相続の知識

自筆証書遺言とは?作成の要件や書き方、公正証書遺言との違いについて解説

遺言書には、「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」「公正証書遺言」の3種類があり、それぞれ作成方法や保存方法が異なります。
そのなかで一番シンプルなものが、自分で手書きをして作成する「自筆証書遺言」です。費用もかかりませんし、自分一人で作成できます。ただし、正しい書式で書かないと無効になるので、自分が望んだ相続ができなくなってしまいます。
そうならないためにも、この記事では「自筆証書遺言」の正しい書き方について詳しく学んでいきます。

自筆証書遺言とは? 3種類の遺言書の特徴を比較

一般に遺言書には、「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があります。それぞれの特徴を一口でいうと以下のとおりです。

  • ①自筆証書遺言は「遺言者が一人で作成する」
  • ②公正証書遺言は「遺言書の内容を公証人が証明する」
  • ③秘密証書遺言は「遺言書の存在のみ公証人が証明する」

②と③に出てくる公証人とは、公正証書の作成など法令で定められた業務を独占的に行う権限をもっている専門家で、国の公務である公証事務を担う公務員のことです。高い法律知識と豊富な法律実務経験を有し、中立・公正性が求められます。
原則として裁判官や検察官、法務局長などを長く務めた法律の専門家が法務大臣に任命され、全国の公証役場に配置されています。

①自筆証書遺言は「遺言者が一人で作成できる」

「自筆証書遺言」は、費用もかからずにすべて自分一人だけで作成できる、一番お手軽な遺言作成方法です。いつでもどこでも誰の立ち会いも要らずに書くことができます。

ただし、遺言書は法律で厳格にその書き方が定められています。その定められた書式に則っておらず、少しでも不備があると、たちまち無効となってしまうのです。

そのため、自筆証書遺言を作成する際には、遺言書や相続に関する法律についての正確な知識が必要です。
自筆証書遺言はその名称が表すとおり、すべてを自筆で記すことが基本的なルールです。誤字や脱字をそのままにしておくことも厳禁です。日付や相続人、財産の内容などがしっかり特定できるように記載し、文字の修正や訂正もルールに則って適切に実行することなどが挙げられます。
ただし、2019年1月に民法が改正され、財産目録だけはワープロやパソコンで書いたものが認められるようになっています。その場合でも、署名押印は必要となります。

②公正証書遺言は遺言書の内容を公証人が証明する

「公正証書遺言」とは、原則、公証役場で公証人と証人二人の立ち会いの下で作成する遺言のことをいいます。遺言者の死亡後、すぐに内容を執行することができます。

費用と手間がかかるというデメリットもありますが、公証人の関与の下で作成していきますので、不備が生じて無効になる心配がありません。

公正証書遺言について詳しくは下記の記事もご覧ください。

③秘密証書遺言は遺言書の存在のみ公証人が証明する

「秘密証書遺言」は、「公正証書遺言」と同じく公証役場で作成されます。ただし、遺言の内容は公証人にも明かされません。「自分の死後まで内容を秘密にしておきたい」方におすすめです。遺言内容を秘密にしたままでも、亡くなった後に相続人に発見されるようにするため、公証人に遺言書の存在を証明してもらうのです。

しかし、公証人に作成自体の関与はしてもらえないので、結局は自分の力で遺言を作成することになります。内容に不備があると無効になりかねないので、ルールに則って慎重に作成する必要があります。特殊な遺言なので、利用件数はごくわずかです。

自筆証書遺言の要件・書き方を5つのステップで解説!

