生前贈与のやり方とは?基本的な流れや注意点について解説
Tweet生前贈与は、将来の相続に備え、財産を次世代へスムーズに承継するための有効な手段です。しかし、適切な手続きを踏まなければ、思わぬ税負担や親族間のトラブルを招く可能性があります。本記事では、生前贈与を確実に行い、不要な問題を避けるための基本的な流れを解説します。「誰に」「何を」「なぜ」贈与するのかを明確にすることから、受贈者との合意、契約書の作成、財産の移転、さらには税務申告までを、段階的にわかりやすく紹介します。
目次
生前贈与のやり方とは
生前贈与を適切に行ってトラブルを避けるためには、段階的に手続きを進める必要があります。生前贈与の基本的な流れを、以下の5つのステップに分けて解説します。
- 誰に何を贈与するか、目的を明確にする
- 受贈者の合意を得る
- 贈与契約書を作成する
- 財産を受贈者へ移転する
- 必要に応じて贈与税の申告・納税を行う
1.誰に何を贈与するのか目的などを洗い出す
生前贈与を検討する際は、まず贈与する相手、贈与する財産、贈与の目的を明確にすることが重要です。贈与の内容と目的を具体化することが、活用できる控除や特例の適否を判断し、最適な贈与方法を選択する助けになります。
贈与の目的が教育資金や住宅取得資金などの場合、必要条件を満たしていれば非課税特例を利用できます。これらの制度は要件が細かく、特定の書類や申告が必要になることもあるため、事前の内容把握が求められます。
さらに、贈与する財産の種類や相手の属性(配偶者や子、相続人以外の人など)によっては、将来の相続税対策にも影響します。節税効果を高めたい場合は、贈与の時期や受贈者(贈与される人)の選定も慎重に検討する必要があります。
2.受贈者から合意を取る
生前贈与は、贈与者の意思だけでなく、贈与される側=受贈者の合意があって初めて成立する契約行為です。合意を得るには、贈与の内容や時期、意図を明確に伝え、受贈者がその意味を正しく理解できるよう丁寧に話し合う必要があります。贈与による税務や生活への影響を把握したうえで納得してもらうことが重要です。
合意形成を軽視すると、将来的に親族間のトラブルや税務署との認識の相違につながる可能性があります。受贈者が贈与の事実を知らなかったり、贈与された財産を自分で管理していなかったりすると、当人の財産とは言えず、贈与は成立していないことになります。税務署から贈与と認められるためには、受贈者がもらった財産を認識し自由に使える状態である必要があります。
3.贈与契約書を作成し締結する
贈与契約を確実に成立させるには、贈与契約書を作成して贈与者と受贈者双方が署名、捺印することが必要です。贈与契約は口頭でも成立しますが、書面を交わすことで贈与の合意内容が明確になり、後日のトラブルを防ぐ効果があります。
契約書には、贈与する財産の内容、贈与の日付、贈与の方法、必要に応じて条件などを記載し、贈与の事実を証明できる形に整えましょう。契約書の形式に特に決まりはありませんが、公証役場で確定日付を取得しておけば、契約の存在や日付を公的に証明でき、信頼性が高まります。なお毎年繰り返す贈与を定期贈与とみなされたくない場合は、贈与税の基礎控除内であっても、都度贈与契約書を作成・保管することが重要です。
金銭贈与の場合の契約書
金銭を贈与する場合は、贈与契約書に贈与金額、方法、日付(契約締結日と贈与日)などを明記することが重要です。契約書の作成は、贈与の事実を明確にし、税務申告や調査時の証拠となります。振込によって贈与する際は、受贈者の氏名、銀行名、支店名、口座番号などの振込先情報を契約書に記載し、実際の振込履歴とあわせて贈与の証拠とすることが効果的です。加えて、契約書には贈与者と受贈者の署名・押印を必ず行い、双方の合意を明確に示すことが重要です。
不動産贈与の場合の契約書
不動産を贈与する際の契約書には、不動産の所在地、地番など登記事項証明書通りの内容を正確に記載する必要があります。登記簿上の情報と一致しない場合、所有権移転登記が受理されない可能性があるため注意が必要です。
あわせて、所有権移転登記の手続きをどのように行うか、必要書類や申請時期などを契約書に明記しておくと手続きが円滑に進みます。不動産贈与では各種税金が発生するため、適切な手続きを進めるための準備もしておく必要があります。司法書士や税理士などの専門家に相談すると安心です。
暦年贈与の場合は毎年贈与契約書
暦年贈与は、毎年一定額以下の金銭などを贈与することで贈与税の非課税枠を活用する方法で、この場合は贈与のたびに契約書を作成しておくことが重要です。契約書には、贈与の日付、金額、受贈者の氏名などを明記し、贈与者と受贈者の双方が署名捺印して保管します。贈与のたびに契約書を作成することで、定期的な贈与ではなく、その都度の独立した贈与であることを証明できます。
