相続の知識

遺産相続とは?相続できる人や相続できる遺産について解説

身内の誰かが亡くなると、その家族はさまざまな手続きに追われますが、同時に遺産相続についても話し合い、必要な手続きを進めなくてはなりません。誰がどのように遺産を相続するかは民法によって一定のルールが定められています。いざというときに慌てないように、ここで基本的なルールと遺産相続の進め方を確認しておきましょう。

遺産相続とは?

亡くなった人(被相続人)が所有していた財産やそれに付随する権利・義務などを、被相続人と一定の関係にあった人たちが引き継ぐこと、それが遺産相続です。

通常、遺産は民法で定められた相続人(法定相続人)が引き継ぐことが多いのですが、遺言によって相続人以外の人が引き継ぐこともあります。これを遺贈といい、遺言で財産を受け取る人を受遺者といいます。

相続人や受遺者が被相続人の財産などを引き継ぐことをまとめて遺産相続といいます。

遺産を相続する人の決め方と遺言書の種類

遺産を相続する人の範囲や、誰がどんな財産を引き継ぐか、その決め方は、遺言のあるなしで異なります。まずは先に遺言書があるかどうかを確認することが必要です。遺言書がある場合は、原則としてその遺言に従って遺産を分割します。遺言書がない場合は、相続人全員による遺産分割協議によって、遺産相続の方法を決めます。

遺言書ありのケース

被相続人が生前に用意した遺言書があれば、遺産は基本的にその内容に従って分割し、指定された人たちが引き継ぎます。もしも複数の遺言書が見つかったら、日付のもっとも新しいものが有効となります。また、遺言書の種類によって、その後の手続きが若干異なります。

遺言書の種類

遺言書には、公証人によって作成する「公正証書遺言」と、本人が自筆で作成した「自筆証書遺言」があります。

公正証書遺言は公証役場にて証人2人の立会いのもと、遺言者本人が口述し、公証人が筆記して作成した遺言書です。これは本人には正本および謄本が渡され、原本は公証役場に保管されます。公正証書遺言を作成したことは聞いていたが、それが見つからない場合は、最寄りの公証役場で遺言書の有無および遺言書が保管されている公証役場を調べてもらい、保管している公証役場で再発行してもらうことができます。

一方、自筆証書遺言があれば、被相続人の最後の住所地を管轄する家庭裁判所で、「検認」の手続きを行うことが必要です。保管していた人や相続人が必要書類を添付して検認の申し立てを行うと、後日、家庭裁判所から検認期日の通知が来るので、その日にあらためて家庭裁判所に遺言書を持参して、相続人らの立会いのもとで中身を確認し、「検認済証明書」の交付を受けます。この手続きを経てから、遺言書に従って相続手続きを進めます。

遺言書の中には、本人の遺言であることを公証役場で証明してもらい、内容については秘密にしている「秘密証書遺言」というものもあります。この場合も自筆かどうかにかかわらず、上記と同様に検認の手続きが必要です。

自筆証書遺言でも、2020年7月からスタートした法務局の保管制度を利用していた場合は、この検認手続きは不要になります。相続人は保管所で遺言の有無を確認し、必要書類を添えて「遺言書情報証明書」の交付を受けます。この書類で、以降の相続手続きを進めることができます。

遺言書なしのケース

被相続人が遺言書を残していない場合は、相続人が全員参加して遺産分割協議を行い、話し合いによって遺産の分け方を決めます。誰がどの財産をどのように引き継ぐかを決めて、それに全員が納得し合意に達したら、その内容を遺産分割協議書にまとめ、相続人全員で署名し、実印で押印します。

なお、前述の遺言書がある場合でも、相続人全員がどうしてもその内容に納得できない場合は、遺産分割協議で遺産を分けることは可能です。その場合は上記と同様に話し合いを行い、その内容を遺産分割協議書にまとめることが必要です。

最低限の遺産相続、遺留分とは?

