相続の知識

生産緑地の相続税評価はどうすればいい?計算方法を紹介

農地には「生産緑地」という区分があります。相続や贈与にあたっては、生産緑地とは何か、要件やメリット・デメリットを知り、適切に土地を運用しましょう。相続しても農業をしない場合の指定解除の条件、必要な手続きもご紹介します。

生産緑地とは?3つの要件を解説

「生産緑地」とは、「首都圏・近畿圏・中部圏」の三大都市圏にある、法律によって指定を受けた農地などの土地を指します。指定を受けるにはいくつかの条件を満たす必要があります。
要件を簡単にまとめると、以下の3つです。

①災害防止などの良好な生活環境の確保に役立ち、かつ公園や緑地などの公共施設等の用地として適していること。
②面積が500㎡以上であること。(※法改正により、市区町村の条例で300㎡以上まで引き下げられている場合もあります)
③用排水など農林漁業の継続が可能な条件を備えていること。

出典:e-Gov法令検索『生産緑地法 第3条』

生産緑地の概要については、以下の記事もご覧ください。

生産緑地に該当するか確かめるには?

相続などで手に入った土地が生産緑地か分からない場合には、以下のいずれかの方法で調べましょう。

市区町村のインターネットで調べる

行政が指定する土地の区分は、管轄する市区町村など自治体のWebサイトで調べることができます。たとえば東京都の土地であれば、東京都都市整備局の「都市計画情報等インターネット提供サービス」にアクセスします。「都市計画情報」のマップから、生産緑地またはその他の区分であるかを確認できます。

参考:東京都 都市整備局『都市計画情報等インターネット提供サービス』

現地を見に行く

生産緑地に該当する土地は「生産緑地地区」を示す看板が立っています。現地を見に行けるときがあれば、看板の有無も確認しておくとよいでしょう。

固定資産税納税通知書を確認する

農地の固定資産税には、生産緑地を含む4つの区分があり、それぞれ評価額を決める方法などが異なります。そのため、市区町村から送付される「固定資産税納税通知書」には、税額を決める根拠として農地区分が記載されており、生産緑地に該当する場合には、通常生産緑地の旨が記載されています。

生産緑地の税制上のメリット

生産緑地の指定を受けることで、税制上のさまざまなメリットを受けられます。

固定資産税が減額される

生産緑地は、課税にあたって農地と同様の扱いを受けられるため、固定資産税の節税に有効です。
1,000㎡あたりで比較すると、宅地の場合では数十万円程度に対し、生産緑地は数千円程度と、課税額を大きく削減できます。

参照:農林水産省「農地の保有に対する税金(固定資産税)」

相続税・贈与税の納付猶予、免除を受けられる

生産緑地の相続にあたって、相続人がその土地で農業を継続する場合には、特例として相続税の納付猶予を受けることができます。
相続人が農業を続けている限りは納付猶予として扱われ、なんらかの理由で農業を辞める際には相続税と猶予期間分の利子税を支払う必要があります。相続人が亡くなるまで農業を続けた場合、死亡時に相続税の支払い義務が免除されるため、大きな節税効果が期待できます。

なお、持ち主の推定相続人が生産緑地の贈与を受ける場合にも、同様に受贈者が農業を続けている限りは贈与税の支払いが猶予されます。贈与者が死亡した場合には贈与税が免除されますが、土地を相続したものと見なされるため、相続税の課税対象となります。しかし、一定の要件を満たす場合には、その相続したものと見なされた土地についても、相続税の納税猶予を受けることができます。

生産緑地の注意点

生産緑地は税制上の優遇を受けられる一方で、いくつかのデメリットもあります。

農業を辞めると相続税の支払いが発生する

前述のように、生産緑地では相続税・贈与税の猶予を受けられます。しかし、相続人・受贈者が農業を辞めると猶予が取り消しとなるため、猶予期間分の利子税を上乗せした税金を支払う必要が出てしまいます。

生産緑地としての管理が必要になる

生産緑地の指定を受けると、所有者にはその土地を農地として管理する義務が発生します。基本的に農業を続けていれば問題ありませんが、市区町村への報告や立入検査の実施が必要となることがあります。

宅地化できず、建造物の新築・開発もできない

生産緑地では、原則として建造物などの設置や、宅地化のための埋め立てといった開発ができません。倉庫や温室などの農業に必要な施設や、作物の加工・販売設備などであれば、市区町村の許可を得たうえで設置が可能です。

なお、生産緑地は指定解除の条件を満たさなければ、宅地や農地としての売却もできません。

生産緑地の相続税・贈与税評価額を計算する方法

生産緑地の評価額は、以下のように計算します。

生産緑地の評価額=その土地が生産緑地でないものとして評価した価額×(1-AまたはBの割合)