贈与の事実を裏付けるために、銀行振込など履歴が残る方法で金銭を移動させることも有効です。加えて、税務署からの指摘に備えて、贈与契約書の写しや振込明細などを保管しておくと、より安心です。
4.贈与する財産を受贈者へと移す
贈与契約に基づき財産を受贈者に移転する際は、財産の種類に応じて適切な手続きを行う必要があります。ここでは、財産が現金の場合と、不動産の場合とに分けて解説します。
現金の場合
現金を贈与する際は、手渡しや銀行振込などの方法で行いますが、証拠を残すという観点からは銀行振込が望ましい方法とされています。振込による贈与では、振込明細や通帳の記録といった振込履歴を保管しておくことで、贈与の事実を後から証明しやすくなります。贈与契約書と振込履歴をあわせて保管しておくことで、税務調査などにおいても有効な証拠となります。
不動産の場合
不動産を贈与する場合は、法務局で所有権移転登記の手続きを行う必要があります。登記には以下のような書類が必要となります。
- 登記申請書
- 登記識別情報
- 登記原因証明情報(贈与契約書の写し)
- 贈与者の印鑑証明書
- 受贈者の住民票の写し(マイナンバーを記載する場合は不要)
- 収入印紙
申請は原則として当事者双方が共同で行いますが、委任状があればどちらか一方での申請も可能です。手続きに不安がある場合は、司法書士に依頼することで正確かつ確実に進めることができます。あわせて、不動産の評価額によっては贈与税が高額になる場合もあるため、事前に税額を確認しておくことが重要です。
5.状況に応じて納税を行う
贈与を受けた財産の年間の合計額が、基礎控除額である110万円を超える場合、受贈者は贈与税の申告と納税を行う必要があります。この基礎控除額は、1年間に複数の人から贈与を受けた場合でも合計して判定されるため、受贈者が金額を正確に把握しておくことが大切です。
贈与税の申告期間は、贈与を受けた翌年の2月1日から3月15日までであり、期限内に税務署へ必要書類を提出しなければなりません。申告方法としては、税務署への持参のほか、e-Taxや郵送による提出も可能です。申告を怠った場合には、無申告加算税や延滞税が課される可能性があるため、期限内の手続きが重要です。
国税庁|【贈与税の申告等】Q29 贈与税の申告をする必要がある人は、どのような人ですか。生前贈与を上手に活用する方法
生前贈与を効果的に活用するためには、財産の種類や贈与方法、税務手続きに関する基本的な理解が欠かせません。生前贈与を上手に活用する方法には以下のようなものがあります。
- 暦年贈与を活用して税負担を抑える
- 値上がりする財産を早めに贈与して評価額を抑える
- 複数人に贈与し、非課税枠を効率的に活用する
- 各種の贈与税控除や特例制度を活用する
暦年贈与を活用する
暦年贈与は、年間110万円までの贈与が非課税となる制度を用いた贈与であり、計画的に活用することで相続財産の圧縮が期待できます。少額を毎年継続的に贈与することで、長期的に贈与税の負担を抑えながら資産を移転することが可能です。贈与契約書の作成や銀行振込による記録は、贈与の事実を明確にし、定期贈与や名義預金との誤認を防ぎます。贈与の時期や受贈者の状況も考慮しながら、ライフプランに応じた贈与計画を立てることが効果的です。
値上がりする財産は早めに贈与する
将来的に価値が上昇すると見込まれる財産は、早めに贈与することで相続時の評価額を抑えられる可能性があります。不動産や株式、自社株などは、値上がりが予想される財産の代表例です。贈与税は贈与時点の時価をもとに計算されるため、将来高騰する前に贈与を行えば、税負担を抑えることができます。特に、自社株などは企業の成長によって評価額が大きく変動することがあるため、早期の贈与が効果的です。
資産の評価は贈与のタイミングによって大きく異なるため、贈与の時期を見極め、将来の相続税とのバランスを考慮することが重要です。必要に応じて税理士などの専門家に相談し、節税効果の高い贈与計画を立てることが推奨されます。
複数人に贈与する
複数人に贈与を行うことで、1人あたりの贈与額を抑えつつ、贈与税の非課税枠(年間110万円)を効率的に活用可能です。受贈者ごとに非課税枠が適用されるため、同じ金額を複数人に分散して贈与すれば、総額の節税効果が期待できます。この方法は相続時の遺産分割対策としても有効であり、あらかじめ公平に財産を分けておくことで、相続人間のトラブルを未然に防ぐ助けになります。
ただし、特定の人物に偏った贈与が続くと、他の親族に不公平感を与えたり、特別受益とみなされたりするおそれがあるため、関係性や将来の相続への影響を十分に考慮する必要があります。
贈与税の負担を軽減する制度を活用する
贈与税の負担を軽減するためには、各種の贈与税控除や特例制度を適切に活用することが重要です。代表的なものとして、相続時精算課税制度や住宅取得等資金の贈与特例などがあり、条件を満たせば大きな非課税枠を利用できます。
