり出すことはできません。

孫に遺産を相続させられないケースもある

上でご説明したように相続人には順位が決められており、上位の順位者がいるときは下位の順位者は相続人になれません。被相続人が遺言を残しておらず、第1順位である子がいれば、孫は相続人になれないわけです。

それでも孫に相続させるには、上に紹介した三つの方法がありますが、孫が相続人になることはすなわち、ほかの相続人のとり分が減ることになるわけです。そのため遺産分割協議が難航する場合も考えられます。孫養子にする場合でも、ほかの相続人から反対される場合もありますし、あからさまな節税対策では税務署に否認されてしまいます。専門家と相談して慎重に決断することが大切です。

孫にかかる相続税の負担を軽くする方法

上に紹介した三つの方法を使って孫に遺産を相続できたとします。しかし、企図的に状況をつくれない代襲相続以外では、税金が2割加算されます。そこで、次にご紹介する制度を活用すれば、相続税の負担を軽くすることができるかもしれません。
その制度とは、特例贈与、教育資金の一括贈与、結婚・子育て資金の一括贈与、相続時精算課税制度です。

特例贈与

祖父母や父母など(直系尊属)から、贈与を受けた年の1月1日で20歳以上になっている子・孫など(直系卑属)へ財産が贈与された場合には、税率が低くなる制度です。これは祖父から孫だけでなく、父から子への贈与などにも適用されます。直系の家族間での贈与で使えるということで、配偶者の親からの贈与などには使用できません。

その税率を一般の贈与の税率と比べてみましょう。

基礎控除額110万円

一般贈与 基礎控除後の課税価格 200万円以下 300万円以下 400万円以下 600万円以下 1,000万円以下 1,500万円以下 3,000万円以下 3,000万円超
税 率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 25万円 65万円 125万円 175万円 250万円 400万円
特例贈与 基礎控除後の課税価格 200万円以下 400万円以下 600万円以下 1,000万円以下 1,500万円以下 3,000万円以下 4,500万円以下 4,500万円超
税 率 10% 15% 20% 30% 40% 45% 50% 55%
控除額 10万円 30万円 90万円 190万円 265万円 415万円 640万円

たとえば祖父から20歳以上になっている孫へ、2,000万円が贈与されたとします。
ここから基礎控除額を引いて、
2,000万円―110万円(基礎控除額)=1,890万円
が基礎控除後の課税価格です。

これが一般贈与だった場合
1,890万円×50%―250万円=695万円

特例贈与だった場合
1,890万円×45%―265万円=585万5,000円
となり、その差は
695万円−585万5,000円=109万5,000円

これはとても大きい額です。

教育資金の一括贈与

信託銀行などの金融機関に子や孫名義の口座を開設し、その口座に対して、教育資金を一括贈与した場合、与える子や孫が30歳未満の個人であれば、1,500万円まで贈与税非課税となる制度です(受贈者の所得制限あり)。 教育資金の範囲には以下のものが含まれます。

  • 入学金、授業料、入園料、保育料、施設設備費または入学(園)試験の検定料など
  • 学用品の購入費、修学旅行費や学校給食費など学校などにおける教育に伴って必要な費用
  • 教育(学習塾、そろばんなど)に関する費用や施設の使用料など
  • スポーツ(水泳、野球など)または文化芸術に関する活動(ピアノ、絵画など)などに関する費用
  • 通学定期券代、留学のための渡航費などの交通費
  • など

詳しくは文部科学省ホームページをご覧ください。

ちなみに学習塾や習い事など、学校以外に支払うものは500万円までが非課税になります。

この制度を使う場合、贈与者(たとえば祖父)と受贈者(孫など)との間で教育資金管理契約を締結し、金融機関を通して教育資金非課税申告書を提出する必要があります。さらに受贈者は、教育資金口座から引き出した金額を教育に使ったことを証明するために、領収書などを金融機関に提出しなければなりません。

ここでも、この特例制度で得られるメリットを計算してみましょう。

たとえば祖父から20歳未満の孫へ、2,000万円が教育資金として一括贈与されたとします。
この特例制度を使わないとすると、先に示した贈与税の場合と同じで、
2,000万円―110万円(基礎控除額)=1,890万円
が基礎控除後の課税価格。
一般贈与として扱われると、
1,890万円×50%―250万円=695万円
が課税されます。

この特例が適用されたとすると、基礎控除後の課税価格までは同じで、1,890万円。このうち1,500万円が非課税になったして、
1,890万円−1,500万円=390万円
この課税価格から計算すると
390万円×20%―25万円=53万円
が課税されます。
その差は、
695万円−53万円=642万円
です。

受贈者が30歳になった時や教育資金口座の契約が終了し、残額や教育資金以外の支払いがあると贈与税が課せられます。契約期間中に、贈与者が死亡した場合、死亡時の口座残高は相続税の課税対象になります。その際、通常の相続と同様、孫への贈与に関しては、相続税額に2割加算されます。

 ※ 2023年最新情報 

令和5年度税制改正大綱により、教育資金贈与の非課税制度において以下の内容が変更となりました。
● 適用期限が3年延長(2023年3月31日→2026年3月31日)
● 贈与された資金が30歳までに使いきれなかった場合、残額にかかる贈与税の税率は受贈者の年齢により「特例税率」か「一般税率」を判断だったが、改正後はすべて「一般税率」へ統一
● 贈与者が死亡した際の残額は相続税の課税対象、ただし対象外の条件(① 23歳未満である場合 ② 学校等に在学している場合 ③ 教育訓練給付金の支給対象となる教育訓練を受けている場合)に該当すれば課税されない
→ 対象外となる条件に該当しても、相続税の課税価格が5億円以上ある場合は課税

