相続の知識

遺言のデジタル化は認められている?現行法や電子化に関する最新動向を紹介

昨今、日本政府は行政手続きなどのデジタル化を推進していますが、遺言書に関してはどうなのでしょうか。結論から言えば、2024年4月現在、デジタルで作成した遺言書に法的な効力は原則的に認められていません。しかしデジタル遺言の制度創設について、前向きに検討する動きが出ているのも確かです。本記事では、遺言書のデジタル化を取り巻く社会的背景や法的な動き、導入した場合のメリット・デメリットなどについて解説します。

遺言のデジタル化は現時点で法的効力がない

冒頭で述べた通り、2024年4月時点の現行法では、デジタル遺言に法的な効力は原則的に認められていません。したがって、オンライン上で作成した遺言書を遺しても、相続人がその遺言書通りに遺産相続を行う法的な拘束力は得られないことになります。

そもそも遺言書とは

そもそも遺言書とは、亡くなった後に自分の財産をどのように取り扱ってほしいか指定するための法的文書です。遺言書の内容は遺留分の侵害などがない限り最大限に尊重されるため、相続財産の取り扱いを巡って相続人のあいだで遺産分割トラブルが起こることを防ぐ効果が期待できます。遺言書の種類は、大きく分けて以下の3つがあります。

①自筆証書遺言:遺言者が自筆で作成する遺言書
②公正証書遺言:公証役場で作成し、その内容を公証人が証明する遺言書
③秘密証書遺言:遺言者が自分で作成し、内容は秘密にしたままその存在のみを公証人が証明する遺言書

遺言書は正しい書き方で作成しなければ無効になります。②の公正証書遺言の場合は公証役場で公証人がチェックしながら作成してくれるので基本的に心配ありませんが、①の自筆証書遺言と③の秘密証書遺言の場合は、書き方を間違えないように特に注意が必要です。また①と③の遺言書を執行する際には、家庭裁判所での検認が必要になります。
遺言書の種類や書き方などについて詳しくは以下の記事をご覧ください。

政府が検討している「デジタル遺言制度」とは

先に解説した通り、現行法では遺言書のデジタル化は原則的に認められていません。しかし、法務省は今年「デジタル遺言制度」の導入に向けて法制審議会を立ち上げ、「法制審議会民法(遺言関係)部会 第1回会議(令和6年4月16日開催)」において、その議論を進めています。

以下では、この「デジタル遺言制度」の検討が進められている背景と、議論されている内容を解説します。

検討が進められている背景

まず、デジタル遺言制度で検討されているのは「自筆証書遺言のデジタル化」です。これが検討されている背景として、自筆証書遺言は、現時点では財産目録以外の本文・日付・署名を手書きで作成したうえで押印しないと無効になってしまうという要件があるため、主に高齢者が作成するという観点からも、遺言書の作成に関してデジタル技術を活用したいというニーズがあります。また近年、電子契約の普及を筆頭に、法律文書や行政手続きなどもデジタル化が進んでいることがあり、他の手続きとも一貫してデジタル化を進めることが効率化につながります。

被相続人が誤ってパソコンで自筆証書遺言を作成した結果、遺言が無効化してしまったケースは多くあります。遺言書をデジタルで作成する民間サービスもありますが、これもそのままでは現時点で法的効力を持っておらず、自筆で書きなおす必要があります。こうしたトラブルを防ぐためにも、自筆証書遺言を対象にデジタルでの作成を認めようとする動きが出ています。

デジタル遺言制度の議論の中身

デジタル遺言制度の導入にあたっては、主に以下の3点が議論の争点となっています。

  1. 本人確認を含めた遺言の真正性および正確性の担保
  2. 文書以外の方式(映像など)の遺言を認めるか否か
  3. 遺言書のデータを法務局で保管・交付できるようにするか否か

1つ目のポイントは、遺言書が間違いなく本人が作成したものか、他人が改ざんなどしていないか、どのようにその真正性や正確性を担保すべきか、という点です。これについては、電子署名や後述のブロックチェーン技術が活用されることが予想されます。

2つ目のポイントは、遺言のデータ形式について、文書だけでなく映像や音声記録を使用した方法も認めるか否かです。映像や音声が認められれば、遺言者は自分の意思をより多様な方法で表現できるようになります。

最後3つ目のポイントは、遺言書のデータを法務局で保管して、必要になった際に電子交付できるようにするか否かです。現状でも、自筆証書遺言の原本および画像を法務局で保管する仕組みがあります。この点を踏まえ、一連の申請手続きにおけるデジタル完結を目指すために、デジタルで作成した自筆証書遺言の電子交付についても可能にすべきではないかと議論されています。

