相続税を払えない場合の対処法!不動産や株を相続したらどうする?
Tweet亡くなった方(被相続人という)が生前に築き上げた財産を、その方の配偶者や子どもなどの親族が受け継ぐことを「相続」といいます。その際、財産の評価額が一定の枠を超えると「相続税」の支払い義務が生じることがあります。
その相続税ですが、高額になることも多く、相続をした人のなかには支払うことが困難なケースも見受けられます。たとえば現金だけではなく、不動産や株など換金に時間がかかるものや、そもそも手放したくない財産が多くを占めていると、そうしたことになりがちです。
相続税の申告・納付には明確な期限があり、これを守らないと延滞税や無申告加算税が課せられてしまいます。当然のことながら「ない袖は振れない」は通用しないので、最悪の場合は財産を差し押さえられてしまうことにもなりかねません。そのような事態を避けるにはいくつかの方法があります。この記事では相続税を払えない場合の対処法について解説いたします。
目次
「相続税を払えない」のはどのような状況か
まずはどのような時に相続税が払えなくなるのかということから見ていくことにしましょう。相続税の支払いが困難になる状況としては次の2点が挙げられます。
- 相続財産に含まれる現預金が少ない
- 遺産分割協議がまとまらず預金が引き出せない
それぞれ簡単に説明しましょう。
1.相続財産に含まれる現預金が少ない
被相続人が遺した財産に現預金がまったく含まれないことは考えにくいですが、相続税の支払いをカバーするには足りないという状況は十分に考えられます。財産の多くを不動産や有価証券、貴金属などすぐには換金できないもので占められているケースがこれに該当します。相続税は原則として「現金による一括納付」なので、相続財産に含まれる現預金が少ないと相続税の支払いに支障をきたしてしまうわけです。
2.遺産分割協議がまとまらず預金が引き出せない
「遺産分割協議」とは相続人同士による財産の配分を決めるための話し合いです。財産の配分は民法で「法定相続分の割合」として定められていますが、必ずしもそれに従う必要はありません。「親の介護は兄さん夫婦に任せきりだったから、多めに相続してもらおう」といったこともできるのです(遺言書があれば基本的にはその内容に従います)。
ただ「相続争い」という言葉があるように、遺産分割協議がなかなかまとまらないケースも多々あります。このような場合、被相続人の財産に相続税の支払いをカバーできるだけの現預金(とくに預貯金)があっても支払いに困難が生じます。
というのも、個人が亡くなるとその預金口座は凍結されて、簡単に引き出せなくなり、凍結を解除する条件の一つが「遺産分割協議がまとまっていること」だからです。
相続税を払えない時の対処法5選
「相続税を払わなければならないほど多額の財産を受け継いだのだから、その財産から払えばいいだけのことでは?」と多くの人は思うようですが、実際にはそう簡単な話ではないことがおわかりいただけたはずです。では、現実として相続税の支払いが難しい時の対処法を考えていくことにしましょう。方法としては次の5つが挙げられます。
- 相続税を分割払いにする(延納)
- 相続税を土地や建物などの不動産で納める(物納)
- 相続した財産を売却して得た現金で相続税を納める
- 相続放棄をすることで相続税の支払いを避ける
- 金融機関などから資金調達をして相続税を納める
それぞれに見ていくことにしましょう。
相続税を分割払いにする(延納)
相続税は原則として現金一括払いですが、一定の要件を満たすことで分割払いに変更することができます。このことを「延納」といいます。相続した財産の75%以上を不動産が占める場合は、最長で20年間にわたって延納することができます。ただし、延納には「利子税」が課せられますので本来の相続税額よりは多くの税金を支払うことになります。その点は注意しましょう。
延納できる要件
相続税の延納は税務署に申請をしますが、申請を認めてもらうには次の4つの要件を満たしている必要があります。
- 相続税の金額が10万円を超えること
- 金銭納付が困難な金額であること
- 申告期限までに延納申請書・担保提供関係書類・金銭納付を困難とする理由書を提出すること
- 延納税額及び利子税の額に相当する担保を提供すること
それぞれ簡単に説明します。
1.相続税の金額が10万円を超えること
延納制度を利用するには相続税額が10万円超である必要があります。相続人が複数いて、相続税額の合計が10万円を超えていたとしても申請はできません。というのも、延納制度の判定は相続人ごとに行われるためです。
2.金銭納付が困難な金額であること
相続人のもともとの財産を支払いにあてても相続税の全額を払いきれない場合は、延納の要件の一つを満たすことになります。なお、相続人の財産を全て相続税の支払いに使わなければならないわけではなく、生活に必要な分は残しておいても問題ありません。
3.申告期限までに延納申請書・担保提供関係書類・金銭納付を困難とする理由書を提出すること
