相続の知識

特別代理人とは?選任申立の流れや必要書類、誰がなれるかを解説

遺産相続では「特別代理人」を選任しなければならないケースがあります。「親と未成年の子」や「認知症の親と成年後見人の子」が共に相続人になった場合などが代表的な例です。本記事では、親子間での遺産相続が発生した方へ向けて、特別代理人の基礎的な知識と選任が必要なケース、申立ての流れ、必要な書類や費用について解説します。

特別代理人とは

相続における特別代理人とは、相続の発生時、未成年者または認知症や障がいなどで判断力が低下している方の利益を守るために、家庭裁判所が一時的に任命する法定代理人のことです。

例えば「未成年者とその親の双方が相続権を得ている」または「成年被後見人と成年後見人の双方が相続権を得ている」ケースなどでは、いずれも共同相続人となり、利益相反が生じてしまう可能性があります。

このように、お互いの利害関係が衝突する可能性がある場合、未成年者または成年被後見人のために、特別代理人の選任を裁判所へ請求しなければなりません。特別代理人は「相続の当事者に該当しない」という条件を満たす必要があり、任命を受けた方は、相続人に代わって法律行為をすることが認められています。

例えば、未成年である子の父親が亡くなり、母と子の両方が相続人になったとき、未成年の子には母以外の代理人を要します。通常では、未成年者の代理人は親権者、判断力が低下している方の代理人は成年後見人が務めますが、代理人となる方が共に相続人となるときは、裁判所に申立てを行い一時的な代理人を選任しなければなりません。なお、詳しくは後述しますが、未成年の相続人が複数いる場合は、人数分の特別代理人が選任されます。

利益相反行為について

利益相反行為とは、片方に利益があるともう一方に不利益がある行為です。先述した例の場合、相続人である母と子には利益相反が生じる可能性があります。母が子の代理人を務めた場合、子に財産を渡さないなど、母自身の利益を追求してしまう可能性がゼロとは言い切れません。このように、一方が不利になるリスクが想定される場合には特別代理人が必要です。

具体的には「母または父が未成年の子の分だけ相続放棄の申述をする行為」「複数の未成年者の代理人として遺産分割協議に参加する行為」「後見人が未成年の被後見人と養子縁組する行為」などが利益相反行為に該当します。

特別代理人と成年後見人の違い

成年後見人は、認知症、知的障がい、精神障がいなどにより判断能力が低下した方の代わりに法律行為をする方を指します。主な役割は、財産の保護や保全、身上監護です。遺産相続では、本人に代わって遺産分割協議に参加するなどの役割を担います。一方、特別代理人は、本来代理人となる成年後見人が代理権を行使できない際や、何らかの事情により行使が適切でない場合、申立てにより特別に選任してもらう代理人です。

このように、特別代理人と成年後見人は、本人に代わって代理権を行使するという点では似ているものの、利益相反の有無という点で異なっています。

特別代理人ができること

特別代理人は、被保護者の利益を最優先に考えたうえで、自身の役割に責任を持ち、業務を遂行する必要があります。遺産相続が発生した際、特別代理人が果たす主な役割は以下の3つです。

  1. 遺産分割協議への参加
  2. 遺産分割協議書への署名捺印
  3. 相続登記をはじめとした相続手続き

ほかにも、家庭裁判所の審判によって代理を行える範囲は明確に記載されます。そのため、文書に明示されている以外の業務を代理で行う場合には、追加の権限を取得するための手続きが必要です。特別代理人としての任務は、当該手続きが完了すると終了します。

特別代理人が必要な3つのケース

特別代理人は、遺言がなく(または遺言で取得者が特定されていないなど)遺産分割が必要な場合で、相続権を得ている方が以下のようなケースへ該当する場合に選任が必要です。

  • 親と未成年の子の場合
  • 認知症の親と成年後見人の子の場合
  • 認知された未成年の婚外子が2人以上いる場合

1. 親と未成年の子が共に相続権を得ている場合

例えば、父・母・子2人の家族構成で、父が死亡した場合、母と子2人が相続権を得ますが、未成年の子には特別代理人が必要です。

家族構成と状況

父:死亡
母:相続人
長男(成人):相続人
次男(未成年):相続人

このケースでは、成人の長男は単独で遺産分割協議に参加できますが、未成年の次男は単独で参加できません。また、利益相反行為に該当するため、母が次男の特別代理人になることは不可能です。長男と次男の双方が未成年である場合には、1人につき1人の代理人、つまり2人の代理人が必要ですが、兄弟の代理人を兼任することは不可能です。

2. 認知症の親と成年後見人の子が共に相続権を得ている場合

親が認知症を患っている場合、通常は子などが成年後見人として法律行為をします。しかし、成年後見人が相続人となる場合には特別代理人が必要です。

家族構成と状況

父:死亡
母(認知症):相続人
長男(母の成年後見人):相続人

このケースでは、認知症の母の成年後見人を長男が務めているため、利益相反行為に該当します。
長男に有利な形で話し合いが進み、本来相続されるべき母の利益が少なくなってしまうリスクが懸念されるため、特別代理人の選任が必要です。この場合、特別代理人には長男以外の方を選任しなければなりません。ただし、後見事務を監督する成年後見監督人が選任されていれば、特別代理人は不要です。