結婚・子育て資金の一括贈与

この特例制度の概要は教育資金の一括贈与に対する特例制度とほぼ同じですが、1,000万円が上限になっています。
結婚・子育て資金の範囲には以下のものが含まれます。

結婚に関する費用(300万円が限度)

  • 挙式費用、衣装代などの婚礼(結婚披露)費用(婚姻の日の1年前の日以後に支払われるもの)
  • 家賃、敷金等の新居費用、転居費用(一定の期間内に支払われるもの)

妊娠、出産および育児に関する費用

  • 不妊治療・妊婦健診に要する費用
  • 分べん費など・産後ケアに要する費用
  • 子の医療費、幼稚園・保育所等の保育料(ベビーシッター代を含む)

詳しくは 内閣府ホームページ をご覧ください。

 ※ 2023年最新情報 

令和5年度税制改正大綱により、結婚・子育て資金贈与の非課税制度において以下の内容が変更となりました。
● 適用期限が2年延長(2023年3月31日→2025年3月31日)
● 贈与された資金が50歳までに使いきれなかった場合、残額にかかる贈与税の税率は、特例税率 → 一般税率へ変更

相続時精算課税制度

被相続人が亡くなる前に、財産を贈与されており、ゆずられた人が贈与税を納めているという場合があります。その後、被相続人が亡くなると、すでにゆずられている贈与財産の価額と相続財産の価額との合計金額を元に相続税額を計算し、すでに納めた贈与税相当額を控除することにより、贈与税・相続税を通じた納税を行う制度です。いわば相続税の一部を贈与税として前払いしているとして、計算し直すというわけです。
この制度を使って孫に生前贈与をすると、孫の税負担を軽くできる場合もあります。

相続時精算課税制度では、2,500万円までの贈与に関しては贈与税が非課税になります。さらに贈与する人ごとの金額ですので、たとえば祖父と祖母の二人から贈与された時は、5,000万円までが非課税になります。この上限額は年ごとではなく累計ですので、たとえば1,000万円を3年に分けて、孫に贈与していったとすれば、3年目の500万円分には一律20%の税率で贈与税が課せられます。

たとえば、被相続人が生前に相続時精算課税制度を利用し、2,500万円を孫に贈与していたとしましょう。この時の贈与税は0円になります。
その後、被相続人が亡くなり、財産が相続されることになりました。配偶者・子ども二人(長女、長男)が相続人で、遺産額は7,500万円とします。相続時精算課税制度を利用している場合、この7,500万円に、生前、孫に贈与している2,500万円を加えて、1億円が遺産総額になります。

基礎控除額は法定相続人の妻と子ども二人で3人なので

3,000万+600万×3人=4,800万円

したがって
正味の遺産額から基礎控除額を引いた課税遺産総額は

1億円-4,800万円=5,200万円

となります。

次に法定相続分に沿って各相続人の相続財産を算出すると、

妻:5,200万円×1/2=2,600万円
長女:5,200万円×1/4=1,300万円
長男:5,200万円×1/4=1,300万円

これを元に相続税額を計算すると、

妻:2,600万円×15%(税率)-50万円(控除額)=340万円
長女:1,300万円×15%(税率)-50万円(控除額)=145万円
長男:1,300万円×15%(税率)-50万円(控除額)=145万円

各人の相続税額を合計すると、

340万円(妻)+145万円(長女)+145万円(長男)=630万円

これが相続税額(相続税総額)です。ここから各相続人の相続税額を算出します。 このケースでは、妻と子ども二人は被相続人の遺産7,500万円を法定相続分どおりに相続したとします。ここに孫の2,500万円の生前贈与分を加えると、

妻:3,750万円/1億円=37.5%
長女:1,875万円/1億円=18.75%
長男:1,875万円/1億円=18.75%
孫:2,500万円/1億円=25%

その割合に則って、相続税額(相続税総額)を割り振ると、

妻:630万円×37.5%=236万2,500円
長女:630万円×18.75%=118万1,250円
長男:630万円×18.75%=118万1,250円
孫:630万円×25%=157万5,000円

孫の場合、157万5,000円に2割加算されて189万円になります。ちなみに妻の相続税額は、配偶者の税額軽減により、ゼロとなります。

相続時精算課税制度を利用せず、孫が2,500万円を贈与されていたとすればどうでしょうか? 孫が20歳以上で特例贈与だった場合、
2,500万円―110万円(基礎控除額)=2,390万円
が基礎控除後の課税価格。それに課税されて、
2,390万円×45%―265万円=810万5,000円
となります。

これを相続時精算課税制度を利用した場合の贈与税0円、相続税189万円と比べてみれば、その制度のメリットは一目瞭然です。

おわりに:節税や相続争い防止のために専門家へ相談しよう

この記事では、そもそも実子が存命の場合、孫への相続では相続税が2割増になることや、孫に相続することはほかの相続人のとり分を減らすことにつながるので、不満が出やすいことなどを紹介してきました。

それでも財産を孫にゆずりたいのであれば、相続だけではなく、贈与を考えてみることも選択肢の一つです。遺言を書いても孫に相続できますが、いずれにしても存命のうちになんらかの対策を講じておいたほうがベターです。この記事では相続時精算課税制度でのシミュレーションを紹介しましたが、実際にはこんなにシンプルにはいきませんし、この制度を使ってデメリットが生じる場合もしばしばあります。

さらにここで紹介した贈与税の特例制度はいずれも期限付きですので、ご検討される時に適用が終わっている場合もあります。相続税・贈与税の専門知識が豊富な税理士に相談をすることをおすすめします。税理士は節税に有利なサポートもさまざまにしてくれるので、その意味でも頼りになる存在といっていいでしょう。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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