「空き家問題」とは? 日本の現状や発生する原因、対策について解説
Tweet親の住んでいた家を相続したものの、住むことなく放置しているという人も少なくありません。そうして放置された多くの空き家が、さまざまな問題を各地で引き起こしています。これが「空き家問題」です。
本記事では、空き家があると所有者や周辺地域が具体的にどう困るか、また空き家問題はどのように解決すればよいのかを、詳しく解説します。
目次
空き家問題とは?
空き家問題とは、放置された空き家が招くさまざまな問題のことです。これは、日本社会が直面している重要な課題のひとつとされています。
「空き家」の定義は、空き家等対策の推進に関する特別措置法に定められています。
建築物又はこれに附属する工作物であって居住その他の使用がなされていないことが常態であるもの及びその敷地(立木その他の土地に定着する物を含む。第十四条第二項において同じ。)をいう。ただし、国又は地方公共団体が所有し、又は管理するものを除く。
e-GOV|空家等対策の推進に関する特別措置法 第2条第1項
また、一般的に空き家は以下の四つに分けることができます。
- 不動産会社が管理する売却用の空き家
- 不動産会社が管理する賃貸用の空き家
- 所有者が管理する別荘などの空き家
- 所有者が管理するその他の空き家
このうち、前述した問題を引き起こすとされているのは「所有者が管理するその他の空き家」です。
空き家問題の現状
近年、空き家問題は深刻化しています。これを示すデータが、過去30年間における空き家数の著しい増加です。
総務省統計局が発表した「令和5年住宅・土地統計調査」によると、1993年~2023年の30年間で、空き家数はほぼ二倍に増加しました。また、2023年の調査では、空き家数が過去最多の約900万2,000戸に達し、空き家率は13.8%となっています。
総務省|令和5年住宅・土地統計調査 住宅及び世帯に関する基本集計(確報集計)結果 (2ページ参照)
空き家問題が起きる主な原因
空き家問題の主な原因としては、次の二点が挙げられます。
- 少子高齢化による需給バランスの変化
- 空き家相続後の放置
少子高齢化
少子高齢化が空き家問題につながる理由としては、まず需給バランスの変動です。人口減少に伴い、総世帯数を上回る住宅のストック数が存在しています。住宅需要が低下しているにもかかわらず新築住宅の供給が続いた結果、総住宅数が総世帯数を大幅に上回る状況が発生しているわけです。
また、高齢化の進行も空き家増加に直接的な影響を与えています。高齢者が高齢者住宅や子供の家に転居することで、元の住居が空き家となるケースです。また、高齢者が亡くなり、空き家となることもあります。
相続後の放置
相続後の放置も、空き家問題の重要な原因のひとつです。多くの場合、空き家は以下のようなプロセスで発生します。
- 地方に住む親が亡くなる
- 都心などに住む子供が住宅を相続する
- すでに別の場所に生活基盤がある子供は、相続した家に住まない
- 相続した家が管理されずに放置され、空き家となる
この状況は、特に地方から都市部への人口流出が進んだ地域で顕著に見られます。
住みも貸しもしない家を所有者が解体しない理由には、税制上の問題が挙げられます。すなわち、住宅用地の場合、以下のような固定資産税の特例措置が認められているからです。
- 小規模住宅用地(200㎡以下)の場合、課税標準が1/6に減額
- 一般住宅用地(200㎡超)の場合、課税標準が1/3に減額
建物を解体すると特例が適用されなくなり、固定資産税が大幅に上昇します。そのため、所有者は経済的な理由から、使用していない建物でも解体を躊躇し、放置する傾向があります。
空き家問題が引き起こす悪影響
空き家が問題となるのは、それが所有者や周辺地域に悪影響をもたらすからです。具体的な悪影響には、次の三点が挙げられます。
- 治安悪化のリスク増加
- 衛生・安全面でのリスク増加
- 地域全体の不動産価値が低下してしまうリスクの増加
治安の悪化
空き家の存在は、地域の治安にさまざまな悪影響を及ぼしかねません。たとえば、不審者の不法侵入です。住人のいない空き家は不法侵入の標的になりやすく、ホームレスや不法滞在者などが住み着く可能性があります。空き家が犯罪者の隠れ家や違法活動の拠点として利用されるケースもあるので注意が必要です。
また、放火のリスクも見逃せません。管理されていない空き家は放火犯の標的になりやすく、放火されると近隣の住宅へも延焼する危険性があります。
衛生・安全面でのリスク
空き家は衛生上の問題を引き起こす可能性があります。代表的なのは、不法投棄の温床になることです。管理されていない空き家の敷地は、不法投棄の場所として利用されやすく、投棄されたごみは悪臭や有害物質の発生源となります。
ゴキブリなどの害虫が繁殖したり、野良猫や野良犬、ねずみといった動物が住み着いたりする可能性もあります。こうした害虫・害獣の増加はさまざまな感染症の拡大リスクも高めます。
