借地権の相続|手続きや起きやすいトラブル、相続税評価額の計算方法も解説
Tweet借地権がある状態で借主が亡くなった場合、その権利は相続できます。本記事では、借地権の種類や相続税の計算方法などの基本的な事項に加え、親や兄弟から借地権を相続することになったときに起きやすいトラブルと対処法を紹介します。
目次
借地権は相続財産のひとつである
借地権とは、建物を建てるために第三者から土地を借りる権利のことです。建物を建てるには、土地を購入する方法と、他人の土地を借りて建てる方法があります。後者は借地権を有している状態ですが、土地を借りて建物を建てていた方が亡くなった場合には、その方の配偶者や子どもなどの相続人が借地権を相続することになります。借地権は権利で目に見えないものではありますが、立派な資産であり、預貯金や株式と同じように相続財産のひとつです。
借地権の種類
借地権について定める法律には、旧法にあたる借地法と、1992年(平成4年)8月以降の借地借家法があります。借地法の経過措置は現在も続いているため、借地借家法が施行される以前より土地を借りている場合は、借地法が適用されます。
現行法の借地権の種類には「普通借地権」や「定期借地権」などがあります。普通借地権の存続期間は一律30年で、最初の更新後は20年、その後の更新は10年ごととなっています。
一方、旧借地法では、鉄筋コンクリートなどで造られている「堅固な建物」の存続期間は60年、「非堅固な建物」の存続期間は30年です。一度更新したのちは、それぞれ30年と20年になります。
このような違いがあるため、1992年(平成4年)8月1日以降に借りた土地なのか、そうではないのかをまず確認する必要があります。
普通借地権
更新を行う借地権を「普通借地権」といいます。地主側に正当な理由がないかぎり、借地人の希望で契約を更新できます。先に述べたように存続期間は30年で、更新1回目は20年、2回目以降は10年となります。法律によって借主の権利が保護されるようになっているため長期間借用しやすく、借主側に有利です。
定期借地権
あらかじめ期間が決まっている借地権を「定期借地権」といいます。更新がなく、原則的には契約期間が終わったら借主は更地にして地主に返すことになります。旧借地法下では、一度土地を貸すと永久的に戻らないことを心配する地主がいたため、借地借家法で地主の権利を保障するものとして定められました。
借地権の相続は地主の許可が不要
借地権を相続する際に、地主の許可や契約更新は不要です。しかし、配偶者や子が相続する場合は、トラブル防止のため地主に通知することをおすすめします。相続人の氏名と、以降の地代支払いに関する意思を伝えます。その際に、もし相続を理由に土地の返還を求められても、応じる義務はありません(詳しくは後述します)。
ただし、遺言により相続人以外への譲渡(遺贈)をする場合や、相続にあたって第三者へ売却する場合は、地主の承諾が必要です。そういった場合には、譲渡承諾料の支払いが求められることもあります。
借地権の相続税評価額計算方法
借地権を相続した場合は、相続財産のひとつになるため、相続税の課税対象となります。借地権も現金と同じように資産価値を算出する必要があるため、相続税の計算においては「相続税評価額」という指標を求めます。
現金、預貯金、不動産、借地権などすべて含めた遺産総額が相続税の基礎控除額を超える場合は、相続税がかかります。相続税の基礎控除額は【3000万円+600万円×法定相続人の数】と定められているため、法定相続人が多いほど、基礎控除額が大きくなります。相続税の評価額を計算する方法は、普通借地権と定期借地権とで異なります。
普通借地権の相続税評価額計算方法
普通借地権の相続税評価額は、以下のような計算式で算出できます。
【借地権の評価額= 自用地評価額 × 借地権割合 】
「自用地評価額」とは、自分で土地を使う場合の評価額のことです。都市部では路線価方式、路線価が定められていない郊外では倍率方式を使って、評価額を求めます。「路線価」とは、土地1平方メートル当たりの価額のことで、国税庁のホームページで確認できます。
借地権割合は、地域によって変わります。住宅地では、60〜70%が一般的です。
定期借地権の相続税評価額計算方法
定期借地権の相続税評価額は、以下のような計算式で算出できます。
【定期借地権の相続税評価額
=自用地評価額 × { (借主に帰属する経済的利益の総額/宅地の通常の取引価額 ) × ( 定期借地権等の残存期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率/定期借地権等の設定期間年数に応じる基準年利率による複利年金現価率) }】
基本的には、「借主に帰属する経済的利益の総額」や「宅地の通常の取引価額」などの要素を用いて計算します。「残存期間年数」とは、定期借地権の期間のうち、相続発生日から残っている契約年数のことです。「基準年利率」と「複利年金現価率」については、年月ごとに利率が設定されていて、国税庁のホームページで確認できます。
参考:国税庁「令和5年分の基準年利率について(法令解釈通達)」
上記の流れで計算をしますが、計算方法が非常に複雑なので、専門家に相談することをおすすめします。どうしても具体的な計算が知りたいという方は、以下の複利年金原価率の記事において例を載せていますので、ご覧ください。
借地権を相続する流れ
借地権を相続する手続きの流れは、以下の通りです。
- 借地権の契約内容を確認し、遺産分割協議を行う
- 土地の所有者に連絡をする
- 借地上の建物の相続登記を行う
遺言や借地権の登記の有無によって、手続きに若干の違いがあります。
1.借地権の契約内容を確認し、遺産分割協議を行う
