生前贈与で節税対策は可能? 相続税と贈与税の比較と特例を解説
Tweet※令和5年度税制改正大綱によって、2024年1月1日以降の贈与より、相続開始前の贈与が相続財産へ加算される期間が死亡3年前から7年前へと延長されることが決定されました。詳しくは【2023年最新情報】の章をご覧ください。(更新日:2022年12月19日)
自分がまだ生きている間に子どもや孫など次の世代に財産の一部をゆずり、将来の相続税の負担を減らすことを「生前贈与」といいます。相続税の節税対策の一種ではあるものの、贈与には「贈与税」が課せられることがあります。贈与とは個人から個人へ無償で財産を渡すことをいいますが、その額によっては課税されてしまうこともあるのです。
その贈与税を払うのは受けとった側、つまりは子どもや孫なので相続税の節税対策の意図から離れてしまうことになりかねません。したがって贈与を行う際には「いくらから税金が課せられるのか」を把握しておくことが大切です。
贈与税にはさまざまな特例があり、非課税枠もそれぞれに設定されています。こうした特例を活用することが節税対策の第一歩です。この記事では生前贈与による節税対策について解説いたします。
目次
生前贈与で相続税の節税対策ができる
生前贈与とは、財産を遺す人(被相続人という)がまだ生きているうちに自身の財産の一部を子や孫などの次の世代に渡すことを指します。そのことで将来発生する相続税の負担を軽減することが目的です。なお、生前贈与の対象には配偶者も含まれます。では、なぜ贈与をすると相続税が軽減されるのでしょう?
たとえば、被相続人である父親が二人の子どもに長期間にわたって合計で3,000万円の生前贈与をしたとします。その3,000万円は父親の財産ではなくなるわけですから、相続が発生した時、つまりは父親が亡くなった時は、その分は相続税の課税対象にならないわけです。相続税を支払うのは相続人つまりは子どもたちですから、生前贈与は子どもたちの負担を減らそうとする「親心」ともいえます。
贈与税率のほうが相続税率に比べて税率が高い
相続税の負担を減らすために行う生前贈与ですが、贈与にはその額に応じて「贈与税」が課せられます。そして、その税率は相続税よりも高く設定されています。
以下の表をご覧ください。
贈与税率(20歳以上の子や孫へ贈与する特例税率の場合)
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0 |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
相続税率
法定相続分の取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | 0 |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
たとえば、贈与税の最高税率が適用されるのは課税価格が4,500万円を超えた時ですが、相続税の場合は6億円を超えるまでは適用されません。このように両者には大きな差があるのです。
子どもたちに相続税の負担をかけないようにと贈与をしても、より税率の高い贈与税を支払うことになるのなら本末転倒というものです。そこで、贈与税に関してもなんらかの対策を講じる必要があるということになります。
生前贈与で贈与税を減らす方法
贈与税には「非課税枠」というものがあり、そこで定められている額を超えなければ原則として課税されることはありません。つまり生前贈与を効果的に進めていくには、贈与税に設定されている非課税枠をじょうずに活用することが欠かせないというわけです。贈与税にはさまざまな特例があり、それに応じて非課税枠も設定されています。そのおもだったものを見ていくことにしましょう。
年間110万円は非課税枠
まず、原則として贈与税は「暦年課税方式」によって算出します。1年間(1月1日から12月31日まで)に贈与を受けた額に対して課税するものですが、この場合年間110万円までの非課税枠が設定されています。贈与税額の計算は以下のとおりです。
【贈与税額=(受けとった額−110万円)×税率−控除額】
税率や控除額については先に掲げた表のとおりです(20歳以上の子や孫へ贈与する特例税率の場合)。年間の贈与額が110万円以下なら贈与税を支払う必要はありません。