参考:法務省『法制審議会民法(遺言関係)部会 第1回会議(令和6年4月16日開催)』

デジタル遺言のメリット

デジタル遺言の主なメリットは下記の3つです。

  • 遺言書を作成する負担が減る
  • 紛失・改ざんなどのリスクが減る
  • 終活全体をデジタル化できる

以下では、それぞれの詳細を解説します。

遺言書を作成する負担が減る

デジタル遺言ならば、パソコンやスマホを使用して遺言書を作成できるため、従来の手書きでの作成に比べて時間と労力を削減可能です。Web上の指示やテンプレートに従って入力していくだけで遺言書が作成できるようなシステムが登場すれば、誰でも形式を守った遺言書を作成しやすくなると期待できます。

またデジタル遺言ならば、専門家と対面でやり取りをせずとも、オンラインで簡単にチェックやアドバイスを受けられるため、その点でも内容や形式の不備などによって遺言書が無効になるリスクを下げることができたり、病気などで身体が不自由な場合にも対応できたりとメリットがあります。

紛失・改ざんなどのリスクが減る

デジタル遺言ならばクラウド上でデータを保管できるため、紙と比べて紛失のリスクを大きく減らせます。また、文書の更新日時や編集履歴を記録できるため、改ざんの発見が容易になります。ブロックチェーンの技術などで、改ざんそのもののリスクを減らすことも可能だと考えられています。

終活全体をデジタル化できる

デジタル遺言が可能になることで、相続に関連するその他の手続きもオンラインで完結できるようになることが期待されます。これは法的な手続きへのアクセス性に関する地域格差を解消するためにも効果的です。

デジタル遺言のデメリット

他方で、デジタル遺言には以下のような点も懸念されています。

  • 遺言者には一定のITリテラシーが求められる
  • 遺言者の真意性の確保が必要となる

それぞれの詳細は以下の通りです。

遺言者には一定のITリテラシーが求められる

デジタル遺言を作成する過程では、パソコンなどのデジタル機器やITツールの操作が不可欠です。
そのため、デジタル遺言を作成するには一定のITリテラシーが求められます。遺言者の中にはデジタルに不慣れな高齢者などがいることも予想されるので、誰でも利用しやすい仕組みを整備することが重要です。

遺言者の真意性の確保が必要となる

デジタル遺言では、それが遺言者本人の意思に基づいて作成されているかどうか、その真意性の確保が特に重要です。また、遺言作成時において、遺言者が遺言内容やその影響力を理解できるだけの精神状態や判断能力(遺言能力)を有していることは、遺言が法的な効力を持つための基本条件です(民法963条)。デジタル遺言の場合、これらを証明する手段が限られているため、遺言者の遺言能力や真意性の確認をいかにすべきかは大きな課題になります。

参照:e-Gov|民法(第九百六十三条)

遺言のデジタル化を支える「ブロックチェーン」技術

デジタル遺言の実現にあたっては、すでに仮想通貨取引やNFT(非代替性トークン)化されたデジタルアートなどで利用されている「ブロックチェーン技術」の活用が重要になる見込みです。
ブロックチェーン技術とは、暗号化された状態のデータをひとかたまりの「ブロック」として扱い、分散する各ブロックを鎖状に連結させて保存する技術です。日本語では、「分散型台帳」と訳されます。

ブロックチェーン技術の特性は、改ざん防止性能の高さです。簡単に言うと、ブロックチェーンにおいては、分散して保存されている各ブロックが、お互いのデータの真正性を監視し合う仕組みになっています。ブロックチェーンのデータを改ざんするには、一度にすべてのブロックを改ざんする必要が生じるため、データを改ざんするのは実質的に不可能です。
こうした特性から、内容の真正性が特に強く求められるデジタル遺言についても、ブロックチェーン技術は大きく役立つと期待されます。

デジタル遺言に法的効力はないが、無意味とも言い切れない

ここまで繰り返し述べてきたように、現行法ではデジタル遺言に法的効力はありません。しかし、法的な形式を守った遺言書とは別に、メッセージを遺すのは必ずしも無意味ではないでしょう。

遺言書には、相続財産の内容や分配方法などを記した法定遺言事項とは別に、伝えたいことを自由に記せる「付言事項」を含められます。この付言事項によって遺族の争いを回避できる事例は少なくありません。

したがって、たとえ付言事項がデジタルでも、残された家族への感謝や遺言書に託した思いなどを述べることで、相続人の心に働きかけ、相続トラブルを未然に防ぐ効果が期待できるとも言えるでしょう。

おわりに:遺言書は専門家のアドバイスをもらいながら慎重に作成しよう

デジタルで作成した遺言書は、現行法では原則的に法的効力が認められていません。将来的に認められるようになる可能性はありますが、遺言書の真正性をどのように担保すべきかなど、いくつかの課題が立ちはだかっているのが現状です。

ただし、現行の遺言書であっても、正しい書き方をしないと法的効力が認められないのは変わりません。そのため遺言書の作成にあたっては、相続の専門家に相談するのがおすすめです。「税理士法人レガシィ」は相続専門の税理士法人として、どのくらいの相続税がかかるかの試算から、遺言書の作成や手続きもサポートいたします。お困りの方はぜひ一度ご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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