相続の知識

山林の相続手続きや相続税評価方法、相続したくない場合の対処法を解説

山林を相続する予定があるものの、どのような手続きが必要なのか、相続したくないときはどうすればよいのかといった疑問を抱いている人もいるのではないでしょうか。ここでは山林の相続手続きや相続税評価方法、相続したくないときの具体的な対処法などについて解説します。

山林を相続した場合に必要な手続き

山林を相続したときには、相続登記の手続きと市区町村への届出が必要です。必要な手続きを怠ると、罰則として過料が課されることがありますので注意が必要です。

1.相続登記の申請を行う

相続登記とは、土地や建物などの不動産を所有していた人が亡くなったあと、不動産の名義を相続人に変更する手続きです。
相続登記を行うかどうかは従来、当事者の判断に任されていました。しかし、所有者不明の不動産が長期にわたって放置されるといった問題が増加したことで不動産登記法が改正され、2024年4月から相続登記が義務化されることになりました。

改正不動産登記法では、相続人は相続によって所有権を取得したことを知った日から、3年以内に相続登記手続きを行わなくてはならないと規定されました。期間内に登記手続きを行わなかった場合には、10万円以下の過料が科せられることがあります。
相続登記を怠れば、不動産の正当な所有者がわからなくなり、トラブルの種になり得ることは言うまでもなく、物件をスムーズに売買するうえでも障壁になります。将来的に売買を問題なく行うためにも、適切な登記手続きは欠かせません。

相続登記の義務化については、以下の記事もご覧ください。

2.市区町村への届出を行う

新たに山林の所有者となった場合には、森林法にもとづいて市区町村への所有者届出を行う必要があります。ただし、所有者届出が義務付けられているのは、都道府県知事が立案した地域森林計画に含まれる山林(地域森林計画対象民有林)です。地域森林計画対象民有林である場合には、山林を所有した日から90日以内に市区町村に届出を行わなくてはなりませんが、地域森林計画対象民有林に該当しなければ、届出の義務はありません。相続した山林が地域森林計画対象民有林に該当しているか否かは、市区町村の林務担当部局で確認できます。

上述した通り、市区町村への所有者届出は任意でなく、義務です。届出自体を怠ったり、虚偽の内容で届出を行なったりした場合には、10万円以下の過料を課せられることがあります。

届出に必要な書類は林野庁の公式サイトからダウンロードできます。「森林の土地の所有者届出制度」のページに届出書様式のファイルが掲載されています。

【参考】林野庁『森林の土地の所有者届出制度』

山林を相続するメリット

山林の相続には、資産活用することによって収益が得られる、地域に貢献できるといったメリットがあります。山林から収益を得る方法としては、例えば以下のような方法が考えられます。

  • 相続した山林を切り拓いてキャンプ場を運営する
  • 伐採した木材を販売する
  • 地元の自治体や林業事業者などに山林を賃貸する

また相続した山林の地形やロケーションなどにもよりますが、太陽光発電事業に乗り出すという手もあります。ソーラーパネルの設置という設備投資が必要なものの、ある程度の電力量を売電できるようになれば、安定した収益を得られます。

さらに、遊歩道を整備してハイキングコースを作ったり、自然に触れられるアスレチックエリアを設置したりして、地域住民の憩いの場として提供することも可能です。地域への貢献や活性化につながり、地域住民との親睦も図れます。

山林を相続するデメリット

もちろん山林の相続はメリットばかりではありません。新たな管理コストや固定資産税が発生する点はデメリットになり得ます。

山林は適切に管理しないと、草木が生い茂って、すぐに荒れ果ててしまいます。開発して、キャンプ場やハイキングコースなどを設置する場合も、適切に管理しないとがけ崩れや滑落などで利用者を危険に晒すことになります。
広大な山林を素人が管理することは、ほぼ不可能です。管理するには、専門の業者に依頼して定期的にメンテナンスを行ってもらうのが一般的です。専門業者への依頼には当然のことながら、コストが発生します。