「自筆証書遺言」には、どんな書き方のルールがあるのでしょうか。
作成の仕方は次の五つのステップに沿って行うとスムーズです。

  • ①財産目録をつくる! 法改正によりパソコンで作成も可
  • ②遺言書の本文を書く準備をする
  • ③遺言書に相続財産を正確に記載する
  • ④遺言書に相続人を明確に記載する
  • ⑤日付・署名を明記し、押印する

一つずつ詳しく見ていきます。

①財産目録をつくる | 法改正によりパソコンで作成も可

遺言書を作成する前に、自身の遺産がどの程度あり、どんなものがあるのかなどを正確に把握しておきましょう。仮に遺言書に書かれていない財産があったりすると、争いの元になります。遺族内で不毛な争いにならないためにも、初めにきちんと財産目録を作成します。

財産目録をつくる前に、「財産の価額」を確認できる以下の書類を用意しておきます。

  • 不動産がある場合には「登記簿謄本」「固定資産税評価証明書」など
  • 有価証券がある場合には「証券会社の残高証明書」など
  • 預貯金がある場合には、すべての「各銀行の残高証明書」「預金通帳」など

財産目録は、誰が見ても一目でわかるものにします。
借金などの負債も記録します。換金価値が高い書画や骨董、会員権なども財産目録に記録します。

「自筆証書遺言」はすべて自筆で手書きしなければなりませんが、2019年の民法改正により、財産目録の作成だけはワープロやパソコンの使用が認められるようになりました。
上記の土地や建物の固定資産税評価証明書や金融機関の残高証明書のコピーも、財産目録として使用できます。

②遺言書の本文を書く準備をする

財産目録はパソコン作成が認められるようになりましたが、「自筆証書遺言」の本文は、必ず遺言者自ら手書きして作成しなければいけません。代筆はもとより、たとえ本人のものであっても音声・映像なども全て無効です。

「自筆証書遺言」に使う用紙やペンにはとくに指定のものはなく、原則自由です。書き方は横書きでも縦書きでもどちらでも大丈夫です。
ただし、偽造や変造、改ざんを防止するためにも、破れやすい用紙や消すことができる鉛筆、シャープペンシルなどは避け、ボールペンなど消せない筆記用具を使用しましょう。最近人気の消せるボールペンも使わないようにします。

③遺言書に相続財産を正確に記載する

誰が見てもどの財産のことを指しているのかがすぐに把握できるように、「自筆証書遺言」には正確に細かく具体的に記載するようにしましょう。

たとえば、土地、不動産を複数所有している場合に、「Aに土地を相続する」というようにあいまいに記載したのでは、どの土地のことを指しているのか判断つかず、トラブルの元になります。
不動産は登記簿謄本どおりに正確に記載し、土地の場合には所在地、地番、地目、地積などまで詳細に記載します。預金なら金融機関の支店名、口座番号、預金の種類まで記載するようにしましょう。

最後に財産目録にも署名と押印を忘れずにしましょう。

④遺言書に相続人を明確に記載する

相続財産が確定したら、相続や遺贈する人の氏名は戸籍どおりに正確に書きます。また、続柄や生年月日なども明確に記載しましょう。
「お母さん」とか「娘」「息子」といったあいまいな表現はやめましょう。

⑤日付・署名を明記し、押印する

「自筆証書遺言」を作成した日付は必ず記載します。遺言書が複数あり、それぞれ日付が異なる場合は、新しい日付のものが効力をもちます。

書き方にとくに規定はありませんが、第三者が見ても特定できるように、「20○○年○月○日」「令和○年○月○日」と、西暦か年号で年月日をしっかり書くのが一般的です。
「○月吉日」というような書き方では無効になります。

遺言成立の年月日を書いたら、遺言者の住所氏名を書いて押印します。
夫婦共同など連名の署名はNGです。「遺言は二人以上の者が同一の証書で作成することはできない」と民法で規定されています。どうしても一緒につくりたい場合には、内容は同一のまま用紙を分けて単独の遺言書を作成するという方法もありますが、トラブルの元にもなりますので、注意が必要です。

印鑑についてはとくに決まりがありませんが、なるべくシャチハタや三文判は避けて実印で押印するようにしましょう。その時、一緒に印鑑証明書を付けて保管しておくと、裁判所の検認の手続きの時にスムーズになります。

