相続の知識

遺産分割協議のやり直しはできる?可能なケースや方法、デメリットを解説

遺産分割協議の結果に納得できず、やり直しを検討している方もいるかもしれません。本記事では、遺産分割協議のやり直しが可能な具体的なケースや、その手順を詳しく解説します。また、やり直しに伴う注意点やデメリットについても取り上げています。スムーズな相続手続きを実現するための参考に、ぜひご覧ください。

遺産分割協議のやり直しは可能|3つのケースを紹介

遺産分割協議は、相続人間での契約という側面をもちます。そのため、民法に定められている「解除」「取消し」「無効」の3つの事由に該当する場合には、協議をやり直すことが可能です。以下では、それぞれの事由と、そもそも遺産分割協議とは何かについて詳しく解説します。

1. 解除

「解除」とは、すでに成立した契約や合意を、特定の事由に基づき遡って無効にすることを指します。遺産分割協議をやり直すためには、まずこの解除を行うことが考えられます。

ただし、遺産分割協議の結果として、相続人がほかの相続人に対して債務を負い、その債務が不履行となったことを理由にする解除は認められません。例えば父の相続において、今後の母の面倒を長男がみることを条件に長男が多く相続したが、その後面倒をみなかった場合に他の相続人がこれを不服としても、その理由だけでは遺産分割の合意を解除できない、というものです。これは、第三者の取り引きを害する恐れがあるためです。

一方で、遺産分割協議を合意解除し、新たに遺産分割協議を行うことついて、最高裁平成2年9月27日判決では以下のように述べ、是認しています。

共同相続人は、すでに成立している遺産分割協議につき、その全部又は一部を全員の合意により解除した上、改めて分割協議を成立させることができる。

裁判所|最高裁判所判例集(事件番号:昭和63(オ)115)

したがって、相続人全員の合意がある場合には、遺産分割協議のやり直しが可能です。再度協議を行うことで、新たな条件や状況に応じた遺産分割が実現できます。

2. 取消

「取消し」とは、いったん成立した契約や合意について法律上無効となる特定の事由が存在する場合に、その契約や合意を遡って無効にすることを指します。解除とよく似ていますが、解除が法律で定められた理由のほかに契約で定めておいた理由が生じた場合にも可能なのに対し、取消しは法律で定められた理由が生じた場合のみ可能です。遺産分割協議においては、民法第95条の錯誤や、民法第96条の詐欺や強迫に該当する場合に取消しが可能です。

「錯誤」とは、契約や合意をする際に重要な事実について誤解していたために、意図しない内容での同意が行われた場合を指します。例えば、相続財産の内容や価値について重大な誤解があった場合、その遺産分割協議は錯誤を理由に取り消すことができます。

「詐欺」とは、他人を欺いて誤った認識をもたせ、その結果として契約や合意を成立させる行為を指します。相続人がほかの相続人に騙されて不正な情報に基づいて同意を得た場合、その遺産分割協議は取り消すことが可能です。

「強迫」とは、他人に対して不当な恐怖を与え、その恐怖心を利用して契約や合意を強要する行為を指します。強迫によって無理やり遺産分割協議が成立した場合、その協議は取り消すことができます。

3. 無効

「無効」とは、その行為による法律上の効力が最初から存在しなかったものとして扱われることを意味します。遺産分割協議は相続人全員の合意が必要です。したがって、相続人全員の合意を得ていない場合、その遺産分割協議は無効となり、やり直す必要があります。

また、相続人の中に「意思能力」を有していない者がいた場合、その遺産分割協議は民法第3条の2により無効となります。意思能力とは、自己の行為の結果を理解し、その意思を形成する能力のことです。例えば、重度の認知症により意思能力を有していない相続人が参加したにもかかわらず、成年後見人などを立てずに遺産分割協議が進められた場合、その協議は無効とされます。

家族が認知症になった場合の財産管理や相続について詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

【補足】そもそも遺産分割協議とは

遺産分割協議とは、相続人全員で故人(被相続人)の遺産をどのように分割するかを話し合う手続きのことです。遺産分割の割合や具体的な分配方法について、相続人間で合意を得ることが目的となります。

遺産分割協議には法的な時効は存在しません。相続が開始してから何年後でも、遺産分割協議を開始することが可能です。ただし、取消権については時間の制約があります。錯誤・詐欺・強迫により取消権を行使する場合、民法第126条により、錯誤・詐欺・強迫を知った時から5年以内に行使する必要があります。また遺産分割協議が行われてから、20年以内に行使する必要があります。

遺産分割協議についてさらに詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。

また遺産相続の時効について詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください。

遺産分割審判での決定はやり直しができない

遺産分割審判とは、相続人間で遺産分割協議がまとまらない場合に、家庭裁判所が分割方法を決定する手続きです。家庭裁判所が行う審判によって決定された遺産分割は、原則として覆すことができません。

