相続の知識

不動産M&Aとは? かかる税金や実施するメリット・デメリットを解説

不動産M&Aとは? 3つの種類について解説

不動産M&Aとは、不動産を所有する法人や事業を対象に行われるM&Aの一形態です。不動産の取得を目的とし、企業全体を買収して間接的に不動産を所有する点が特徴です。通常の不動産取引では得られないメリットがあるため、選ばれることがあります。本記事では、不動産M&Aとは何かから、代表的な手法、売り手・買い手にかかる税金、双方のメリット・デメリットまでを詳しく解説します。

不動産M&Aとは? 3つの種類について解説

不動産M&Aとは、不動産を所有・運営する企業の経営権や事業を売買するM&A(企業の合併・買収)の一種です。通常の不動産売買とは異なり、法人単位での取引が中心となることもあり、税務・法務・財務の観点から慎重な検討が必要です。不動産M&Aでは、主に用いられるスキームは以下の3つです。

  • 株式譲渡:売り手の株式を買い手が取得する
  • 事業譲渡:売り手の事業を買い手が取得する
  • 会社分割(新設分割):売り手の事業を切り分け、新設会社に引き継ぐ

手続きのシンプルさや契約関係が継続しやすいことから、最も一般的に用いられるのは「株式譲渡」です。以下、それぞれの手法について詳しく解説します。

1. 株式譲渡による不動産M&A

株式譲渡とは、売り手の保有する株式を買い手に譲渡して、経営権を移転する手法です。株式譲渡契約を締結し、代金の支払いと株式の名義変更が行われることで成立します。

全株式を取得すれば完全子会社化が可能ですが、一部の株式のみを取得し、過半数の議決権を確保する形で経営権を握るケースもあります。この手法により、買い手は子会社を通じて不動産を間接的に所有できます。

子会社を不動産の管理会社として存続させるケースもありますが、不動産M&Aの主な目的は不動産の取得および活用です。将来性が乏しい場合は、子会社を早期に解散させることもあります。一般的には、親会社は取得した不動産の収益性を高めた後に売却し、子会社の存続や解散を検討します。

2. 事業譲渡による不動産M&A

事業譲渡とは、売り手の特定の事業部門や資産を買い手が取得するM&A手法です。買い手は譲渡対象の事業に関連する資産や負債だけを引き継ぎます。事業譲渡のメリットは、買い手が必要な資産だけを取得できるため、無駄な負債や非効率な部門を除外できる点にあります。ただし、契約やライセンスの再取得が必要になる場合があり、手続きが複雑になるというデメリットもあります。

3. 会社分割(新設分割)による不動産M&A

会社分割(新設分割)とは、売り手が特定の事業を切り分け、新設した会社に承継させるM&A手法です。この方法のメリットは、特定の事業を切り離して管理しやすくできる点です。また、買い手は新設された会社の株式を取得するだけでよいため、取引が明確でスムーズに行えます。

会社分割には、上記の新設分割(分社型分割)のほかに、吸収分割(事業分割)という方法もあります。売り手が保有する事業や資産(不動産を含む)を買い手に承継させる形となり、シンプルな手続きで実施できます。

不動産M&Aに関連する税金

不動産M&Aを検討するうえで、忘れてはならないのが税金の問題です。不動産M&Aでは、売り手・買い手双方にさまざまな税金が課されます。

不動産売買にかかる税金

不動産の売り手にかかる税金は以下のとおりです。

  • 法人税(法人の場合)
  • 地方法人税(法人の場合)
  • 法人住民税(法人の場合)
  • 法人事業税(法人の場合)
  • 譲渡所得税(個人の場合)

不動産の買い手にかかる税金は以下のとおりです。

  • 不動産取得税
  • 登録免許税

売り手側

法人が不動産を売却する場合、取引で得た利益に対して、上述したとおり、法人税、地方法人税、法人住民税、法人事業税が課されます。土地のみの取引では消費税はかかりませんが、建物の取引では消費税がかかります。個人が不動産を売却する場合は、譲渡所得税が課されます。譲渡所得は「売却価格-取得費-諸経費」で計算され、その所得に対して課税されます。

買い手側

不動産の買い手には、不動産取得税や登録免許税がかかります。不動産取得税は「固定資産税評価額×税率」で算出され、土地と住宅には3%、住宅以外の家屋には4%の税率が適用されます。また、登記手続きを行う際には登録免許税が発生し、登記申請を専門家に依頼する場合はその報酬費用も生じます。

会社清算にかかる税金

会社清算とは、事業を廃止する企業が保有資産を換金し、債務を精算した後、株主に残余財産を分配する手続きです。株式譲渡による不動産M&Aで、取得後に子会社を清算する場合、清算所得(解散時の残余財産額-清算費用)に対して法人税が課される可能性があります。ただし、子会社の清算時、純資産がすべて負債の返済に充てられ、分配可能な財産がない場合には、法人税の課税対象とならないこともあります。適用条件や税務上の扱いは慎重に検討する必要があります。また、残余財産を分配してもらった株主には所得税が課されます。

株式の譲渡にかかる税金

株式譲渡による不動産M&Aでは、売り手側には申告分離課税(個人20%)、法人税が発生しますが、買い手側には特に税金がかかりません。

売り手側

個人の株主が株式を譲渡する場合、譲渡所得に対して申告分離課税(所得税15%+住民税5%)が課されます。法人株主が株式を売却する場合、売却益に対して法人税が課されますが、売却損が発生した場合は繰越控除などが適用される可能性があります。