「自筆証書遺言」を作成したら封筒に入れ、遺言書と明記しておきましょう。法的な規定はないので、封印がなくても無効にはなりませんが、改ざんを防ぐためにも未開封だということの証明として、念のため押印と同じ印鑑で封印しておくことをおすすめします。

記載例については法務省のホームページに掲載されています。こちらも参考に正しい遺言を作成しましょう。

参考:法務省ホームページ『自筆証書遺言書 様式等についての注意事項』

自筆証書遺言のメリット

「自筆証書遺言」は、誰でもいつでも作成することができる、遺言書です。

費用がかからないというメリットのほかにも、

  • ①遺言書の内容を何度でも修正できる
  • ②遺言書の内容・存在を秘密にできる

というメリットがあります。以下で、詳しく解説します。

①遺言書の内容を何度でも修正できる

「自筆証書遺言」は、公証人と証人2名を要する「公正証書遺言」と異なり、内容を変更したくなった時はいつでも簡単に変更できます。
新たに遺言を作成すれば、古い日付のものは無効になるのです。

遺言内容の一部だけを訂正・変更・削除したい場合には、該当箇所に二重線を引き、押印します。修正・訂正の仕方にも正しい方法がありますので、無効にならないように注意が必要です。

②遺言書の内容・存在を秘密にできる

「自筆証書遺言」は、「公正証書遺言」と異なり、遺言書の内容や存在を、相続人に秘密にしておくことが可能です。
封筒に入れて封印した遺言書に、「私の死後、未開封のまま家庭裁判所で検認を受けること」というように書いておくとベストです。

また、遺言書の保管場所は、紛失の心配がなく、発見されやすいところにしましょう。内容や存在を秘密にできるとはいえ、発見されないと執行もされません。

税理士などの専門家に保管を依頼することもおすすめです。

自筆証書遺言のデメリット

「自筆証書遺言」は誰でも作成できる遺言であるがゆえに、デメリットもあります。デメリットの主なものとしては、

  • ①無効となる可能性がある
  • ②家庭裁判所による検認が必要である

というものです。詳しく見ていきます。

①無効となる可能性がある

「自筆証書遺言」は、その書式に少しでも不備があると無効になります。また、書かれた時に遺言者が認知症と診断された場合にも、遺言は無効になります。

内容が自分にとって不満なものだった相続人が、「遺言書を書いた時に遺言者は認知症だった」といって遺言書の無効を訴えるケースも少なくありません。

②家庭裁判所による検認が必要である

「自筆証書遺言」を作成した後は、家庭裁判所にて遺言書の内容を確認する「検認」の手続きが必要になります。
検認を受けるには、遺言書を保管している人か遺言書を発見した人が、遺言者の最後の居住地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。
家庭裁判所は、遺言が偽造されていないかなどを確認します。

申し立てから検認には1~2カ月前後の期間を要します。

【2020年7月から】自筆証書遺言は法務局で保管可能に

2020年7月から、法務局が「自筆証書遺言」を保管する制度がスタートしました。偽造や紛失のリスクがなくなり、家庭裁判所の検認も不要になります。

参考:法務省ホームページ『自筆証書遺言書補完制度のご案内』

こうした改正によって、「自筆証書遺言」が使いやすくなりました。
相続財産の種類や額が多くなく、相続人が少ない場合は、自筆証書遺言を法務局にあずかってもらう方法でもよいでしょう。

しかしながら、内容によってはトラブルになることもあります。相続に詳しい専門家のアドバイスを受けるのをおすすめします。

おわりに:自筆証書遺言のメリットを理解し、作成するか検討しよう

「自筆証書遺言」は、費用もかからず、誰でもいつでも書けるというハードルが低い遺言ですが、その分、無効になるリスクも高いものです。
大事な家族が争ったりと余計なトラブルを避けたいなら「公正証書遺言」がおすすめですが、「自筆証書遺言」も法改正によってかなり使い勝手のよいものになってきています。
さまざまなリスクを減らすためにも、税理士などの専門家に相談してメリットやデメリットをきちんと理解したうえで、「自筆証書遺言」を作成するかを検討することをおすすめします。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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