審判の結果に不服がある場合は、確定前に「即時抗告」という手続きで不服申し立てを行う必要があります。即時抗告は、審判の告知を受けた日の翌日から2週間以内に行う必要があり、その後は高等裁判所で審理が行われます。

裁判所|即時抗告

遺産分割協議をやり直す方法

遺産分割協議をやり直すには、相続人全員で再度協議を行う必要があります。場合によっては、家庭裁判所を通じた調停が必要です。以下では、具体的な方法について詳しく解説していきます。

再度、相続人全員で遺産分割協議を実施

遺産分割協議をやり直す際には、まず相続人全員で再度協議を行う必要があります。この新たな遺産分割協議において、前回の遺産分割協議書などは破棄し、ゼロから話し合いを進めます。もしやり直し時点で相続人の中に亡くなった方がいる場合は、その方の相続人全員にも、協議に参加してもらうことが必要です。

やり直しに応じない相続人がいる場合は遺産分割調停

遺産分割協議を再度実施しても相続人全員の合意が得られない場合には、家庭裁判所に判断を仰ぐことが考えられます。調停前置主義に基づき、まず家庭裁判所で遺産分割調停が行われます。遺産分割調停とは、調停委員を仲介として遺産分割協議を進める手続きです。調停委員のアドバイスを受けながら、話し合いによる解決を目指します。最初から遺産分割審判を申し立てることも可能ですが、家庭裁判所の判断でまずは調停での解決を目指すよう促されるのが一般的です。

調停によっても合意に至らない場合は、最終的に遺産分割審判へと進みます。遺産分割審判では、家庭裁判所が分割方法を決定することになります。

遺産分割協議のやり直しで生じるデメリット

遺産分割協議をやり直す際には、以下の3つのデメリットが生じます。

  • 手間がかかる
  • 完全なやり直しはできない
  • 税金が余計にかかる

それぞれのデメリットについて、詳しく解説します。

手間がかかる

遺産分割協議をやり直す際には、必要書類を集め直すことから始める必要があります。具体的には、戸籍謄本や財産目録、不動産の登記簿謄本など、相続に関する各種書類を再度取得しなければなりません。これには書類取得費や手続きのための時間がかかり、余計な費用や労力も発生します。

さらに、1回目の遺産分割協議で不動産などを相続し、すでに名義変更を行っている場合でも、それらの手続きもすべてやり直すことになります。これは非常に手間がかかり、再度の協議に伴う負担が増す要因です。

また、上述したように、当初の相続人の中で亡くなった方がいる場合、その方の相続人全員にも遺産分割協議に参加してもらう必要があります。これにより、相続人間の調整がさらに複雑化し、協議の進行が遅れる可能性もあります。

完全なやり直しはできない

遺産分割協議のやり直しにおいて、完全に最初の状態に戻すことはできません。例えば、当初の相続人が不動産や金融資産を取得し、その後それらの財産を売却してしまっている場合、その売却済みの財産を遺産分割協議で取り戻すことは不可能です。これは、売却先が第三者であるため、売却された財産が新たな所有者の手に渡り、法的に保護されるからです。ただし、その代わりとして、一般的にはその売却益を相続財産に組み込んで、遺産分割協議を行います。

このように、元々存在していた財産がすでに消滅しているという観点から、完全な遺産分割協議のやり直しは不可能です。

税金が余計にかかる

遺産分割協議をやり直すことによって、余計な税金がかかるリスクがあります。特に、ひとつの財産に対して二度税金を支払う可能性がある点に注意が必要です。例えば、遺産分割協議のやり直しの結果として、当初の相続人に移った財産が別の相続人のものになる場合、その行為は贈与に該当します。したがって、その財産に対して贈与税が課せられます。また、元の相続人がすでに相続税を支払っていたとしても、その相続税が返還されることはありません。

さらに、やり直しによって当初別の相続人が相続した不動産を新たに取得した場合には、登録免許税が再度発生します。これは、同じ不動産に対して二重で登録免許税を支払うことになるため、余分な税負担が発生します。

これらの税金は相続人にとって大きな負担となる可能性があるため、やり直しを検討する際には税金面での影響を十分に考慮することが重要です。

相続・遺産分割のお困りごとは「レガシィ」までご相談ください

遺産分割協議のやり直しは、相続人全員の合意があれば可能です。また錯誤、詐欺、強迫などの取消し事由や、無効の理由がある場合も認められます。しかし、やり直しには手間やコストがかかり、完全に元の状態に戻すことはできません。また、やり直しに伴う税金の増加などのデメリットも考慮することが必要です。相続人間での合意形成が難しい場合は、家庭裁判所の調停や審判を利用する方法もあります。

レガシィは実績と歴史のある相続専門の税理士法人です。相続のプロフェッショナルが遺産分割協議書の作成や、金融機関の手続きなどをお手伝いします。ぜひ一度ご相談ください。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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