孫の学費や入学金で贈与する
たとえば子どもや孫が進学をした際の入学金や授業料は、贈与でまかなうことができます。教育に関わる資金を贈与された場合は1,500万円までが非課税となっているためです。学用品の購入や修学旅行の費用などにも使えますが、塾や習い事あるいは通学のための定期券代などは非課税枠は500万円までとなっています。
対象となるのは、令和5(2023)年3月31日までに両親や祖父母から教育資金を贈与された30歳未満の人たちです。
この制度を使う場合は贈与を受けた人が金融機関で「教育資金口座」を開設をする必要があります。金融機関を経由して税務署に届け出ることになるので、贈与された資金の管理はこの口座で行う点に注意をしましょう。必要に応じて引き出せますが、その際には金融機関に教育費用の領収書を提出しなければなりません。
住宅取得等資金で贈与する
マイホームを購入する子どもや孫に対して、資金面で援助を行うケースは多いでしょう。その際には「住宅取得等資金の非課税の特例」を使うことができます。
非課税限度枠はマイホームの購入時期や消費税率、住宅の性能(耐震性やバリアフリーなど)によって変わってきますが、令和4(2022)年1月1日以降に住宅の取得に関する贈与があった場合は、最大1,000万円までが非課税となります。
★令和4年度税制改正によって、住宅購入資金贈与の非課税枠は最大1,000万円に変更されました。
住宅購入資金贈与の最新情報については、こちらもご覧ください。
消費税が10%の住宅を取得した場合の非課税限度枠
住宅用家屋に係る契約の締結日 | 一般の住宅の場合 | 省エネ等の住宅の場合 |
---|---|---|
2019年4月1日~2020年3月31日 | 2,500万円 | 3,000万円 |
2020年4月1日~2021年12月31日 | 1,000万円 | 1,500万円 |
上記以外の住宅を取得した場合の非課税限度枠
住宅用家屋に係る契約の締結日 | 一般の住宅の場合 | 省エネ等の住宅の場合 |
---|---|---|
~2015年12月31日 | 1,000万円 | 1,500万円 |
2016年1月1日~2020年3月31日 | 700万円 | 1,200万円 |
2020年4月1日~2021年12月31日 | 500万円 | 1,000万円 |
結婚・子育ての資金として贈与する
結婚や子育てに使うために贈与された資金に関しては「結婚・子育て資金の一括贈与」として1,000万円(結婚に際して支払う金銭については300万円)までの非課税枠が設けられています。対象となるのは令和5(2023)年3月31日までに結婚・子育て資金を贈与された20歳(令和4(2022)年4月1日からは18歳)以上50歳未満の人たちです。
この特例を使う場合は贈与を受けた人が金融機関で「結婚・子育て資金口座」を開設しなければなりません。金融機関を経由して税務署に届け出ることになるので、贈与された資金はこの口座で管理します。必要に応じて引き出せますが、その際には結婚・子育て費用の領収書を金融機関に提出する必要があります。
令和5年度税制改正大綱により、結婚・子育て資金贈与の非課税制度において以下の内容が変更となりました。
● 適用期限が2年延長(2023年3月31日→2025年3月31日)
● 贈与された資金が50歳までに使いきれなかった場合、残額にかかる贈与税の税率は、特例税率 → 一般税率へ変更
夫婦の間の贈与による配偶者控除
20年以上婚姻関係がある夫婦であれば、居住用の不動産あるいはその購入のための資金の2,000万円までが非課税となる制度が通称「おしどり贈与」です。暦年課税との併用もでき、2,110万円までを非課税とすることが可能です。
贈与をするのは夫からでも妻からでもかまいません。ただし、贈与を受けた配偶者は翌年3月15日までに該当する不動産で暮らし、また引き続き暮らす見込みであることが必要です。なお、この特例を使う際は、非課税枠の適用で贈与税を支払わなくてもいい場合であっても申告は必要です。また、事実婚(法的な夫婦ではない)の場合はこの制度を使うことはできません。
居住用財産の特例を利用
