みなし贈与とは?土地・非上場株式などケースごとに解説
Tweetみなし贈与とは、見た目には贈与に当たらないように見えても、実際には財産や利益を無償で受け取った場合に贈与税がかかる制度のことです。この記事では、土地や非上場株式などの具体例を取り上げながら、みなし贈与の意味や課税されるリスク、そしてその回避方法について、わかりやすく解説します。
目次
みなし贈与とは
みなし贈与とは、形式上は贈与に見えなくても、実際には財産を無償で受け取ったり、時価より大幅に安い価格で取得したりした場合などに、贈与とみなされる制度です。
ここでは、贈与について次の3つのポイントを詳しく解説します。
- みなし贈与に関する国税庁の定義
- 「通常の贈与」と「みなし贈与」の違い
- みなし贈与とされた場合は贈与税の対象となる
みなし贈与に関する国税庁の定義
国税庁では、財産の譲渡価格が時価より著しく低いとき、安くなった分を贈与とみなし、贈与税の対象として扱います。例えば、土地や建物などを通常の取引価格の半額以下で取得した場合、その差額が贈与と解釈されることがあるため注意が必要です。なお、みなし贈与には法律上の数値基準がなく、判例や取引の実態が判断材料となります。
つまり、贈与するつもりがなかったとしても、結果的に利益を受け取ったと認められる場合には、みなし贈与が適用されることになります。ただし、財力がなく債務の返済が困難な状況で扶養義務者から財産を受け取った場合など、一定の条件下ではみなし贈与とならないケースもあります。
「通常の贈与」と「みなし贈与」の違い
通常の贈与は、贈与者が「与えたい」と考え、受贈者が「受け取りたい」と思うことで成立する契約です。これは民法第549条で定められています。一方、みなし贈与は、当事者の合意がなくても、実際には財産や利益が無償や非常に安い価格で移った場合に、税務上「贈与があった」とみなされることを指します。
利益を受けた本人が気づかず、知らない間に課税対象とされるケースもあります。このように、両者の大きな違いは「意思の有無」にあり、みなし贈与は税務署の判断によって成立します。
みなし贈与とされた場合は贈与税の対象となる
みなし贈与と認定されると、たとえ当事者同士で贈与の合意がなかった場合でも、税務上は通常の贈与と同じように扱われ、贈与税が発生します。贈与税は、年間110万円の基礎控除を超えた金額に対して、取得した財産の価額に応じて税率が上がる累進課税が適用されます。
また、申告をしなかった場合には、過少申告加算税や重加算税、延滞税などのペナルティが科されることがあるため、注意が必要です。特に、贈与と知らずに財産を受け取った場合、税務署からの指摘で予想外の税金を支払うことになる可能性があります。このように、みなし贈与は「知らなかった」では済まされない可能性があり、予想外の税務リスクにつながる点に注意が必要です。
みなし贈与とされやすい代表的な7つのケース

ここでは、特に注意が必要な以下の7つのケースを解説します。
- 土地・非上場株式の著しく低い価額での譲渡
- 不動産や非上場株式の名義変更
- 共有名義不動産の負担割合の不一致
- 無利息・低利息の金銭貸付
- 借金や納税義務の肩代わり・債務免除
- 生命保険・個人年金の名義変更・受取人設定
- 離婚による過大な財産分与
土地・非上場株式の著しく低い価額での譲渡
市場価格よりも大幅に安い金額で土地や非上場株式を譲渡すると、その差額が「経済的利益」とみなされ、贈与税が適用されることがあります。例えば、時価が5,000万円の土地を2,500万円で親から子に売った場合、見た目は売買でも、税務上は2,500万円分を贈与したと判断されることがあります。
このようなケースは「みなし贈与」となり、税務署が特に注意して確認するポイントです。親族や知人同士の取引では、こうした点に気を付ける必要があります。不動産を安く譲渡するよりも、贈与税の特例制度などを利用した方が、税務上のリスクを避けやすくなります。
不動産や非上場株式の名義変更
不動産や非上場株式の名義を、家族や後継者に対価を支払わずに変更すると、たとえ手続き上は売買の形をとっていても、実際には「贈与」とみなされる可能性があります。例えば、親が子どもに土地の名義を移した場合、その子どもが時価相当の利益を得たとみなされることで、贈与税が生じる可能性があります。
