相続の知識

敵対的買収(同意なき買収)は悪いのか?メリットや友好的買収との違いを解説

敵対的買収(同意なき買収)とは、企業の経営陣の同意を得ずに、外部の第三者がその企業の支配権を取得しようとする買収行為です。一般には「望ましくないもの」と捉えられがちですが、果たしてそれは本当に悪いことなのでしょうか。

本記事では、敵対的買収の仕組みや目的、友好的買収との違い、メリット・デメリットについて解説します。

敵対的買収(同意なき買収)とは

企業の経営陣の意向に反して進められる「敵対的買収(同意なき買収)」は、企業の支配権をめぐる戦略のひとつです。ここでは、敵対的買収の具体的な意味や目的、関連用語の変遷、さらにTOB(株式公開買付)を活用した買収の仕組みについて解説します。

敵対的買収(同意なき買収)の意味

敵対的買収とは、対象企業の経営陣や株主の事前の同意を得ずに、経営権の取得を目的として株式を買い集める行為です。英語では「hostile takeover(ホスティル・テイクオーバー)」と呼ばれ、企業の支配権をめぐる争いの一形態とされています。

議決権の過半数を取得すれば、取締役の選任や解任など通常決議を単独で可決できるため、事実上の経営支配が実現します。さらに、株式の3分の2以上を保有することで、会社の重要事項に関する特別決議を実質的に単独で成立させることが可能です。最終的に完全支配を目指す場合には、株式の100%取得が視野に入ることもあります。

敵対的買収(同意なき買収)の目的

敵対的買収は、対象企業の同意を得ずに進められるものの、その背景には明確な経営戦略があります。主な目的は、事業領域の拡大や企業価値の向上です。買収によって、顧客基盤・技術力・人材などの重要な経営資源を迅速に獲得でき、自社の競争力を高めることが可能になります。

さらに、競合他社の市場参入を阻止し、優位なポジションを維持することが可能です。加えて、仕入れや販売チャネルの統合により、規模の経済が働き、コスト削減にもつながります。

「敵対的買収」から「同意なき買収」に変更された背景

かつて「敵対的買収」と呼ばれていた手法は、取締役会の立場から買収者を否定的に捉える表現でした。しかし本来、この言葉には善悪の意味合いは含まれていません。実際には、買収が株主にとって有利な条件となる場合もあります。

こうした背景を踏まえ、経済産業省は2023年8月に公表した「企業買収における行動指針」において、「敵対的買収」という表現を、より中立的な「同意なき買収」へと改めました。

経済産業省「企業買収における行動指針」p.5

この変更は、市場の成熟に伴い、経営陣の意向よりも株主の利益を重視する考え方が広がってきたことを反映しています。現在では、買収提案の評価は経営陣だけでなく、最終的には株主が判断すべきだという認識が浸透しつつあります。

TOB(株式公開買付)を活用した仕組み

TOB(株式公開買付)とは、買収を目的とする企業が、証券市場を通さずに株主へあらかじめ定めた価格での売却を呼びかけ、一定期間で株式を取得する手法です。市場で少しずつ買い進める場合と比べて、急な株価変動を避けながら、支配権の確保に必要な株式を計画的に集められる点が特徴です。

特に敵対的買収では、買収を仕掛ける側が市場価格を上回る買付価格を提示し、対象企業の株主に直接働きかけることで、短期間で持株比率の引き上げを狙います。ただし、株主が売却に応じなければ買収は成立せず、交渉が難航するケースも少なくありません。

敵対的買収と友好的買収との違い

企業買収には大きく分けて「敵対的買収」と「友好的買収」の2つのタイプがあります。前述のとおり、敵対的買収とは、売り手企業の経営陣の同意を得ずに、株式を大量に取得して経営権を握る方法のことです。

具体的にはTOBを通じて多くの株式を確保し、重要事項に対する拒否権を得られる3分の1超、あるいは経営権を実質的に掌握できる過半数の取得を目指します。ただし、既存経営陣の交代を求める場合もあり、多額のコストや高いリスクを伴う点が特徴です。

これに対して、友好的買収は、買い手と売り手の両社が合意のうえで進められるのが特徴です。多くの場合、買収後も元の経営陣が引き続き経営に携わり、協力関係のもとでスムーズな統合が期待できます。特に中小企業のM&A(合併・買収)においては、この友好的買収が主流となっており、信頼関係を大切にした話し合いが中心となります。