居住用財産(マイホーム)を売却した時に利益が出た場合は、3,000万円までを特別控除できる「居住用財産の特例」という制度があります。購入額よりも売却額のほうが多い時には所得税を支払わなければならないのですが、この特例を使うと3,000万円までは税金がかからないことになります。
この居住用財産の特例と上記のおしどり贈与を組み合わせると、将来的にマイホームを売却する時に節税ができます。2,110万円までの非課税枠を利用して家屋の持分の一部を配偶者に贈与をしておくと、将来の売却時において夫婦ともに3,000万円までの特別控除を受けることができるのです。
生前贈与の注意点
生前贈与を行う際には贈与税がかかってこないようにすることが大切です。これまで解説してきた特例などをじょうずに活用することで贈与税の負担を減らすことはできますが、それにあたっては注意すべき点もあります。おもだったものとしては、次の2点です。
- 収入印紙代:800円3年以内の生前贈与は相続財産に加算される
- 相続時精算課税は節税にはならない
以下、それぞれに見ていくことにしましょう。
3年以内に行った生前贈与は相続財産に加算
生前贈与はしたものの、その後3年以内に贈与者が亡くなり、相続が発生した場合、贈与分の財産は相続財産に加算されてしまいます。つまり「相続発生日(死亡日)からさかのぼって3年以内」の贈与はなかったものにされるのです。もし贈与税を支払っていた場合は、相続税から控除されます。
もし病気などで死期が迫っていることがわかってから慌てて生前贈与をしても、節税の効果は期待できないといえます。その意味でも生前贈与は長期にわたって計画的に進めていくことが大切なのです。
【2023年最新情報】課税対象となる生前贈与は死亡7年前に
2022年12月16日に発表された「令和5年度 税制改正大綱」によって、相続税の課税対象となる生前贈与の加算期間が、「死亡前3年」から「死亡前7年」に拡大されることが決定しました。適用対象は【令和6年(2024年)1月1日以降の贈与】です。最新の税制改正大綱について、詳しくは下記のページをご覧ください。
相続時精算課税は節税にならない?
贈与税の課税方式には「相続時精算課税」というものもあります。これは受贈額の合計が2,500万円以内なら贈与税がかからないという制度です(もし2,500万円を超えた場合は一律20%の税率が課せられます)。ただし、贈与をされた財産は相続が発生した時に相続財産として加算されることになります。
非課税枠は大きいのですが、じつは相続時精算課税は「相続時までの納税の先送り」であり、基本的には節税対策になりません。
なお、この制度を使うには贈与税の申告が必要です。たとえ非課税枠の適用で贈与税を支払わなくていい場合でも申告はしてください。また、一度、相続時精算課税を選択すると暦年課税は使えなくなるのでその点でも注意が必要です。
おわりに:生前贈与の基礎控除や特例を活用して、節税対策をしよう
自身が財産を遺す人(被相続人)である場合、存命中に財産の一部を相続人となる配偶者や子ども、孫にゆずっておくと相続税の負担を減らすことができます。これを「生前贈与」といいますが、贈与した財産の額によっては「贈与税」が生じる可能性もあるということが、この記事を通しておわかりいただけたと思います。
この記事ではまた贈与税がかからない特例についてもさまざまにご紹介しました。こうした特例をうまく活用することで、生前贈与は相続税対策として大きな効果を発揮することになります。
とはいえ、生前贈与や相続に関して不安に思う方も少なくないはずです。効果を最大限に活用するにはやはり専門店な知識が欠かせません。もし不安や心配を感じているのなら専門知識が豊富な税理士に相談をするというのも一つの有効策です。
専門知識と実績が豊富な税理士であれば、贈与税の計算や特例の活用から申告手続きのサポート、さらには節税につながる有効なアドバイスもさまざまに提供してくれます。また、相続まで含めた節税対策の助言をしてくれる点でも大変に心強いといえます。より効果の大きな生前贈与を行うなら税理士へのご相談をおすすめいたします。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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