また、非上場株式の場合は市場での価格がないため、名義変更時の株式の評価が特に重要です。事業承継の際に無償で株式を譲渡すると、その株式の価値分が「みなし贈与」とされ、後から贈与税が課されることがあります。
このように、名義変更では手続きの形式よりも実際の内容が重視されます。そのため、専門家による正確な評価と慎重な対応が必要です。
共有名義不動産の負担割合の不一致
親子や夫婦で不動産を共有名義にする場合、実際に出したお金の割合と登記上の持分割合が一致していないと、その差額が「みなし贈与」として扱われることがあります。例えば、父親が4,000万円、長男が1,000万円を負担して自宅を購入し、それを1/2ずつの名義で登記した場合、長男は本来の負担額(2,500万円分)より多い持分を持つことになります。そのため、長男が1,500万円分の贈与を受けたと税務署に判断されるかもしれません。
このような課税を避けるためには、購入時の資金負担割合をきちんと記録し、持分割合と一致させることが大切です。また、税務署は形式よりも実際の内容を重視するため、証明できる書類をしっかり準備しておく必要があります。
無利息・低利息の金銭貸付
親子や親族同士、または会社と役員の間でお金を貸し借りする際、無利息や極端に低い利息で貸し付けると、本来受け取れるはずの利息分が「経済的利益」とみなされ、贈与税が発生することも考えられます。例えば、親が子どもに500万円を無利息で貸し、契約書も作らず返済もあいまいなままだと、税務署はこれを贈与として扱う可能性があります。特に、金額が大きく期間も長い場合は、利息分が贈与税の基礎控除(年間110万円)を超えることもあるので注意が必要です。
このようなリスクを避けるためには、契約書をきちんと作成し、適切な利率を設定することが大切です。また、形式だけでなく、実際に返済が行われているかどうかも重要なポイントとなります。
借金や納税義務の肩代わり・債務免除
親族の間で借金や税金の支払いを代わりに行ったり、債務を免除したりした場合は注意が必要です。たとえ現金を直接渡していなくても、債務者が経済的な利益を受けたとみなされ、贈与税の課税対象になる場合があります。
例えば、親が子どもの借金200万円を肩代わりすると、子どもはその分の借金がなくなり、実質的に200万円の利益を得たと判断されます。納税義務の肩代わりについても同様です。
ただし、債務者がすでに支払能力を失っている場合は贈与とみなされず、課税が免除されることもあります。贈与とみなされないようにするためには、支払いの理由や債務者の状況をきちんと記録しておくことが大切です。
生命保険・個人年金の名義変更・受取人設定
生命保険や個人年金の契約者・受取人を変更すると、支払った保険料に相当する利益が新しい契約者に移ったとみなされ、贈与税がかかるケースもあります。例えば、父親が10年間保険料を支払った後に契約者を子どもに変更した場合、満期保険金や解約返戻金(保険を解約したときに戻ってくるお金)を受け取る際に父親が支払った保険料分が子どもへの「みなし贈与」と判断されることがあります。
保険契約の名義変更や受取人の指定を行う際は、税金に関する影響をよく理解し、慎重に手続きを進めることが大切です。
離婚による過大な財産分与
離婚による財産分与は、原則として贈与税の対象にはなりません。ただし、通常の慰謝料や生活補償の範囲を大きく超えて財産が移された場合や、離婚を装った財産移転、財産分与の名目を借りた贈与と判断される場合には、課税対象となることがあります。例えば、離婚を装って一方が多額の資産を受け取るような場合は、贈与税を避けるための行為とみなされる可能性が高まります。
形式上は離婚であっても、実際には経済的な利益が一方に大きく偏っている場合は課税の対象となることがあります。そのため、財産分与の内容は、社会的に見て妥当かどうかを意識し、慎重に決めることが大切です。
みなし贈与にならないケース