敵対的買収(同意なき買収)のメリット

敵対的買収(同意なき買収)のメリット

敵対的買収にはいくつかのメリットがあります。以下では、その具体的なメリットをわかりやすく解説します。

経営権や事業資産を獲得できる

敵対的買収の大きなメリットは、対象企業の経営権を迅速に取得し、自社の方針に沿った事業運営へと速やかに移行できる点にあります。これは、旧経営陣との交渉を経る必要がなく、意思決定のスピードが大幅に向上するためです。

さらに、従業員・設備・拠点といった経営資源を一括で取り込むことで、既存事業の強化や新規事業の立ち上げを加速させる効果も期待できます。このように、経営資源の統合によってコスト削減や売上拡大といったシナジー(相乗効果)を得ることが可能になります。

買収戦略を計画的にできる

TOBを利用すると、買付期間・取得予定株数・買付価格といった条件を事前に公告するため、必要な資金やスケジュールを明確にしたうえで買収を進められます。市場で買い集める方法と比べて、買収プロセスを計画的に管理しやすい点が大きなメリットです。

また、市場で大量の株式を取得する際に起こりやすい株価上昇を抑えられる点も、TOBならではの利点です。想定外の価格変動によるコスト増加を回避できるため、予定どおりの条件で買収戦略を実行しやすくなります。

株主に経営判断の機会を提供できる

敵対的買収に伴うTOBでは、株主が経営方針を選択する機会が生まれます。一般に、買付価格は市場価格を上回る水準で提示されるため、株主は株式を売却するか、現経営陣を支持して保有を続けるかを、両者の戦略や方針を比較しながら判断できます。

つまり、TOBは単なる売買ではなく、「どの経営陣のもとで会社が運営されるべきか」を株主が意思表示するプロセスでもあります。敵対的買収は、株主が企業の方向性について改めて考える契機となる点で、経営判断の機会を提供する役割を果たします。

敵対的買収(同意なき買収)のデメリット

敵対的買収(同意なき買収)のデメリット

敵対的買収には、無視できないデメリットも存在します。以下では、その中でも特に留意すべき懸念点について解説します。

ブランドイメージが低下しやすい

敵対的買収は、対象企業のブランドイメージにも大きな影響を及ぼします。同意なく進められる買収は「企業の乗っ取り」と受け取られることが多く、経営陣や主要株主だけでなく、従業員・取引先・顧客から反発を招きやすい点が特徴です。そのため、買収完了までに混乱が生じ、実際に成功するケースは多くありません。加えて、TOBに伴う多額の資金負担も障壁となります。

さらに、買収後に人材の流出や社内の混乱が生じれば、取引先や顧客の信頼が揺らぎ、契約解消や売上の減少につながるおそれもあります。 こうした悪影響を防ぐには、買収の前後において綿密なブランディング戦略を策定し、社内外に対して丁寧かつ一貫した対応を行うことが不可欠です。

買収後の統合が難しく、シナジーが得にくい

買収後の統合は、契約が成立した時点で完了するものではありません。特に、関係者の同意を十分に得ないまま進められた買収では、経営方針の急激な変更により、従業員や取引先が将来に対する不安を抱きやすくなります。その結果として、離職や取引関係の解消といった「見えにくい損失」が発生するかもしれません。

さらに、こうした不安定な状況では、買収によって期待されていた技術やノウハウが十分に活用されず、シナジーが実現されないリスクも高まります。

統合を円滑に進め、成果につなげるためには、待遇や方針の変更点についてわかりやすく丁寧に説明し、関係者の理解と信頼を着実に得ることが不可欠です。

デューデリジェンスが行えず、リスク把握が難しい

敵対的買収では、買収対象企業の協力が得られないため、M&Aに不可欠なデューデリジェンス(財務・法務・事業などの包括的な調査)を十分に実施することが困難です。

この制約により、企業価値の正確な算定や潜在的リスクの把握が難しくなります。その結果、買収後に予期せぬ負債や法的トラブルが発覚する可能性も否定できません。つまり、情報不足が買収側の判断材料を大きく欠くことになり、最終的な意思決定の精度を著しく低下させるおそれがあります。

敵対的買収(同意なき買収)の対象になりやすい企業の特徴

敵対的買収(同意なき買収)の対象になりやすい企業の特徴

敵対的買収の標的になりやすい企業には、いくつか共通する特徴があります。まず、買収防衛策が十分に整っていない企業は、株主構成や取締役選任プロセスに外部が介入しやすく、買収側が短期間で支配力を強められる余地が大きい点が課題です。

次に、株価が保有する資産の価値に比べて割安であり、さらに株主が分散している場合、買収を進めるためのコストが低くなるため、狙われやすくなります。また、独自の技術や特許を持っている企業は、買収した側にとってすぐに活用できる重要な資産となるため、魅力的な標的となります。