遺産分割協議を始めるにあたって、まずは借地権の内容確認を行います。賃貸借契約書を探し、地代や契約期間などの条件をチェックします。また、法務局で登記事項証明書を取得し、登記の有無やその内容もチェックします。借地権の登記は義務ではないため、登記されていないことも多いものの、登記されている場合は名義変更が必要です。
遺言書によって借地権のある建物の相続人が決まっている場合はそれに従いますが、そうでない場合は相続人全員で遺産分割協議を行います。遺産分割協議が成立するか、遺産分割調停や審判などの手続きをすることで、借地権の取得者が確定します。借地権付きの建物を相続する人が決まったら、遺産分割協議書を作成し、相続人全員が署名捺印します。
なお、借地権付きの建物を共同相続人で分ける場合は、借地権も分けることになります。親が他界し、兄弟で共有するケースなどが想定されます。一方、相続人がいない場合や、相続人全員が相続放棄をした場合は、地主が家庭裁判所に相続財産管理人の選任を申し立てることになります。
相続人がない場合については、以下の記事も参考にご覧ください。
2.土地の所有者に連絡をする
法定相続人が相続する場合は、地主の承諾は不要です。被相続人が死亡したことをきっかけに土地の返却を求められた場合も、返却する義務はありません。ただしトラブル防止の観点で地主に連絡を入れることをおすすめします。相続した人の名前や、その人が今後地代を払う旨などを知らせることが、地主との良好な関係に繋がります。
一方、遺贈により相続人以外が借地権を引き継ぐ場合は、地主の承諾が必要になるため、早めに連絡する必要があります。なお、遺贈の場合は一般的に承諾料が発生します。
3.借地上の建物の相続登記を行う
相続した人は、法務局で建物の相続登記を行います。相続登記とは、名義変更のことです。借地権が登記されている場合は、借地権の相続登記を同時に行います。
必要書類は以下の通りです。
- 被相続人と相続人全員の戸籍謄本
- 被相続人の除籍謄本、改製原戸籍
- 被相続人の戸籍の附表
- 相続人の住民票
- 遺産分割協議書(遺言に基づく相続の場合は遺言書)
- 相続人全員の印鑑証明書
- 固定資産評価証明書
- 委任状(名義変更の手続きを司法書士に任せる場合のみ)
相続登記には、登録免許税がかかります。建物の相続登記は固定資産税評価額の0.4%、借地権の相続登記は土地の固定資産税評価額の0.2%です。また、司法書士に手続きを依頼する場合は、その費用も発生します。
借地権の相続で起こりやすいトラブルと対処法
借地権の相続で起こりやすい3つのトラブルと、その対処法を紹介します。
- 名義変更の手数料や値上げを求められる
- 立ち退きを求められる
- 共有して相続すると手続きが複雑になる
名義変更の手数料や値上げを求められる
相続の発生時に、地主が名義変更の手数料や値上げを求めてトラブルになる場合があります。法律的には応じる義務はありません。ただし、少額を払った方が以降の地主との関係を円満に進められるという場合もあり、臨機応変な対応が求められます。
地代の値上げについては、近隣の地価が高騰している場合など、値上げが妥当だと判断される場合もあります。値上げが提示された場合は、周辺の地価や賃料相場を調べましょう。いずれにしても、地主の要求に慌てることなく、専門家に相談することをおすすめします。
立ち退きを求められる
相続を機に、地主から立ち退きを求められるケースもあります。しかし、本来は相続を起因とする立ち退きに応じる義務はありません。その旨を説明しても伝わらない場合は、弁護士などの専門家や警察へ相談することを検討しましょう。
共有で手続きが複雑になる
前述の通り、借地権は複数の相続人で共有することが可能です。ただし、共有してしまうと、売却や建て替えで全員の同意が必要になります。また、次の代の相続で共有者の人数が更に増えてしまったり、疎遠になることで、やり取りが複雑になったりするリスクがあります。将来的に建て替えや処分ができず、空き家問題の発端となることも考えられます。
管理や処分を円滑にするために、借地権はできるだけ共有せず、単独で相続しておくことをおすすめします。
借地権も相続放棄が可能
前述の通り、借地権も相続放棄を選択できます。亡くなった親が借地に家を建てて住んでいた場合など、地代や更新料、建物の解体費用を心配して相続放棄を希望する方がいます。しかし、相続放棄をすると、借地権だけでなく預貯金など全ての相続を放棄することになります。放棄すべきでないプラスの財産がどの程度存在するのか、慎重に検討する必要があります。
相続放棄を選択する場合は、相続を知って3か月以内に家庭裁判所に「相続放棄申述書」を提出します。このとき、受理までに1か月程度かかることが想定されるため、相続放棄を決断した場合は早めの手続きをおすすめします。
おわりに:借地権の相続は複雑なため、専門家に相談を
借地権は、地主の許可なく相続できます。しかし相続に際し、相続人同士や地主とのトラブルが生じる場合もしばしばあります。また、相続税の対象でもあります。相続税や地代の負担を考慮し、相続放棄を検討する場合がありますが、借地権のみを放棄することはできません。
このように判断や手続きが難しい面もあるため、借地権を相続する場合は、専門家のサポートを受けることをおすすめします。相続専門の税理士法人であるレガシィは、相続に関わる手続き全般のサポートをいたします。不動産部門も所有しており、借地権の相続についてもご相談可能です。ぜひお気軽にお問い合わせください。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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