これらの制度は、贈与者や受贈者の年齢、贈与の目的や使途などに応じて適用要件が細かく定められており、内容を正確に理解しないまま利用すると意図しない課税対象となる可能性があります。そのため、制度の選択や申告にあたっては、税理士などの専門家に相談し、自身の状況に合った制度を選択することが望ましいです。税理士は制度の適用可否や節税効果を見極めながら、適正な申告までをサポートします。
生前贈与を自分で行う場合の注意点
生前贈与を自分で行う際は、不適切な手続きによる税務上の不利益や親族間のトラブルに注意が必要です。
- 名義預金とみなされないように預金口座を適切に管理する
- 自身の老後資金や介護費用の資金不足に注意する
- 遺留分侵害額請求を受けることのない贈与額を決定する
- 相続開始前7年以内の持ち戻し期間を考慮する
名義預金に注意する
名義預金とは、預金口座の名義が配偶者や子どもなどであっても、実質的に贈与者が管理・運用していると判断される預金のことを指します。税務署から贈与が成立していないとみなされた場合、名義預金は相続財産として相続税の課税対象になる可能性があります。
例えば、子の名義で預金口座を作って、その口座にお金を振り込んで贈与したつもりでいたものの、贈与者がその口座の通帳を保管しているケースです。このようなリスクを回避するためには、贈与契約書を作成し、贈与の事実を明確に証明できるようにすることが重要です。また、受贈者が預金通帳や印鑑を管理していることも、贈与の事実を示す有力な根拠となります。
老後資金に注意する
生前贈与を行う際は、自身の老後の生活に必要な資金を確保したうえで適正額の贈与をすることが重要です。贈与により生活が困窮する事態を避けるためにも、慎重に計画を立てる必要があります。まず、将来の収入や支出を見込んだうえで、贈与額を決定しましょう。特に、医療費や介護費用といった支出が増加する可能性があるため、無理のない贈与額に留めることが重要です。
長寿化が進む現代においては、想定以上の生活費が必要になるケースも珍しくありません。将来の生活資金不足を防ぐため、税理士やファイナンシャルプランナーといった専門家に相談することをおすすめします。
遺留分侵害額請求に注意する
生前贈与を行う際には、特定の相続人の遺留分を侵害しないように注意する必要があります。遺留分とは、法律で保障された相続人の最低限の取り分を指します。贈与が遺留分を侵害する場合、侵害された相続人から遺留分侵害額請求を受ける可能性があります。
特に、多額の贈与や不動産の贈与を行う場合には、遺留分侵害のリスクが高まる点に注意が必要です。そのため、贈与を行う際には、遺留分を確保することを考慮して計画を立てることが重要です。もし不安があれば、事前に専門家に相談し、贈与額や贈与方法を適切に決定することが推奨されます。
持ち戻し期間に注意する
相続開始(贈与を行った人が亡くなる)前の一定期間内に行われた生前贈与は、相続財産に加算されて相続税が計算される場合があります。この加算が行われる、亡くなる直前の一定期間を「持ち戻し期間」、この仕組み自体を「生前贈与加算」と呼び、贈与された財産が相続財産として扱われることになります。
2023年度の税制改正により、2024年1月1日以降の生前贈与分の持ち戻し期間が3年から7年に段階的に延長されます。2026年12月31日までに亡くなった場合は持ち戻し期間は従来通り3年ですが、2027年1月1日から2030年12月31日の間に亡くなった場合は2024年1月1日以降の贈与分が相続財産に加算、2031年1月1日以降に亡くなった場合は新制度に完全移行し、死亡前7年以内に行われた贈与がすべて相続財産に持ち戻し加算の対象となります。
なお生前贈与加算の対象期間のうち相続開始7年前から4年前までの贈与については、(延長された期間内で)合計100万円の控除が認められていますが、それを超える部分は相続財産に加算されます。
生前贈与を計画する際には、この持ち戻し期間を考慮し、必要に応じて税理士などの専門家に相談することが重要です。適切なタイミングで贈与を行うことで、課税リスクを回避できる可能性が高まります。
生前贈与をご検討中ならレガシィまでご相談ください
生前贈与は相続税の節税対策として効果的な手段のひとつです。しかし、最大限の効果を得るためには、贈与税の基礎控除制度や生前贈与加算の持ち戻し期間などを理解したうえで計画を立てる必要があります。
専門家のアドバイスを受けることで、ご家族の状況に合わせた最適な贈与計画を立てることができます。相続税対策としての生前贈与をお考えの際は、税理士などの専門家に相談されることをおすすめします。相続専門税理士法人のレガシィでは、お客様の状況に合わせたアドバイスを提供しております。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表