贈与税がかからない「みなし贈与にならないケース」には、いくつかのはっきりとした条件があります。まず、扶養義務のある人から渡される生活費や教育費については、社会的に必要と認められる範囲であれば非課税です。例えば、親が子どもの学費をその都度支払う場合などがこれに当たります。
また、1年間で110万円までの贈与は基礎控除の範囲内なので課税されません。ただし、「10年間100万円を贈る」など満額の定まった約束を行っている場合、基礎控除内でも「定期的な贈与」とみなされ、満額分を課税対象とされる可能性があるため注意が必要です。
さらに、債務の免除や肩代わりについても、借りている人がすでに返済できないほど債務超過している場合は、贈与とみなされないことがあります。加えて、不動産の譲渡では、取引価格が時価に近く合理的と認められる場合は、みなし贈与に該当しないと判断されることがあります。実務上は「時価のおおむね70〜80%程度」が目安とされるケースもありますが、法律で明確に定められた基準ではなく、取引の事情や証拠に基づき判断されます。
このような条件を正しく理解し、必要に応じて専門家に相談することで、余計な贈与税がかかるリスクを避けられます。
みなし贈与を避けるための対策

みなし贈与とされないようにするには、次のポイントに注意しましょう。
- 適切な財産の評価を心がける
- 暦年贈与(年間110万円まで)や非課税特例を活用する
- 契約書・議事録・金銭授受の証拠を残す
- 生活費や扶養義務に基づく贈与を利用する
このような点に気を付けることで、贈与のリスクを減らせます。
適切な財産の評価を心がける
みなし贈与の課税を回避するには、財産の評価をできるだけ実際の取引価格(時価)に近づけることが重要です。例えば、不動産の場合は、路線価や固定資産税評価額を参考にし、必要であれば不動産鑑定士による評価も利用しましょう。非上場株式については、類似業種比準価額や純資産価額など、税務上で認められている方法で評価する必要があります。
また、取引価格が極端に低いと判断されると、贈与税の課税対象になる可能性があります。たとえ80%以上の価格で取引した場合でも、安心はできません。さらに、取引の背景や当事者同士の関係性も考慮されるため、価格設定の理由を文書でしっかり残しておくことが、後の税務調査に備えるうえで役立ちます。
暦年贈与(年間110万円まで)や非課税特例を活用する
贈与税の負担を減らすためには、暦年贈与や目的ごとの非課税特例を上手に活用することが大切です。暦年贈与とは、1年間に110万円までの贈与を行うことで、税金がかからないようにする方法のことを指します。
この方法を使って、毎年少しずつ財産を移すことで、贈与税の負担を抑えられます。ただし、あらかじめ満額を約束した贈与を繰り返す場合は、暦年贈与でも課税対象となるため注意が必要です。
また、教育資金の一括贈与(最大1,500万円)や住宅取得等資金の贈与(最大1,000万円)といった特別な非課税制度もあります。これらの特例は暦年贈与の基礎控除と併用でき、より柔軟に資産を移せます。ただし、制度を利用するにはいくつか条件があること、さらに時限措置であるために今後縮小や終了となる可能性があることに注意が必要です。事前に税理士などの専門家に相談すると安心です。
契約書・議事録・金銭授受の証拠を残す
贈与や低額での譲渡を行う場合は、口約束だけに頼らず、客観的な証拠をしっかり残すことが大切です。なぜなら、税務署は「本当に贈与があったのか」という実質面を重視しており、贈与契約書や銀行振込の記録、議事録などの書類があるかどうかで、課税の判断が大きく変わるためです。
特に贈与契約書には、贈与する人と受け取る人の名前や住所、贈与の内容、日付、署名や押印などをきちんと記載することで、贈与の意思と事実をはっきり示せます。また、現金を直接手渡しした場合は証拠が残りにくいため、銀行振込の記録や受領証を作成しておくことも有効です。
このような証拠は、税務調査が行われたときに説明する材料となり、余計な課税リスクを防ぐ役割を果たします。つまり、贈与において「記録を残す」ことは、安心と信頼を守る行動にもなります。
生活費や扶養義務に基づく贈与を利用する
