相続の知識

贈与税は夫婦間の財産のやりとりにもかかる?|非課税・課税の判断も解説

一緒に暮らす夫婦の間では、日常的にお金のやりとりが行われています。生活費や教育費など日々の暮らしに必要不可欠なお金の受け渡しは、まさに日常茶飯事であり自然なことです。そのため夫婦間のお金のやりとりには「贈与税」がかかることはないと考えている人も少なくないでしょう。
贈与とは、個人から個人へと自分の財産を無償で相手に与えることをいい、財産を与える人を「贈与者」、受けとる人を「受贈者」といいます。そして贈与額が一定の額(原則として年110万円)を超えると、受贈者は贈与税を支払わなければなりません。
じつはこの贈与者と受贈者の関係は、夫婦間においても成立します。つまり、場合によって贈与税を支払わなければならなくなるということです。この記事では、夫婦間の財産のやりとりについて解説いたします。

夫婦で生活費を渡したら贈与税の対象か?

夫婦の間で最も多いお金のやりとりといえば「生活費」でしょう。
総務省の家計調査によると、令和2年(2020)における二人以上世帯の1か月の消費支出(生活費)は平均で27万7,926円となっています。もし妻が専業主婦、あるいは夫が専業主夫で、一方の配偶者がその全額を負担し、相手に渡していた場合、贈与税がかかってくるのでしょうか?
贈与税は年110万円超の贈与があると支払い義務が生じてくるため、この例ではそれが当てはまりそうです。夫婦間の財産のやりとりに関して、まずは生活費と贈与税の関係について理解を進めていきましょう。

生活費は原則非課税

結論から先に述べると、生活費は原則として贈与税の課税対象にはなりません。夫婦はそれぞれ相手に対する「扶養義務(生活を守る義務)」を担っています。その義務を果たすためのお金は課税対象としてふさわしくないという考えから、生活費と贈与税は切り離されているわけです。
生活費とは具体的には「家賃」「食費」「水道光熱費」「日用品・家電製品の購入費」「医療費」などを指します。こうしたものに使うお金のやりとりに関しては、年110万円超であっても贈与税がかかることはありません。
なお、夫婦に子どもが生まれた場合、子に対する扶養義務が生じます。したがって、子どもの成長のために使う「教育費」も贈与税の対象外です。

いわゆるへそくりは原則課税

生活費は「原則として」贈与税の対象にはなりませんが、本来の目的以外に使う場合は課税されることになります。本来の目的以外とは、たとえば「へそくり」です。
家計を預かる配偶者がやりくり上手で、受けとった生活費を使い切らずに残ったとします。それを内緒で貯めておいた場合、そのへそくりに対して贈与税がかかってくることになるわけです。
ただし、1年間(1月1日から12月31日まで)のへそくりの合計が110万円以下なら非課税扱いとなります。へそくり以外にも車や株、贅沢品などを買うと贈与税がかかることになるので気を付けましょう。

夫婦間でも贈与となる不動産の名義変更など

贈与の対象となる財産は現金だけではなく、不動産や有価証券、貴金属なども含まれます。とくに不動産はマイホームに代表されるように、所有している家庭が珍しくありません。なかには収益物件や別荘、セカンドハウスをもっている夫婦もいることでしょう。そうした不動産と夫婦間の贈与の関係について見てみることにしましょう。

お金を出していないのに名義を付ける場合

夫婦でマイホームを購入する際に、「共有名義」を選択するケースがあります。不動産の所有権をそれぞれがもつわけですが、この時にお金を出していないにもかかわらず名義人になると贈与税の支払い義務が生じてきます。

たとえば、4,000万円のマイホームを購入したとします。頭金を払ったのも、住宅ローンの支払いを行うのも夫(または妻)であるにもかかわらず、その所有権を夫婦2分の1ずつにした場合、一方の妻(または夫)は贈与税を支払わなければなりません。この場合、4,000万円の半分なので、2,000万円の贈与があったと判断されるわけです。
なお、この例ではもし夫婦それぞれが所有権に応じて資金を負担すれば(2,000万円ずつ出せば)、贈与税がかかることはありません。