また、安全面においても、空き家は多くの問題を引き起こす可能性があります。とりわけ気を付けたいのが、建物の老朽化と倒壊リスクです。適切なメンテナンスがされない空き家は、時間とともに老朽化し、倒壊して近隣住民や通行人に危険を及ぼす恐れがあります。近年増加している台風や地震などの自然災害時には、そのような老朽化した空き家ほど倒壊しやすくなるため、対策が欠かせません。
不動産価値の低下
そもそも不動産の価値は、築年数を経るごとに低下してゆくものです。とりわけ、管理されていない空き家ならば、拍車をかけて資産価値が下がることはいうまでもありません。時間経過による価値低下に加え、外壁などの見た目や設備の劣化も評価のマイナス要因となるためです。
また、空き家の多い地域は、地域全体としての不動産価値が低下する傾向にあります。空き家には先述したさまざまなリスクがあるためです。周辺環境が悪化すると住宅地としての魅力も減少し、地域全体の不動産価値が低下します。それに連動して、空き家の不動産価値も低下するという悪循環です。
空き家問題への政府の対策:「管理不全空家」に対する措置が新設
2023年に「空家等対策の推進に関する特別措置法」が改正され、空き家問題への対策が強化されました。この改正の主要なポイントは、「空家等対策特別措置法」の対象である、行政の撤去可能な「特定空家等」になる前段階で、行政が介入できるようになったことです。
改正法では、「管理不全空家」という新たな区分が設けられました。これは、特定空家等になる恐れのある空き家を事前に認定し、早期段階での対策を可能にするものです。この法律により、行政は「管理不全空家」と認定された空き家の所有者に対して改善を促せるようになりました。また、勧告を受けた管理不全空家は特定空家と同様、敷地に係る固定資産税などの軽減措置が適用されなくなりました。
この新制度には以下のような意義があります。
- 予防的アプローチ:問題が深刻化する前に対策を講じることができる
- 段階的な対応:所有者に改善の機会を与えつつ、必要に応じて強制力を持つ措置を取れる
- 経済的インセンティブ:税制優遇の取り消しが、所有者に適切な管理を促す動機付けとなる
- 地域環境の保全:空き家の管理不全状態の長期化を防ぎ、地域の生活環境を守ることができる
特定空家等の発生を早期に予防し、地域の安全と生活環境の維持向上につながることが期待されています。
個人でできる空き家問題の解決策
空き家問題には、政府だけでなく個人でも対応が可能です。たとえば、以下のような方法があります。
- 空き家になりそうな家がある場合は早めに相続対策をする
- 相続した後は早めに売却する
- 資産価値がない場合は解体する
家族と話し合う等、早めに相続対策・遺言作成をおこなう
早めの相続対策・遺言作成は、個人レベルでできる重要な対策のひとつです。将来的な空き家の発生を予防し、適切な管理を確保できます。特に、家族間で早期に話し合いをおこない、誰が家屋を相続し、管理するかを明確にすることが大切です。
また、早めの対策により、固定資産税や維持費などの将来的な負担を踏まえた財政計画を立てられます。これは経済的理由による空き家放置の予防につながります。
すでに相続後であれば、3年以内に売却する
相続後は3年以内に売却しましょう。空き家を適切に処分できるだけでなく、税制上の優遇措置も受けられるからです。
前述したように、空き家は時間の経過とともに資産価値が低下するため、相続後早期であれば、比較的高い資産価値を維持したまま売却できる可能性が高まります。空き家の維持にかかる固定資産税や修繕費などのコストも削減できます。
また、相続後3年以内であれば「空き家に係る譲渡所得の3,000万円特別控除」を利用できる可能性があります。この特例は、耐震性などの一定要件を満たしていれば、譲渡所得から最大3,000万円を控除できるという制度です。これにより、売却時の税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
そのほかの対策については、以下の記事を参考にしてください。
相続土地国庫帰属制度を活用する
相続した空き家に資産価値がない場合は、解体してしまうのがおすすめです。解体後の更地は、売却したり駐車場にしたりといった有効活用が可能です。地域の需要や立地条件に応じて、最適な活用方法を検討しましょう。
そうした管理も大変という場合には、「相続土地国庫帰属制度」を利用して土地を国に寄付できます。ただし、この制度には適用条件や審査があります。また、あらかじめ費用も用意しなければなりません。そこで、司法書士や弁護士といった専門家に相談し、申請書類の作成を依頼するのがおすすめです。
詳しくは以下の記事をご覧ください。
放置されたままの空き家には、防犯や安全、衛生面などでさまざまなリスクがあります。また、空き家になると建物の資産価値が下がるだけでなく、周辺地域一帯の価値も低下させてしまうため注意しましょう。空き家問題を解決するためには、空き家の早期売却や解体、国庫への寄付といった対策を取る必要があります。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表