未成年の子どもや高齢の親など、扶養すべき家族に渡す生活費や教育費は、一定の範囲内であれば贈与税がかかりません。これは、相続税法第21条の3に基づき、社会的に妥当とされる範囲で、必要なタイミングで支給される場合に限り非課税です。
例えば、大学生の子どもに毎月10万円を仕送りする場合は非課税ですが、入学時に一括で480万円を渡すと贈与税がかかる可能性があります。大切なのは、その時々で実際に必要な金額であり、使い道が生活費や教育費に限られていることです。
もし、必要以上の金額を渡したり、生活や教育以外の目的で使われたりすると、贈与とみなされて課税されるリスクが高くなります。たとえ家族への支援であっても、税金の面では注意が必要です。
みなし贈与に関するよくある疑問

みなし贈与は、税金の計算において判断が難しく、取引をする人たちにとって疑問が生じやすい制度です。ここでは、特に多く寄せられる次のような質問について、整理してわかりやすく解説します。
- 「著しく低い価額」とはどの程度の基準か
- なぜみなし贈与がバレるのか
- 個人間取引でみなし贈与が問題になりやすいのはなぜか
- みなし贈与とされた後の対応は
「著しく低い価額」とはどの程度の基準か
「著しく低い価額」とは、財産を市場価格よりも明らかに安い値段で譲渡することです。この場合、差額が贈与税の対象になることがあります。法律では具体的な数値基準は定められていませんが、税務上は、不動産であれば路線価や鑑定評価、非上場株式であれば株価算定などが基準として使われます。
これらの評価額と実際の取引価格に大きな差があると、譲渡した人が受け取った人に経済的な利益を与えたと判断され、贈与税が課されるリスクが高まります。そのため、価格を決める際には、十分な根拠を示すことが重要です。
なぜみなし贈与がバレるのか
みなし贈与は、税務署の情報網によって思ったよりも簡単に見つかってしまいます。例えば、不動産の登記情報や金融機関の取引履歴、マイナンバー制度による資産のひも付けなどが活用されています。さらに、「KSK(国税総合管理)システム」には、保険金の支払調書や株式譲渡の記録など、さまざまな情報が集められています。
また、相続税の申告時には、過去の資産の動きが詳しく調べられます。そのため、申告漏れや不自然な取引があった場合、税務署は贈与税の申告がされていないのではと疑い、調査を始めることがあります。このように、表向きの契約だけではごまかせないのが、今の税務の現状です。
個人間取引でみなし贈与が問題になりやすいのはなぜか
親族や知人同士で個人間取引を行う場合、相手への好意や配慮から、市場価格よりも安い値段で財産を譲ることがよくあります。しかし、このような取引は、税務署から「実質的には贈与なのではないか」と疑われやすいのが現状です。
なぜなら、第三者が関わらないため、価格が適正であることを証明する資料がそろいにくく、実際の市場価格との差が大きいと、課税の対象になる可能性が高くなるためです。そのため、信頼関係を前提とした取引であっても、税務上はしっかりと証拠を残すようにしましょう。
みなし贈与とされた後の対応は
みなし贈与と認定されると、受け取った人は贈与税を納める義務が生じます。また、追徴課税や延滞税が課されることもあります。特に、申告漏れが故意だと判断された場合には、通常6年の時効が最長7年まで延長され、重加算税などの厳しいペナルティが科されることがあります。発覚してから節税対策を講じるのは困難であり、契約書や振込記録などの証拠をしっかり準備しておくことが大切です。
もしみなし贈与と認定されれば、放置せず、できるだけ早く税務署と向き合い、誠実に対応することがダメージを最小限に抑えるポイントとなります。
みなし贈与は専門家に相談し、安心できる相続対策を進めよう
みなし贈与は、名義変更や低額譲渡など日常的な取引でも該当することがあり、知らないうちに贈与税の対象となるケースが少なくありません。税務署は書類の形式よりも、実際の資金の動きや実態を重視するため、事前の対策が重要です。
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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