無償などで不動産を名義変更

長年連れ添った夫婦の場合、「自分の死んだ後にも安心して住み続けられるように」と住まいの名義を変更しておくケースもあることでしょう。あるいは、自分のもっている収益物件の名義を配偶者のものとし、経済的な安心感を与えるといったケースも考えられます。
これらの場合、そうした不動産を無償で与えたとしたら、贈与税の課税対象となるので要注意です。贈与税には年110万円までの非課税枠がありますが、不動産の評価額がそれ以下になるということは考えにくいので、高確率で贈与税がかかってくるはずです。

「無償がダメなら有償で渡せばいいのでは?」と考える人もいることでしょう。この場合、不動産相場よりも著しく低い価格で譲渡(売却)しないように気を付けてください。
たとえば4,000万円の価値がある不動産を400万円で売却したら、税務署では通常の売買行為ではなく、「3,600万円の贈与があった」と判断します。
このように相場とかけ離れた価格で譲渡することを「低額譲渡」といい、課税対象に組み込まれるのです。

そのほか夫婦間でも贈与税の対象となる場合

生活費や教育費は原則として贈与税の課税対象にはならず、それ以外の現金や不動産などの贈与は課税対象になるということはわかっていただけたはずです。ここからはさらに、贈与税の対象となるそのほかのケースを見ていくことにしましょう。

まとまったお金を渡した場合

生活費あるいは教育費としてお金を渡しても、贈与税が課せられることはありません。しかし、それはあくまで「原則として」であり、社会通念上あまりに高額である場合は贈与税の対象となる可能性があります。
たとえば生活費として毎月100万円を受けとっていたとしたら、一般的には高額と考えられるでしょう(先にもふれましたが、二人以上世帯の1か月の消費支出(生活費)は平均で27万7,926円です)。

ただし、月100万円の生活費が必ず贈与税の課税対象になるのかというと、一概にそうはいえない面もあります。その家庭の収入状況やライフスタイルによっては、100万円の生活費が妥当と考えられるケースもあるためです。
どこまでが「高額」なのかについては明確な線引きはできず、このような場合は税理士のアドバイスを受けたほうが安心といえるでしょう。

会社の株式を渡した場合

会社を経営している方なら、自社の株を配偶者に与えておきたいと思うこともあるはずです。上場している株もそうですが、非上場の株であっても財産として位置付けられているため、贈与税の課税対象となります。
ただ、非上場の株は評価が難しく、贈与額を算出するには複雑な計算が必要です。この場合も専門家である税理士に相談するほうが安心です。

夫婦間の居住用不動産贈与の特例

先に夫婦間の不動産贈与に関して、贈与税がかかる可能性が高いという話をしましたが、じつは夫婦間の不動産贈与については非課税の特例が設けられています。この特例を知っていると知っていないとでは大きな差が生じてしまうので、ぜひ押さえておいてください。

居住用不動産贈与の特例:適用の要件

夫婦間の不動産贈与に関わる特例は「贈与税の配偶者控除」といいます。通称は「おしどり贈与」で、20年以上連れ添った夫婦が適用の対象となることから、この名が付いています。
内容としては、夫から妻、あるいは妻から夫に居住用不動産またはその購入資金の贈与があった場合、2,000万円までは非課税となる制度です。通常の贈与税の年間110万円という非課税枠も併用できるため、合計2,110万円が非課税となります。このおしどり贈与を使う要件としては次の三つがあります。

①婚姻関係が20年以上であること

おしどり贈与という名の由来どおり、20年以上連れ添った夫婦であることが必要です。この場合の夫婦とは法的な婚姻関係にあることを指し、事実婚の場合は対象外となります。