山林を相続して所有することになれば、固定資産税が発生します。山林に対する固定資産税額は、【固定資産税課税標準額の1.4%】であり、一般的には1ヘクタールあたり数千円程度とそれほど高いものではありません。課税標準額が30万円未満の場合には非課税となります。とはいえ、所有している間は毎年、納税しなければならないため、所有者には少なからず負担になります。
また登記上の区分は山林であっても、住宅がある場合には宅地とみなされ、課税額が上がる点には注意が必要です。

山林の種類と相続税の評価方法

山林には「純山林」「中間山林」「市街地山林」の3種類があります。それぞれ以下のような特徴があります。

純山林:市街地から距離があり、宅地価額への影響が少ない
中間山林:市街地周辺にあり、純山林に比べて売買価格が高くなる傾向がある
市街地山林:都市計画法で定められた市街化区域内にあり、宅地価額の影響を大きく受ける
次に、それぞれの山林に対する相続税の評価方法について解説します。

1. 純山林・中間山林の場合

市街地から遠く離れた場所に位置する純山林と、市街地近郊にある中間山林の評価方法には、倍率方式が用いられます。本方式では、対象となる山林の固定資産税評価額に、過去の取引価格や精通者意見価格(専門家が自身の持つ知見から判断した価格)などを 基にした国税局長の定める倍率をかけて相続税評価額を算出します。計算に用いられる倍率は地域によって異なります。国税庁では毎年「財産評価基準書」を発表しており、以下のページで確認できるようになっています。

【参考】国税庁『財産評価基準書』

2. 市街地山林の場合

市街地山林の相続税評価額の算出には宅地比準方式または倍率方式が用いられます。宅地比準方式では、対象の山林を宅地とみなして評価した価額から、宅地転用に要する造成費用を控除して評価額が算出されます。

計算式は以下の通りです。
【(宅地とみなし評価した1平米あたりの価格-1平米にかかる造成費用)× 対象となる山林の面積】

計算に用いる造成費用は、上述した財産評価基準書で確認できます。市街地山林であっても、倍率方式の区域に該当する場合には、倍率方式によって相続税評価額が算出されます。

相続手続きをせずに山林を放置することで生じる問題

相続手続きが行われずに放置されている山林は多く、実際に所有者不明の山林も増えています。林野庁が令和2年(2020年)に公表した「森林経営管理法の概要と所有者不明森林への対応」によれば、山林相続時に何も手続きをしていない人の割合は全体の17.9%に上ります。

出典:林野庁『森林経営管理法の概要と所有者不明森林への対応』

所有者不明の山林が増加すれば、林業の集約化や経営管理に支障を来します。所有者が不明であることから行政の手を入れることもできず、災害対策の遅れを招いてしまうことも問題です。さらに、放置山林による環境悪化を指摘する専門家もいます。所有者が不明で、適切な管理が行われていない山林には害獣が増加したり、不審者が住みついたりする恐れもあります。平穏だった地域の住民を不安に陥れてしまいます。

山林を相続したくない場合の対処法

山林の相続にはメリットだけでなく、デメリットもあることは上述した通りです。相続に躊躇を覚える人は少なくないはずです。山林を相続したものの、そのまま所有していたくはない、あるいは相続そのものをしたくないといった場合の対処法としては、主に以下の方法があります。

  1. 山林の売却
  2. 山林の寄付
  3. 相続土地国庫帰属制度の利用
  4. 相続放棄

1.山林の売却

山林を相続してみたものの、今後も所有者として管理し続けたり、固定資産税を納税し続けたりすることに不安を覚える場合には、売却する方法があります。山林の売却は、一般的な土地の売買とは勝手が異なるため、まずは専門家に相談することをおすすめします。相談先としては、山林の売買を専門とする民間業者や、山林売買の専門家が運営している「山林バンク」、森林組合などが挙げられます。

林業に適している山林であれば、当該地域の森林組合に相談することで、買主が見つかる場合があります。森林組合であれば、林業に適した山林かどうかの判断もしてもらえます。