相続税の申告・納付には期限があり、「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」となっています(期限日が土・日・祝日なら次の平日)。その申告期限までに「延納申請書」「担保提供関係書類」「金銭納付を困難とする理由書」を税務署に提出しなければなりません。
4.延納税額に相当する担保を提供すること
延納制度を利用する際には延納税額に相当する担保の提供も求められます。担保に使えるものとしては不動産や有価証券などがありますが、一般的には不動産を担保とするケースが多いようです。なお、延納税額が100万円以下であり、なおかつ延納期間が3年以下の場合は担保の提供は必要ありません。
相続税を土地や建物などの不動産で納める(物納)
延納で分割しても現金による納付が難しい場合は、「物」で相続税を納めることも可能です。このことを「物納」といいます。
物納に使える財産は被相続人から受け継いだものに限定され、相続人がもともと持っていた財産を代用することはできません。また、相続した財産であれば何でも良いというわけではなく、その内容は次のように指定されています。
第一順位 | 不動産、船舶、国債証券、地方債証券、上場株式など |
---|---|
第二順位 | 非上場株式など |
第三順位 | 動産 |
「不動産は手元に残しておきたいから、貴金属(動産)で物納をする」ということは認められないため注意してください。
また、物納として納める財産は時価よりも低い金額で評価されてしまうこともあるので、その点にも注意が必要です。物納をするよりも、その財産を売却して得たお金で納税をするほうが良いケースもあります。
物納の要件
物納の要件として、国税庁は次のように定めています。
①延納によっても金銭で納付することを困難とする事由があり、かつ、その納付を困難とする金額を限度としていること
②物納申請財産は定められた種類の財産及び順位で、その所在が日本国内にあること
③物納にあてることができる財産は、管理処分不適格財産に該当しないものであること、および物納劣後財産に該当する場合には、ほかに物納にあてるべき適当な財産がないこと
④物納しようとする相続税の納期限または納付すべき日(物納申請期限)までに、物納申請書に物納手続関係書類を添付して税務署長に提出すること
簡単に補足をします。
- に関しては「相続税に充当できる現金が一切ない」ことを指します。これは相続した財産に限定されるわけではなく、相続人がもともと持っていた財産も含めてのことです。
- に関しては前述したように「優先順位に応じた財産を物納しなければならない」ことを意味します。
- については「換金しやすい財産以外は受け付けない」ということです。
- は「相続税の申告・納付期限までに申請をしなければならない」ということです。 こうして見るとおわかりのように、物納は大変ハードルが高く、現実には認められるケースがほとんどありません。国としても、なんとか現金を捻出して納税をしてもらいたいと考えているといえます。
相続した財産を売却して得た現金で相続税を納める
相続をした財産が不動産や株などであれば、それらを売却して現金化する方法も考えられます。「相続税を納める前なのに財産を処分しても大丈夫なの?」と思うかもしれませんが、問題ありません。ただし、相続人が複数いる場合は勝手に処分をすることはできません。遺産分割協議などによって財産の配分が決まっている財産に限ります。
一般的に相続した財産を現金化する場合は、不動産を売却するケースが多いといえます。不動産を売却する際には、名義を相続人へ変更する必要があるので注意しましょう。このことを「相続登記」といい、手続きは法務局で行います。また、不動産を売ることで「譲渡所得税」という税金がかかってくることもあるので、それを踏まえたうえで売却価格を考える必要があります。
不動産は「今日出して明日売れる」というものではなく、期間的なゆとりも見ておきたいものです。相続税の申告・納付が迫るなかで売り急いでしまうと、不利な条件を受け入れざるをえなくなることもあります。その結果、十分な現金を得られなくなれば本末転倒です。
相続放棄をすることで相続税の支払いを避ける
相続は必ずしなければならないわけではなく、「相続放棄」を選択することもできます。
相続をする財産にはプラスのもの以外にも借金のようにマイナスの財産もあります。相続をするということは、プラスの財産もマイナスの財産も引き継ぐということなので、もしマイナスの財産が多ければ相続放棄をするという方法もあるのです。
相続をしないということであれば、そもそも相続税とも無関係になるので、その支払いに悩むこともなくなります。ただし、相続放棄をしたほうがいいのかどうかは個々のケースで異なってくるので、慎重に考える必要があります。できれば税理士など専門家の力を借りるようにしてください。
金融機関などから資金調達をして相続税を納める
