生前贈与で相続税を減らすには?実践できる対策の流れを紹介
Tweet生前贈与は、相続税を減らす方法として知られています。しかし「贈与はいくらまでが非課税なのか?」「生前贈与は相続税の対象になる?」といった疑問を持つ方も少なくありません。本記事では、相続税対策として生前贈与を実行するための流れをステップごとに解説します。
【基礎知識】相続税対策について正しく理解しましょう

生前贈与で相続税を減らすためには、まず相続税の仕組みや課税対象となる財産を正しく理解するのが重要です。基礎知識として押さえておきたいのは、以下のポイントです。
- 早めに贈与を開始する
- 複数人に分けて贈与する
- 収益を生む財産を贈与する
- 値上がりする財産を贈与する
早めに贈与を開始する
生前贈与は、できるだけ早く始めるほど節税効果が高まります。暦年課税と相続時精算課税どちらの課税方式でも、年間110万円まで非課税枠(基礎控除)が設けられているため、長い期間にわたって贈与を続ければ、非課税で移転できる金額を大きく増やせます。
暦年課税では、相続開始前に行った贈与財産が相続財産に加算されます。現在は「3年以内」が対象ですが、2027年から段階的に延長され、2031年以降は「7年以内」が対象となる予定です。したがって、早めに贈与を開始しておくことで、加算対象となるリスクを抑えられます。
国税庁「No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
複数人に贈与する
贈与税の非課税枠は受贈者ごとに適用されるため、複数人に分けて贈与すると効果的です。例えば、子1人に贈与するよりも、子や孫など複数人に年間110万円ずつ贈与すれば、より多くの財産を非課税で移転できます。相続財産全体をバランスよく減らし、将来の相続人の税負担を軽減しましょう。
収益を生む財産を贈与する
生前贈与では、賃貸用不動産や株式など、継続的に収益を生む財産を先に移転するのもおすすめです。贈与後に発生する家賃収入や配当金は、受贈者の財産となるため、贈与者の相続財産が増えるのを防げます。結果的に、将来的に課税対象となる財産の総額を抑え、効率よく相続税を軽減できます。
値上がりする財産を贈与する
未公開株式や土地など、将来的に価値が上がると予想される財産は、評価額が低いうちに贈与するのが重要です。贈与税は、贈与時点の評価額を基準に計算されるため、値上がり前に贈与すれば税負担を抑えられます。
さらに贈与後にその財産が値上がりしても、その増加分は贈与者の相続税の対象にはなりません。そのため、長期的に大きな節税効果が期待できます。
生前贈与で相続税を減らす際の具体的な流れ

生前贈与を活用して相続税を軽減するには、やみくもに贈与するのではなく、以下のようなステップを踏むのが重要です。
STEP1.生前贈与する額を決定する
STEP2.生前贈与の課税方式を決める
STEP3.贈与契約書を作成する
STEP4.贈与を開始する
STEP5.贈与税の申告・納税を行う(受贈者側)
生前贈与と相続税について詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください。
以下では、どのような流れで進めればよいのか、実践的な内容を解説します。
STEP1.生前贈与する額を決定する
生前贈与を進めるうえで重要なのが「贈与する金額の設定」です。相続税の軽減を意識するあまり、必要以上に大きな額を贈与すると、将来の生活に必要な資金が不足するリスクがあります。まずは、自身のライフプランを見据え、無理のない範囲で贈与額を決定しましょう。
具体的には、老後の生活費や医療費、介護費用など将来発生する可能性の高い支出を十分に見込んだうえで、余裕資金の範囲から贈与額を設定します。年金収入や退職金、不動産収入などの見込みを計算に入れつつ、「毎年どの程度なら贈与しても生活に支障がないか」をシミュレーションしてください。
一度に大きな額を贈与するよりも、継続的に少しずつ行うほうが、節税効果が高まります。反対に、一度に大きな贈与を行うと、贈与税の負担が重くなる可能性があるため注意が必要です。
贈与する額の設定は、税務の知識や将来設計に関わるため、専門家に相談するのがおすすめです。税理士にシミュレーションを依頼すれば、安心して無理のない贈与計画を立てられます。
STEP2.生前贈与の課税方式を決める
生前贈与を行う際は、「暦年課税」「相続時精算課税」のいずれかを選ぶ必要があります。