買い手側

株式譲渡による不動産M&Aにおいて、買い手に特に税金は発生しませんが、取得した不動産を売却して利益を得た場合には法人税が課されます。

新設分割および株式譲渡にかかる税金

新設分割および株式譲渡による不動産M&Aでは、承継した資産および負債の譲渡損益に対して法人税が、また、株主に交付した配当所得には所得税が、不動産の承継に対しては不動産取得税が課せられます。ただし、組織再編税制の適格要件などを満たせば、非課税になります。

また、分割される事業に関して3つの条件を満たしていれば、不動産取得税が課されません。

  • 分割事業の主要な資産が新設会社に移転している
  • 分割事業が新設会社で継続して営まれることが見込まれる
  • 分割事業に従事していた従業員のうち約80%以上が新設会社の業務に従事することが見込まれる

東京都主税局:会社分割に係る不動産取得税の非課税措置について

税制上、不動産M&Aを行うのが困難なケース

短期所有土地の譲渡とみなされた場合や、税務調査で租税回避行為とみなされた場合は、不動産M&Aが困難になることがあります。

株式譲渡:短期所有土地の譲渡とみなされる場合

以下の場合は、短期所有土地の譲渡に類似する株式等の譲渡としてみなされ、短期譲渡所得の税率(所得税30%+住民税9%)が適用される可能性があります。

  • 法人の総資産の70%以上が短期所有土地であり、かつ株式譲渡後に事業継続の実態がないと認定された場合
  • 法人が保有する短期所有土地の比率が高く、かつ譲渡される株式自体も短期間で売買されている場合

国税庁「No.1529 短期所有土地の譲渡に類似する株式等の譲渡」

新設分割:税務調査で租税回避行為としてみなされた場合

租税回避行為とは、課税を回避するための行為です。新設分割を用いた不動産M&Aが租税回避行為とみなされると、税務調査で否認される可能性があります。合理的な理由を示せれば、否認リスクを軽減できます。

企業が合併や分割、株式交換などを行う際に適用される組織再編税制では、租税回避行為を防止するための規定が定められています。新設分割を用いた不動産M&Aが、租税回避行為とみなされると、税務調査で否認されかねません。

ただし、合理的かつ説得力のある理由を示せれば、税務調査で否認されるリスクを軽減できます。税務署が納得するだけのスキームで不動産M&Aを実施し、なおかつ合理的な理由であることを説明できるようにしておきましょう。

e-GOV「法人税 第百三十二条の二(組織再編成に係る行為又は計算の否認)」

不動産M&Aを実施するメリット

不動産M&Aを実施するメリット

不動産M&Aは、売り手と買い手の双方にメリットがあります。

売り手側のメリット

売り手側のメリットとしては、以下のことが挙げられます。

  • 高い節税効果:不動産M&Aでは、株式譲渡益に対する課税のみとなり、効果的な節税が可能
  • 廃業コストの削減:事業承継を併せて行えば、オフィスや設備などをそのまま引き継げるため、廃業コストが発生しない
  • 従業員の雇用を守る:買い手の子会社として事業を存続できれば、従業員や家族の生活を守れる

買い手側のメリット

買い手側のメリットとしては、以下のことが挙げられます。

  • 手間と労力の削減:株主変更の手続きのみで不動産を取得でき、手間と労力を大幅に削減できる
  • 税負担の削減:不動産取得税や登録免許税、司法書士への報酬などのコストがかからず、税負担を削減できる
  • 取得費用の抑制:売り手側の高い税務効果を利用して交渉すれば、不動産の取得費用を抑えられる可能性がある

不動産M&Aのデメリット

不動産M&Aのデメリット

売り手側のデメリットとしては、売却までに手間と時間がかかる、売却先が限られるなどが挙げられます。一方の買い手側には、簿外債務などの負債も引き継ぐリスクがあります。

売り手側のデメリット

売り手側のデメリットとしては、以下のことが挙げられます。

  • 売却までに時間と手間がかかる:通常の不動産売買とは異なり、企業の保有資産や利益など企業価値を評価するバリュエーションや、対象企業の価値やリスクを調査するデューデリジェンスなどの手続きが必要
  • 売却先が限られる:不動産と一緒に事業も売却する場合、購入できる買い手が限られる。土地や建物を単体で売却するよりも買い手が見つかりにくく、売却や事業承継が遅れることがある

買い手側のデメリット

買い手側のデメリットとしては、以下のことが挙げられます。

  • 簿外債務のリスク:不動産だけでなく、売り手の企業そのものを買収するため、簿外債務などの負債も引き継ぐリスクがある。不動産と企業組織、事業をまとめて取得した場合、あとから多額の負債が発覚するリスクがある
  • 徹底したデューデリジェンスが必要:隠れたリスクを回避するためには、税理士や弁護士、公認会計士などの専門家に依頼して徹底的なデューデリジェンスを行う必要があり、時間と費用がかかる

このような事態を回避するためには、徹底したデューデリジェンスの実施が必須です。税理士や弁護士、公認会計士などに調査をしてもらい、隠れたリスクがないかどうかを確認したうえで不動産M&Aを進めましょう。

不動産M&A・事業承継のご相談は「レガシィ」まで

不動産M&Aは、売り手側と買い手側双方がメリットを得られるものの、少なからずデメリットも存在します。それを理解したうえで検討を進めることが重要です。

不動産M&Aや事業承継を円滑に進めたいのなら、専門家への依頼が近道です。「税理士法人レガシィ」は、60年以上にわたる実績豊富な税理士法人です。事業承継やM&Aに関する課題解決をサポートいたします。

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この記事を監修した⼈

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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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