遺言書で指定すれば、本人の希望により相続人以外の人にも遺産を分割し、取得させることができます。相続人に対しても、法定相続分とは異なる分け方を自由に指定することができます。しかし、相続人には民法で保証された最低限の遺産の取得分があり、これを遺留分といいます。

遺留分があるのは、被相続人の配偶者と子ども(代襲相続人となる孫も含む)、父母または祖父母です。被相続人の兄弟姉妹が相続人になる場合でも、兄弟姉妹には遺留分はありません。

遺留分がある相続人が、遺言などによって自分の遺留分を侵害されていた場合は、その侵害額を金銭で請求することができます。以前は遺留分減殺請求という方法でしたが、法律の改正で現在は侵害額に相当する金額を金銭で請求する権利に変わりました。遺留分侵害額を請求できるのは、相続の開始および遺留分を侵害する贈与または遺贈があったことを知ったときから1年間です。

ですから、遺言を作成する際はもちろん、遺産分割協議においても遺留分を考慮した遺産の分け方を検討し、相続人が余計な手続きや争いを行わずにすむように配慮することが大切です。

相続を放棄することもできる

遺産は遺言に従って分けるか、遺産分割協議によって相続する方法を決めますが、相続しないという選択もできます。それが相続放棄です。遺産には預貯金や不動産などのプラスの財産もあれば、借金やローンなどのマイナスの財産もあります。いったん相続すると、どちらの財産も引き継がなくてはなりません。プラスの財産よりマイナスの財産のほうが大きい場合は、相続放棄をすることで債務の返済などを免れることができます。

相続放棄は、相続人それぞれが単独で行うことができます。相続の開始を知った日から3カ月以内に、被相続人が最後に居住していた住所地を管轄する家庭裁判所に、「相続放棄申述書」と必要書類を提出して手続きします。

遺産には相続できるものとできないものがある

遺産には、被相続人が残したものであっても、相続できるもの、遺産分割の対象になるものとならないものがあります。

相続対象になる遺産

基本的に、被相続人が所有していた預貯金や株式などの金融資産、不動産、ゴルフ会員権などの金銭的価値のあるものはすべて相続財産として遺産分割の対象になります。借金や保証債務も相続財産になり、相続人は返済の義務を負います。相続税の計算はプラスの財産からマイナスの財産を控除して計算します。

相続対象にならない遺産

遺産相続の対象にならないのは、被相続人の一身に専属した権利・義務などです。生命保険からの死亡保険金や、勤務先から支払われる死亡退職金は、相続税の計算ではみなし相続財産になりますが、遺産分割においては受取人固有の財産になり、分割の対象にはなりません。また、被相続人が生前から所有していた墓地・墓石、仏壇・仏具なども家族の誰かが引き継ぎますが、相続税の計算においては非課税財産となっています。

さらに、遺言で公益法人などに遺贈することを指定された一定の要件を満たす財産も非課税で、遺産分割の対象にはなりません。

遺産相続の進め方

遺産を相続するためには、金融機関で預金などの払い戻しをしたり、不動産の名義変更をしたりといった手続きが必要です。その際には、原則として遺言書か、遺産分割協議書の提出が必要とされます。遺言書がなく、法定相続人が1人の場合は、被相続人との関係を証明する戸籍謄本などの書類の提出で相続手続きを進められますが、そうでない場合は遺言書か遺産分割協議書がないと相続手続きを進められないため、事前に用意しておきましょう。

遺言書ありのケース

公正証書遺言(正本または謄本の原本)がある場合は、その内容を相続人らが確認し、それに従ってすぐに各自で遺産相続の手続きを進めることができます。
自筆証書遺言の場合は、前述のとおりに家庭裁判所で検認の手続きを行い、検認済証明書を付けたものを用意すれば、遺言内容に従って、それぞれで相続手続きを行うことができます。
自筆証書遺言で保管制度を利用したものは、保管所で「遺言書情報証明書」の交付を受けます。それが遺言書と同じ扱いになり、提出することで同様に相続手続きを行えます。

いずれの遺言書も、その中で遺言執行者が指定されていれば、その人が遺言書の内容に従って遺産を分割し、具体的な手続きを進めることになります。

遺言書なしのケース

遺言書がない場合は、相続人らによる遺産分割協議で遺産の分け方を決めるため、その内容を書面にした遺産分割協議書と、相続人全員の印鑑証明書を用意します。これをセットにしたもので金融機関での払い戻しや、株式・不動産などの名義変更といった相続手続きを進めることができます。

遺産を引き継ぐ相続人らが、同時に複数箇所で相続手続きを進める際は、それぞれで遺産分割協議書と印鑑証明書が必要になるため、これらの書類は相続人の数や必要な手続きの数だけ、用意しておくといいでしょう。

【事前準備推奨】手続きに必要なもの

遺言書か、遺産分割協議書のどちらで手続きをするにしても、相続する財産の種類や手続き先によって、ほかにも複数の書類の提出が求められます。どこでも共通して求められるのは、被相続人の出生から死亡時までの戸籍謄本一式と、相続人それぞれの戸籍謄本です。複数箇所で同時に相続手続きを行うと、これらの書類もその数だけ必要になり、書類の入手だけでも費用がかさみます。