A:課税時点で買取申出ができない生産緑地の場合は、買取申出ができるようになるまでの残り期間に応じて以下の割合を適用
5年以下 10%
5~10年 15%
10~15年 20%
15~20年 25%
20~25年 30%
25~30年 35%

B:課税時点ですでに買取申出が行われていた、または行える生産緑地の場合は5%

出典:国税庁『生産緑地の評価』

生産緑地は、基本的に指定から30年が経過(指定から30年が経過する際に特定生産緑地の指定を新たに受けた場合には新たに指定を受けた時から10年が経過)もしくは主たる従事者(所有者)が死亡または故障するまで買取申出・売却ができません。そのため、贈与にあたっては買取申出ができるまでの期間に応じて生産緑地の評価額を低く見積もることで贈与税を減らし、管理の負担を軽減する措置が取られています。
相続税を評価する場合には所有者が死亡しているため、課税時点で買取申出ができる扱いとなり、減額の割合は5%に留まります。

なお、具体的な評価額を算出するには、さらに複雑な計算が必要となるため、詳しくは専門家へ相談することをおすすめします。

生産緑地の相続税の納税猶予を受けるには?

生産緑地の相続において、納税猶予の特例を受けるには、被相続人と相続人の両方が以下のような条件を満たしている必要があります。

  • 被相続人
    死亡の日まで農業を営んでいた、または農地などを生前に一括贈与した、など
  • 相続人
    相続税の申告期限までに農業経営を開始し、その後も継続が認められる、など

その他にもいくつかの条件が設定されており、いずれかを満たせば納税猶予を受けることができます。また、相続税の免除についても猶予期間中に相続人が死亡する以外で条件を満たせる場合があります。詳しくは国税庁の「農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例」をご確認ください。

参考:国税庁『農業相続人が農地等を相続した場合の納税猶予の特例』

納税猶予の手続き方法

生産緑地の相続税の納税猶予を受けるには、被相続人が死亡したことを知った翌日から10か月以内に税務署で手続きを行います。
手続きには、戸籍謄本や遺言書など通常の相続税の申告に必要な書類に加えて、農業委員会による適格者証明書なども必要です。用意に時間がかかる書類もあるため、余裕をもって準備しましょう。
また、特例の適用が決定した以降も、3年ごとに納税猶予の継続届出書や農業委員会からの証明書などを税務署に提出し続ける必要があります。

生産緑地の相続の手続き

生産緑地の相続の際には、以下の2つの届け出を行う必要があります。

    • 農業委員会への届け出
      新たな所有者の氏名や住所、土地の所在などを届出書に記載して提出します。また、管轄の農業委員会によっては登記簿謄本などの書類提出を求められる場合があります。 なお、相続したにもかかわらず届け出がない場合、10万円以下の過料を科される可能性があるため、早めに済ませましょう。

 

  • 市区町村役場への届け出
    生産緑地変更届に相続前後の所有者の氏名などを記載して役場に届け出をします。登記簿謄本や地積測量図などの提出も求められるため、市区町村のWebサイトなどで必要な書類を確認しておきましょう。

生産緑地の指定は解除できるのか

生産緑地を所有していると、税制上の優遇が受けられる一方で、管理や農業などを継続する義務が発生します。
原則として、生産緑地の指定を解除し、手放すことはできませんが、以下のような場合には買取申出制度を用いて解除および売却が可能です。

  • 農業に主に従事している人が死亡または故障により働けなくなった
  • 生産緑地の指定から30年が経過(特例生産緑地の指定からは10年が経過)

生産緑地を売却するには? 買取申出制度について紹介

上記のように、主な従事者の死亡や故障、または指定から30年を過ぎた(特例生産緑地の指定からは10年が過ぎた)場合には、買取申出制度によって生産緑地を手放し、市区町村へ買い取るよう申し出ることができます。
この制度では、まず条件を満たした土地の買い取りを市区町村が検討し、不要な場合は農業従事者などから希望者へと買い取りをあっせんします。それでも3か月の間、買い取られなかった場合には生産緑地の指定が解除され、所有者による自由な売却が可能になります。

おわりに:生産緑地の評価は専門家に相談を

生産緑地に指定された土地は、税制上の優遇を受けられる反面、農業用にしか土地利用できない、売却できないなどのデメリットがあります。生産緑地の相続における相続税評価や手続きは煩雑であり、すべて自分で行うのはかなりの負担になります。困ったときは、相続の専門家へ相談しましょう。
税理士法人レガシィは相続専門の税理士法人です。50年以上の歴史があり、生産緑地をはじめとした土地の評価にも豊富なノウハウをもっています。生産緑地の評価にお困りの場合は、ぜひ一度ご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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