3. 認知された未成年の婚外子が2人以上おり相続権を得ている場合

婚外子(こんがいし)とは、婚姻関係にない男女間に産まれた子を指します。非嫡出子(ひちゃくしゅつし)とも呼ばれており、被相続人である父に認知されている場合には、法定相続人として遺産を引き継ぐ権利があります。

家族構成と状況

父:死亡
母(内縁の妻):男とは婚姻関係にないため相続権はなし
認知された子1(未成年):相続人
認知された子2(未成年):相続人

このケースの場合、未成年である婚外子のどちらか1人に特別代理人を選任しなければなりません。というのも母である内縁の妻には相続権がなく、利益相反が生じないため、もう1人の子の代理人になることが可能だからです。

婚外子について、詳しくは以下の記事も参考にしてください。

特別代理人には誰がなれる?

特別代理人となるために資格は必要ありません。そのため、選任の対象になる方と利益相反のない方であれば、誰でも代理人になることが可能です。特別代理人の選任申立ては、親権者や利害関係人が行えるため、親族、友人のほか、士業の専門家などに依頼することも可能です。

必要な資格はないため誰でもなれる

特別代理人として法律行為を行うに際し、特定の資格は求められていません。そのため、未成年の子や認知症の親など、選任の対象となる方と利害関係が生じなければ誰でもなれます。法定相続人以外の親族(祖父母、叔父、叔母など)を選任しても問題ありません。申立書に候補者を記載し、裁判官が適任と判断すれば、特別代理人として選任されます。ただし、裁判官がふさわしくないと判断されてしまった場合には、裁判所の指定に従わなければなりません。

士業の専門家が特別代理人として選ばれることもある

候補者がふさわしくないと判断された場合、あるいは希望する候補者がいないため申立書の候補者欄を空白で提出した場合などは、家庭裁判所によって士業などの専門家が特別代理人として選任されます。しかし、家庭裁判所が選任した専門家と相性が合わない可能性もあります。あらかじめ、信頼できる弁護士もしくは司法書士、税理士などに特別代理人を依頼することも可能です。

特別代理人選任申立ての流れ

特別代理人の選任は、以下のようなステップに沿って進められます。

  1. 必要書類(※1)をそろえ家庭裁判所(※2)に申立を行う
  2. 裁判官の審理・書面審査
  3. 参与員の聞き取り
  4. 審問
  5. 審判
  6. 結果通知

※1:必要書類及び費用については後述します。
※2:選任の対象となる方の現住所を管轄する家庭裁判所です。家庭裁判所の管轄区域はこちらを参考にしてください。

参考:裁判所『裁判所の管轄区域』

申立てを行ってから結果通知までにかかる期間の目安は、およそ1~3ヵ月です。審判を経て、希望した候補者が選任されなかった場合でも、不服の申立ては行えません。

特別代理人の選任申立てに必要な書類・費用

申立ての際に必要な書類は主に以下の5つです。ただし、事案によっては追加の書類を求められるケースもあります。

必要書類

  1. 申立書
  2. 申立人(未成年の子や認知症の親)の戸籍謄本
  3. 特別代理人候補者の住民票・戸籍謄本
  4. 被相続人の遺産状況が分かる資料(遺産分割協議書案)
  5. 特別代理人候補者の承諾書

もっとも重要な書類は、遺産分割協議書案です。遺産分割協議書案とは、相続人の間で決めた遺産分割の内容を明示した書類です。決められた書式はないものの、相続人の署名・押印をはじめ、分割の対象となる遺産、誰がどの財産を相続するかなどを詳しく記載しなければなりません。

遺産分割協議書案は、未成年者や認知症の方など選任の対象となる方の相続分が法定相続分より少なくなっていないか、少なくなっている場合には、合理的な理由があるかなどを裁判所が確認するために必要な書類です。遺産分割は、遺産分割協議書案に従って行わなければならず、基本的にあとから内容を変更することは認められていません。法的な知識も求められるため、遺産分割協議書の作成は、司法書士や弁護士、税理士など相続の専門家のサポートがあると安心です。
遺産分割協議書案の作成が終わり、必要書類をすべてそろえたら家庭裁判所に申立てを行います。

申立てにかかる費用は以下の通りです。

費用

  • 申立て費用として特別代理人の人数×800円の収入印紙
  • 通知連絡のための切手代1,000円程度
  • 専門家に依頼する場合に支払う報酬(約3万円~)

報酬額は依頼先により異なります。司法書士や税理士などの専門家に依頼する際の相場は約3万円~とされていますが、実際には10万~数十万円かかるケースが大半です。

おわりに:特別代理人が必要な相続は遺産分割協議書案が重要!作成は専門家に相談しよう

相続が発生した際、未成年者または成年被後見人が相続人に含まれるケースでは、特別代理人の選任が必要です。特別代理人は家庭裁判所の審判により、書面に記載された行為を代理で行えます。
利益相反が生じない親族に依頼することもできますが、法的な知識も必要なため手続きに苦戦する可能性があります。

事前の対策として、遺言を作成することも一つの方法です。遺産分割協議書案の作成をはじめ、相続に関するお悩みがあれば、相続専門・税理士法人レガシィへご相談ください。経験豊富な税理士が相続のお困りごとをサポートいたします。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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