そのため、最初に法務局で上記の戸籍関係の書類一式や被相続人の住民票の除票などを提出し、「法定相続情報一覧図」の写しを入手するといいでしょう。この一覧図の写しは無料で複数枚をもらうことができます。不動産の相続登記をする際に、同じ法務局でこの一覧図を申請することもできるので、一緒に申請し、複数枚の交付を受けておくのがポイントです。以後の金融機関での相続手続きや、他の法務局での相続登記の際に、一覧図の写しが戸籍関係の書類の代わりになり、提出書類を省略できます。

遺産相続でよくあるトラブルと注意点

遺産相続の際には書類のことでも思わぬトラブルが生じたり、手続きに支障をきたしたりすることがあります。そうならないように注意すべき点を知っておきましょう。

トラブル例

遺言書があっても、その内容があいまいだと、遺産の分け方で揉めたり、困ることがあります。たとえば、誰にどの財産を相続させるかは、財産の内容を第三者にもわかるように具体的に指示しなければなりません。預貯金なら金融機関や支店名、定期預金か普通預金などの別を記載し、不動産は土地と建物に分けて、登記事項証明書の記載通りに書いてあることが重要です。

2019年1月以降に作成した自筆証書遺言については、財産目録はパソコンで作成したり、預金通帳や登記事項証明書のコピーを添付したりしたものでも可能となりましたが、その場合も肝心の部分がしっかりわかるようにコピーし、各ページに署名・捺印したものが必要です。遺言の方式を守っていないと、相続手続きが滞ることもあるので注意しましょう。

また、遺言書を作成した時点で、本人が認知症などになっていると、その遺言は無効とされる場合もあります。遺言書は本人が元気で判断能力があるうちに、作成しておくことが大切です。
遺言書がなくて遺産分割協議を行う際にも、相続人に認知症の人がいると、その人は協議に参加できないため、家庭裁判所で成年後見人を選任してもらう手続きが必要です。

相続人に子どもがいない場合や、再婚で先妻の子・後妻の子がいるケース、行方不明の相続人がいるといったケースも、遺産分割協議はしにくく、円滑に進まない可能性があるため、遺言書を残しておくほうが遺産相続をスムーズに進められます。

最近増えている1人暮らしで相続人がいない人や、相続人がいても日ごろ付き合いのない甥・姪だけといった人も、遺産をどうするかを考え、希望の団体などに寄付するなど、遺言書で自分の意思を書いておくといいでしょう。さらに、事前に遺言執行者を決めて依頼し、遺言にも執行者の名前を必ず書いて、その人に遺言書を預けるなどしておくと安心です。

注意点と対策

遺産相続でトラブルになったり、相続人同士で揉めたりするのは、遺産が多い人とは限りません。家庭裁判所に持ち込まれる遺産分割に関する事件数は、遺産の額が5,000万円以下のケースが4分の3を占めており、遺産額が少ないほうがトラブルは生じやすいともいわれています。

遺産の多い富裕層は、事前に何らかの相続対策を講じたり、遺言書を用意したりしている人が多いものの、遺産の少ない人は「相続対策など必要ない」と考えがちで、何の準備もしていない人がほとんどだからでしょう。

遺産の多寡にかかわらず、残された家族は遺産相続という事態に直面することは間違いないため、高齢の親などがいる家庭は、本人だけでなく家族も一緒に何らかの備えを考えておくことが大切です。その方法の1つとして、すぐに取り掛かれるのが遺言書の作成でしょう。

これから遺言書を作成する人は、公証役場で公証人に作成してもらうか、自筆の遺言書であれば法務局の保管制度を利用すれば、紛失・改ざんなどのリスクもなくなります。

おわりに:揉めがちな遺産相続は事前知識があれば対策できることもある

亡くなった人の残した大切な財産を引き継ぐ遺産相続には、一定のルールがあり、面倒な手続きも必要です。遺産を引き継ぐことができる人もいれば、できない人もいますし、それぞれが引き継ぐ財産の種類や価額によっては家族に不満やしこりを残してしまうこともあります。

無用なトラブルを避けて手続きを円滑に進めるためにも、遺産相続における正しい知識と方法を知っておくことは重要です。ある程度の知識があれば、事前に対策を立てることもできます。それでも、各家庭の事情によって心配なことや、どうすればいいかわからないことがあれば、相続手続きに詳しい専門家に早めに相談するといいでしょう。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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