暦年課税は、年間110万円の非課税枠を活用できる制度です。少額をコツコツと長期間にわたって贈与していく場合に適しており、計画的に進めれば大きな節税効果を期待できます。一方で、110万円を超えると贈与税が課されるため、毎年の贈与額を調整する必要があります。
相続時精算課税は、最大2,500万円まで贈与税が非課税となる特別控除枠を活用できる制度です。本制度を利用する場合は相続時精算課税選択届出書の提出が必要です。まとまった資金を一度に贈与したい場合や、不動産や株式といった価値が上昇する可能性のある資産を早めに移転したい場合に有効です。令和5年度税制改正により、本制度でも年間110万円以下の贈与は贈与税申告が不要になりました。ただし、この方式を選択すると暦年課税に戻せません。
それぞれの制度にメリット・デメリットがあるため、贈与額や贈与する財産の種類、将来の相続状況を踏まえて選択してください。
STEP3.贈与契約書を作成する
贈与契約書は、生前贈与で用いる基本的な書類です。口頭での約束だけでは贈与の事実を証明するのが難しく、税務調査の際に否認されるリスクがあります。誰から誰に、どの財産を、どのような条件で贈与したのかを明確に記録しましょう。
契約書を作成し、贈与者と受贈者の双方が署名・捺印すれば、形式的にも贈与が成立していると示せます。契約書は2通作成し、贈与者と受贈者が1通ずつ保管することが望ましいです。これにより、改ざんや紛失を避け、将来の相続人間のトラブルも防止できます。
STEP4.贈与を開始する
贈与契約書に書かれている日時や方法にしたがって贈与を実行します。贈与された財産は必ず受贈者本人が管理し、自由に使用できる状態にしてください。贈与者が管理していると、名義を変えただけで実質上贈与していないとみなされる可能性があります。
複数年にわたって贈与する場合、定期贈与とみなされないよう、金額や時期を変えるなどの配慮が必要です。具体的な注意点は後述します。
STEP5.贈与税の申告・納税を行う
ここからは受贈者のステップになりますが、最後に贈与税の申告・納税を行います。申告は、贈与を受けた年の翌年3月15日までに、管轄の税務署で行わなければなりません。
ただし贈与税には年間110万円までの基礎控除が設けられており、その範囲内であれば申告は不要です。
110万円を超える贈与を受けた場合や、以下で説明する特例を利用する場合は、申告が必要になります。
生前贈与で節税対策する際のポイント:特例・制度を活用する

節税のために生前贈与を進めるうえで重要なのは、贈与税の非課税枠や特例を賢く利用することです。制度を活用すれば、贈与者・受贈者双方の負担を軽減し、より効率的に財産を移転できます。代表的な制度は、以下の4つです。
- 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与):婚姻期間20年以上の夫婦間で利用でき、居住用不動産など最大2,000万円まで非課税
- 住宅取得等資金の贈与の特例:子や孫が住宅購入のために資金援助を受ける場合、最大1,000万円まで非課税
- 結婚・子育て資金の一括贈与:50歳未満の子や孫に、結婚・子育てに必要な資金を贈与でき、1人最大1,000万円まで非課税
- 教育資金の一括贈与:教育にかかる費用を支援できる制度で、1人最大1,500万円まで非課税
それぞれの制度・特例を詳しく解説します。
贈与税の配偶者控除(おしどり贈与)
「おしどり贈与」と呼ばれる贈与税の配偶者控除は、婚姻期間が20年以上の夫婦間で、居住用不動産またはその取得資金を贈与する際に利用できる特例です。最大2,000万円まで非課税となり、さらに暦年贈与の年間110万円の非課税枠とは別枠で利用できます。
配偶者への生活基盤の安定を図りつつ、節税効果も期待できるのがメリットです。ただし贈与された不動産は、将来受贈者が亡くなった際には相続税が課税されるため、全体の相続対策の一環として計画的に活用するのが重要です。
国税庁「No.4452 夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除」
住宅取得等資金の贈与の特例
子や孫が自宅を新築・購入、または増改築をする際に、直系尊属(親や祖父母)から援助を受ける場合に適用されるのが、住宅取得等資金の贈与特例です。省エネ性能など一定の基準を満たす住宅であれば1,000万円、一般住宅であれば500万円まで非課税となります。
