病院 (医療法人)のM&Aとは? 特徴やスキーム、メリット・デメリットを解説
Tweet病院(医療法人)の事業承継は、一般的な企業に比べて難易度の高い手続きです。後継者不足が深刻化する中、黒字経営であっても廃業を余儀なくされる例が増え、地域医療の維持が大きな課題となっています。
本記事では、病院(医療法人)M&Aの特徴やメリット・デメリット、譲渡側・譲受側に求められるポイントなどを総合的に解説します。
目次
病院 (医療法人) M&Aの特徴
病院(医療法人)のM&Aは、一般的な企業M&Aとは異なる制度的・法的な特徴が数多く存在します。通常の企業M&Aでは、株式交換や株式移転などの手法が用いられることが多い中で、医療法人は株式という概念がなく、「出資持分」という独自の財産的権利が存在する点が大きな相違点です。
また、医療法人には「出資持分あり」の法人と「出資持分なし」の法人が存在し、両者ではM&Aを進める際のスキームや手続きが変わることがあります。例えば、出資持分がある場合はその譲渡を通じて運営権を移転することが可能となる一方、出資持分がない場合は、合併や事業譲渡といった他の方法が求められることがあります。
このように、医療法人M&Aは、一般的な企業買収・統合とは異なる制度理解や専門的な知識が必要であり、実行には法務・税務・労務など多方面の専門家が関わることが多くなります。病院M&Aに取り組む際は、医療法人固有の特徴や、地域医療維持への配慮を前提としてスキーム検討を行うことが重要です。
病院 (医療法人) M&Aの現状
近年、幅広い業種で後継者不足問題が深刻化しており、病院(医療法人)も例外ではありません。帝国データバンクの調査によれば、後継者不在率が65.3%(2023年時点)にも上るなど、医療法人の半数以上が次世代を担う経営者確保に課題を抱えています。後継者不足によって、黒字経営であっても廃業を余儀なくされる病院も増えている点は見過ごせません。
このような状況下において、医療法人の事業承継手段として注目されているのが内部昇格やM&Aの活用です。内部で後継者を育てることが難しい場合でも、外部の医療法人や経営資本とのM&Aを通じて事業承継を図ることで、地域医療を維持し、患者や医療スタッフの受け皿を確保することが可能となります。これらの動きは、今後も医療法人の安定経営や医療インフラ維持の観点から、さらに加速していくと考えられます。
病院M&Aのスキームの種類
病院M&Aには、医療法人特有の法制度や許認可制度に対応した多様なスキームが存在します。一般的な事業承継手段とは異なり、地域医療への影響や職員・患者への配慮、行政手続きなどを踏まえた検討が不可欠です。ここでは、代表的な3つのM&Aスキームである「合併」「事業譲渡」「出資持分譲渡」について整理します。
合併
合併とは、2つ以上の医療法人をひとつの法人へ統合するM&Aスキームです。一般的には「吸収合併」が活用され、存続法人が消滅法人を吸収することで、組織・人材・医療設備が一本化されます。
医療法人合併においては、利益分配が禁止されている法人形態に即した対応が求められるため、通常の企業合併とは異なる法的留意点が多々存在します。
また、地域医療提供体制への影響やスタッフ・患者への告知・説明が重要となり、合併後の運営体制構築には事前計画が欠かせません。専門家を交えた入念な調査・手続きが必要であり、法務・税務面を慎重に確認することで、安定した合併後の経営基盤を整えられます。
事業譲渡
事業譲渡とは、医療法人が保有するある特定の医療事業や関連資産を、他の医療法人等へ一括で移転するスキームです。病院M&Aにおける事業譲渡では、譲渡元となる病院を一旦「閉鎖」し、譲受側で同一規模・機能を「開設」するプロセスが求められます。 この際、行政からの許認可が必要となり、手続きの複雑化や時間的コストの増大が生じる可能性があります。
一方で、特定領域の医療資源・ノウハウのみを切り出して承継できる柔軟性を持ち、事業領域の再編や経営資源の集約を目的とする場合に有効です。事業譲渡を検討する際は、早期から行政担当部署や専門コンサルタントへの相談を行い、スムーズに手続きを進められるよう備えましょう。
出資持分譲渡
出資持分譲渡は、医療法人設立時に出資した者が持つ「出資持分」(社員としての地位および財産権)を別の個人または法人へ移転するスキームです。これにより、議決権を含む法人運営への関与権限が新たな出資者へと移り、事実上の経営権承継が可能となります。 出資持分は、医療法人特有の制度であり、持分あり法人か、持分なし法人かによってM&Aスキームの柔軟性や交渉ポイントが大きく変動します。
出資持分譲渡を活用する場合は、持分評価や譲渡条件の調整、医療スタッフ・患者への影響、関連する税務・法務上の対応などの検討が重要です。詳細については、下記関連記事もご参照ください。
病院M&Aの各スキームにおけるメリット・デメリット