隣接する山林の所有者に購入してもらうという方法もあります。法務局で公図と隣接する山林の登記簿を入手して所有者に直接、交渉をもちかけます。登記簿に記載されている所有者に手紙を出して取引を打診し、価格などで合意できれば、取引が成立します。

【参考】山林バンク公式サイト

2.山林の寄付

「林業に適していない」「これといった使い道が見つからない」といった山林で、売却するのが難しい場合でも、団体などに寄付するという方法があります。

売買が難しくても、何らかの活用方法が見出せる山林であれば、自治体が寄付を受けつけてくれる可能性があります。もちろん各自治体で対応は異なるため、まずは一度相談してみることをおすすめします。役所では農林生産流通課や農政課、林政課などが窓口になってくれます。

自治体で受け入れてもらえない場合でも、民間の企業や団体などが寄付を受けてくれるかもしれません。自然や環境の保護活動を行っている社団法人などであれば、可能性はあります。山林の引き取りサービスを提供している企業もあるので、そうしたサービスを活用することも選択肢のひとつです。

3.相続土地国庫帰属制度を利用する

相続土地国庫帰属制度とは、所有者不明の土地の発生を防止するために創設された、不要な土地を国に返還(国庫に帰属させる)できる制度です。相続土地国庫帰属法にもとづいて設置され、令和5年(2023年)4月に施行されました。
土地の国庫帰属を希望する者が申請し、法務大臣(法務局)の要件審査・承認を経て、申請者が負担金を納付することで、土地が国庫に帰属される、という流れで行われます。

本制度を利用して、山林を国庫に帰属させるには一定の要件が必要です。

  • 申請できるのは、相続または遺贈で土地を取得した人
  • 複数人で土地を取得した場合は、共有者全員の共同申請が必要

申請する土地はもちろん、相続登記されている必要があります。申請先は、土地のある都道府県の法務局または地方法務局の不動産登記部門です。本制度施行前に取得した土地であっても、本制度を利用することが可能です。

相続土地国庫帰属法では、本制度に申請できない土地、承認されない土地についても規定されています。たとえば、建物の建っている土地や境界が明確ではない土地、所有権などについて係争中の土地、土壌汚染された土地、一定の勾配・高さの崖があって、管理が大変な土地などは申請しても却下・不承認となります。

承認後に納付する負担金は、10年分の土地管理費に相当する金額で、返還した山林の草刈りや樹木の伐採、柵や看板などの設置、巡回管理などに用いられます。

相続土地国庫帰属法について、詳しくは以下の記事もご覧ください。

4.相続放棄

相続放棄とは、文字通り故人の財産を相続する権利を放棄する手続きです。相続放棄の手続きを行えば、山林の相続をなかったことにできます。不要な山林や故人の負債など、マイナスの遺産を放棄できる反面、現預金といったプラスの遺産の相続権も同時に失われます。一度相続放棄をすると撤回は不可能であるため、慎重な判断が求められます。

相続放棄には期限が設けられており、相続を知った日から3か月以内に手続きを行う必要があります。具体的には知った日の翌日を1日目として3か月後にあたる日までに、家庭裁判所に相続放棄申述書を郵送または直接、提出しなければなりません。個人で相続放棄手続きを行うことは不可能ではありませんが、必要書類の用意や裁判所での申述など、素人では難しいことも多々あります。

相続放棄については、以下の記事もご覧ください。

おわりに:山林を相続する場合は専門家に相談を

山林の相続にはメリットもデメリットもあり、双方を正しく理解したうえでその後の対応を判断する必要があります。相続した山林の所有を続けたくないとき、あるいは相続そのものをしたくないときは、売却や寄付、制度を利用した国庫への帰属、相続放棄などの方法があります。

山林相続に関して疑問や悩みがある場合には、相続専門の税理士法人レガシィにご相談ください。50年以上の歴史があり、特に山林をはじめとした土地の相続ノウハウにも自信があります。 まずはお気軽にご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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