さらに暦年課税の基礎控除と併用可能なため、非課税で贈与できる金額を増やせる点もメリットです。住宅取得はまとまった資金が必要になるため、親世代が子世代の住環境を整えると同時に、相続税対策としても効果的に活用できます。
国税庁「No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税」
結婚・子育て資金の一括贈与
結婚や子育てにかかる費用を支援するための制度として、「結婚・子育て資金の一括贈与」があります。50歳未満の子や孫に対して、結婚費用や子育て費用を目的に直系尊属が資金を贈与する場合、子・孫1人あたり最大1,000万円まで非課税となります(結婚費用は300万円まで)。令和7年度税制改正により適用期限が2027年3月31日まで延長されました。
制度を利用するには、金融機関と結婚・子育て資金管理契約を締結しなければなりません。用途も限定されますが、多額の資産を効率的に移転できます。ライフイベントに合わせた支援を行いつつ、相続税対策にもつながる制度です。
教育資金の一括贈与
教育資金の一括贈与は、30歳未満の子や孫に対して教育費用を目的に贈与する際に利用できる特例です。子や孫1人あたり1,500万円まで非課税となります。対象となる費用は幅広く、入学金や授業料だけでなく、通学定期代、塾や習い事の費用も含まれます。なお、適用期限は2026年3月31日です(2025年9月時点)。
こちらの制度も金融機関との教育資金管理契約が必須となりますが、教育にかかる資金を一度に支援できる点は大きな魅力です。早めに活用すれば、贈与者にとっては相続財産の圧縮となり、受贈者にとっては経済的な負担軽減となります。
国税庁「No.4510 直系尊属から教育資金の一括贈与を受けた場合の非課税」
生前贈与で相続税を減らす際の注意点

生前贈与に関して、正しい手続きを踏まずに実行すると「名義預金」や「定期贈与」とみなされ、想定以上に税負担が増えたり、相続人同士のトラブルを招いたりする可能性があります。注意点は、以下の通りです。
- 名義預金と判断されないように、受贈者が財産を管理する
- 定期贈与とみなされないように、金額や時期を工夫する
- 特別受益による相続トラブルを防ぐための準備をしておく
それぞれのポイントを解説します。
名義預金にならないようにする
生前贈与において特に注意が必要なのが「名義預金」と判断されるケースです。例えば子ども名義の口座に資金を移しても、贈与者が通帳や印鑑を管理している場合、その預金は「実質的に贈与されていない」とされてしまいます。名義預金になるのを防ぐためには、贈与後に受贈者本人が通帳やキャッシュカードを管理し、自由にお金を引き出したり使ったりできる状態にする必要があります。
定期贈与とみなされないようにする
毎年同じ金額を同じ時期に贈与すると、税務署から「最初から一括贈与の約束があった」とみなされる場合があります。そうなれば「定期贈与」と判断され、数年分の贈与の合計額に対して課税されることになり、節税効果が失われてしまいます。定期贈与にならないようにするには、毎年の贈与額や時期を少しずつ変えたり、贈与のたびに贈与契約書を作成したり、財産の種類を工夫したりするのが効果的です。
特別受益のトラブル対策をする
生前贈与は、相続人間の公平性にも配慮する必要があります。特定の子や孫にだけ多額の贈与を行うと、他の相続人が「特別受益」にあたると主張し、生前贈与した財産を含めて遺産分割することになるかもしれません。
トラブルを防ぐには、遺言書の中で「特別受益の持ち戻し免除の意思表示」をしておくのが有効です。また、遺言書に生前贈与の意図や、他の相続人への配慮も記載して、理解を得るようにします。
加えて、生前に自分の意思を説明し、相続人全員の同意を得ておくと、さらに効果が期待できます。
生前贈与は、相続税を減らすために有効な手段であり、早めに取り組むほど効果が大きくなります。暦年課税や相続時精算課税の活用、非課税制度や特例の組み合わせによって、計画的に財産を移転すれば、相続税の大幅な節税が可能です。
一方で、名義預金や定期贈与、特別受益による相続トラブルなど注意すべき落とし穴も少なくありません。生前贈与を実践する際は、税務上のルールを正しく理解しつつ、贈与契約書の作成や受贈者との意思確認なども重要です。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