②居住用の不動産または購入資金の贈与であること

対象となる不動産は「居住用」でなければなりません。したがって収益物件や別荘、セカンドハウスは対象外となります。居住用であれば、不動産そのものでも購入用の資金でも問題ありません。

③翌年の3月15日までに住み始めること

対象となる不動産には、贈与を受けた年の翌年の3月15日までに住んでいなければなりません。すでに暮らしている自宅やすでに完成している住宅の購入なら問題はありませんが、新たに建築する場合は入居時期に気を付ける必要があります。

そのほかの注意点としては「対象は国内の不動産」「同じ配偶者からの贈与は1回のみ」ということが挙げられます。また、贈与税の申告が必要です。たとえ2,110万円の非課税枠に収まって支払い義務が生じない場合でも申告をしてください。
申告は贈与があった年の翌年2月1日から3月15日の間に行いましょう。なお、申告に必要な書類は以下のとおりです。

おしどり贈与の申告に必要な書類
  • 贈与を受けた日から10日を経過した以降の戸籍謄本または抄本
  • 贈与を受けた日から10日を経過した以降の戸籍の附票の写し
  • 贈与を受けた居住用不動産の登記事項証明書
  • 固定資産税評価証明書など居住用不動産を評価するための書類(不動産の購入資金ではなく居住用不動産を贈与された場合)

居住用不動産贈与の特例:適用の効果

このおしどり贈与の特例を使った場合と使わなかった場合、それぞれ贈与税がどうなるのかを見てみることにしましょう。ここでは「夫から妻に土地と建物の評価額があわせて2,000万円の居住用不動産が贈与された」と仮定します。

おしどり贈与を使わない場合

この場合、贈与額は2,000万円、基礎控除額は110万円、税率は50%、控除額は250万円となるので、贈与税額は以下の計算式で算出できます。贈与税額は695万円です。

【(2,000万円−110万円)×50%−250万円=695万円】

おしどり贈与を使った場合

この場合、贈与額は2,000万円、非課税枠が2,000万円なので、差し引きゼロとなり、贈与税はかかりません。

このように、おしどり贈与を使う場合と使わない場合には大きな差が生じることがわかります。配偶者に対して居住用不動産の贈与を考えている方はぜひ知っておくべき特例といえるでしょう。

居住用不動産贈与の特例:相続税の節税における注意点

将来の相続税の節税を考えている場合には注意が必要です。
おしどり贈与の対象となる贈与財産のうち土地については、仮におしどり贈与を実行しなかった場合でも相続時に「小規模宅地の特例」が使える可能性が高いこと、また贈与の場合、相続の場合よりもコスト(登録免許税、不動産取得税)が高いことを考慮してシミュレーションする必要があります。
「自分は贈与で得になるのか?」と迷った場合は、ぜひ税理士などの専門家に相談してみることをおすすめいたします。

おわりに:夫婦間でも贈与税がかかることはある。迷ったら税理士に相談を

生活を共にする夫婦は財産も共有しており、そこに受け渡しのやりとりがあったとしても贈与にはあたらないと考えている人は多いかもしれません。しかし原則として夫婦がそれぞれに管理している財産はそれぞれのものであり(「夫婦別財産」といいます)、一方が一方に財産を渡すと贈与に該当し、場合によっては贈与税を支払わなければなりません。

生活費や教育費など日々の暮らしに必要なお金は、社会通念に沿う限りは贈与税の課税対象とはなりません。お金以外の不動産や株に関しては贈与税の対象となりますが、居住用不動産の贈与であれば非課税枠の大きな特例も設定されています。この記事では、そうした夫婦間の財産のやりとりと贈与税の関係について解説いたしました。

「夫婦間の贈与についてもっと詳しく知りたい」「将来の節税のため贈与を検討しているが、どのくらいの金額が良いか分からない」という方もいることでしょう。その場合は、税の専門家である税理士に相談することをおすすめいたします。あなたに合った贈与のプランを一緒に考えてくれることでしょう。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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