病院M&Aを検討する際には、合併、事業譲渡、出資持分譲渡といった異なるスキームを比較することが大切です。それぞれの手法は、承継までに必要な期間や手続きの複雑さ、引き継ぐ資産やリスクの範囲などが大きく異なります。ここでは、「合併」「事業譲渡」「出資持分譲渡」の3つの手法について、それぞれのメリット・デメリットを解説します。
合併のメリット・デメリット
合併は、複数の医療法人をひとつの法人に統合するスキームです。同一の医療圏において医療資源を集約できるため、病床移動が可能になるなど、地域医療の効率化や患者サービスの向上に役立ちます。また、統合により組織運営が一本化され、経営管理や人事面でのシナジーが期待できる点も魅力です。
一方で、合併は医療法人同士の組織再編であるため、法的・行政的手続きや関係者との調整が大がかりになります。その結果、合併完了までには最低でも1年程度の時間がかかるケースが多く、長期的な計画が必要です。大規模な組織変更となるため、職員や地域への周知・説明にも慎重な対応が求められます。
事業譲渡のメリット・デメリット
事業譲渡は、医療法人が有する特定の医療サービスや資産(施設・医療機器等)を、別の医療法人または法人へ移転するスキームです。この方法を用いると、譲受側は譲渡される特定事業部分のみを取得し、潜在的な債務や不要な資産を背負い込むリスクを最小限に抑えられます。言い換えれば、「必要な部分だけを引き受けたい」というニーズに応じやすい手法です。
ただし、事業譲渡には病院閉鎖・開設などの行政手続きや認可が伴うため、少なくとも2~3か月、概ね6か月程度の期間がかかることが一般的です。また、手続き中は事業運営上の調整や関係当局との交渉が発生するため、社内外への根回しや書類準備など、手間と時間を要する点がデメリットとなります。
出資持分譲渡のメリット・デメリット
出資持分譲渡は、医療法人の出資者が有する「出資持分」(法人運営上の議決権や財産的権利)を第三者へ譲渡することで、医療法人全体をまるごと引き継ぐ手法です。合併や事業譲渡に比べると手続きが簡略化されやすいです。
一方で、医療法人そのものを譲り渡すため、譲受側は既存の事業資産だけでなく、潜在的な債務やリスクもまとめて引き受けることになります。また、法人運営の根幹となる社員構成や経営基盤をそのまま承継するため、譲受後の体制整備や内部統制の見直しが必要になる点は考慮すべきです。
病院 (医療法人) M&Aのポイント
病院(医療法人)のM&Aは、一般企業のM&A以上に時間・手間がかかる傾向があり、関係者への配慮や行政手続きなど、注意すべき点が多く存在します。譲渡側・譲受側いずれの立場であっても、目的や手続き内容を明確にし、関係するスタッフや患者、行政との円滑なコミュニケーションを図ることが重要です。以下では、譲渡側・譲受側それぞれが押さえるべきポイントを解説します。
譲渡側
譲渡側は、M&A成立までに長い時間がかかることを前提に、3年ほど前から計画的な準備を進めることが望まれます。特に、職員や関連する医療スタッフ、取引先に対し、情報を共有するなど不必要な混乱を避ける、誠実な対応が求められます。また、院内で「誰に」「いつ」「どのように」相談・報告するかは重要で、情報伝達の順序やタイミングを誤ると、内部の信頼関係を損ないかねません。
さらに、M&A交渉時にネガティブな情報の隠し事などを安易に行うことは、後々のトラブルにつながる可能性があります。同意にいたっても、正式な書類作成や合意は、法的・専門的知見を有する税理士など専門家のサポートを受けながら、慎重に進めることも重要です。
譲受側
譲受側は、なぜこのM&Aを行うのか、目的を明確化することが大切です。例えば、医療圏拡大や専門領域強化、地域医療の維持など、譲受の意味・戦略が明確であれば、その後の運営計画も立てやすくなります。
また、秘密保持の徹底は必須です。M&Aの交渉過程で知り得た機密情報が外部に漏れると、信頼関係の毀損や地域医療への悪影響が生じる可能性があります。さらに、譲受後も法令遵守を怠らないよう、コンプライアンス体制を整え、継続的な改善や評価を行うことで、安定的な病院経営を続けることができます。
病院 (医療法人) M&Aでのお悩みは専門家までご相談ください
病院(医療法人)のM&Aは、出資持分や行政手続きの特性、後継者不足への対応など、一般的な企業M&Aとは異なる複雑な要素が絡み合います。合併・事業譲渡・出資持分譲渡といった多彩なスキームを検討し、最適な事業承継策を見極めるためには、早期からの準備と専門知識に基づく的確なサポートが欠かせません。
「税理士法人レガシィ」は、60年以上の歴史を有する相続専門の税理士法人として、複雑な非上場株式の評価や事業継承にまつわる税務問題にも豊富な経験を持ち、丁寧なアドバイスを提供します。病院M&Aのお悩みや疑問をお持ちでしたら、ぜひ一度ご相談ください。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表