金融機関から融資を受けて相続税を支払うという方法もあります。この場合、単純に納税用の資金を借り入れるパターンと、相続した不動産を売却することを前提にして借り入れるパターンとがあります。
「実家は残しておきたい」というケースでは単純な借り入れパターン、将来的に使う予定のない不動産を相続したケースでは売却を前提とした借り入れパターンを選ぶことになります。ただし、融資は必ず受けられるというものではなく、その対策に関しては税理士など専門家の力を借りたほうがいいでしょう。
遺産分割がまとまらず相続税を払えない時の対処法
相続税を支払うだけの現預金があるにもかかわらず、遺産分割協議がまとまらないことで預金口座が凍結されてしまっており、納付期限が迫っているという時には2つの対処法があります。
一つは「相続人同士で話し合い、納税資金分だけ遺産分割協議を行う」という方法、もう一つは「金融機関に対して法定相続分の預金の払い出しを請求する」方法です。それぞれについて見ていくことにしましょう。
相続人同士で話し合い、納税資金分だけ遺産分割協議を行う
相続税の納付が遅れると追加の税金が課せられます。相続人の誰もがそうした事態は避けたいはずですから、納税用の資金の分だけ遺産分割協議を行い、預金口座の凍結を解除します。全体的な遺産分割協議はまとまらなくても、相続税の納税用の資金の調達は共通の課題なので、この方法が最も簡単といえます。
金融機関に対して法定相続分の預金の払い出しを請求する
相続が発生すると被相続人の預金口座は凍結されてしまいますが、交渉しだいでは凍結された口座から法定相続分の払い出しを受けることができます。
遺産分割協議がまとまらないと口座の凍結は解除されないというのが原則なのですが、最高裁判所のかつての判例で「解除してもいい」という判決が下されたことがありました。ただし個人で金融機関に交渉を行うのはハードルが高く、こういう場合は弁護士に相談をすることをおすすめします。
相続税を払わないと財産が差し押さえられる可能性がある
相続税の申告・納付期限は「被相続人が亡くなったことを知った日の翌日から10か月以内」です。もし納付期限を過ぎても相続税を支払えなかったらどうなるのでしょう。追加の税金が課せられることはすでにふれましたが、それも払えずに放置していた場合、最終的には国に財産を差し押さえられてしまうことになります。国はその財産を換金し、相続税に充当するというわけです。
差し押さえはいきなり行われるのではなく、以下のプロセスをとるのが一般的です。
- 督促状が送付される
- 税務署から電話が来る・税務署員が訪問する
- 最終督促状が送付される
- 差押予告書が送付される
- 差押調書が送付される
- 差し押さえが実施される
差し押さえが行われる前に、これまで記事でふれてきた対策を講じるようにしましょう。
税理士に相談すると納税額を抑えられることがある
相続税が払えなくなるのは、その税額が高いことも理由として挙げられます。もし相続税額を減らすことができれば、払えないと思っていた相続税が払えるようになるということも十分にありえます。その手段としておすすめするのが「税理士への相談」です。
相続税に強い税理士であれば、相続税を大幅に減らす控除や特例に精通しているので、大いに頼りになります。もちろんコストはかかるものの、それを補って余りあるメリットが得られることも少なくありません。専門家の力で不安が払拭されるなら積極的に活用すべきといえるでしょう。
おわりに:相続税の支払いに困った場合は税理士に
相続税は原則として現金による一括払いです。そのため、不動産や株などすぐには現金化できない財産を相続すると、相続税の支払いに困難をきたすことがあります。また、相続税を払えるだけの現預金があったとしても、遺産分割協議がまとまっていない場合は原則として被相続人の預金口座から現金を引き出すことができません。この場合も相続税の支払いに支障をきたすことになります。
この記事では相続税が払えない時の対処法をさまざまに解説いたしました。起きてはほしくない事態ですが、もし相続税の支払いに困るようなことがあれば参考にしてください。
本文でもふれましたが、相続税のことで不安や心配を抱えているようであれば、専門家である税理士に任せることが安心の第一歩です。お金に関する心配は夜も眠れないほどの不安をもたらします。そうした苦しみから解放されるためにもぜひ税理士に相談をしてみてください。
なお、その際には相続税を得意分野とする税理士を選ぶことがベストです。税理士と一口にいっても、その守備範囲は広く、なかには相続税に詳しくない税理士もいます。相続税に多くの実績をもつ税理士なら安心して相談をすることができます。
当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。
詳細はこちらこの記事を監修した⼈
陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
無料面談でさらに相談してみる