加えて、十分なキャッシュフローがある企業は、買収後の資金面でのリスクが小さく、安定した収益も期待できるため評価されやすいでしょう。これらの条件が複数当てはまる企業ほど、買収の合理性が高いため、同意のない敵対的買収の対象となる可能性が高まります。

敵対的買収(同意なき買収)の対応策

敵対的買収(同意なき買収)の対応策

敵対的買収は、企業の経営の安定性や意思決定の自由を脅かします。自社の価値を守るためには、平時から十分な備えを講じておくことが不可欠です。また、万が一買収の動きが発生した場合には、迅速かつ的確に対応することが求められます。

ここでは、敵対的買収に備えるための事前対策と、実際に発生した際に取るべき対応策について解説します。

敵対的買収(同意なき買収)に対する事前の対策

企業が敵対的買収を防ぐには、株式の取得状況や経営陣の構成を外部に左右されないよう、事前に買収防衛策を整えておくことが大切です。

代表的な手法のひとつが「ポイズンピル(新株予約権の無償割当)」です。これは、特定の株主が一定の持株比率を超えた場合に、既存株主に対して有利な条件で新株を取得できる権利を与えることで、買収側の持株比率を希釈し、影響力を弱める仕組みとなっています。

また、「ゴールデンパラシュート」と呼ばれる対策もあります。これは、経営陣が買収に伴って解任された場合に多額の退職金を支払う契約をあらかじめ結び、経営陣の交代に伴うコストを増やすことで、買収の抑止力とするものです。

これらの防衛策は、買収コストを引き上げ、企業の独立性を守る効果が期待されます。ただし、株主への影響や経営の柔軟性低下といった副作用もあるため、導入にあたっては慎重な判断が求められます。

敵対的買収(同意なき買収)に対する事後の対策

敵対的買収が実行されたあとでも、企業は複数の防衛策を講じることが可能です。例えば、友好的な第三者に支援を求めて買収・合併してもらう「ホワイトナイト」戦略や、重要な資産を売却して企業価値を意図的に下げる「焦土作戦」があります。

また、「パックマン・ディフェンス」では、買収を仕掛けてきた企業に対して逆に買収を仕掛け、議決権の逆転を狙います。これらの手法は、企業の財務体力や株主構成に応じて選択され、いずれも企業の独立性を守るのに有効な対抗策です。

敵対的買収(同意なき買収)の成功例

2019年3月、伊藤忠商事はスポーツアパレル大手・デサントに対し、国内では稀な敵対的買収を成功させました。

両社は50年以上にわたり協力関係を築いていましたが、経営方針の相違や、事前連絡なしの提携決定などをきっかけに対立が深まり、伊藤忠は筆頭株主としてTOBの実施に踏み切りました。従業員の約9割が反対署名を提出する中でも買収は進められました。

成立の背景には、伊藤忠がすでに株式の30%を保有していたことに加え、買付上限を40%に設定したことで、従来のTOBよりも成立のハードルが低かった点が挙げられます。

敵対的買収(同意なき買収)対策は、M&Aに詳しい専門家に相談しよう

敵対的買収は、経営陣の同意なく株式を取得して経営権を握る手法で、TOBを通じて迅速な経営資源の獲得やシナジー創出が期待されます。一方で、ブランドイメージの低下や統合困難、情報不足によるリスクも伴います。防衛策としてはポイズンピルやホワイトナイト戦略などがあり、事前の備えが欠かせません。

企業買収についてお悩みの方は、相続専門として30年以上の実績を持つ、税理士法人レガシィへぜひご相談ください。経験豊富な専門家が丁寧に対応いたします。

ご相談はこちら

相続・事業承継
創業60年を超えるレガシィにお任せください。
  • 累計相続案件実績

    32,000件超

    2025年10月末時点

  • 資産5億円以上の方の
    複雑な相続相談件数

    年間1,096

    2023年11月~2024年10月

  • 生前対策・不動産活用・
    税務調査対策まで

    ワンストップ対応

当社は、コンテンツ(第三者から提供されたものも含む。)の正確性・安全性等につきましては細心の注意を払っておりますが、コンテンツに関していかなる保証もするものではありません。当サイトの利用によって何らかの損害が発生した場合でも、かかる損害については一切の責任を負いません。利用にあたっては、利用者自身の責任において行ってください。

詳細はこちら
この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

税理士法人レガシィ社員税理士武田利之の画像

武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

相続の相談をする老夫婦のイメージ画像

無料面談でさらに相談してみる